3 / 8
第二話 龍騎士
しおりを挟む「てめー、覚えてろよおおおおおおおお!」
息が続かなくなり咳き込むと同時に、見慣れない景色が目に飛び込んできた。
……まあなんだかんだあったが。結局、女神を止められず、異世界に転生してしまったらしい。くっそー、アンリのやつー!と叫び出したい気分だが、こうなってしまったからには仕方ない。俺は、とりあえず状況を確かめようと地面から腰を上げた。尻についた土を払いつつ、周りを見る。
「……うわっ、マジかよ。ホントに異世界来ちゃったよ」
見渡す限りの原っぱである。周囲には人っ子一人見当たらず、人里の気配もない。ここは高くせり上がった丘の上らしく、遠くまで見渡せると同時に、心地よい風を全身に受けることができた。
これだけでは未だ、「異世界に来た」という判断材料としては乏しいのだが……。
「あれって……本物だよな?」
俺はさっきから大空に羽ばたいている生き物に目を向けた。そのザ・異世界といった感じの生き物は……。
「ドラゴンだ……やべー!でけー!」
そう、言わずとしれたドラゴンである。その象徴とも言える翼は、数十メートルは離れているだろうこの位置からも動きを目視できる程に大きい。遠目でわかりづらいが、額に角が生えているのを見て、ここが異世界だと再認識する。
「やばいよ、やば……ん?」
驚きすぎて尊敬すべきリアクション芸人語を操っていると、見ていた龍が段々と大きくなっていく事に気づいた。というか、こっちに向かってきているような…。
「……ふわーっ! 来るっ! こっち来てんじゃねーか!」
迫りくる龍の巨躯にビビりながらも、なんとか身を屈めた。それとほぼ同時に、龍の脚が頭上スレスレを通り過ぎる。今のはやばかった。あの速さ、当たれば首が飛んでもおかしくない。もちろん、会社的な意味ではなく、物理的な意味で。
「やあやあ、すまないね!」
龍の方から、若い男の声が聞こえてきた。なにっ、龍が喋ってる!?なんて一瞬思ったが、龍の背中に見える人影を見れば、それから発された声であることは明らかだった。
龍の背中にまたがった人影が、龍になにか指示するように手を動かす。それに応えるように、龍は速度を落として俺の方に降りてきた。
「驚かせてしまったかな? まあ、こいつを見た奴はみんなそうなる」
そう言って、龍から降りた男は、その巨体を撫でる。龍は、ああそこそこ、そこ気持ちいいんだよセンキュー……と言わんばかりに目を細めた。
男は、如何にも戦士風の出で立ちだった。右目は大きな切り傷で塞がれている。鎧の下から見え隠れする発達した筋肉からは、男がどれだけ鍛錬しているかが目に取れた。その上、背中に大剣を背負い、こんな巨大な龍に乗っているのだから驚きである。
「大丈夫ですよ。しかし、すごいですねえ、その龍。」
「そうかい? こいつは俺の自慢の相棒なんだ。名前はサクラ」
サクラと呼ばれたその龍は、呼んだ? とでも言いたいかのように男を見て首を傾げた。強面な顔に似合わず、仕草が非常に愛らしい。
「実はね。俺、結構遠い村の警備兵をしてるんだ。それで空飛んでたら、すごい強い光がこっちに見えたもんで、確認に来たんだよね」
光、というのは、おそらく俺が転生した影響だろう。あの魔法陣、目を開けていられないほど眩しかったからな。それはそうと、こんな真っ昼間に遠くの光を目視できるとかお前、どこのマサイ族?
「……君は、見る限り怪しい者ではなさそうだ。服装はちょっと変わってるけど…」
そういうと、男は俺の体を一瞥し、笑顔を作った。
「テンセイシャってやつだろ?君」
……たいした作り話だな。作家志望か? ……なんて、推理小説の犯人のあるあるネタを披露している余裕もなさそうだ。
「……テンセイシャってなんのことですかね」
「ああ、そんな身構えなくてもいいよ。君の他にも、変な格好でここに倒れていた人を見たことがあるだけ」
じゃあ、そいつが転生者を名乗ったのか。……ていうか、え? 転生者って俺以外にもいたの?俺って、選ばれし者とかじゃなかったのかよ。なんだよ、じゃあ魔王倒さなくてもいいじゃん。そいつに魔王倒させろよ。
(それは駄目ですよ、タナカさん)
なっ……! こいつ、直接脳内に……! となるぐらい思いっきり脳内に通信仕掛けてきたのは、紛れもないあの女神の声である。
(今、私はステータスボードを媒介に話しかけています。タナカさんの魔力の波長に合わせて通信しているので、あなた以外にはこの声は聞こえません)
言われて、体を弄っているとポケットの中にあった。なるほど、ここから声が聞こえているのか。
(話を戻しますが、魔王を倒した人のみが元の世界に帰れます。だから、あなた以外の人が魔王を倒してしまえば…)
俺が帰れなくなる、ってことか。……なにそのクソゲー。俺にそんなに帰らせたくないの? 嫌がらせ? 嫌よ嫌よも好きのうちってね!
(あっもう時間? あ、そうですか……じゃあちょっと待って、後少しだか……ちょっと! やめて! 引き剥がそうとしないで! ちょっ……オイっ)
ブツッ……つー、つー……と、通信が切れた。天界の闇が垣間見えたぜ。お先ダークネスどころか、自分の手すら見えない。
「それはステータスボードかな?さっきから真剣に見ているけど……」
俺が闇に溺れかけていると、微笑みながら男が話しかけてきた。なんだよ、人が集中してるときに。ノックしろって言っただろ!
「あ、はい。転生した時にもらったんです。」
「道理で俺のと色が違うわけだ。君のはきっと特別製なんだね」
そう言って、男は胸ポケットからボードを出して、俺に見せた。男のは緑色で、俺のは青。なにこれ。転生者限定デザインとかなの?
「あ、もうこんな時間だ、村に戻らないと」
男は、腕時計を見ると、少し焦ったように言った。そして、暇を持て余していた龍と何やら話し出す。
しばらくすると話し終えたのか、男は視線を龍から俺に向けた。そして、さも当然かのように笑顔で言い放った。
「それじゃあ、行こうか」
「え。行くって、何処に……」
「決まってるだろ?俺の村さ」
そう言って男は龍にまたがると、未だ困惑している俺に向けてハンドサインを送ってきた。どうやら、乗れ、ということらしい。何処に行けばいいかも分からなかったので、まあありがたい。
俺が龍に乗ろうとすると、龍は腰をかがめて俺が乗りやすいようにしてくれた。これでも元作業員な俺は、持てる力を活かして龍によじ登る。
「よし。じゃあ、よく掴まっててね。これから俺の村,シシルに向かうから」
男は後ろに掴まっている俺に、爽やかな笑顔を向けてそう言った。
「遅れたけど、俺はルーク・ジャック。宜しくな」
俺の異世界生活が今、始まるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる