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第二章 触れ合うたび深くなる
八話 優しい眠りに落ちていく
触れ合った余韻の中で、田島の独占欲が静かに顔をのぞかせる。
抱きしめられたまま眠りに落ちる、ふたりだけの夜――
しばらく抱きしめあったり、キスをしたりした後、
私の頬を撫でながら田島さんが言った。
「喉、乾いてるだろ? ちょっと待ってて」
ベッドを抜け出した彼は、グラスに冷たい水を汲んできてくれた。
「ありがとう……」
差し出してくれたグラスを受け取り、ゆっくりと飲む。
ひんやりした水が、乾いていた喉を潤しながら流れ込んでいく。
飲み干す頃には、胸から肩にまとわりついていた熱が引いて、
さっきまで肌を重ねていた余韻だけが、身体の内側に微かに残った。
汗が引いて、肌が空気に触れて少し冷えた。
けれど田島さんの体温は、まだ名残のように覚えている。
一度離れてしまうと、私からその温もりを求められなくて……。
掛け物に包まって、空になったグラスを両手で弄んでいると、
田島さんの手が横から伸びてきて、そっと取り上げた。
「梓さん、もっと俺の傍に来て」
低い声で優しく言われて、胸の奥がほのかに疼く。
引き寄せられた瞬間、肺の奥に溜まっていた不安が、
呼吸と共にふっとこぼれた。
田島さんに、ぐっと肩を引き寄せられる。
肩に触れた温かい手が、逞しい胸の中へ私を抱き込んだ。
嬉しくて抱き着いた私の手を取って、彼は自分の脇腹に回させた。
「遠慮しないで、もっと俺にくっついてくれていいよ。
嫌じゃなかったら……」
「……嫌なわけないです。ただ、やっぱり……まだ慣れなくて……」
「じゃあ、これからゆっくり慣れていけばいい」
田島さんの低い声が耳元に落ちる。
無駄な力が徐々に抜けて、ほっと息を吐いた。
自分でも驚くほど、心が凪いでいく。
あんなに緊張していたのに、彼の腕の中だけは安全だと思える。
ここがずっと私の居場所であってほしい。
過去の冷たい拒絶の記憶が、心に澱のように沈んでいる。
その痛みを知っているから、今触れている温もりが怖くなる。
こんな場所を知ってしまったら、もう二度と独りきりには戻れない。
私は、信じてもいいのかな。
田島さんの熱だけを、これからもずっと……。
言葉にすれば壊れてしまいそうだった。
人肌が恋しいなんて、今までの私には縁がないと思っていた。
大きな身体に守られるように、ぴたりと寄り添う。
私より高い彼の体温が伝わってきた。
微かに汗と混じった、彼の肌の匂いは優しい。
少しの隙間も作りたくなくて、私から彼に脚を絡めていた。
「梓さん……ごめん、少しだけ寝てもいい?」
「……当直明けだったのに。無理させてごめんなさい」
「……無理なんてしてないから。でも、俺が寝てる間に逃げるなよ。
……絶対、逃がさないから……」
理性のフィルターを通していない、不意に漏れた彼の言葉。
誰かに、こんなふうに抱きしめてもらえる日が来るなんて。
剥き出しの執着に、思わず私の胸が熱くなる。
田島さんの腕に力が込められて、その檻の中に閉じ込められた。
抱きしめる腕は、きちんと力加減をしてくれている。
それは私にとって、どんな甘い言葉よりも確かに、
必要とされている証だった。
「逃げたりなんてしないから、安心して休んで」
私の返事に、頭上でふっと笑う吐息が触れた。
そのまま田島さんの呼吸はゆっくりと、
深く安らかな寝息に変わっていく。
眠りに落ちても、腕の力はほとんど緩まない。
逃がさないという言葉に嘘はない。彼の身体が教えてくれる。
トクトクと規則正しい心音を刻む彼の胸に、そっと顔を埋めた。
幸せな疲労感と一緒に意識が沈んでいく。
そのたびに、腕の重さだけが確かな印のように残る。
私が眠りへ落ちても、彼の温もりはずっと離れない。
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