上 下
14 / 72
第五章 真っ暗聖女、初めてのデート?

1

しおりを挟む
「ルル様が、『血塗れ王子』ですか?」

『そう呼ばれているらしいわ……って、メイちゃん、痛い、痛い!』
「痛いのは効いている証拠です、ちょっと我慢してくださいね」
 そう言いながら私は女神の腰に両手を重ね、体重をかける様に押し込みながらふうっと息を吐いた。
「シア様、どこもガチガチに固まってますから、しばらくは痛いと思いますよ」
『もうちょっと優しくして~』
「はいはい」
 軽くそう返して、さらにギュッと背中の骨に沿って手のひらで押していく。

 聖堂に祈りを捧げに来る回数が重なり、すっかり私は女神とのやり取りに遠慮が無くなっていた。
 それが女神の希望でもあったから。

「それで、ルル様のその呼ばれ方なんですけど」
『んー、想像通り悪意の感じられる呼び方ね。一つは聖騎士団の団長として、各地を転々としながら魔物に対抗し、その血を浴びている怖ーい王子って意味。もう一つは「側室」である母親譲りの髪の色を揶揄する意味』
 私は顔を顰めて、一層強く女神の背中を押す。

『もう~、私が言ってるんじゃないんだから』
「わかってます。でも、どうにも怒りのぶつけどころがなくて」
『ぶつけるなら、肩の方にして~』
 女神は私の八つ当たりを軽く流してくれる。
「生まれの事もそうですけど、国の皆んなを守ってくれている人に失礼じゃないですか! 魔物の浄化は最終的に神官がしますけど、暴走状態の魔物に対してはまず騎士様方に鎮めてもらうしかないんですから」

 私は、『誰も失わない』と言ったルルタの真剣な顔を思い出した。
 なんだかやるせなくて、腹立たしくてならない。

「いつか、ルル様のことを理解してくれるご令嬢が現れて、支えてくれるといいんですけど」
 ご希望の肩周りをほぐしながらそう言う私に、女神は不思議そうな顔をする。
『それ、メイちゃんじゃダメなの?』
「私では、ルル様を立場的に支えられる力にはなれないですよ」
 今は聖女として扱ってもらえているとはいえ、元はただの治癒術士なんだから。
 高位貴族のご令嬢みたいに、家やそれに付随する派閥の後ろ盾がまったく無いのでは、王子であるルルタを支えるには力が足りない。

『う~ん、人の子の事は良くわからないけど、あの子はそんな事望んでいないように見えるんだけどな』
 時々は精神体だけを漂わせて、色んな所を見ているらしい女神。その言葉を一瞬信じたいと思ってしまって、慌てて首を振って考えを打ち消す。

「私は、お役目を終えて、ルル様をこの結婚から解放するんですから!」

 宣言とともに、一層力強く女神の首の付け根をぎゅぎゅっと押すと、聞いてはいけない様な苦悶とも悲鳴ともつかない声が上がった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

蜂蜜色の初恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:360

そのご令嬢は、夜歩く 〜多難の騎士は鋼鉄の白百合を守りたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:18

縦ロール悪女は黒髪ボブ令嬢になって愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:2,785

ナイナイ尽くしの異世界転生◆翌日から始めるDIY生活◆

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:139

冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:175

おかしくなったのは、彼女が我が家にやってきてからでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,256pt お気に入り:3,849

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:3,436pt お気に入り:15

夜の帝王の一途な愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:85

「今日でやめます」

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:10,253pt お気に入り:120

処理中です...