何も持たない僕の話

東風花

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何を決断するのか

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「間もなく、西の大陸にある大国オーダナにこの国は飲み込まれるんです」

 展開が唐突すぎて、頭がついていかなかった。

「あなたには、本当に申し訳ないです。僕がちゃんと力を使いこなせていれば、普通の方を呼び寄せたりなんかしなかった。平凡に平和に暮らしていたはずのあなたを、巻き込んでしまった!」

 少年は、膝をつき頭を床にこすりつけた。いや、君が呼び寄せたのは、平凡でも平和に暮らしてもないし、ましてや普通でさえもないただの落伍者だ。どこにも居場所がないゴミだ。君が、罪悪感に駆られることはない。

「あなたを元の世界に戻す術はありませんが、あなたには選択肢があります」

 少年は、ぽつりと言い、顔をあげた。そして、神妙な顔で言うのだ。

「その選択肢を提示する前に、あなたにはこの国の現状を知っておいてもらわなければなりません」

 少年は、僕の手を取る。柔らかい手だった。もしかしたら、この子。

 少年に手を引かれ、やって来たのは屋上だった。明るく星が瞬いて、所々で明かりが揺れる街並みは、暗闇に溶けて混じっているようだった。

「僕たちがいるここは、魔術師の塔と呼ばれている建物で、かつては多くの魔術師が集う協会がありました。今また、国の有事に国中の魔術師の末裔たちが集まり、新たに魔術師協会が発足されたんです」

 少年の声を背に、やはり石で造られている柵に手をかけると、ひんやりとした触感が肌を伝って僕の心を揺らした。
 ああ、僕は、ここにいる。
 なぜだろう。突然に、世界と自分がハッキリとした繋がりを持ち出す感覚がしたのだ。

「この世界には、多くの国が存在しますが、いくつもの国がオーダナに秩序正しく管理されています。オーダナは、わが国も管理下に置こうとしたのですが、国民も国王もそれを拒みました。そのため、オーダナは力づくで我が国を取り込もうとしているのです」

「オーダナは、豊かで国力もあり国民はみな勤勉で素晴らしい国ですが、個の自由を認めていません。先頭の人間が右を向けば後に続くものも右を向くのが当然です。我々は、反対に個の自由を最も尊ぶ国民性ですので、どうしても、オーダナに取り込まれたくないのです」

「とまぁ、それが我々が置かれている現状なのですが、あなたにはいくつかの選択肢があります。」

 さっきまで、暗い声で話していた少年は、幾分明るさを取り戻し、僕の顔を覗き込んだ。そして、指を一本立てる。

「一つは、オーダナに行くこと。我が国にも一部の国民はオーダナと争わず、オーダナ国民として生きることを選択する人もいます。そう言った方々と共に、オーダナに行きオーダナ国民として生きることが一つ目の選択肢です。彼らは、あなたをきっと歓迎してくださるでしょう」

 少年は、二つ目の指を立てる。

「二つ目、オーダナに取り込まれるまでの間、この国の国民とし生きることです。その場合魔術師協会に掛け合って衣食住の保証は致しましょう」

 三つ目の指が立つ。

「三つ目、国王軍に従軍しともに戦う道です。あなたにそこまでする義務はないので、こちらを選択されることはないでしょうが、皆さん歓迎してくれるでしょう」

 ピッと、四つ目の指が立った。

「四つ目、魔術師協会の見習いとして従軍する道です。あなたが今から、魔術を習得することはないと思いますが、ここであなたを庇護することができます。さぁ、どうされますか?」

 僕は、黙って俯いた。急に身の振り方を決めろと言われても、今まで逃げてきた僕にできるわけがない。
 どれを選べば、安全で、自分が辛い目に合わなくて済むんだ?

「ああ、ごめんなさい。急に究極の選択を迫られても困りますね。では、しばらくここにいて、考えてください」

 と言い、少年は、僕の肩を優しくたたく。

「客室にご案内します。今日はもうゆっくりとお休みください」

 帰りたい。あんなにも、ここではない別の世界に行きたいと思っていたのに、帰りたいんだ。
 僕は、多分、こんな自分から逃げたかっただけなんだろう。
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