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【番外編】君がいたから

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「良かったわね、今日は熱も出ていないし、お茶会にはきちんと参加してもらいますよ」
「嫌です母様、僕、そんな所行きたくない……」
 イウリスは小さな声で、王妃である母のドレスの裾を引いて告げる。
 だってお茶会なんていっているけれどそこが、それだけの場ではないことを、イウリスだって知っていた。
「何をいっているのです。あなたはこの国を背負う唯一の王子なのですよ、共に歩む婚約者をそろそろ決めなければなりません」
「でも……」
 イウリスは王妃の厳しい物言いに、そこから先の言葉を口にできなかった。

 イウリスには、国を背負うとか、共に歩む婚約者を選ぶとか、何かにつけて熱を出すような弱い自分が出来ることとは思えなかった。

 それでも渋々、王妃の背中を追い庭園へ出ると、辺りから一斉に視線が飛んできた。怖くてぐっと胸が詰まる。

「揃っているようですね」
 そう言うと王妃は居並ぶ令嬢たちを睥睨する。少女達は、親に言い聞かされていたのだろう、各々王妃とイウリスの前にやって来ては、順に挨拶を述べて行った。
 少女達の目が自分を値踏みしている様に感じて、イウリスはただただ居心地が悪い。
 彼女達が見ているのは、自分ではなく、その向こうにいつか輝く王冠に違いないと思うと、まるで自分が透明になってしまったようだった。

「ライカン侯爵家の娘を見ていませんね?」
 少女達の列が終わり、一通り落ち着かない時間が終わったと安堵していると、王妃がそう従者に確認を入れる。

 まだ誰か居るのかとイウリスはため息をつきたくなる。

 確認から戻った従者が、飄々とした笑顔のヒョロリとした男性を連れて戻って来た。
 従者が何事か報告すると、王妃は手にした扇で自分の手のひらを打ち、低く一言。
「私を侮っている、ということかしら」
「いいえ、いいえ滅相もございません。ウチの娘は常日頃からドレスを着馴れぬ物ですから、ええ」
 そういう男性は、ちらりと後方に目をやる。

 そちらを見て、イウリスは目を奪われた。

 長い白金の髪を一つに束ね、きりりとした眼差しをまっすぐこちらに向ける人。
 騎士のようなような出立ちだが、居並ぶドレスの少女達の誰よりも美しく華やかに見えた。

「綺麗……」
 イウリスの口からぽろりとそんな言葉が溢れた。
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