引きこもりの魔王と魔道士の息子は愛を育めるか?

郁子木通

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魔王との生活

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ーそんな経緯でシドが魔王ゲインの宮殿に引越してきてからというもの、ギョロンは不器用なゲインとシドの関係にやきもきしていた。

相変わらずシドは部屋にこもりっきりで研究に励むので、時々ギョロンが様子を見に行って、無理や無茶をしていないか監視する役を担っている。

もうしばらくすると、モーグの推薦する一人目の護衛者がやってくる。

それまでに、何か一つでも新しい研究の成果を発表したいという目標があるそうなのだが…

「ギョロン!どこにいる?」

ゲインにテレパシーで呼ばれ、ギョロンは彼のもとに向かった。
するとゲインはこう頼んだ。
「お前にこの服をシドに持って行ってもらいたい。」

なんでも、その服は、ゲインが若い頃に城の中で身につけていたものとのことだ。

「客人を迎えるのに、あの薄汚れた白衣のままでは良くないと思ってな。」

そういってゲインに渡された衣服の入った袋を抱え、ギョロンはシドのもとに続く宮殿の廊下を、ふわふわと浮遊しながら向かった。

(うーんとりあえず、サイズが合うかどーか、一度着てもらおうかなー。)

ギョロンはシドの部屋の扉をノックした。

「シドさまー!きこえてますかー!」

研究中は毎度、大声を張り上げて叫ぶが、この程度では扉は開かないのだ。

ドンドン!ドンドン!

かなり根気よく呼びかけなければ、この扉が開くことは無い。

「ゲインさまからの命令でーーーす!」

そう叫んでやっと、重い扉が開いた。

「やあ、ギョロン。今いい所なんだけど、ゲイン様がどうしたって?」

部屋に招き入れられてギョロンはギョッとした。

部屋の中には巨大な無機物の兵士が静かに佇んでいたり、

様々な生物の標本が置いてあったりして、不気味な雰囲気を漂わせていた。

自分もこの人から生成されたんだよね・・・?

複雑な面持ちでゲインからの預かり物をテーブルの上に置いた。

「これは?」

「ゲインさまが、護衛者の方をお迎えする儀式の時に着るようにと、用意して下さいました!いつもの薄汚れた白衣だと、お迎えするのにあんまりだって事で。」

「なるほど・・・」

封を解き、衣服を取り出したシドはそれを見て困惑した。

形状はワンピースで、全体の色調は黒色の、丈は短め。袖とスカート部分は グレーに透けた軽いシフォン素材で出来ていた。

「ゲイン様が普段お召しになってる衣服である程度は想像していたけれど・・・これは・・・」

ゲインは女物の服を好み、マントの下は黒のロングのスリットワンピースで、ヒールを履いている。

時折、玉座で脚を組んでいると、スリットからガーターベルトとストッキングが見える事もあり、ドキッとさせられる。

正直シドは、自分が魔王様の趣向に合うような衣服が似合うような容姿ではないと思っている。

「わー・・・。」

ギョロンもシドと同じような表情をしていた。

「あ、でも、命令なので。とりあえず着ちゃいましょうか。こちらはゲインさまのお若い時のお下がりなんですって。」

命令と言われると、さすがに断ることはできない。断ると、また何か面倒な呪いでもかけられたりしたら・・・

そう思い、シドは渋々衣服に袖を通した。

柔らかいブロンドのくせっ毛は、角のついた逆カチューシャでまとめ、

今までつけたことも無いストッキングと、ガーターベルトに
指定の下着はTバック!しぶしぶと履き慣れないピンヒール靴を身に付けた。

その上にマントを羽織るが、ロング丈ではなくショート丈のものだった。

「これは・・・スースーするな。」

「風が吹いたら臀部が丸見えですね。」

「丸見えって・・・何か・・・違う気がする・・・」

「あ、分かりました!メイクが足りないんです!」

ギョロンはメイク道具をささっと用意し、シドを椅子に座らせた。

シドに向かってテーブルの上に立ち、器用に化粧を施した。
「どうでしょうか。」

眼鏡をかけて鏡を見ると、別人のようになった姿が映っていた。

「こ・・・この姿を父上に見られたら・・・なんて言われるだろう・・・?!おっ、恐ろしい・・・!!」

「えっ、お似合いだと思いますよ?」

シドは青ざめながら頭を抱えた。

「あーでも、眼鏡はしてない方がいいですね。」

「バカをいっちゃいけないよ。これが無いと君の顔もぼんやりとしか見えないんだから!」

「眼鏡がなくても見えるような発明でもあれば便利なんですけどね~」

「なるほど・・・全く思いもよらなかった。考えておくよ。」

こういう時でも理系の頭がはたらくんだなぁとギョロンは呆れて口をあんぐりと開けた。

シドは、幼少期にゲインの宮殿で書庫を訪れて以来、知識欲が旺盛になり、何でも自分の研究に結びつけてしまう癖があった。

ゲイン様からの好意が何なのかも考えた事なさそうだなぁ・・・

ギョロンは今までシドとゲインの関係を黙って見守って来たが、少しだけ探りをいれてみようと思った。

「シドさまは、ゲインさまをどう思ってますか?」

「唐突だね。師のように尊敬に値する方だと思っているよ。」

「師として仰ぐ感じなんですね~なるほど~」(棒読み)

「異性とかに興味ってありますか?」

「生体研究対象としてあるかな。」

(ダメだこりゃあああ!!)

ギョロンは白目で固まってしまった。
さて、核心に迫ろう。

「では、同性には興味おありですか?」

「何だか尋問のようだねギョロン。

残念だけど、僕は誰に対しても恋愛感情は持たないんだ。」

これは大変な事を知ってしまった。

ギョロンはそれ以上何も聞かず、ゲインの事を憐れむ気持ちでいっぱいになってしまい、大きな目を潤ませた。

「ギョロン、どうしたのかな?」

「・・・泣いてもいいですか・・・?」

「構わないけど、こっちにおいで。」

シドはギョロンを手招き、優しく抱きしめながら頭を撫でた。

「君が泣くのは優しいからだね。
僕を思ってくれてありがとう。さ、僕は研究に戻るとするよ。」

大きな眼を潤ませながら、ギョロンはシドの胸に埋めていた顔をガバッと勢いよく上げた。

「シドさま!ゲインさまにこのお姿をお見せしましょう!」

「それは・・・抵抗があるなあ。」

「ちゃんと着ました!って報告しましょうよ!きっとゲインさまもお喜びになられます!」

「じゃあ・・・少しだけ。」

重い腰を上げ、シドはギョロンを連れて部屋から出る事にした。

ゲインの部屋まで続く廊下を歩いていると、数メートル先に父、モーグの姿があった。

よりによってこんなタイミングで父と鉢合わせするとは!

「父う・・・」

シドが声をかけようとした時、父は目を見張り言葉を失っている様子だった。絞り出すように出た一言が、

「ソラ・・・」

という一言だけだった。

それを聞き、シドは考えた。ソラとは・・・?

確か自分を出産後に死亡したと聞いている母親の名前のはず。それをなぜ今口にしたのだろう?

「父上?」


呼びかけられ、その聞き覚えのある声にモーグは、はっと我に返った。

「なんだシド、お前なのか?!何だその格好は!!」

といつもの調子でシドに怒鳴りつけた。

「ゲインさまから頂いたお召し物です。」

すかさずギョロンが返した。

ゲイン様の贈り物なら息子に文句のつけようがない。そう判断したモーグは

「ゲイン様も困ったものだな。自身の趣味を押し付けるとは・・・わしもそのうち押し付けられでもしたらと思うとゾッとするわい。」

そうとだけ言って、そのまま通り過ぎて行ってしまった。

(そんなに母上に似ていたのだろうか。)

シドはモーグの反応に戸惑いつつも、ゲインの部屋へと向かった。
ゲインの部屋のドアを軽くノックし、シドは声を掛けた。

「ゲイン様、シドが参りました。」

「入って構わん。」
そう返答を聞き、シドはモジモジしながらゲインの部屋に入った。

「失礼します・・・」

シドの姿を見て、ゲインは少し息を呑んだ。

「うむ。寸法も丁度いいみたいだな。」

ギョロンはすかさず、

「わたしがお手伝いさせて頂きました!」
と主張した。

「ご苦労だったな。」

ゲインはギョロンの頭を軽く撫でてやった。

「シドさま、一度1周回ってみせてください!」

ギョロンの提案に答え、シドはゆっくり、くるりとまわって見せた。

マントとシフォンのスカートが軽くふわりと舞い、

シドの臀部が一瞬、露わになった。

それを目にしたゲインは動揺し、心が穏やかではなかったが、平静を装った。

ギョロンもシドのそれを目撃して、しまったと思い、ゲインの顔色を伺った。

「どうだ、シド?着てみた感想は。」

言葉を選びながらシドは答えた。

「普段こういったお召し物を身に付けたことがありませんので、新鮮に思います。」
本当は、履きなれないスカートが風通し良すぎてお腹を冷やしたり風邪を引いてしまいそうです。と言いたかった。

さらには下着の布面積がもう少しどうにかならないかとも。

「今後、あの白衣は研究の時にのみ身に付け、ギョロンにきちんと洗濯させるように」

「御意」

よほどあの白衣が汚れてみすぼらしかったんだろうな・・・シドは反省した。

シドとギョロンが部屋から去った後、ゲインは深くため息をついた。

不意にシドの形の良い小さな臀部を見てしまったせいで、しばらくの間思い悩まされるのだった。

くしゅん! とシドはくしゃみをした。

やはり身体を冷やしてしまったようである。

「これを日常的に身につけているという異性の方と、ゲイン様に僕は敬意を払うよ・・・」

そう呟きながら自室に戻り、新しく下ろした白衣に着替え、再び研究に没頭し始めたのだった。
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