3 / 6
何を決断するのか
しおりを挟む
「間もなく、西の大陸にある大国オーダナにこの国は飲み込まれるんです」
展開が唐突すぎて、頭がついていかなかった。
「あなたには、本当に申し訳ないです。僕がちゃんと力を使いこなせていれば、普通の方を呼び寄せたりなんかしなかった。平凡に平和に暮らしていたはずのあなたを、巻き込んでしまった!」
少年は、膝をつき頭を床にこすりつけた。いや、君が呼び寄せたのは、平凡でも平和に暮らしてもないし、ましてや普通でさえもないただの落伍者だ。どこにも居場所がないゴミだ。君が、罪悪感に駆られることはない。
「あなたを元の世界に戻す術はありませんが、あなたには選択肢があります」
少年は、ぽつりと言い、顔をあげた。そして、神妙な顔で言うのだ。
「その選択肢を提示する前に、あなたにはこの国の現状を知っておいてもらわなければなりません」
少年は、僕の手を取る。柔らかい手だった。もしかしたら、この子。
少年に手を引かれ、やって来たのは屋上だった。明るく星が瞬いて、所々で明かりが揺れる街並みは、暗闇に溶けて混じっているようだった。
「僕たちがいるここは、魔術師の塔と呼ばれている建物で、かつては多くの魔術師が集う協会がありました。今また、国の有事に国中の魔術師の末裔たちが集まり、新たに魔術師協会が発足されたんです」
少年の声を背に、やはり石で造られている柵に手をかけると、ひんやりとした触感が肌を伝って僕の心を揺らした。
ああ、僕は、ここにいる。
なぜだろう。突然に、世界と自分がハッキリとした繋がりを持ち出す感覚がしたのだ。
「この世界には、多くの国が存在しますが、いくつもの国がオーダナに秩序正しく管理されています。オーダナは、わが国も管理下に置こうとしたのですが、国民も国王もそれを拒みました。そのため、オーダナは力づくで我が国を取り込もうとしているのです」
「オーダナは、豊かで国力もあり国民はみな勤勉で素晴らしい国ですが、個の自由を認めていません。先頭の人間が右を向けば後に続くものも右を向くのが当然です。我々は、反対に個の自由を最も尊ぶ国民性ですので、どうしても、オーダナに取り込まれたくないのです」
「とまぁ、それが我々が置かれている現状なのですが、あなたにはいくつかの選択肢があります。」
さっきまで、暗い声で話していた少年は、幾分明るさを取り戻し、僕の顔を覗き込んだ。そして、指を一本立てる。
「一つは、オーダナに行くこと。我が国にも一部の国民はオーダナと争わず、オーダナ国民として生きることを選択する人もいます。そう言った方々と共に、オーダナに行きオーダナ国民として生きることが一つ目の選択肢です。彼らは、あなたをきっと歓迎してくださるでしょう」
少年は、二つ目の指を立てる。
「二つ目、オーダナに取り込まれるまでの間、この国の国民とし生きることです。その場合魔術師協会に掛け合って衣食住の保証は致しましょう」
三つ目の指が立つ。
「三つ目、国王軍に従軍しともに戦う道です。あなたにそこまでする義務はないので、こちらを選択されることはないでしょうが、皆さん歓迎してくれるでしょう」
ピッと、四つ目の指が立った。
「四つ目、魔術師協会の見習いとして従軍する道です。あなたが今から、魔術を習得することはないと思いますが、ここであなたを庇護することができます。さぁ、どうされますか?」
僕は、黙って俯いた。急に身の振り方を決めろと言われても、今まで逃げてきた僕にできるわけがない。
どれを選べば、安全で、自分が辛い目に合わなくて済むんだ?
「ああ、ごめんなさい。急に究極の選択を迫られても困りますね。では、しばらくここにいて、考えてください」
と言い、少年は、僕の肩を優しくたたく。
「客室にご案内します。今日はもうゆっくりとお休みください」
帰りたい。あんなにも、ここではない別の世界に行きたいと思っていたのに、帰りたいんだ。
僕は、多分、こんな自分から逃げたかっただけなんだろう。
展開が唐突すぎて、頭がついていかなかった。
「あなたには、本当に申し訳ないです。僕がちゃんと力を使いこなせていれば、普通の方を呼び寄せたりなんかしなかった。平凡に平和に暮らしていたはずのあなたを、巻き込んでしまった!」
少年は、膝をつき頭を床にこすりつけた。いや、君が呼び寄せたのは、平凡でも平和に暮らしてもないし、ましてや普通でさえもないただの落伍者だ。どこにも居場所がないゴミだ。君が、罪悪感に駆られることはない。
「あなたを元の世界に戻す術はありませんが、あなたには選択肢があります」
少年は、ぽつりと言い、顔をあげた。そして、神妙な顔で言うのだ。
「その選択肢を提示する前に、あなたにはこの国の現状を知っておいてもらわなければなりません」
少年は、僕の手を取る。柔らかい手だった。もしかしたら、この子。
少年に手を引かれ、やって来たのは屋上だった。明るく星が瞬いて、所々で明かりが揺れる街並みは、暗闇に溶けて混じっているようだった。
「僕たちがいるここは、魔術師の塔と呼ばれている建物で、かつては多くの魔術師が集う協会がありました。今また、国の有事に国中の魔術師の末裔たちが集まり、新たに魔術師協会が発足されたんです」
少年の声を背に、やはり石で造られている柵に手をかけると、ひんやりとした触感が肌を伝って僕の心を揺らした。
ああ、僕は、ここにいる。
なぜだろう。突然に、世界と自分がハッキリとした繋がりを持ち出す感覚がしたのだ。
「この世界には、多くの国が存在しますが、いくつもの国がオーダナに秩序正しく管理されています。オーダナは、わが国も管理下に置こうとしたのですが、国民も国王もそれを拒みました。そのため、オーダナは力づくで我が国を取り込もうとしているのです」
「オーダナは、豊かで国力もあり国民はみな勤勉で素晴らしい国ですが、個の自由を認めていません。先頭の人間が右を向けば後に続くものも右を向くのが当然です。我々は、反対に個の自由を最も尊ぶ国民性ですので、どうしても、オーダナに取り込まれたくないのです」
「とまぁ、それが我々が置かれている現状なのですが、あなたにはいくつかの選択肢があります。」
さっきまで、暗い声で話していた少年は、幾分明るさを取り戻し、僕の顔を覗き込んだ。そして、指を一本立てる。
「一つは、オーダナに行くこと。我が国にも一部の国民はオーダナと争わず、オーダナ国民として生きることを選択する人もいます。そう言った方々と共に、オーダナに行きオーダナ国民として生きることが一つ目の選択肢です。彼らは、あなたをきっと歓迎してくださるでしょう」
少年は、二つ目の指を立てる。
「二つ目、オーダナに取り込まれるまでの間、この国の国民とし生きることです。その場合魔術師協会に掛け合って衣食住の保証は致しましょう」
三つ目の指が立つ。
「三つ目、国王軍に従軍しともに戦う道です。あなたにそこまでする義務はないので、こちらを選択されることはないでしょうが、皆さん歓迎してくれるでしょう」
ピッと、四つ目の指が立った。
「四つ目、魔術師協会の見習いとして従軍する道です。あなたが今から、魔術を習得することはないと思いますが、ここであなたを庇護することができます。さぁ、どうされますか?」
僕は、黙って俯いた。急に身の振り方を決めろと言われても、今まで逃げてきた僕にできるわけがない。
どれを選べば、安全で、自分が辛い目に合わなくて済むんだ?
「ああ、ごめんなさい。急に究極の選択を迫られても困りますね。では、しばらくここにいて、考えてください」
と言い、少年は、僕の肩を優しくたたく。
「客室にご案内します。今日はもうゆっくりとお休みください」
帰りたい。あんなにも、ここではない別の世界に行きたいと思っていたのに、帰りたいんだ。
僕は、多分、こんな自分から逃げたかっただけなんだろう。
0
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる