あやかしさんの口福おやつ

オトカヨル

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「今日のおやつ、出来上がりました!」
「ありがとうございます」
 厨房から声をかけると、お礼の言葉と共に青年が朱塗りの小さなお盆を受け取った。
 それから、部屋の方を振り返り、白銀の髪を揺らしゆっくりと畳の上を歩む。
 向かう先には岩のような背中とそこから伸びる複数の腕があった。
 まるで蜘蛛のような大男。
 誰もがぎょっとするような姿に青年は動じることなく、膝を折って盆からガラスの器をテーブルに置く。

 ガラスの中には、色とりどりの果物と白玉がしゅわしゅわと音を立てるシロップの中で揺らめいていた。
「今日のおやつをお持ちしました」
 青年がにこりと笑う。
 大男は器用に複数の腕を動かして、そっとスプーンを掴むと白玉を掬い上げ、口に運んだ。
 こちらも岩のようなごつごつとした顔に笑みが広がる。
「うまい」
 その一言がなによりのご褒美。

 聞こえてきた声に思わず頬を緩ませていると、戻ってきた青年がその様子を見て口を開いた。
「最初はあんなに怖がってたのに、すっかり馴染みましたね」
「それはそうですよ。毎日いろんな方が来るんですから、怖がってなんかいられません。それに『美味しい』って言ってもらえると嬉しいのは誰が相手でも変わらないですし」
「じゃあ帰るのは諦めてくれました?」
「それとこれは、別の話ですね」

 あっさりと切り捨てる私を前に、青年は眉を下げる。
「でも、それまではちゃんと『おやつ屋』を手伝いますから」
「そう言わず、ずっと居てください」
 そう請う青年に私は曖昧に笑う。

 本当に帰りたいのかが、ちょっとずつわからなくなっているから……。

 そんな気持ちを振り払うように、私は青年の背を押す。
「ほら、次のお客様ですよ!」
「いらっしゃいませ! おやつ屋『口福』へようこそ!」
 青年の声に、やって来た新たな客が私には聞き取れない声を返す。
 人間ではないお客様達がやってくるこの店で、今は精一杯やるだけ。 

 今日のおやつも、誰かの笑顔に変わりますように。
 私は厨房からそう小さく願った。
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