あやかしさんの口福おやつ

オトカヨル

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【第一章】はじめのドーナツボール

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 稲月いなつきすずめは、どうにも幼く思われがちな容姿をしている。
 身長が低いというのもあるけれど、丸みを帯びた頬のラインと少し下がり気味の目元がいけないのかもしれない。
 社会人になって数年、明るいブラウンのマッシュヘアと、薄いメイクも相まっていまだに学生に間違われる。
 
 それに加えて自他共に認めるひどい方向音痴。
 右から入った建物から左に出て行って迷うなんて日常茶飯事。
 それが友人達にとって庇護対象に感じられるのか、少し過保護に扱われている自覚がある。

 その日も、そんな過保護な友人の迎えの車をすずめはじっと待っていた。
 今日の目的地は結婚したばかりの友人の新居。迷ってしまってはいけないからと友人自らが迎えに来てくれることになっていた。

「早かったかな」
 待ち合わせ場所に車はまだ見当たらない。
 手に提げている紙袋の中にはさっき揚げたばかりのドーナツボールが入っていて、香ばしく甘い香りを漂わせている。
「ちょっと多かったかも」
 料理好きなすずめに、できるだけ素朴なおやつが食べたいと友人がリクエストしてくれたので、張り切って大きな保存容器いっぱいに用意してしまった。
 元々、大家族の食事を用意していたこともあるすずめは、一人になった今も作りすぎる癖が抜けない。
 何日も同じものを食べ続ける事になるので止めたいんだけど……。

 そんなことをぼんやり考えていると、気がついたら世界が白くぼやけていた。 
「え?」 
 さっきまで晴天だった空の青がまったく見えない。
 辺り一面乳白色の霧に包まれて、とろけて、街の喧騒が消えてゆく。
 慌てて辺りを見回すと、霧の向こうにぼんやりと家が見えた。
 昭和中期頃の作りだろうか、平屋で縁側がある。
 庭には花や緑が満ちていて、さわさわと草木が揺れる音まで耳に届くようだった。

 すずめが迎えを待っていた場所は駅前で、人や車の往来も多い街中。
 こんな家なんてなかったはず。

 動き回ったわけでもないのに道に迷うなんて経験、さすがに今までなかった。
 どうしようか迷ったけど、他に何も見えないので、すずめは意を決して家へと足を向けた。
 じっとりと纏わり付く霧をぬって、一歩、また一歩と先へ進む。

 たどり着いた玄関の前には小さな看板が立てられていた。
『おやつ屋 口福こうふく
 聞いたことのない店の名前だった。
 だけど、どこか懐かしさも感じる。
 すずめは大きく深呼吸をして玄関の引き戸に手をかけようとした。
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