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13・慈善活動
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ペンバートン夫人の申し出に、ジルは反対しなかった。
「それはありがたい、ペンバートン夫人。妻をお誘い下さって感謝します」
そしてジルは、私にも笑顔を向けた。
「夫人の活動は素晴らしい、是非お仲間に入れていただくといい」
「はい、ジル。そうします」
私も微笑んで答えたけれど、胸の内は少し複雑だった。
今、私に向けてくれているような笑顔は、家では見たことがなかったからだ。自信に満ちて颯爽として、この場の誰からも信頼されて声をかけられているジル。なのにその笑顔は、本当は私にだけは向けられていないのだった。
私はペンバートン夫人に誘われて、様々な場に出かけるようになった。
夫人の活動は多岐にわたっていて、孤児院や病院を訪れて話し相手をしたり、貧しい暮らしの子供たちに服や食べ物を届けたりするほか、ペンバートン家に集まってお茶を飲みながら子供たちに贈る様々な細かいものを作ったりもした。
今までほとんど社交どころか人付き合いもしていなかった私は、初めのうちこそ少し不安だった。けれど夫人はもちろん他の皆様も親切で、すぐに馴染むことができた。あの時紹介されたジュリア様とポーリーン様は、歳も近いこともあって親しく話しかけてくれて、私は初めて同世代の友人を得た。
「貴族のお嬢様だっていうから、もっとお高くとまった方かと思ってたのよ。でもリゼット、穏やかで話しやすいんですもの」
孤児院の赤ちゃんのための靴下を編みながらジュリアが言うと、横で毛糸を巻いていたポーリーンも頷いて笑う。
「そうね、おまけにリゼットったら私達よりもお裁縫が上手いし」
「そうそう、お買い物の相場も知ってるし」
そして二人は顔を見合わせ、また笑いだした。
「もう、二人とも……」
私は苦笑するしかない。伯爵家と言ったって破産寸前だったのだから、私からみれば裕福な家庭で育ったジュリアやポーリーンのほうが、余程箱入りのお嬢様らしかった。
とはいえ、人生何が幸いするか分からないものだ。破産寸前とは知らないながら、傾いた伯爵家を何とかしようと苦労した経験のおかげで、私はペンバートン夫人の活動にすんなり溶け込めたのだから。お金の話ができる若い娘は少ないし、家計の助けにやっていた刺繍も、初心者に教えられるくらいにはなっていた。
そして何より、慈善活動は私の性に合っていたらしい。自分にできることで、貧しい女性や小さな子供たちが笑顔を見せてくれるのが嬉しかった。ジルが反対しないので(というより昼間の私になど関心がないのだと思う)、私はかなりの時間を割いて外出していた。
私が慈善活動にのめり込むのには、もうひとつ理由があった。言うまでもない、ジルとのこと。
私とジルの関係は、結婚してひと月以上たった今でも、全く変わっていなかった。朝と夜に必要最低限の話をするだけ。夫婦で社交の場へ出た時はにこやかに過ごしているけれど、その時だって二人で会話をするわけではない。招待客どうし、夫婦でいるのが都合が良いから一緒にいるにすぎないのだと思う。どんなに笑顔で過ごし、勧められればダンスさえ踊っても、翌朝ジルはまたいつもの無表情に戻って、仕事へ行ってしまうのだから。
その虚しさを埋めるために、私は慈善活動に参加するのだ。
「ん、やっ……、ジル……!」
脚の間に顔を埋めたジルの舌と指で、私はもう何度も何度も押し上げられていた。それなのにぎりぎりのところで愛撫を止められて、達することを許してもらえない。
昼間の無関心とは反対に、夜のジルはひどく私に執着した。未だに私に触れない日はなく、月のものが来た時でさえ、私の上半身を弄んだ。昼間と同じ人とは思えないほど熱っぽい瞳で私を見て、何度でも倦むことなく私を抱いた。
「ああ、また、また……だめぇ!」
ジルしか知らない私には、他の夫婦も皆こうなのかは分からない。でも女同士の話を耳にするようになってわずかに分かったのは、ジルはかなりその方の欲望が強いのではないか、ということだ。
「いつも、言っているでしょう。―――ちゃんと言いなさいと」
「ああ、だって……」
するとジルは身体を起こして私の腰を掴み、猛りたったものを突き入れた。
「ああ……っ!」
「ほら、言いなさい」
私の弱いところなど、とっくに暴き尽くされている。ごく浅く、焦れったいほどゆるゆると刺激され、私はどうにもならない身体を持て余し、身悶えた。
「いや、ジル……! お願い」
「それでは分かりませんよ?」
目を細めて見下ろす瞳に映る私は、どれだけはしたなく乱れているのだろう? 恥ずかしさに涙がにじむけれど、ジルの愛撫に、私が耐えられたことはない。いつだってジルの思うままに啼かされ、どんな言葉でも口に上せてしまうだけだ。
「お願い、もう……、もう、イかせて……!」
「もう、ですか? ずいぶんと気の早い……」
「ジル、お願い、もう……あぁ!!」
最後はもう言葉にならなかった。ジルは一気に激しさを増し、私はひときわ高い声をあげたきり、頭が真っ白になってしまった。
「それはありがたい、ペンバートン夫人。妻をお誘い下さって感謝します」
そしてジルは、私にも笑顔を向けた。
「夫人の活動は素晴らしい、是非お仲間に入れていただくといい」
「はい、ジル。そうします」
私も微笑んで答えたけれど、胸の内は少し複雑だった。
今、私に向けてくれているような笑顔は、家では見たことがなかったからだ。自信に満ちて颯爽として、この場の誰からも信頼されて声をかけられているジル。なのにその笑顔は、本当は私にだけは向けられていないのだった。
私はペンバートン夫人に誘われて、様々な場に出かけるようになった。
夫人の活動は多岐にわたっていて、孤児院や病院を訪れて話し相手をしたり、貧しい暮らしの子供たちに服や食べ物を届けたりするほか、ペンバートン家に集まってお茶を飲みながら子供たちに贈る様々な細かいものを作ったりもした。
今までほとんど社交どころか人付き合いもしていなかった私は、初めのうちこそ少し不安だった。けれど夫人はもちろん他の皆様も親切で、すぐに馴染むことができた。あの時紹介されたジュリア様とポーリーン様は、歳も近いこともあって親しく話しかけてくれて、私は初めて同世代の友人を得た。
「貴族のお嬢様だっていうから、もっとお高くとまった方かと思ってたのよ。でもリゼット、穏やかで話しやすいんですもの」
孤児院の赤ちゃんのための靴下を編みながらジュリアが言うと、横で毛糸を巻いていたポーリーンも頷いて笑う。
「そうね、おまけにリゼットったら私達よりもお裁縫が上手いし」
「そうそう、お買い物の相場も知ってるし」
そして二人は顔を見合わせ、また笑いだした。
「もう、二人とも……」
私は苦笑するしかない。伯爵家と言ったって破産寸前だったのだから、私からみれば裕福な家庭で育ったジュリアやポーリーンのほうが、余程箱入りのお嬢様らしかった。
とはいえ、人生何が幸いするか分からないものだ。破産寸前とは知らないながら、傾いた伯爵家を何とかしようと苦労した経験のおかげで、私はペンバートン夫人の活動にすんなり溶け込めたのだから。お金の話ができる若い娘は少ないし、家計の助けにやっていた刺繍も、初心者に教えられるくらいにはなっていた。
そして何より、慈善活動は私の性に合っていたらしい。自分にできることで、貧しい女性や小さな子供たちが笑顔を見せてくれるのが嬉しかった。ジルが反対しないので(というより昼間の私になど関心がないのだと思う)、私はかなりの時間を割いて外出していた。
私が慈善活動にのめり込むのには、もうひとつ理由があった。言うまでもない、ジルとのこと。
私とジルの関係は、結婚してひと月以上たった今でも、全く変わっていなかった。朝と夜に必要最低限の話をするだけ。夫婦で社交の場へ出た時はにこやかに過ごしているけれど、その時だって二人で会話をするわけではない。招待客どうし、夫婦でいるのが都合が良いから一緒にいるにすぎないのだと思う。どんなに笑顔で過ごし、勧められればダンスさえ踊っても、翌朝ジルはまたいつもの無表情に戻って、仕事へ行ってしまうのだから。
その虚しさを埋めるために、私は慈善活動に参加するのだ。
「ん、やっ……、ジル……!」
脚の間に顔を埋めたジルの舌と指で、私はもう何度も何度も押し上げられていた。それなのにぎりぎりのところで愛撫を止められて、達することを許してもらえない。
昼間の無関心とは反対に、夜のジルはひどく私に執着した。未だに私に触れない日はなく、月のものが来た時でさえ、私の上半身を弄んだ。昼間と同じ人とは思えないほど熱っぽい瞳で私を見て、何度でも倦むことなく私を抱いた。
「ああ、また、また……だめぇ!」
ジルしか知らない私には、他の夫婦も皆こうなのかは分からない。でも女同士の話を耳にするようになってわずかに分かったのは、ジルはかなりその方の欲望が強いのではないか、ということだ。
「いつも、言っているでしょう。―――ちゃんと言いなさいと」
「ああ、だって……」
するとジルは身体を起こして私の腰を掴み、猛りたったものを突き入れた。
「ああ……っ!」
「ほら、言いなさい」
私の弱いところなど、とっくに暴き尽くされている。ごく浅く、焦れったいほどゆるゆると刺激され、私はどうにもならない身体を持て余し、身悶えた。
「いや、ジル……! お願い」
「それでは分かりませんよ?」
目を細めて見下ろす瞳に映る私は、どれだけはしたなく乱れているのだろう? 恥ずかしさに涙がにじむけれど、ジルの愛撫に、私が耐えられたことはない。いつだってジルの思うままに啼かされ、どんな言葉でも口に上せてしまうだけだ。
「お願い、もう……、もう、イかせて……!」
「もう、ですか? ずいぶんと気の早い……」
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