最弱勇者は無双したい~異世界に来たのに俺tueeeできない勇者の話~

渋井丸

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第二話 龍騎士

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 「てめー、覚えてろよおおおおおおおお!」


  息が続かなくなり咳き込むと同時に、見慣れない景色が目に飛び込んできた。
 ……まあなんだかんだあったが。結局、女神を止められず、異世界に転生してしまったらしい。くっそー、アンリのやつー!と叫び出したい気分だが、こうなってしまったからには仕方ない。俺は、とりあえず状況を確かめようと地面から腰を上げた。尻についた土を払いつつ、周りを見る。

 「……うわっ、マジかよ。ホントに異世界来ちゃったよ」

 見渡す限りの原っぱである。周囲には人っ子一人見当たらず、人里の気配もない。ここは高くせり上がった丘の上らしく、遠くまで見渡せると同時に、心地よい風を全身に受けることができた。
 これだけでは未だ、「異世界に来た」という判断材料としては乏しいのだが……。

 「あれって……本物だよな?」

 俺はさっきから大空に羽ばたいている生き物に目を向けた。そのザ・異世界といった感じの生き物は……。

 「ドラゴンだ……やべー!でけー!」

 そう、言わずとしれたドラゴンである。その象徴とも言える翼は、数十メートルは離れているだろうこの位置からも動きを目視できる程に大きい。遠目でわかりづらいが、額に角が生えているのを見て、ここが異世界だと再認識する。

 「やばいよ、やば……ん?」

 驚きすぎて尊敬すべきリアクション芸人語を操っていると、見ていた龍が段々と大きくなっていく事に気づいた。というか、こっちに向かってきているような…。

 「……ふわーっ! 来るっ! こっち来てんじゃねーか!」

 迫りくる龍の巨躯にビビりながらも、なんとか身を屈めた。それとほぼ同時に、龍の脚が頭上スレスレを通り過ぎる。今のはやばかった。あの速さ、当たれば首が飛んでもおかしくない。もちろん、会社的な意味ではなく、物理的な意味で。

 「やあやあ、すまないね!」

 龍の方から、若い男の声が聞こえてきた。なにっ、龍が喋ってる!?なんて一瞬思ったが、龍の背中に見える人影を見れば、それから発された声であることは明らかだった。
 龍の背中にまたがった人影が、龍になにか指示するように手を動かす。それに応えるように、龍は速度を落として俺の方に降りてきた。

 「驚かせてしまったかな? まあ、こいつを見た奴はみんなそうなる」

 そう言って、龍から降りた男は、その巨体を撫でる。龍は、ああそこそこ、そこ気持ちいいんだよセンキュー……と言わんばかりに目を細めた。
 男は、如何にも戦士風の出で立ちだった。右目は大きな切り傷で塞がれている。鎧の下から見え隠れする発達した筋肉からは、男がどれだけ鍛錬しているかが目に取れた。その上、背中に大剣を背負い、こんな巨大な龍に乗っているのだから驚きである。

 「大丈夫ですよ。しかし、すごいですねえ、その龍。」
 「そうかい? こいつは俺の自慢の相棒なんだ。名前はサクラ」

 サクラと呼ばれたその龍は、呼んだ? とでも言いたいかのように男を見て首を傾げた。強面な顔に似合わず、仕草が非常に愛らしい。

 「実はね。俺、結構遠い村の警備兵をしてるんだ。それで空飛んでたら、すごい強い光がこっちに見えたもんで、確認に来たんだよね」

 光、というのは、おそらく俺が転生した影響だろう。あの魔法陣、目を開けていられないほど眩しかったからな。それはそうと、こんな真っ昼間に遠くの光を目視できるとかお前、どこのマサイ族? 

 「……君は、見る限り怪しい者ではなさそうだ。服装はちょっと変わってるけど…」

 そういうと、男は俺の体を一瞥し、笑顔を作った。

 「テンセイシャってやつだろ?君」

 ……たいした作り話だな。作家志望か? ……なんて、推理小説の犯人のあるあるネタを披露している余裕もなさそうだ。

 「……テンセイシャってなんのことですかね」
 「ああ、そんな身構えなくてもいいよ。君の他にも、変な格好でここに倒れていた人を見たことがあるだけ」

 じゃあ、そいつが転生者を名乗ったのか。……ていうか、え? 転生者って俺以外にもいたの?俺って、選ばれし者とかじゃなかったのかよ。なんだよ、じゃあ魔王倒さなくてもいいじゃん。そいつに魔王倒させろよ。

 (それは駄目ですよ、タナカさん)

 なっ……! こいつ、直接脳内に……! となるぐらい思いっきり脳内に通信仕掛けてきたのは、紛れもないあの女神の声である。

 (今、私はステータスボードを媒介に話しかけています。タナカさんの魔力の波長に合わせて通信しているので、あなた以外にはこの声は聞こえません)

 言われて、体を弄っているとポケットの中にあった。なるほど、ここから声が聞こえているのか。

 (話を戻しますが、魔王を倒した人のみが元の世界に帰れます。だから、あなた以外の人が魔王を倒してしまえば…)

 俺が帰れなくなる、ってことか。……なにそのクソゲー。俺にそんなに帰らせたくないの? 嫌がらせ? 嫌よ嫌よも好きのうちってね!

 (あっもう時間? あ、そうですか……じゃあちょっと待って、後少しだか……ちょっと! やめて! 引き剥がそうとしないで! ちょっ……オイっ)

 ブツッ……つー、つー……と、通信が切れた。天界の闇が垣間見えたぜ。お先ダークネスどころか、自分の手すら見えない。

 「それはステータスボードかな?さっきから真剣に見ているけど……」

 俺が闇に溺れかけていると、微笑みながら男が話しかけてきた。なんだよ、人が集中してるときに。ノックしろって言っただろ!

 「あ、はい。転生した時にもらったんです。」
 「道理で俺のと色が違うわけだ。君のはきっと特別製なんだね」

 そう言って、男は胸ポケットからボードを出して、俺に見せた。男のは緑色で、俺のは青。なにこれ。転生者限定デザインとかなの?

 「あ、もうこんな時間だ、村に戻らないと」

 男は、腕時計を見ると、少し焦ったように言った。そして、暇を持て余していた龍と何やら話し出す。
 しばらくすると話し終えたのか、男は視線を龍から俺に向けた。そして、さも当然かのように笑顔で言い放った。

 「それじゃあ、行こうか」
 「え。行くって、何処に……」
 「決まってるだろ?俺の村さ」

 そう言って男は龍にまたがると、未だ困惑している俺に向けてハンドサインを送ってきた。どうやら、乗れ、ということらしい。何処に行けばいいかも分からなかったので、まあありがたい。
 俺が龍に乗ろうとすると、龍は腰をかがめて俺が乗りやすいようにしてくれた。これでも元作業員な俺は、持てる力を活かして龍によじ登る。

 「よし。じゃあ、よく掴まっててね。これから俺の村,シシルに向かうから」

 男は後ろに掴まっている俺に、爽やかな笑顔を向けてそう言った。

 「遅れたけど、俺はルーク・ジャック。宜しくな」

 俺の異世界生活が今、始まるのであった。

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