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8歳 人喰い狼と、初めての狩り
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「パステール。あのね、おねがいがあるの」
「お願い?」
薔薇のように赤い瞳をきらきらと輝かせたローザがそう頼んできたのは、休日の朝早くのことだった。
普段のローザなら、まだ眠っている時間だ。
狩りに出かけようとしていたのを一旦やめて、ローザに向き直る。
「なんだ? なにか、狩ってきてほしいものがあるのか?」
「ううん、そうじゃなくてね。
わたしも、パステールと一緒に狩りがしたいの」
「それは……」
ローザの願いはとても嬉しいものだった。出来れば、叶えてやりたいものだ。
魔狼にとって、自分の子どもに狩りを教えるのは親の証のようなものだからな。
だが、ローザはまだ幼い。
鋭い牙も生えていなければ、手も私の前足よりずっと小さく柔らかいのだ。
狩りを教えるのは、もっとローザが成長してからにしようと思っていたのだが……。
「だめ?」
危険を恐れていては、いつまでたっても狩りを学べない。
ローザも力こそ弱いが賢い子。事前によく言い聞かせておけば、危険に巻き込まれる可能性もひくくなるだろう。
何かあれば、私が守ればよいのだ。
「そうさな……決して私から離れず、言うこともちゃんと聞くのであればよいぞ」
「うん。パステールからぜったいに離れないし、言うこともちゃんと聞く!」
そう言って頷いたローザの瞳は真剣そのものだった。
これならば、大丈夫なはずだ。
「少し待っていなさい」
とはいえ、不測の事態に備えて念には念を入れることにした。
普段食料や日用品をしまっているのとは別の保管庫へいき、ローザでも扱えそうな短めの杖を取り出す。
魔法使いにとって杖は、必ずしも必要ではないがあると便利なものだ。
杖があれば通常よりも魔法を発動させる時間を短縮させられるし、威力も上がる。
持ち運びが面倒な点と、杖を使わないときと比べて対人戦では不利―――杖を向けた方向に魔法が飛ぶと分かってしまう為だ。マギアスは、それを逆手に取っていたが―――なので、戦いで杖が用いられることは殆どないが。
ただ、狩りでは一瞬の差が結果を分ける上に森の中ではローザが得意な炎魔法は使えない。
得意でない属性の魔法を発動するには、どうしても時間が掛かる。
少しでも早く魔法を発動させられるのなら、杖を使うに越したことはなかった。
この杖は、マギアスが幼い頃に使用していたものだ。
私はこれを使っている姿を見たことはなかったが、サラが言うにはマギアスが初めて手にした杖らしい。
子どもが振りやすい長さの杖となると、これしか見当たらなかった。
すまない、マギアス。少し借りる。
心の中でそう詫びて、杖を持ちだした。
「これを持っていくといい」
「わあ、きれいな杖……」
杖を手渡すと、ローザはきらきらとした目で杖を眺めた。
先端についた赤い宝石が気に入ったのだろう。
この宝石に魔力を集中させて、一気に放つのだ……と、前にサラが言っていた。
マギアスが杖を使っているところを何度か見たから、使い方は大体分かる。
簡単に杖の扱い方と注意点を教えた後、ローザと共に家を出た。
細かな点は、実際に杖を使いながら教えればよいだろう。
「何を狩るの?」
「今日は猪かユニコーンを狩ろうと思っていたのだが……始めて狩りをするのなら、兎が一番よいだろう。
あれならば危険は少ない」
猪の鋭い牙やユニコーンの長い角は、私でも対処になかなか苦労する。
ローザを連れているのならユニコーンの捕獲は容易だろうが……考えただけで腹が立つので、兎にすることにした。
兎の肉が好きなローザは「やった、うさぎ大好き」と喜んでいる。
これは、なんとしてでも狩りを成功させなければ。
「こちらにおるようだな」
森の小道に残った僅かな匂いを辿っていくと、やがて薄茶色の兎の群れを見つけた。
父親らしき兎と母親らしき兎が一羽ずつ。それから生まれてまもない子兎が四羽いる。
ちょうどよい構成だ。
「しっかりと見ているのだぞ」
兎に気がつかれないほどの声でそう言うと、ローザが小さく頷いたのが伝わってきた。
風下に回って足音を殺しながら一歩一歩近づいていく。
この時の緊張感はいつまでたっても新鮮だ。
やがてこれ以上近づけばばれるところまで近づいたあと、兎たちが一所に集まるのを見計らって身を躍らせた。
駆け出す親兎を無視して子兎に噛みつき、仕留める。
子兎は食べる部分は少ないが、肉が軟らかくてうまいのだ。
子兎を優先して捕らえたおかげで、全て捕らえることができた。
親兎には逃げられたが、予想以上によい成果だ。
「もうよいぞ、ローザ」
声をかけると、茂みに隠れていたローザが「パステール、すごい!」と大はしゃぎで出てきた。
「いっぺんに四羽もつかまえるなんて、すごいね!」
「慣れておるからな。
だが、これだけでは足りないからな。もう一羽ほど、仕留めるとしよう。
その時はローザがやってみるか?」
「うん!」
自分で狩りをするのが楽しみなのだろう。ローザが大きく頷いた。
さて、ローザでも狩れるような兎は見つかるだろうか。
再び兎の匂いを辿っていくと、今度は丸々と太った兎を一羽見つけた。
よくこれまで生きてこられたものだと感心するほど肥えている。さぞかし脂がのっているだろう。
それに、身体が重い分足も遅いはずだからローザの相手にちょうどいい。
「こちらだ。よいか、音を立てないようにな」
「わかった……」
今度はローザと共に風下に回り、足音を殺して歩み寄った。
先ほど同様に気配を悟られないぎりぎりの所で足を止め、様子を伺う。
こちらには気がついていないのか、兎の身体は見るからにリラックスしていた。
これなら大丈夫そうだ。
「今だ、ローザ!」
朝寝でもしようとしていたのだろうか。
兎が身体の力を抜いたのを見計らって声をかけると、ローザが杖を振った。
風の刃が兎めがけてまっすぐに飛ぶ。
最初の一撃こそ逃げられたものの、次の魔法は見事に兎の首に当たった。
仕留めた兎を大切そうに抱きしめて、ローザが駆け寄ってくる。
「パステール、つかまえられたよ!」
「よくやった、ローザ。これでお前も一人前の狩人だ」
その褒め言葉に照れたのか、ローザの頬が赤く染まった。
はにかむように笑って、捕まえた兎をつよく抱きしめる。
この様子なら、次は鳥のようなもっと捕らえにくい獣を狩りの対象としてもよいだろう。
家に帰った後、捕らえた子兎たちを絞めて肉にした。
私が捕らえた子兎は朝食に。ローザが捕らえた兎は大きく食べ応えがありそうなので、夕食に使う予定だ。
サラに任せれば、きっとおいしいシチューや丸焼きを作ってくれるだろう。
「パステール。わたしがつかまえたうさぎのお肉、少しもらっていい?」
「もちろんいいとも。お前が捕らえた兎だからな。
何に使うのだ?」
「えっとね、サラといっしょに干し肉つくろうとおもって」
「ほう。それは楽しみだな」
干し肉はサラの得意料理だ。
ただ干しただけと思ってはいけない。スパイスの効きや乾燥と熟成の具合が、なんともいえず絶妙なのだ。
マギアスもサラが作った干し肉は好物で、若い頃はよく蒸留酒と共に味わっていた。
「楽しみにしててね」
「ああ」
頷くと、ローザは子兎の肉と共に自分が狩った兎の肉を一塊サラの所へ持っていった。
ローザのはしゃぐ声とサラの褒める声が耳に届く。
きっとこれから、朝食のスープを作りながら干し肉作りを教わるのだろう。
サラの力を使っても、干し肉の完成には時間が掛かる。
食べられるのは数日後になるだろうか。
その日が楽しみだ。
「おいしい!」
「うむ。塩とスパイスの効きがちょうどいいな」
数日後、ローザが作った干し肉が完成した。
蜂蜜を多めに使ったようでサラが作った干し肉よりも少々甘みが強いが、これもこれでまた美味だ。
これは、ローザにしか出さない味わいだろう。
ローザも自分が作った干し肉の味に満足したのか、先ほどから嬉しそうに干し肉を噛んでいた。
その干し加減を確かめていたサラが「いい出来ね」と宙を漂う。
「一人で狩りをして料理が出来るようになるなんて、ローザも成長したものね」
「パステールとサラが、おしえてくれたからだよ。
また、狩りとお料理おしえてね」
「もちろんだとも」
「そうね。今度は一緒にスープを作りましょうか。
ところで、どうして急に干し肉を作りたいなんて言い出したの?」
サラの問いかけに、ローザの雪のように白い頬が薔薇色に染まった。
もじもじと恥ずかしそうにしたあと「わらわない?」と問いかけるローザに、大きく頷く。
「あのね。あした、キースの誕生日なの。
いままではお花や絵をわたしてたけど、アメリアにきいたら男の子は食べざかりだから、お菓子のほうがよろこんでくれるって。
キース、干し肉よろこんでくれるかな」
「そうね……まあ、ちょっと驚くかもしれないけど、これだけおいしくてローザが心を込めたプレゼントだもの。
きっと喜んでくれるわ」
「よかった!」
サラの言葉を聞いて安心したのだろう。
ローザはほっと胸をなで下ろした様子だった。
これだけ美味な干し肉なのだから、心配する必要は無いと思うのだが。
「キース、これあげる」
「わあ、ありがとう。ローザ」
翌朝、学校の門の前で待っていたキースに、ローザが駆け寄った。
前日にサラと相談しながら丁寧に包んだ干し肉を取り出し、キースに差し出す。
受け取ったキースは、すぐに包みを開け……首を傾げた。
「……ええと、これはなに?」
「ウサギの干し肉。パステールと一緒に兎を狩って、サラと一緒に作ったの。
おいしくできたんだけど……キース、干し肉きらい?」
キースの反応が予想外だったのだろう。ローザの目に、不安げな色が浮かんだ。
言われてみれば、干し肉が嫌いという可能性は全く考えていなかったな。
先に、キースの好き嫌いを確認しておくべきだったか。
二人の動向を見守っていると、やがてキースが首を横に振った。
「ううん。ぼく、干し肉ってはじめて食べるんだ。だから、びっくりしただけ。
ローザ、これを一人で作ったの? すごいね」
「サラに教わったの。サラ、お料理上手だから」
「そうなんだ、楽しみだな。
始業時間までまだ少し時間があるから、教室で一緒に食べようか」
「うん!」
どうやら、ローザのプレゼントは喜んでもらえたらしい。
二人仲良く手を繋いで、学校の中へ駆けていった。
「お願い?」
薔薇のように赤い瞳をきらきらと輝かせたローザがそう頼んできたのは、休日の朝早くのことだった。
普段のローザなら、まだ眠っている時間だ。
狩りに出かけようとしていたのを一旦やめて、ローザに向き直る。
「なんだ? なにか、狩ってきてほしいものがあるのか?」
「ううん、そうじゃなくてね。
わたしも、パステールと一緒に狩りがしたいの」
「それは……」
ローザの願いはとても嬉しいものだった。出来れば、叶えてやりたいものだ。
魔狼にとって、自分の子どもに狩りを教えるのは親の証のようなものだからな。
だが、ローザはまだ幼い。
鋭い牙も生えていなければ、手も私の前足よりずっと小さく柔らかいのだ。
狩りを教えるのは、もっとローザが成長してからにしようと思っていたのだが……。
「だめ?」
危険を恐れていては、いつまでたっても狩りを学べない。
ローザも力こそ弱いが賢い子。事前によく言い聞かせておけば、危険に巻き込まれる可能性もひくくなるだろう。
何かあれば、私が守ればよいのだ。
「そうさな……決して私から離れず、言うこともちゃんと聞くのであればよいぞ」
「うん。パステールからぜったいに離れないし、言うこともちゃんと聞く!」
そう言って頷いたローザの瞳は真剣そのものだった。
これならば、大丈夫なはずだ。
「少し待っていなさい」
とはいえ、不測の事態に備えて念には念を入れることにした。
普段食料や日用品をしまっているのとは別の保管庫へいき、ローザでも扱えそうな短めの杖を取り出す。
魔法使いにとって杖は、必ずしも必要ではないがあると便利なものだ。
杖があれば通常よりも魔法を発動させる時間を短縮させられるし、威力も上がる。
持ち運びが面倒な点と、杖を使わないときと比べて対人戦では不利―――杖を向けた方向に魔法が飛ぶと分かってしまう為だ。マギアスは、それを逆手に取っていたが―――なので、戦いで杖が用いられることは殆どないが。
ただ、狩りでは一瞬の差が結果を分ける上に森の中ではローザが得意な炎魔法は使えない。
得意でない属性の魔法を発動するには、どうしても時間が掛かる。
少しでも早く魔法を発動させられるのなら、杖を使うに越したことはなかった。
この杖は、マギアスが幼い頃に使用していたものだ。
私はこれを使っている姿を見たことはなかったが、サラが言うにはマギアスが初めて手にした杖らしい。
子どもが振りやすい長さの杖となると、これしか見当たらなかった。
すまない、マギアス。少し借りる。
心の中でそう詫びて、杖を持ちだした。
「これを持っていくといい」
「わあ、きれいな杖……」
杖を手渡すと、ローザはきらきらとした目で杖を眺めた。
先端についた赤い宝石が気に入ったのだろう。
この宝石に魔力を集中させて、一気に放つのだ……と、前にサラが言っていた。
マギアスが杖を使っているところを何度か見たから、使い方は大体分かる。
簡単に杖の扱い方と注意点を教えた後、ローザと共に家を出た。
細かな点は、実際に杖を使いながら教えればよいだろう。
「何を狩るの?」
「今日は猪かユニコーンを狩ろうと思っていたのだが……始めて狩りをするのなら、兎が一番よいだろう。
あれならば危険は少ない」
猪の鋭い牙やユニコーンの長い角は、私でも対処になかなか苦労する。
ローザを連れているのならユニコーンの捕獲は容易だろうが……考えただけで腹が立つので、兎にすることにした。
兎の肉が好きなローザは「やった、うさぎ大好き」と喜んでいる。
これは、なんとしてでも狩りを成功させなければ。
「こちらにおるようだな」
森の小道に残った僅かな匂いを辿っていくと、やがて薄茶色の兎の群れを見つけた。
父親らしき兎と母親らしき兎が一羽ずつ。それから生まれてまもない子兎が四羽いる。
ちょうどよい構成だ。
「しっかりと見ているのだぞ」
兎に気がつかれないほどの声でそう言うと、ローザが小さく頷いたのが伝わってきた。
風下に回って足音を殺しながら一歩一歩近づいていく。
この時の緊張感はいつまでたっても新鮮だ。
やがてこれ以上近づけばばれるところまで近づいたあと、兎たちが一所に集まるのを見計らって身を躍らせた。
駆け出す親兎を無視して子兎に噛みつき、仕留める。
子兎は食べる部分は少ないが、肉が軟らかくてうまいのだ。
子兎を優先して捕らえたおかげで、全て捕らえることができた。
親兎には逃げられたが、予想以上によい成果だ。
「もうよいぞ、ローザ」
声をかけると、茂みに隠れていたローザが「パステール、すごい!」と大はしゃぎで出てきた。
「いっぺんに四羽もつかまえるなんて、すごいね!」
「慣れておるからな。
だが、これだけでは足りないからな。もう一羽ほど、仕留めるとしよう。
その時はローザがやってみるか?」
「うん!」
自分で狩りをするのが楽しみなのだろう。ローザが大きく頷いた。
さて、ローザでも狩れるような兎は見つかるだろうか。
再び兎の匂いを辿っていくと、今度は丸々と太った兎を一羽見つけた。
よくこれまで生きてこられたものだと感心するほど肥えている。さぞかし脂がのっているだろう。
それに、身体が重い分足も遅いはずだからローザの相手にちょうどいい。
「こちらだ。よいか、音を立てないようにな」
「わかった……」
今度はローザと共に風下に回り、足音を殺して歩み寄った。
先ほど同様に気配を悟られないぎりぎりの所で足を止め、様子を伺う。
こちらには気がついていないのか、兎の身体は見るからにリラックスしていた。
これなら大丈夫そうだ。
「今だ、ローザ!」
朝寝でもしようとしていたのだろうか。
兎が身体の力を抜いたのを見計らって声をかけると、ローザが杖を振った。
風の刃が兎めがけてまっすぐに飛ぶ。
最初の一撃こそ逃げられたものの、次の魔法は見事に兎の首に当たった。
仕留めた兎を大切そうに抱きしめて、ローザが駆け寄ってくる。
「パステール、つかまえられたよ!」
「よくやった、ローザ。これでお前も一人前の狩人だ」
その褒め言葉に照れたのか、ローザの頬が赤く染まった。
はにかむように笑って、捕まえた兎をつよく抱きしめる。
この様子なら、次は鳥のようなもっと捕らえにくい獣を狩りの対象としてもよいだろう。
家に帰った後、捕らえた子兎たちを絞めて肉にした。
私が捕らえた子兎は朝食に。ローザが捕らえた兎は大きく食べ応えがありそうなので、夕食に使う予定だ。
サラに任せれば、きっとおいしいシチューや丸焼きを作ってくれるだろう。
「パステール。わたしがつかまえたうさぎのお肉、少しもらっていい?」
「もちろんいいとも。お前が捕らえた兎だからな。
何に使うのだ?」
「えっとね、サラといっしょに干し肉つくろうとおもって」
「ほう。それは楽しみだな」
干し肉はサラの得意料理だ。
ただ干しただけと思ってはいけない。スパイスの効きや乾燥と熟成の具合が、なんともいえず絶妙なのだ。
マギアスもサラが作った干し肉は好物で、若い頃はよく蒸留酒と共に味わっていた。
「楽しみにしててね」
「ああ」
頷くと、ローザは子兎の肉と共に自分が狩った兎の肉を一塊サラの所へ持っていった。
ローザのはしゃぐ声とサラの褒める声が耳に届く。
きっとこれから、朝食のスープを作りながら干し肉作りを教わるのだろう。
サラの力を使っても、干し肉の完成には時間が掛かる。
食べられるのは数日後になるだろうか。
その日が楽しみだ。
「おいしい!」
「うむ。塩とスパイスの効きがちょうどいいな」
数日後、ローザが作った干し肉が完成した。
蜂蜜を多めに使ったようでサラが作った干し肉よりも少々甘みが強いが、これもこれでまた美味だ。
これは、ローザにしか出さない味わいだろう。
ローザも自分が作った干し肉の味に満足したのか、先ほどから嬉しそうに干し肉を噛んでいた。
その干し加減を確かめていたサラが「いい出来ね」と宙を漂う。
「一人で狩りをして料理が出来るようになるなんて、ローザも成長したものね」
「パステールとサラが、おしえてくれたからだよ。
また、狩りとお料理おしえてね」
「もちろんだとも」
「そうね。今度は一緒にスープを作りましょうか。
ところで、どうして急に干し肉を作りたいなんて言い出したの?」
サラの問いかけに、ローザの雪のように白い頬が薔薇色に染まった。
もじもじと恥ずかしそうにしたあと「わらわない?」と問いかけるローザに、大きく頷く。
「あのね。あした、キースの誕生日なの。
いままではお花や絵をわたしてたけど、アメリアにきいたら男の子は食べざかりだから、お菓子のほうがよろこんでくれるって。
キース、干し肉よろこんでくれるかな」
「そうね……まあ、ちょっと驚くかもしれないけど、これだけおいしくてローザが心を込めたプレゼントだもの。
きっと喜んでくれるわ」
「よかった!」
サラの言葉を聞いて安心したのだろう。
ローザはほっと胸をなで下ろした様子だった。
これだけ美味な干し肉なのだから、心配する必要は無いと思うのだが。
「キース、これあげる」
「わあ、ありがとう。ローザ」
翌朝、学校の門の前で待っていたキースに、ローザが駆け寄った。
前日にサラと相談しながら丁寧に包んだ干し肉を取り出し、キースに差し出す。
受け取ったキースは、すぐに包みを開け……首を傾げた。
「……ええと、これはなに?」
「ウサギの干し肉。パステールと一緒に兎を狩って、サラと一緒に作ったの。
おいしくできたんだけど……キース、干し肉きらい?」
キースの反応が予想外だったのだろう。ローザの目に、不安げな色が浮かんだ。
言われてみれば、干し肉が嫌いという可能性は全く考えていなかったな。
先に、キースの好き嫌いを確認しておくべきだったか。
二人の動向を見守っていると、やがてキースが首を横に振った。
「ううん。ぼく、干し肉ってはじめて食べるんだ。だから、びっくりしただけ。
ローザ、これを一人で作ったの? すごいね」
「サラに教わったの。サラ、お料理上手だから」
「そうなんだ、楽しみだな。
始業時間までまだ少し時間があるから、教室で一緒に食べようか」
「うん!」
どうやら、ローザのプレゼントは喜んでもらえたらしい。
二人仲良く手を繋いで、学校の中へ駆けていった。
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