【完結】真っ暗聖女と白い結婚を 〜女神様の体を整えてこの結婚から貴方を解放するはずが、なぜか執着されています〜

オトカヨル

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第九章 真っ暗聖女、いつか見た光

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 あれは、どのくらい前の事だっただろう。

 私がまだ駆け出しの治癒術士で、女神の加護を受ける前だったから、『真っ暗』なんて呼ばれてもいなかった頃。村の近くに魔物が湧いた事があった。
 私は現場には行なかったんだけど、その夜、怪我人が村に担ぎ込まれた。

 村の治療院に常駐しているまともな術士は、私か副院長。ところが副院長は馬で数日かかる街まで薬を仕入れに出ており、その日は私しか居なかった。

 普段は村のお年寄り相手の、腰や膝が痛い、なんてお悩みに対応しているだけの私の目の前に横たわっていたのは、必死に痛みに堪える黒髪の少女だった。

「岩蛇の毒を目に受けてしまったのです、どんな手段を使ってもいい、どうか治療を!」

 同行していた冒険者が、私に縋り訴えてくる。

 ここに常備している毒消しの薬草では、岩蛇の毒には気休め程度にしか効かない。でも、もっと大きな治療院のある村まで移動している時間も無い。もう毒が回りきってしまう。

 少女の食いしばった歯の間から漏れる呻き声。なんとかそれを噛み殺そうと、額に汗を浮かべ自分の肩を両手で強く抱いて体を丸めている。
 私は途方に暮れた。
 だって、私の治癒の力では岩蛇の毒は消せない。まして、魔物に囲まれていたせいで、毒を水で流す事ができたのは相当時間が経ってからという話なのに。

 私の戸惑いを感じ取ったのか、少女は苦しい息の中で、なんとか一言。
「もういい、一人にして」

 それを聞いた瞬間、自分の弱気が恥ずかしくなった。
 試してもみないで諦めるなんて、どれだけ恥知らずなんだろう。だって少女がここにいるのは、こうして苦しんでいるのは、私たちの村を守ってくれたからなのに。

 力が弱いなら、尽きるまで注ぎ込んでみればいい。それで少しでも毒を弱められるかもしれない。

 私は少女の手を両手で包み込む様に握る、そうして彼女の額に自分の額をくっつけて、自分の持てる力を少しずつ少しずつ流し込んだ。
 最初は私の手を振り払おうとした少女も、真剣な顔で治癒の力を使い続ける私の様子に、大人しくなる。

 額越しに伝わる高い体温、熱と痛みに苦しむ彼女を、少しでも楽にしたいと思った。
 
 魔力が足りないなら、命を削ったっていい。この村を守るために頑張ってくれた人に報いるためなら、全部使い切ったっていい。

 私はそして強く祈った。『女神様が居るのなら、この瞬間だけでもいいから、どうか私に力を貸してください』と。

 どれだけそうしていただろう、やがて魔力が枯渇し、生命力を魔力に変えながら少しずつ少しずつ治癒の力を流し続け……。



 疲労感が私に覆い被さる、ずぶずぶと何処かに意識が落ちて……ぷつん、と消える間際に、小さな光を見たような気がした。
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