3 / 12
ポベートールの反逆
しおりを挟む
俺とその女性は窓際の席へと腰を下ろした。
しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのはやはりというか彼女の方だった。自分のコミュニケーション能力の欠如を気にしつつも、それを悟られまいとする俺がそこには居た。
「えー…と…先日は助けていただきもう何と言っていいか。それに、先日は慌ててたもので、連絡先だけ渡して、今日も急に来て貰って失礼ですよね。すみません」
俺があまり年上の人にかしこまった態度で話しかけられることがないせいか、妙な違和感。それから反応に困った。ナンというヘタレなのだろうか俺氏。
いえいえ、対して遠くもないし。近いものです。
「そう。それなら良いんですが」
「あ…」彼女は何かを思い出したような顔をした。
「今日はお礼が言いたいのもそうなんですが、実は別にお話があって」
一体どんな話があるのだろうか。思い当たる節は寸分もない。
「一体どんな話でしょうか」
「あの、話の前に名前を聞いても良いでしょう。あ…私の名前は鷺沼皐月です。」
一方的に自己紹介してきた鷺沼さんだったが、別に悪い気はしなかった。この人のコミュニケーション能力は、どうやら俺とさして変わらないらしい。
「俺の…あ…僕の名前は錦田海斗です。」
すると鷺沼さんはクスクスと笑うと、俺で良いですよ。と言ってくれた。
それならそっちは敬語じゃなくて良い物ですが。鷺沼さんは不意を突かれたような表情をしたが、すぐに微笑みの表情に変わった。
「じゃあ錦田くん。本題に入ります。」
俺は同意の意味を込めて頷いた。
「実は最近、正夢と言いますか、予知夢と言いますか。とにかくそれらしきものを見るようになったの。」
俺はハッとした。言うまでもないと思ったが、今俺自身も予知夢を見ている。
「最初は些細なことだったの。例えば、天気とか、他にも電車の遅延とか。でも昨日、錦田くんが助けてくれたときも、女の人が轢かれる夢を見たから、その場所を朝から見てたんだけど、しばらく立っていたから酷い目眩に襲われて、まさか轢かれた女の人が自分だとは思わなかった。」
なんだって。あれは酒に酔ってたわけじゃないのか。余談だが、この時の出来事は夢で見ていない。せいぜい英語のテストあたりで目が覚めている。
しばらく驚愕のあまり如来菩薩と化していた俺だったが、俺も予知夢を見ていて、それによってあなたを助けたというのは趣旨のことを伝えた。
案の定と言うべきか、流石に驚かれた次第だ。だがこの数分後の俺に言わせれば、これらの会話は前菜にもならないようなものだったのである。
店内のBGMは、どうやらドビュッシーの月の光に変わったらしい。そんなことを思っていると、鷺沼さんは口を開いた。話はここからです。と。
はい?どういうことです?頭の中がクエスチョンマークにジャックされた。この調子では特殊部隊も来そうにない。
「実は、今日も夢を見たんだけど。そこに海斗くんが出てきたの」
そんな一回会っただけの人が出てくる夢とは大層なものだ。
「その夢では、あなたはどうやら下校中だったみたい。その途中、あなたと一緒に下校していた友達なのかな?とにかくその子が、ふっと道にはみ出してそのまま…という内容で」
つまらない冗談はよしてください。とはまさにこのことである。
だとしたら何でここに来ずにメールで教えてくれなかったんですか。今日だって俺と駅まで行った友達はいたのに。一気にまくし立てた。
「落ち着いて」彼女はなだめるように言った。
「夢でのその日は雨だったわ。今日は雲一つない快晴。恐らくこの雨とは明日のことね」
一時的にホッとした。だが、その友達とは恐らく藤崎のことだろうと思った。なぜならば、北川は今日から休んでおり、当分来そうにない。とにかく明日だ。明日藤崎を死守すれば良いというわけだ。しかも帰り道というかなり限定的な時間帯だ。これで藤崎が撥ねられたら俺は人類失格だ。
この時の俺は知る由もなかったが、人類合格のボーダーは、俺の想像よりも高いものだったことをここに記しておこう。
しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのはやはりというか彼女の方だった。自分のコミュニケーション能力の欠如を気にしつつも、それを悟られまいとする俺がそこには居た。
「えー…と…先日は助けていただきもう何と言っていいか。それに、先日は慌ててたもので、連絡先だけ渡して、今日も急に来て貰って失礼ですよね。すみません」
俺があまり年上の人にかしこまった態度で話しかけられることがないせいか、妙な違和感。それから反応に困った。ナンというヘタレなのだろうか俺氏。
いえいえ、対して遠くもないし。近いものです。
「そう。それなら良いんですが」
「あ…」彼女は何かを思い出したような顔をした。
「今日はお礼が言いたいのもそうなんですが、実は別にお話があって」
一体どんな話があるのだろうか。思い当たる節は寸分もない。
「一体どんな話でしょうか」
「あの、話の前に名前を聞いても良いでしょう。あ…私の名前は鷺沼皐月です。」
一方的に自己紹介してきた鷺沼さんだったが、別に悪い気はしなかった。この人のコミュニケーション能力は、どうやら俺とさして変わらないらしい。
「俺の…あ…僕の名前は錦田海斗です。」
すると鷺沼さんはクスクスと笑うと、俺で良いですよ。と言ってくれた。
それならそっちは敬語じゃなくて良い物ですが。鷺沼さんは不意を突かれたような表情をしたが、すぐに微笑みの表情に変わった。
「じゃあ錦田くん。本題に入ります。」
俺は同意の意味を込めて頷いた。
「実は最近、正夢と言いますか、予知夢と言いますか。とにかくそれらしきものを見るようになったの。」
俺はハッとした。言うまでもないと思ったが、今俺自身も予知夢を見ている。
「最初は些細なことだったの。例えば、天気とか、他にも電車の遅延とか。でも昨日、錦田くんが助けてくれたときも、女の人が轢かれる夢を見たから、その場所を朝から見てたんだけど、しばらく立っていたから酷い目眩に襲われて、まさか轢かれた女の人が自分だとは思わなかった。」
なんだって。あれは酒に酔ってたわけじゃないのか。余談だが、この時の出来事は夢で見ていない。せいぜい英語のテストあたりで目が覚めている。
しばらく驚愕のあまり如来菩薩と化していた俺だったが、俺も予知夢を見ていて、それによってあなたを助けたというのは趣旨のことを伝えた。
案の定と言うべきか、流石に驚かれた次第だ。だがこの数分後の俺に言わせれば、これらの会話は前菜にもならないようなものだったのである。
店内のBGMは、どうやらドビュッシーの月の光に変わったらしい。そんなことを思っていると、鷺沼さんは口を開いた。話はここからです。と。
はい?どういうことです?頭の中がクエスチョンマークにジャックされた。この調子では特殊部隊も来そうにない。
「実は、今日も夢を見たんだけど。そこに海斗くんが出てきたの」
そんな一回会っただけの人が出てくる夢とは大層なものだ。
「その夢では、あなたはどうやら下校中だったみたい。その途中、あなたと一緒に下校していた友達なのかな?とにかくその子が、ふっと道にはみ出してそのまま…という内容で」
つまらない冗談はよしてください。とはまさにこのことである。
だとしたら何でここに来ずにメールで教えてくれなかったんですか。今日だって俺と駅まで行った友達はいたのに。一気にまくし立てた。
「落ち着いて」彼女はなだめるように言った。
「夢でのその日は雨だったわ。今日は雲一つない快晴。恐らくこの雨とは明日のことね」
一時的にホッとした。だが、その友達とは恐らく藤崎のことだろうと思った。なぜならば、北川は今日から休んでおり、当分来そうにない。とにかく明日だ。明日藤崎を死守すれば良いというわけだ。しかも帰り道というかなり限定的な時間帯だ。これで藤崎が撥ねられたら俺は人類失格だ。
この時の俺は知る由もなかったが、人類合格のボーダーは、俺の想像よりも高いものだったことをここに記しておこう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる