箱庭温泉の不機嫌な神様 〜普通のデザイナーですが、あやかし温泉街の宣伝係をやってます〜

オトカヨル

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第一章 雲の上へ

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「嘘でしょう……」
 私は道の端に車を寄せてとりあえず停車すると、ナビの示す道のりと目の前の光景を見比べて口を半開きにした。
 そこに、信じられない光景が広がっていたから。
「え、ここ行くの?」
 対向車が来ても避けようが無いだろうという細い道が、稲刈りの終わった後の田んぼの脇にすうっと伸びている。どこまで続くのかと道の先を見れば、山の遥か上まで繋がっているようで。
 正直引き返したい。でも、そうも言っていられない。

 私はため息を一つ落とすと、覚悟を決めてブレーキからアクセルに足を乗せ替え、軽く踏み込んだ。
 ハンドルを握る手が、緊張で少し汗ばむ。
「なんでこんな事に」
 もう一度ため息。
 私は細心の注意を払いつつ、車を進めるしかなかった。

 母から『家買っちゃった』な連絡をもらってから2週間。
 私、加津佐かづさ 朝陽あさひはスマートフォンと小さな箱を並べて途方にくれていた。

 ウチは母一人、子一人の家庭なので、何かあった場合対処するのは自分だというのは嫌というほどわかってた。
 だからこそ母ときちんと話をしなきゃと思っていたものの、その時は受注していたデザイン仕事の納期が重なり、一人で切り盛りしているフリーランスの悲しい所、手伝ってもらえる相手もいない中でなかなか時間がとれずすっかり後回しになって……、やっとまとまった時間が取れる見通しになった所で、届いた荷物。

 小さな箱。送り主は母で、中身は鍵が一つ。
 
 買った家の合鍵かなと思いながら、やっと連絡を入れた。だけど電話が通じない、メッセージは既読にすらならない。

 焦って母の友人に連絡を入れてみて分かったことは3つだけ。

 一つ、母は既に退職している。
 一つ、母は既に元々住んでいたマンションから引っ越ししている。
 一つ、母とはその後、誰も連絡がついていない。

 まさか、家族である私とも連絡がついていないとは思っていなかったそうで、引っ越しで忙しい最中だろうから、落ち着いてから連絡があるだろうと待っていた所だったと……。

 私は途方に暮れ、次に慌てた。何があったのかわからない。でも悩んでいる時間も惜しい。
 とにかく現地に向かう事にしたのだけど……。
 
「まさか電車もバスもないなんて」

 家の所在地として聞いていた住所は、長崎県雲仙うんぜん市。
 長崎といえば観光で有名な土地。調べてみると、その中の島原半島にある雲仙市は、日本で最初の国立公園『雲仙国立公園』のある景勝地で、しかも温泉地として有名な場所らしい。
 それなら当然交通の便も良いに違いないと甘く考えていた。
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