【完結】真っ暗聖女と白い結婚を 〜女神様の体を整えてこの結婚から貴方を解放するはずが、なぜか執着されています〜

オトカヨル

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第十二章 聖女と聖女

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「よし、着いたぞ」

 揺れる馬車の中、そろそろ限界かもと思った所でのイウリスの声。
 長く息を吐いて心を落ち着かせてから、私は恐る恐る窓から外を見て、息を飲んだ。

「まだ魔物が……」
 荒涼とした大地に、獣の姿をした闇がゆらゆらと揺れていた。
「さっき一度片付けたのに、また湧いたみたいだね」
「……さっきより魔力の流れが悪くなってるみたい」
 私の目には、はっきりとそれが見えた。通常であればさらさらと流れる魔力が詰まり、かと思えば強く流れている場所もある。

「急がないと!」
 私達は、急ぎ馬車を降りた。
 その間にも立ち塞がる様に次から次に魔物が増えてゆく。

「兄上、義姉上、おまかせできますか?」
 ルルタの問いに、当然だというふうに二人が頷く。
「こっちは俺がエウジェと何とかするから、とっとと片付けて来い」
「いくらでも燃やして差し上げますから、ごゆっくり」
 ふふ、と笑うエウジェが優雅に手を持ち上げた。その指先から火花が散る。

「行こう、メイ!」
「うん!」
 ルルタは二人の方を振り向かず、私の手を取って走り出す。
 その背中を信じて、私は必死に足を動かした。

 加護が私の中に揃ったからなのか、ケイナーンが言っていた場所が地図を見なくてもわかる。
 大地深く流れている魔力が、所々で地表近くまで上がって来ている場所がある。その中でも最も大きく、最も強い魔力を感じる地点を目指して走って、走って。

 そうしてなんとか無事に辿り着いたのは、ぱっと見るだけではただの荒野。だけど、私はその場所に強く引き付けられた。

 間違いない。ここが魔力の巡りを整えられる場所。

 ここから、大陸全ての魔力の巡りを整える。そうすれば、この大地の上の皆を守れる。
 それが出来るのは、今、私だけ。

 ……そう思うと、途端に息苦しくなる。

「私、杖も無いのに、できる、かな?」
 頑張らないといけないとわかっているのに、どうしてだろう、手が震えてしまう。
「大丈夫」
 言葉と共に、ふわりと背中側からルルタに包まれる。
「メイが自分を信じられないなら、僕を信じて。僕の言葉だけ聞いて」
 私はただ頷く。少しずつ、手の震えがおさまってゆく。

「ねえ、メイは真っ暗になってしまうくらい強く『光の魔力を受け』続けてたんだよ。ほとんど使う方に回せなかったその力はここにある」
 その言葉で、私の体の奥底にある光が見えた気がした。道標の様に。真っ暗な中に小さく光っていた『聖女の証』のように。

「この国とかそんな大きなことじゃなくて、メイが今までに出会ったみんなの顔を思い浮かべてみて。手の届く人たちだけでも失わない事がメイの望みでしょ? だから、まずはその気持ちだけでいいんだよ」

 私の手の届く所、この手で触れて、癒したい守りたいと思うみんな。
 思い浮かべたら、怖いと思っていた気持ちが綺麗に消えていった。

 そうだ、この大地は女神シウナクシア。巡りが整えば、きっといつもみたいに嬉しそうに笑ってくれる。

 私は、手を組み合わせ目を閉じる。自分自身がこの大地に繋がる所を思い描く。

 そうして光が、一面に広がった。
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