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第一章 異世界漂流編
第九話 ダンジョン (中)
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パパパッパパパッ……ダンジョン内に銃声が響き、銃弾を浴びたコボルトは力なく斧を落として最後の一匹が倒れる。
「クリア、回収をお願いします」
MP5の弾倉を装填しながら、フロアの制圧を宣言。回収のために他の冒険者がコボルトの死体に群がる。
ダンジョンは中層付近まで到着し、負傷した、また残念ながら息絶えてしまった冒険者達、また非戦闘員の民間人などにも合流。
七人居た集団は、今はその倍ほどに増え、先行隊である私達は制圧し終えたことを後方の通路に控える彼らにライトの光で伝える。
「いやぁ……お前さんを緊急クエストに送らなくて正解だったな」
その一人、ローヴェン組合長が力強く頷く。
先の緊急クエストとは対応が逆なのが癪に触るけれど、まぁ、ここで他の組合や人に恩を振りまいて組合の利益にも繋がるからいいとしよう。
組合長が持っている緊急クエスト組との連絡手段ツールはダンジョンの中では使えないようで、打開策はやはり上層を目指すぐらいしかないようだ。
「少し不服ですが、ありがたく受け取らせていただきます」
中層になって、単純な一本道から複雑に入り組んだ文字通り階層が形成され、別のところから上がってきた冒険者達などにも合流する可能性が出てきた。
誤った攻撃や遭遇を避けるため、ドローンを多方向に飛ばし、伝言の紙を貼り付け、もし壊されても他の集団との合流がスムーズに行えるようにしておく。
「時間的にそろそろ夜です、一般民の方々はもう体力も限界でしょうから、どこか安全な場所で今日は野営しませんか?」
時計を見つつ、子供や老人も少なくない一般民らが疲れて座り込む姿に、限界を感じていたため、彼にそう提案する。
「そうだなぁ、見捨てる訳には行かないが、こうも大人数をどこで安全に過ごす」
とはいえその安全な場所とはどこか。邪魔な敵は排除して進んできたけれど、それがリスポーンする事はローヴェンさんらが確認している。
悠長に広い空間で居れば、至近距離にモンスターが出現して、虐殺劇が起こりかねないし、どこも安全とは言えない状況だ。
ん、安全といえばマイホームは一応使えるのではないだろうか……ふと発想に至り、一か八かの可能性に賭ける。
「私に考えがあります。少し長いですが、時間を頂できますので、それまで耐えてください」
すぐにマイホームへとポリゴン片に包まれ、屋外農園の完成した作物を全て回収し終えると、編集画面を開く。
全削除で平地にすると、その全範囲を指定して屋内に変更、現実世界でもよくあるような仕切りのない集会場のようにする。
必要最低限の設備と、屋根の部分を変更して、さらなる増加を予想して2階も作成。屋上庭園を作り、編集を終えると急いで戻る。
かなり出費をしたが、人が大勢死ぬよりかはマシだ。
「お待たせしました!皆さんで、手を繋いでください」
戻ってくると、驚いた人もとりあえず、円になるような形で手を繋ぐ。
そこでマイホームへとボタンを押すと、賭けに勝ち、全員がポリゴン片と消える。
目を開ければ、殺風景なマイホームだ。
「なんだこれは!?」「ここはどこ!?」
いきなりの変化に、多くの人が驚きを隠せずどよめいてしまう。
「皆さん!大丈夫です。ここは安全な場所です、私が保障します」
大声でそれを諌めると、ほとんどの人が安心したように静かになる。
ローヴェン組合長が耳元に寄り、事情の説明を求める。
「ここは、私だけが持つ擬似空間。なんと言えばいいかは言葉に困りますが、ここにいれば安全なはずです。食と住には困りませんから、大人数を安全に収容できます。あとでベッドを用意するので、寝泊まりもできるようになりますよ」
この人はこの集団の中でも何番目かに発言力がある人だ、この人が大丈夫と保証してもらえれば、もう大丈夫だろう。
説得力に欠けるものの、ローヴェンさんは私を信頼してくれたのか、頷いて返す。
「ううむ……わかった。とりあえずは安全なんだな、任せてくれ」
そういうと、ほかの人たちに簡単に状況を説明し、皆安堵したような表情を見せる。
すぐに二階にベッドを用意し、三畳程の感覚で囲いを作り、プライベートを保護する。
承諾を頂いた人には二段ベッドを用意して空間を節約する。
キッチンを利用して回収した食材などを洗うのを手伝ってもらい、ワンタップでラーメン、カレー、牛丼、ラッピアのシチュー、豚汁、野菜ボウル、白パンなどを量産して、無償で提供する。
「お水はここの蛇口を捻ると出てきます。このままでも飲めますが、こちらのヤカンに入れて、コンロのこれを最大まで捻ると、火がつくので沸騰させても大丈夫です。くれぐれも燃えることは────」
システムが使えなくても手動で行えるようで、任せられる人達に使い方を説明しておく。
料理の面ではこちらが食材諸共掌握しているために使えないけれど、飲み物はいくら提供しても問題ない。
説明を終えると、一人で屋上庭園に種を撒いて次の食材の生産体制を整えておく。
数時間経てばできるような優れものになっているため、量産は容易に行える。
「ローヴェン組合長、少しいいですか?」
手入れを済ませ、1階に降りると他の組合の人と話し合っているローヴェン組合長を呼ぶ。
「私はこれから、またダンジョンへと戻ります。連絡はこれでとれますので、何かあったらすぐ知らせてください」
ローヴェン組合長に無線機だけ渡して、そう言う。
3個ほど、ドローンが破壊された通知が届いており、ここの用意も整ったことだから、回収に向かわないといけない。
「わかった、くれぐれも無理はしないでな」
まだ信頼しきれてないところもあるようだけれど、ローヴェン組合長は私のことを気遣ってくれる。
地上に出たらいくら怒られるかわかったものでは無いが、今はそれに甘えておく。
「無理なんてしてませんよ、私は義務を果たしているだけです」
ふと微笑み、一人ポリゴン片に消える。
ダンジョンに戻ると、すぐにMP5を取り出し、冷たい眼差しを暗い空間へ向ける。
伝言には、合流するからそのまま待機、同じようなものが確認に来るから攻撃しないように。という趣旨の分をローヴェン組合長代筆で書いてあるから、それが敵でなければという前提の下、かなりの人数が救い出せる。
実際、2機が冒険者達の集団を発見し、1機が他にはない中型の凶暴なモンスターを確認し、救助の支障が起きないよう、囮となり遠方へと誘導している。
道中を阻む魔物に9x19mmパラベラム弾をくれてやりながら、二組の集団を回収。
時間も夕暮れをすぎて夜を迎え、ダンジョン内も暗くなり、魔物の活動も低下しリスポーン周期が緩やかになってきたことを受け、私はマイホームへと帰還する。
「ただいまです、黒恵、戻りました。まずは情報共有を……っとと」
待ちわびていたと迎えたローヴェン組合長を目の前に、躓くような場所もないのに足を取られる。
「疲れているじゃないか、とはいえ、余裕もない、寝ててもいいから情報共有しよう」
ローヴェン組合長の肩を借りて、簡単な仕切りで囲まれた場所で、狭い空間なのに敷かれた布団に横にならせてもらう。
まず最初に、仮称第二階層をドローンが全て探索し終えたことを受け、それを参加した各組合、またギルド関係者と共有する。
現在、私のマイホームで約150人を収容中である。
それらが下層から上がってきた地点が、第二階層より四つ繋がる下層口より三つになる。もう一つはまだ集団を確認しておらず、さらに探索を進めている途中だ。
私達、仮に黒恵組が辿ってきた下層道はまた幾つにも分岐しており、まだ多くの冒険者、一般市民が取り残されていると考えられる。
そして、それらを発見し収容しても、現状ではあと50人程で限界を迎えること。
それを踏まえ、明日にもそれらを置いて最上階を目指し、ボスを撃破して地上へと出る。
後に銅等級の冒険者を覗いた銀、鉄等級混載の救助隊を編成し、残りの遭難者を地上へと逃すことを目的に定まる。
「それであれば、時間と共に魔物の活動が不活性化しているため、安全かつ迅速に上層へ行くことができます。これは好機です」
言葉だけみればとても魅力的だけれど、それを聞く彼らはそうは思っていない。
「それでは、また黒恵殿に負担が集中します、我々にも何かできることは──」
このマイホームを行き来できるのは黒恵だけなのである。負担を軽くしようと言い出す輩がいるが、私は手でそれを制止する。
「何もありません、ただ一つあるとすれば、何も言わずに私を出せばいいんです。私以外に、これをしてこの場に戻ってこれるものはいないのですから」
残念だが、つい感情的になってしまい、誰も反論できない空気を作ってしまう。
当事者は誰でもなく、私なのだから。
少し体力が回復すると、起き上がってエナジードリンクを1缶空けて置く。
目にはもう隈が浮かび、何枚の湿布を貼っている筋肉はもうひと絞りのエネルギーしか持ち合わせていない。
「地上へ出たあとは、全てあなた達にお任せします。それまで、私にいい顔させてくださいな。一般市民の命背負って、死ぬ女ではありませんよ」
しかし、言い出しっぺであり、責任を背負わなければならない事と、何よりも滾る使命感によって、私はまた歩きだす。
「英雄気取りするつもりはありません。あくまで、冒険者の役割を果たしているだけに過ぎません。少し歩くだけですし、楽勝ですよ」
無理にでも微笑まなくては、彼らは送り出してはくれない。
それをわかっているから、彼らも渋い顔をせざるおえない。
「とはいえ、少し協力してもらいたいことがあります」
この空間を作るのに多大な出費を出し、私の財布はほぼ空に近い。
魔物を討伐することで得られるトークンのようなものでいくらか補填はする事ができるものの、それもたかが知れてる。
そのため、各集団が持っているお金とトークンを集め、こちらに譲渡して欲しい。ということだった。
また、さらなる人の収容体制を整えるため、それまでもものから原則二段ベッド、両面をカーテンを仕切るだけに制限することを了承して欲しいということを伝えて欲しいことを伝える。
それらは彼らが私にできる数少ないものだから、面目を気にする人達も、少しは顔が立つだろう。
「わかった、少し時間はかかるから、その間にでも休んでおいてください」
そう言って、それぞれの組合長、またギルド関係者が募金を募りにその場を離れる。残ったのは、ローヴェン組合長ぐらいなものだ。
「全く、抑えようにも行くようなこと言いやがって、今なら神経を叩いて気絶させることだってできるんだからな?舐めやがって」
そう、覇気もなく笑い飛ばす。彼は本気でそう思っていない、すぐにそう感じる。
殆ど信じきってもらったのだ、それに見合う働きをしなくてはならない。
「そう言わないで下さいよ、私が頑張らなくて、誰が頑張るんですか……とはいえ実際疲れました、少し仮眠を取ります」
「わかった」
そう二つ返事でローヴェン組合長は返すと、瞼を瞑って仮眠する。
30分程して、集金を終えて戻ってきた関係者によって首筋にビリビリと弱電流が走り、嫌でも起こされる。
「集金と、要件を伝え終わった。冒険者は、一階で雑魚寝する。この程度、俺らはいくらでもやってきたことだ、後輩が出来なくてどうするよ」
やはり、彼らは冒険者魂(?)を働かせ、毛布と枕をひとつに雑魚寝を決意した。暖房ならエアコンがあるし、最低限で済むからこれは有難い。
彼らのニッとキメる歯が、今はとても眩しく思える。
「一般市民の方々も、協力して下さり、既存のベッドでも半分は空きができます。皆、黒恵さんのお役に立ちたいと思っているようです」
当然といえばそうなのだが、やはり嬉しいものだ。
もう少しの辛抱だから、彼らの行動を無駄にしないよう、私も奮い立たなくてはならない。
「お気持ちを汲み取れず申し訳こざいません。当面の水、食料問題は大丈夫ですし、安心してダンジョンに戻れます」
すぐに編集画面を開き、二階のベッドを幅寄せして不足分を補填してあと100人ほどはベッドだけで賄えるようになった。
これで、もう一つの集団と合流しても、対処はローヴェン組合長達に任せられる。
「ご協力感謝しますと、後で伝えておいてください。それでは十分な休息と運営の処置を終えたので、行ってきます」
起き上がり、胡座をかきながらそういうと、立ち上がって直ぐにポリゴン片へと消えた。
ダンジョン内に戻ると、ふと思いつき、ローヴェン組合長に連絡して、マイホームの一部分にテレビを設置。
視聴する全員にヘッドホンの装着を義務付け、私のヘッドカメラの映像を共有する。
同時に、ドローンによる探索で判明したマップなども表示し、経験豊富な彼らの助言を貰いながら進むことにした。
また、拡張で余った資金を、資材とともにパワーレグスケルトンという外装式の義足のようなものを装備し、いくらか足回りの負担を軽減する。
最初からしていれば良かったのだが、考えが至らなかった。
気を取り直し、静かなダンジョン内にパワーレグスケルトンの機械音を響かせながら、反応のない敵の姿を探しつつ、着々と上層へ進む。
様々な種類のダンジョンに潜ったことのあるような冒険者を呼び出され、彼の要点を得た助言は、予想よりもスムーズな進行という恩恵を与えた。
私も、攻略本を読んでいるように当てはまるピースに喜びつつ、深夜の四時頃に時針がさしかかる程に、目的の場所手前にたどり着く。
巨人族でも控えていそうな、15m以上の堅牢な壁。
富の大きさを強調するような華美な装飾が、青く燃える炎によって妖しく誘うようだ。
疲労は溜まり、目的地が見えたことにそのまま睡魔に身を任せそうになるのを奮い立たせ、確認し合うとすぐにマイホームへ戻る。
協力によって成し遂げた成果に歓喜もしながら、全員が安心して枕をひとつに爆睡する。
「クリア、回収をお願いします」
MP5の弾倉を装填しながら、フロアの制圧を宣言。回収のために他の冒険者がコボルトの死体に群がる。
ダンジョンは中層付近まで到着し、負傷した、また残念ながら息絶えてしまった冒険者達、また非戦闘員の民間人などにも合流。
七人居た集団は、今はその倍ほどに増え、先行隊である私達は制圧し終えたことを後方の通路に控える彼らにライトの光で伝える。
「いやぁ……お前さんを緊急クエストに送らなくて正解だったな」
その一人、ローヴェン組合長が力強く頷く。
先の緊急クエストとは対応が逆なのが癪に触るけれど、まぁ、ここで他の組合や人に恩を振りまいて組合の利益にも繋がるからいいとしよう。
組合長が持っている緊急クエスト組との連絡手段ツールはダンジョンの中では使えないようで、打開策はやはり上層を目指すぐらいしかないようだ。
「少し不服ですが、ありがたく受け取らせていただきます」
中層になって、単純な一本道から複雑に入り組んだ文字通り階層が形成され、別のところから上がってきた冒険者達などにも合流する可能性が出てきた。
誤った攻撃や遭遇を避けるため、ドローンを多方向に飛ばし、伝言の紙を貼り付け、もし壊されても他の集団との合流がスムーズに行えるようにしておく。
「時間的にそろそろ夜です、一般民の方々はもう体力も限界でしょうから、どこか安全な場所で今日は野営しませんか?」
時計を見つつ、子供や老人も少なくない一般民らが疲れて座り込む姿に、限界を感じていたため、彼にそう提案する。
「そうだなぁ、見捨てる訳には行かないが、こうも大人数をどこで安全に過ごす」
とはいえその安全な場所とはどこか。邪魔な敵は排除して進んできたけれど、それがリスポーンする事はローヴェンさんらが確認している。
悠長に広い空間で居れば、至近距離にモンスターが出現して、虐殺劇が起こりかねないし、どこも安全とは言えない状況だ。
ん、安全といえばマイホームは一応使えるのではないだろうか……ふと発想に至り、一か八かの可能性に賭ける。
「私に考えがあります。少し長いですが、時間を頂できますので、それまで耐えてください」
すぐにマイホームへとポリゴン片に包まれ、屋外農園の完成した作物を全て回収し終えると、編集画面を開く。
全削除で平地にすると、その全範囲を指定して屋内に変更、現実世界でもよくあるような仕切りのない集会場のようにする。
必要最低限の設備と、屋根の部分を変更して、さらなる増加を予想して2階も作成。屋上庭園を作り、編集を終えると急いで戻る。
かなり出費をしたが、人が大勢死ぬよりかはマシだ。
「お待たせしました!皆さんで、手を繋いでください」
戻ってくると、驚いた人もとりあえず、円になるような形で手を繋ぐ。
そこでマイホームへとボタンを押すと、賭けに勝ち、全員がポリゴン片と消える。
目を開ければ、殺風景なマイホームだ。
「なんだこれは!?」「ここはどこ!?」
いきなりの変化に、多くの人が驚きを隠せずどよめいてしまう。
「皆さん!大丈夫です。ここは安全な場所です、私が保障します」
大声でそれを諌めると、ほとんどの人が安心したように静かになる。
ローヴェン組合長が耳元に寄り、事情の説明を求める。
「ここは、私だけが持つ擬似空間。なんと言えばいいかは言葉に困りますが、ここにいれば安全なはずです。食と住には困りませんから、大人数を安全に収容できます。あとでベッドを用意するので、寝泊まりもできるようになりますよ」
この人はこの集団の中でも何番目かに発言力がある人だ、この人が大丈夫と保証してもらえれば、もう大丈夫だろう。
説得力に欠けるものの、ローヴェンさんは私を信頼してくれたのか、頷いて返す。
「ううむ……わかった。とりあえずは安全なんだな、任せてくれ」
そういうと、ほかの人たちに簡単に状況を説明し、皆安堵したような表情を見せる。
すぐに二階にベッドを用意し、三畳程の感覚で囲いを作り、プライベートを保護する。
承諾を頂いた人には二段ベッドを用意して空間を節約する。
キッチンを利用して回収した食材などを洗うのを手伝ってもらい、ワンタップでラーメン、カレー、牛丼、ラッピアのシチュー、豚汁、野菜ボウル、白パンなどを量産して、無償で提供する。
「お水はここの蛇口を捻ると出てきます。このままでも飲めますが、こちらのヤカンに入れて、コンロのこれを最大まで捻ると、火がつくので沸騰させても大丈夫です。くれぐれも燃えることは────」
システムが使えなくても手動で行えるようで、任せられる人達に使い方を説明しておく。
料理の面ではこちらが食材諸共掌握しているために使えないけれど、飲み物はいくら提供しても問題ない。
説明を終えると、一人で屋上庭園に種を撒いて次の食材の生産体制を整えておく。
数時間経てばできるような優れものになっているため、量産は容易に行える。
「ローヴェン組合長、少しいいですか?」
手入れを済ませ、1階に降りると他の組合の人と話し合っているローヴェン組合長を呼ぶ。
「私はこれから、またダンジョンへと戻ります。連絡はこれでとれますので、何かあったらすぐ知らせてください」
ローヴェン組合長に無線機だけ渡して、そう言う。
3個ほど、ドローンが破壊された通知が届いており、ここの用意も整ったことだから、回収に向かわないといけない。
「わかった、くれぐれも無理はしないでな」
まだ信頼しきれてないところもあるようだけれど、ローヴェン組合長は私のことを気遣ってくれる。
地上に出たらいくら怒られるかわかったものでは無いが、今はそれに甘えておく。
「無理なんてしてませんよ、私は義務を果たしているだけです」
ふと微笑み、一人ポリゴン片に消える。
ダンジョンに戻ると、すぐにMP5を取り出し、冷たい眼差しを暗い空間へ向ける。
伝言には、合流するからそのまま待機、同じようなものが確認に来るから攻撃しないように。という趣旨の分をローヴェン組合長代筆で書いてあるから、それが敵でなければという前提の下、かなりの人数が救い出せる。
実際、2機が冒険者達の集団を発見し、1機が他にはない中型の凶暴なモンスターを確認し、救助の支障が起きないよう、囮となり遠方へと誘導している。
道中を阻む魔物に9x19mmパラベラム弾をくれてやりながら、二組の集団を回収。
時間も夕暮れをすぎて夜を迎え、ダンジョン内も暗くなり、魔物の活動も低下しリスポーン周期が緩やかになってきたことを受け、私はマイホームへと帰還する。
「ただいまです、黒恵、戻りました。まずは情報共有を……っとと」
待ちわびていたと迎えたローヴェン組合長を目の前に、躓くような場所もないのに足を取られる。
「疲れているじゃないか、とはいえ、余裕もない、寝ててもいいから情報共有しよう」
ローヴェン組合長の肩を借りて、簡単な仕切りで囲まれた場所で、狭い空間なのに敷かれた布団に横にならせてもらう。
まず最初に、仮称第二階層をドローンが全て探索し終えたことを受け、それを参加した各組合、またギルド関係者と共有する。
現在、私のマイホームで約150人を収容中である。
それらが下層から上がってきた地点が、第二階層より四つ繋がる下層口より三つになる。もう一つはまだ集団を確認しておらず、さらに探索を進めている途中だ。
私達、仮に黒恵組が辿ってきた下層道はまた幾つにも分岐しており、まだ多くの冒険者、一般市民が取り残されていると考えられる。
そして、それらを発見し収容しても、現状ではあと50人程で限界を迎えること。
それを踏まえ、明日にもそれらを置いて最上階を目指し、ボスを撃破して地上へと出る。
後に銅等級の冒険者を覗いた銀、鉄等級混載の救助隊を編成し、残りの遭難者を地上へと逃すことを目的に定まる。
「それであれば、時間と共に魔物の活動が不活性化しているため、安全かつ迅速に上層へ行くことができます。これは好機です」
言葉だけみればとても魅力的だけれど、それを聞く彼らはそうは思っていない。
「それでは、また黒恵殿に負担が集中します、我々にも何かできることは──」
このマイホームを行き来できるのは黒恵だけなのである。負担を軽くしようと言い出す輩がいるが、私は手でそれを制止する。
「何もありません、ただ一つあるとすれば、何も言わずに私を出せばいいんです。私以外に、これをしてこの場に戻ってこれるものはいないのですから」
残念だが、つい感情的になってしまい、誰も反論できない空気を作ってしまう。
当事者は誰でもなく、私なのだから。
少し体力が回復すると、起き上がってエナジードリンクを1缶空けて置く。
目にはもう隈が浮かび、何枚の湿布を貼っている筋肉はもうひと絞りのエネルギーしか持ち合わせていない。
「地上へ出たあとは、全てあなた達にお任せします。それまで、私にいい顔させてくださいな。一般市民の命背負って、死ぬ女ではありませんよ」
しかし、言い出しっぺであり、責任を背負わなければならない事と、何よりも滾る使命感によって、私はまた歩きだす。
「英雄気取りするつもりはありません。あくまで、冒険者の役割を果たしているだけに過ぎません。少し歩くだけですし、楽勝ですよ」
無理にでも微笑まなくては、彼らは送り出してはくれない。
それをわかっているから、彼らも渋い顔をせざるおえない。
「とはいえ、少し協力してもらいたいことがあります」
この空間を作るのに多大な出費を出し、私の財布はほぼ空に近い。
魔物を討伐することで得られるトークンのようなものでいくらか補填はする事ができるものの、それもたかが知れてる。
そのため、各集団が持っているお金とトークンを集め、こちらに譲渡して欲しい。ということだった。
また、さらなる人の収容体制を整えるため、それまでもものから原則二段ベッド、両面をカーテンを仕切るだけに制限することを了承して欲しいということを伝えて欲しいことを伝える。
それらは彼らが私にできる数少ないものだから、面目を気にする人達も、少しは顔が立つだろう。
「わかった、少し時間はかかるから、その間にでも休んでおいてください」
そう言って、それぞれの組合長、またギルド関係者が募金を募りにその場を離れる。残ったのは、ローヴェン組合長ぐらいなものだ。
「全く、抑えようにも行くようなこと言いやがって、今なら神経を叩いて気絶させることだってできるんだからな?舐めやがって」
そう、覇気もなく笑い飛ばす。彼は本気でそう思っていない、すぐにそう感じる。
殆ど信じきってもらったのだ、それに見合う働きをしなくてはならない。
「そう言わないで下さいよ、私が頑張らなくて、誰が頑張るんですか……とはいえ実際疲れました、少し仮眠を取ります」
「わかった」
そう二つ返事でローヴェン組合長は返すと、瞼を瞑って仮眠する。
30分程して、集金を終えて戻ってきた関係者によって首筋にビリビリと弱電流が走り、嫌でも起こされる。
「集金と、要件を伝え終わった。冒険者は、一階で雑魚寝する。この程度、俺らはいくらでもやってきたことだ、後輩が出来なくてどうするよ」
やはり、彼らは冒険者魂(?)を働かせ、毛布と枕をひとつに雑魚寝を決意した。暖房ならエアコンがあるし、最低限で済むからこれは有難い。
彼らのニッとキメる歯が、今はとても眩しく思える。
「一般市民の方々も、協力して下さり、既存のベッドでも半分は空きができます。皆、黒恵さんのお役に立ちたいと思っているようです」
当然といえばそうなのだが、やはり嬉しいものだ。
もう少しの辛抱だから、彼らの行動を無駄にしないよう、私も奮い立たなくてはならない。
「お気持ちを汲み取れず申し訳こざいません。当面の水、食料問題は大丈夫ですし、安心してダンジョンに戻れます」
すぐに編集画面を開き、二階のベッドを幅寄せして不足分を補填してあと100人ほどはベッドだけで賄えるようになった。
これで、もう一つの集団と合流しても、対処はローヴェン組合長達に任せられる。
「ご協力感謝しますと、後で伝えておいてください。それでは十分な休息と運営の処置を終えたので、行ってきます」
起き上がり、胡座をかきながらそういうと、立ち上がって直ぐにポリゴン片へと消えた。
ダンジョン内に戻ると、ふと思いつき、ローヴェン組合長に連絡して、マイホームの一部分にテレビを設置。
視聴する全員にヘッドホンの装着を義務付け、私のヘッドカメラの映像を共有する。
同時に、ドローンによる探索で判明したマップなども表示し、経験豊富な彼らの助言を貰いながら進むことにした。
また、拡張で余った資金を、資材とともにパワーレグスケルトンという外装式の義足のようなものを装備し、いくらか足回りの負担を軽減する。
最初からしていれば良かったのだが、考えが至らなかった。
気を取り直し、静かなダンジョン内にパワーレグスケルトンの機械音を響かせながら、反応のない敵の姿を探しつつ、着々と上層へ進む。
様々な種類のダンジョンに潜ったことのあるような冒険者を呼び出され、彼の要点を得た助言は、予想よりもスムーズな進行という恩恵を与えた。
私も、攻略本を読んでいるように当てはまるピースに喜びつつ、深夜の四時頃に時針がさしかかる程に、目的の場所手前にたどり着く。
巨人族でも控えていそうな、15m以上の堅牢な壁。
富の大きさを強調するような華美な装飾が、青く燃える炎によって妖しく誘うようだ。
疲労は溜まり、目的地が見えたことにそのまま睡魔に身を任せそうになるのを奮い立たせ、確認し合うとすぐにマイホームへ戻る。
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三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
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アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
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「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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