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第3章 闘技場とハーレム

帰り道

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闘技場からは、応援に来てくれていたラルフとユウリの3人で帰っていた。
準決勝で勝利したものの、死力を尽くした俺は、治療を施されたとはいえ、本調子ではなかった。

決勝戦の相手を見てからというもの、気持ちとしても穏やかではなく、1人で帰らなくてもいい今の状況に心から安堵していた。

左隣を歩くラルフの手には大きな荷物の袋が掲げられている。
ラルフの手荷物の中身は、俺の決勝戦用の衣装だった。
決勝戦では、この街のしきたりとして、黒魔術師の伝統的なローブで戦うことが義務付けられていた。

「そんなローブ渡されたって、俺は魔術師じゃないんだけどな」

左のラルフの方向を向いて、そう言った。
少し笑ったつもりが、どことなくぎこちない笑みしか浮かべられなかった。
ラルフは困ったような顔をしていた。

「……なぁ、ラルフは……ユウリも、知ってたのか? その、ギルバートが魔術闘技祭に出場しているって」

ラルフは反論するでもなく、困ったように視線を逸らすだけだった。
ユウリは話を聞いているのか、聞いていないのか、空を見上げている。

その反応から、おそらく2人ともその事実を知っていたようだ。
―――とすれば、何も知らなかったのは、俺だけなのか。

「すまねェ……。ギルバートの奴には、黙っているよう言われててなァ」
「そっか。別に怒ってないよ。……でも」

"もう隠し事はなしにしよう"

そう言おうと思って自分が一番、2人に嘘をついているのだと思い返して口を噤んだ。

―――仕方のないことだ。
魔女の呪いのことなど、他人に言えないのだから。

「他には、まだ隠してることは……ないよな?」

それでも、こう問うてしまった自分はやっぱり悪い人間なんだろうか。

ラルフを見つめると、きょとんとした顔をしている。
おそらくその顔からは、特に何もないようだった。

一方でユウリは再び空を見上げたまま「別になんにもないよ」と何故だか不機嫌そうに言った。

「そっか……。ギルバートは自分が出場していること、なんで俺にだけ黙ってたんだろうな」

その問いの答えは持ち合わせていないようで、ラルフもユウリも「さぁ」といった顔をしていた。

ユウリはしばらく考え込んだように顎に手を当てると、突然パッと明るい顔をした。

「わかった! おにぃのこと好きなんじゃないのかな! ビックリさせたかったとか」

ギルバートが、俺のことを好き……?
妄想ですら、全く想像ができそうにない。

―――それに、それでは俺をこの魔獣闘技祭に出場させようとした理由がわからないままだ。

「……いや、決勝戦で俺を殺そうと思ってる、ぐらいのほうがまだしっくりするよ……」
「おにぃを殺す……?」

ユウリが突然立ち止まる。
その目がギラリと光っている。
ポケットの中に入れた左手と、その腕が小刻みに震えているように見える。

―――こ、これはやばい。

「冗談だよ~。そんなわけないじゃないか」

俺は立ち止ってしまったユウリの横で、膝を地面についてしゃがんだ。
そしてユウリの頭をよしよしと撫でた。
髪の毛がふわふわとしていて、心地よい。

しばらくそうしていると、ユウリの震えは収まり、顔に血色が戻っていく。

「……えへへ、そうだよね」
「そうだよ、そんなことあるわけないさ」

「うん。おにぃが殺されたら……ボクがその人を殺しちゃうもん」

ユウリは今まで聞いたことのない低い声でそう言った。
そして顔をパッとまた明るくすると、ご機嫌になったのか、スキップをしながら先に走り出してしまった。

俺はほっと胸をなでおろしてから、ため息を吐くと、ラルフの方を見つめた。
するとラルフは無表情でこちらを見つめていた。

「ら、ラルフも何か言ってくれよな……。物騒なこと言うもんじゃないってさ」

しかし、ラルフはその問いにすら無表情のままだった。

「……オメェが殺されたら……オレもそうするかもな、と思ってなァ」
「お、おい! ラルフまで……勘弁してくれよ」

そう言うと、ラルフは「ガハハッ」と道の反対側まで聞こえそうな大声で笑い始める。

本当に冗談じゃない。
こんな仲間たちの中では俺の心臓がこれ以上持ちそうにない。

―――どっ、と今日一日の疲れが身体にのしかかってくるようだった。

しばらくして、ラルフは突然ぴしっと笑うことをやめた。

「……冗談だぜ。だってオメェを殺させたりしねェからさ」

冗談なのか本気なのかわからないまま、ラルフはそう言ってから小さく笑うと、再び前を向いて歩きだした。
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