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出会い

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 ジョンを手招く。

「あの子なんだけど、どうかしら?」
「読み書き、計算はできないようですが、単純作業なら問題ないかと。ただ、栄養が不足しているようなので、しばらく無理はさせられないでしょう」

 曖昧な問いにも、的確に答えが返る。

「わかったわ、では、まずは無理をしない程度の簡単な手伝いを中心に仕事を振って。合間に読み書きも教えておいてほしいの。できるかしら」
 ジョンはにこりと笑う。
「では、この老いぼれが引退するまでには、完璧な執事に……」
「あなたの代わりなんていないでしょう。あの子は、そうね、この城の騎士なんてどうかしら」

 そう、彼には騎士になってもらわないといけないんだ。
 私はなんとかアレクの進む方向を原作の方へと向けようとする。

「騎士でございますか? では、どなたか指南役を探さなくてはなりませんね」
「心当たりはある?」
「何人かは」
「じゃあ、任せるわ」

 なんでも任せてしまって申し訳ないけど、自分でやるより良い結果になりそうなんだもんなー。
 私はすました顔で丸投げして、それから元々の用事を思い出した。

「ところで、私の今日の予定はどうだったかしら」
「本日は北東部の見回りでございますね」

 見回りってなんだっけと思うと同時に、ユリアの記憶がふわっと頭に広がる。

 氷の城の向こうには、森を挟んで魔獣がうろつく凍った大地が広がっていた。ちなみに反対側がアレクも居た街。ユリアは凍てつく大地から街への魔獣の侵入を防ぐ役目を負っている。
 その対価として街から報酬を得ているのだ。
 人が敵わない魔獣を斃す魔女として、恐れられながらも必要とされるのがユリアだった。

 大きな力はどうしたって怖がられるものだけど、魔獣退治がんばってるんだから、もうちょっと親しんでくれてもいいのになあと私は思う。

「わかったわ、支度が済んだらすぐに出ます」
 私はそう言い、魔法でクローゼットから着替えを取り出すと、パッと一瞬で着替える。そのままアレクが持ってきた水で顔を洗い、今度は魔法でメイクを済ませる。

 使ってみて思うけど、ほんと魔法ってすごく便利! これがあれば、出勤日の朝、あと30分は長く寝られたのに……。
 そのまま元の世界には持っていけないかなと思うけど、無理だよね。

 私は背筋を伸ばし無駄な考えを消し去ると、できるだけ威厳ある表情で口を開く。
「城のことは頼んだわ」
「かしこまりました」
「アレクはジョンのいう事をよく聞いてがんばりなさい」
「はい! ユリア様」

 二人の見送りを受けながら、私は転移の魔法を展開する。

 ――魔獣って美味しいのかな?

 と、思いながら。
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