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第二章 触れ合うたび深くなる
十一話 深まり始めた距離 ※
夕闇が迫った薄暗い部屋の中は、田島さんと私の乱れた呼吸で満ちていた。
「……梓、……梓、かわいい」
私の名前を呼ぶ田島さんの声は掠れていた。言葉も紡げないまま、彼の背中に縋りつくことしかできない。一番深い場所を突き上げられた瞬間、背筋に電流が走り頭の中がチカチカと明滅した。指先までが感電したように痺れ、自分の身体感覚が飽和して、ただ彼という熱い波に翻弄されるだけの存在になっていく。
満たされ、乱されて、ただ流されないよう必死でしがみつくだけ。
――もう、このまま壊れてしまってもいい。
呼吸をすることも忘れて、甘い痺れの余韻に漂う。
私は、田島さんの底なしの優しさの中に深く沈んでいった。
激しい波が凪いだ頃、部屋の中はすっかり薄暗くなっていた。
私たちは抱き合ったまま、心地よい疲労感に包まれていた。私の髪をゆったりと撫でてくれる。その手の温かさにほっとしながら、彼の名前をそっと呼んだ。
「……拓巳……さん」
彼は驚いたように目を見開く。
その後、愛しさが溢れ出したような表情で私を抱きしめなおした。
「……一度だけ、呼んでくれたの嬉しかった。……もう一回呼んで?」
「拓巳さん……」
苦しいほど強く抱きしめられて、私は軽く彼の胸を叩いた。
「……苦しいってば、拓巳さん」
その力強ささえ嬉しくて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「かわいすぎる……。これから、ずっとそう呼んでくれる? 梓」
真剣に言う彼の低い声。抱かれながら吐息混じりに呼ばれていた名前を、耳元で囁かれて頬が火照るのを感じる。
助けてもらった警察官の拓巳さんと、出会って二日目でこんなに深い関係になるなんて、今までの私ならきっと信じなかった。
でも、これは夢じゃない、現実。
彼の高い体温に包まれていると心地よくて、心も身体も満たされきって、離れたくないと思ってしまう。
徐々に暗く冷えていく部屋の空気に胸がざらついた。一人きりになるのがたまらなく不安で、暗がりに沈む拓巳さんの顔を見上げる。背中に触れる手が、泣きたくなるほど温かい。
このままここで一緒にいてほしい。泊っていってほしい。言いたいけれど恥ずかしかった。迷惑に思われたらどうしよう、と思った。
「……あの、拓巳さん……明日」
「うん。俺、明日は非番なんだ。だから……泊っていっても、いい? 梓が迷惑じゃなければ」
「……迷惑なんかじゃないです」
小さく首を横に振り、嬉しさを我慢できず彼に抱き着く。
額に口づけが落ち、強張っていた身体の力が抜けて、やっと深く呼吸ができた。
ベッド周りに落ちていた衣類を二人で拾いあい、身に着けてから部屋の灯りをつける。
乱れたベッドを整えて、並んでソファに座った。
やっぱり少し気恥ずかしい。
グラスに冷えたお茶を注いで、拓巳さんに渡す。
「あ、ありがとう」
「ううん。もっと飲みたいなら、まだあるから言って」
「……結構、汗かいたよな」
ストレートに言われて、目を逸らして頷いた。
「……うん」
「梓、身体は辛くない?」
「……大丈夫。意外と頑丈なの」
「そっか、バレエやってたんだよね。確かに、うっすら腹筋割れてたよな……」
「見ないでよ……そんなところ……」
自分が必死だったから、そんなに観察されていたなんて想像もしていなかった。
「風呂、一緒に入ろうか?」
何も言えずにお茶を飲んでいると、天気の話でもするように、さらりと拓巳さんが言った。
「一緒に、お風呂……」
「俺、部屋から着替え持ってくるから。そう、ついでに歯ブラシなんかも持ってきていいかな?」
「……えっ?」
「……ダメ?」
少しだけ不安そうに首を傾げて見せる彼。さっきまで私を翻弄していた人とはまるで別人みたい。その表情が、なんだかかわいくて。
「恥ずかしいけど……わかった。じゃあ、お湯張っておくね」
「ありがとう。すぐ戻る」
拓巳さんはお茶を飲み干すと、名残惜しそうに濡れた唇で私にキスしてから部屋を出て行った。
「……梓、……梓、かわいい」
私の名前を呼ぶ田島さんの声は掠れていた。言葉も紡げないまま、彼の背中に縋りつくことしかできない。一番深い場所を突き上げられた瞬間、背筋に電流が走り頭の中がチカチカと明滅した。指先までが感電したように痺れ、自分の身体感覚が飽和して、ただ彼という熱い波に翻弄されるだけの存在になっていく。
満たされ、乱されて、ただ流されないよう必死でしがみつくだけ。
――もう、このまま壊れてしまってもいい。
呼吸をすることも忘れて、甘い痺れの余韻に漂う。
私は、田島さんの底なしの優しさの中に深く沈んでいった。
激しい波が凪いだ頃、部屋の中はすっかり薄暗くなっていた。
私たちは抱き合ったまま、心地よい疲労感に包まれていた。私の髪をゆったりと撫でてくれる。その手の温かさにほっとしながら、彼の名前をそっと呼んだ。
「……拓巳……さん」
彼は驚いたように目を見開く。
その後、愛しさが溢れ出したような表情で私を抱きしめなおした。
「……一度だけ、呼んでくれたの嬉しかった。……もう一回呼んで?」
「拓巳さん……」
苦しいほど強く抱きしめられて、私は軽く彼の胸を叩いた。
「……苦しいってば、拓巳さん」
その力強ささえ嬉しくて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「かわいすぎる……。これから、ずっとそう呼んでくれる? 梓」
真剣に言う彼の低い声。抱かれながら吐息混じりに呼ばれていた名前を、耳元で囁かれて頬が火照るのを感じる。
助けてもらった警察官の拓巳さんと、出会って二日目でこんなに深い関係になるなんて、今までの私ならきっと信じなかった。
でも、これは夢じゃない、現実。
彼の高い体温に包まれていると心地よくて、心も身体も満たされきって、離れたくないと思ってしまう。
徐々に暗く冷えていく部屋の空気に胸がざらついた。一人きりになるのがたまらなく不安で、暗がりに沈む拓巳さんの顔を見上げる。背中に触れる手が、泣きたくなるほど温かい。
このままここで一緒にいてほしい。泊っていってほしい。言いたいけれど恥ずかしかった。迷惑に思われたらどうしよう、と思った。
「……あの、拓巳さん……明日」
「うん。俺、明日は非番なんだ。だから……泊っていっても、いい? 梓が迷惑じゃなければ」
「……迷惑なんかじゃないです」
小さく首を横に振り、嬉しさを我慢できず彼に抱き着く。
額に口づけが落ち、強張っていた身体の力が抜けて、やっと深く呼吸ができた。
ベッド周りに落ちていた衣類を二人で拾いあい、身に着けてから部屋の灯りをつける。
乱れたベッドを整えて、並んでソファに座った。
やっぱり少し気恥ずかしい。
グラスに冷えたお茶を注いで、拓巳さんに渡す。
「あ、ありがとう」
「ううん。もっと飲みたいなら、まだあるから言って」
「……結構、汗かいたよな」
ストレートに言われて、目を逸らして頷いた。
「……うん」
「梓、身体は辛くない?」
「……大丈夫。意外と頑丈なの」
「そっか、バレエやってたんだよね。確かに、うっすら腹筋割れてたよな……」
「見ないでよ……そんなところ……」
自分が必死だったから、そんなに観察されていたなんて想像もしていなかった。
「風呂、一緒に入ろうか?」
何も言えずにお茶を飲んでいると、天気の話でもするように、さらりと拓巳さんが言った。
「一緒に、お風呂……」
「俺、部屋から着替え持ってくるから。そう、ついでに歯ブラシなんかも持ってきていいかな?」
「……えっ?」
「……ダメ?」
少しだけ不安そうに首を傾げて見せる彼。さっきまで私を翻弄していた人とはまるで別人みたい。その表情が、なんだかかわいくて。
「恥ずかしいけど……わかった。じゃあ、お湯張っておくね」
「ありがとう。すぐ戻る」
拓巳さんはお茶を飲み干すと、名残惜しそうに濡れた唇で私にキスしてから部屋を出て行った。
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