最弱勇者は無双したい~異世界に来たのに俺tueeeできない勇者の話~

渋井丸

文字の大きさ
1 / 8

プロローグ

しおりを挟む
「田中コウジさん、あなたはお亡くなりになりました」
 「……はい?」

 目が覚めたら突然、知らない場所にいた…と言ったら、誰が信じるだろう。ましてやその場所が死後の世界だと言ったら、夢でも見ていたのか、とでも返してしまわれそうだ。
 そんな突拍子も無いことでも、いざ自分の身に起きてみると案外事実だって確信が持てるなあ……。
とまあ、気恥ずかしさにそんなことを考えてしまう程度には、目の前の少女は美しかった。

 「……」
 「……」

 艶めく桃色の髪。整った顔には微笑を浮かべ、祭壇の上から俺を見下ろしている。程よく引き締まった肢体に纏われた白色の衣には、差し込んだ光が彩りを加え、なんとも幻想的な光景を演出していた。

 「……」
 「……」

 ……暫し沈黙が続いた。というか、何か言い出さないと駄目な気がする。あれだ、会話の途中で共通の知り合いが退席したときの感覚に似ている。

 「……すみません」
 「……あ、はい!」

 少女も話しかけるタイミングを伺っていたのか、少し食い気味に上擦った声で返事をしてきた。その後、誤魔化すように笑みを浮かべる。あれだ、突然知らない外国人に話しかけられたときの俺に似ている。イエスって言う勇気も出ないんだよな、あれ。

 「あの、目が覚めたらここにいて、いまいち状況が飲み込めないんですけど。まず、ここ、何処ですか?」
 「えっと、ここは天界って言って、えと、かつて創造神様が作り上げた場所で……」

 少女が突然キョドり始めた。何だ、お前。話しかけたら6割の確率でキョドる、高校時代の同級生の佐藤か。あいつキョドった後に結局無視して来るんだよな。俺はそういうの好きだぜ、佐藤!それはそうと、全国の佐藤さんごめんなさい。
 俺が脳内コントを繰り広げている間に、少女は深呼吸をした後ひっひっふーと……それは呼吸違いだぞ、名も知らぬ少女よ。

 「……すみません。死者の方を案内するの、あなたが初めてで…。私、新人なものですから……」

 ひとしきり呼吸を整えた後、少女は苦笑を浮かべて俺のほうに向き直った。まじか、新人さんなのか。これはもう、デキる男の余裕という物を見せてやらねば。

 「構いませんよ。それはそうと、俺は死んだんですか?」
 「……はい」
 「……そうですか」

 またもや場を沈黙が支配した。俺が髪の毛をいじりだすと、少女は少し驚いたように口を開いた。

 「えっと、驚かれないんですね。」
 「ちょっと実感が湧かなくて」

 死んだらもっと何かこみ上げるものとかがあると思っていたが、そうでもないらしい。今動いているこの肉体も、生前のものと同じだ。だから、「実感が湧かない」という言葉は一番わかり易いと思う。

 「……田中さんの死因は、とても名誉なものでした。あなたが旅立たれた後、フジサキさんがご家族でお葬式に出席されていましたよ」
 「そうですか。それはよかったです」
 「人の命を救ったのですから、当然のことですよ。」

 つい先程まで工事現場にいたはずだったのだが、なるほど俺は死んだのか…と、頭の中で疑問が解決した。
 組み立て作業をしていたら、仲のいい同僚目掛けて溶接が甘かった鉄骨が落ちてきた。能動的というより、反射的に体が動いて、気づいたら意識が飛んだんだ。

 「……さて。そろそろ本題に入らせていただきますね」

 暫く俺の顔を優しい笑顔で見つめていた少女だったが、一度深呼吸すると真剣な面持ちで俺に話しかけてきた。

 「じゃあまずは自己紹介から。……迷える魂、田中コウジよ。私はすべての生と死を司る女神、アンリ。この世の生者は我が眷属、あの世の死者は我が友人!です!」

 そう叫び、少女は仁王立ちのポーズをとった。
 ……だ、だめだ、まだ笑うな!こらえるんだ!……し、しかし……。
 ……こみ上げる笑いに勝利した俺は、未だ仁王立ちしたままこちらをチラ見してくる少女を見つめた。

 「……それって、自分で考えたんですか?」
 「えっと、はい!」

 まあ、なかなか良かったな、うん。才能あるんじゃないか、この女神。素晴らしい出来栄えと言ってもいいな。

 「えっと、どうでした?」

 目を輝かせて見つめてくる女神に若干気圧されつつ、俺は口を開いた。

 「えっと、俺以外にそのネタやっちゃ駄目ですよ☆絶対☆」

 その後、泣き出したアンリ様を宥めるのに五分ぐらいかかった。

ーーーーーーーーーーーー



 「……すみません。取り乱してしまいました……」
 「こちらこそ。なんか、すいませんでした。そんなにあのネタに自信があったとは……」
 「ネタじゃないです!女神流の挨拶です!」

 あれでも結構気を使ってコメントしたのだが、言い過ぎだったか。こころなしか、先程よりも呼吸の数が増えている気がする。へー、女神も過呼吸になるんだっ!驚きだぜ!
 と、そんな事を考えていると、胸を抑えていたアンリ様が立ち上がった。

 「では、続きを致しましょう」

 そう言うと、アンリ様はポケットからクシャクシャの書類とボールペンを取り出し、俺に差し出してきた。「履歴書」と書かれたその書類の名前の欄には、漢字で「田中光二」と…。

 「俺の履歴書……ですか?」

 アンリ様は無言でコクリと頷くと、不自然なほど清々しい笑顔で見つめてきた。

 「書け……と?」
 「はい。書いてください」

 そのくらい口に出して言えばいいのに……と、俺は苦笑しながらペンをとった。書き間違いがないよう確認しつつ、書き進める。

 「ちなみに。女神に嘘は通用しません。履歴書の質問には正直に答えてくださいね」


 特になんの障害もなく書き終えた履歴書をアンリ様に渡すと、苦笑いでこちらを見てきた。

 「田中さん……折り紙が特技なんですか……」
 「はい。自慢じゃないですが、こう見えて手先が器用でして。」
 「そうですか……えと、これはさすがに……」

 困惑の目で履歴書を見つめている女神様を不審に思いつつ、これからのことについて考えた。死んだら何処に行くんだろう。天国とか地獄はあるのかな?というか、学校以上の地獄なんてあるのかな?

 「……まあ、いいか。最悪私達でサポートとかすれば……」

 ブツブツ言っていたアンリ様だったが、どうやら脳内会議は可決したらしい。またさっきまでのような笑顔に戻って、履歴書を懐から出したファイルに綴じた。

 「すみません、お待たせしてしまいましたね」
 「全然構いませんよ。それはそうと、いい加減本題に……」
 「あっ、はい! もちろん!」

 アンリ様が真顔でこちらを見つめる。なかなかどうして、美少女に見つめられるのは悪くない……。
 ……まあ、緊張して目を逸らしてしまうのは仕方のないことだろう。

 「田中コウジさん、あなたには…」

 ぷるんとした唇がなめらかに動き、言葉を紡いだ。その言葉を理解できず、無意識に口が開くのを感じた。
 だってそうだろう。誰もが一度は夢に見るような、バカバカしい「もしも」の話なんだから。でも、その言葉を聞いて、初めて……。

 「異世界に、転生してもらいます」

 死んでよかったかもな、と思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...