traitor

風音万愛

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1話

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*   *   *

「えーっ! 二対一ですか!?」
 屋敷の周りは木々が伐採されていて、少し狭いが戦闘には十分なスペースがあった。
 玄関を出てイリアとジオンが同じ立ち位置にいることを確認したカルマは拗ねたような声をあげる。
「いいきっかけになるでしょ?」
 涼しい顔で答えるイリアに、カルマは「ずるいですよぉ!」と頬を膨らませる。ジオンは何度目になるか分からないため息をついた。
「主戦は俺が張る。スミリットは補助に回ってくれ。それでいいだろ?」
「最初からそのつもりだったわよ。指図しないでくれる?」
「てめぇいちいち反発しないと喋れねぇのかコラ」
 これから共闘しようというのに、二人の間にはやはり火花が散っていた。相変わらず頬を膨らませているカルマが催促しなければ、イリアとジオンで戦闘が始まっていたかもしれない。
「二対一なのは変わらないけど、まぁいいです! 喧嘩してないで早く始めましょうよ!」
 現実に引き戻された二人はそれぞれの定位置に着いた。イリアは数歩後ろへ、ジオンは数歩前へ。
「……ったくよぉ」
 ジオンは自分自身に肉体強化魔法を施してから個別魔法『創造』を発動する。その手にはハルバードが握られていた。
「なんか強そうな武器持ってる!」
 武器を出されると思っていなかったのか、カルマはぎょっと目を丸めた。ジオンは容赦なく戦闘態勢に入った。
「ほら、始めるんだろ? 来ねぇなら……こっちから行くぞ!」
 駆け出し、距離を詰める。同時に、ハルバードの斧の部分に雷属性の通常魔法をまとわせて振りかぶった。カルマはそれを寸でのところで避ける。が、ジオンがすかさず槍の部分で腹を突いた。さすがに避けきれず直撃し、息とともに小さな悲鳴が漏れる。よろけながらも数歩後ろへ跳び、距離を置く。
「ほぉ? 倒れねぇのな」
 意外そうに言うと、カルマは乱れた呼吸を整えながら
「何、言ってんですか。そっちが手加減してくれたんでしょぉ?」
 確かに、これは模擬戦だ。大怪我をしたり、間違っても死んだりしないように武器の刃は全体的に丸く作ってある。それに、戦闘の前には自身に肉体強化魔法をかけるのが定石だ。身体能力を上げると同時に打たれ強くなる効果がある。これがあることで電撃を浴びようが高所から地面に叩きつけられようが、ある程度耐えられるのだ。
 しかし、それでも狙ったのは、直撃したのは、急所であるはずのみぞおちだ。気絶してもおかしくない。それを『手加減』で片づけられるとは。
 ジオンはハルバードに状態異常の能力を追加した。個別魔法『創造』――特に第二開花までしているジオンの魔法は、創った武器に後から付属能力を足すこともできるのだ。これで麻痺状態にでもなれば隙が生まれるはずだ。
 その作戦のもと、再び距離を詰めようとしたときだった。
「次は僕から行きますね!」
 刹那、カルマの姿が消えた。直後、ジオンの真後ろでガラスがひび割れるような音がした。振り返る。カルマが雷属性の魔法をまとわせた拳をふるっていた。本来であればジオンに当たるはずだったのであろう拳は、背後に張られた薄い壁に阻まれている。
「あー! シールド張られたぁ!」
 悔しそうに顔を歪めると、再び姿が消えた。
(いつのまに後ろにいやがった……?)
 考えながら、カルマを目で捉えようと辺りを見回す。
(このシールドはスミリットか)
 それがなければ攻撃を受けていたかもしれない。それに関しては感謝するところだ――
「余計なこと考えてないで集中して!」
 思考を読み取ったイリアが一喝する。
 前言撤回。
 感謝の気持ちがすべて吹き飛び、憎たらしさだけが残る。ジオンは「うっせぇ!」と声を荒げた。
 そのときだった。
 どこからか、炎の弾が飛んできた。咄嗟にハルバードで弾くが、続けざまに四方八方から飛んでくる。それを避けたり弾いたりしながらカルマの姿を捉えようとするが、やはりジオンの目には虚空から炎の弾が現れているようにしか見えない。
 おそらく、どこかから火属性の上級魔法を撃ってきているのだろう。
 しかし、一体どこから……?
 身体と脳を同時に働かせるのは案外難しく、次第に動きが鈍くなっていく。その隙を狙ったのか、三つの弾が同時に飛んできた。これはさすがに避けきれないと悟り、ハルバードが盾になるよう両手に持つ。弾を受ける衝撃に耐える準備を整えたときだった。ジオンの目の前にシールドが張られ、弾を防ぐ。
「スミリット! 助かった!」
 肉体強化をしているとはいえ、まともに食らっていれば相当なダメージを負っていただろう。シールドを張ってもらえてなければ無傷ではいられなかった。
 戦闘中にもかかわらず、条件反射でお礼の言葉を叫んだ。視線と意識が一瞬、イリアの方に向く。
 だが。
「ジオン、後ろ!」
 イリアが叫ぶ。首だけで振り返る。炎の弾が迫っていた。防ぐ間もシールドを張る間もなく背中に直撃する。ジオンは悲鳴をあげると、地面に転がった。
 ジオンはすぐさま立ち上がる。絶え絶えの息を整える間もなく、容赦なく炎の弾は飛び交い続ける。ハルバードでは避けたり受けたりするだけで精いっぱいだ。
 ジオンは武器を放る。ハルバードは地面に転がると、光の粒となって飛散した。
 再び個別魔法『創造』を発動させ、両手にリボルバー式の拳銃を出現させた。引き金を引くと水の弾――水属性の上級魔法が撃たれるように創ってある。
 右手の銃で炎の弾を撃ち、左手の銃で虚空を撃つ。
 そうすることで攻撃を相殺しながら、あわよくばカルマにダメージを与えようと考えた。一発でも当たればさすがに姿を現すだろう。そこでできた隙が攻撃のチャンスだ。
 しかし、撃てど撃てど左手の銃から放たれた水の弾はどこに当たることもなく空を切った。すかさずイリアの怒号が飛ぶ。
「この単細胞! 下手な鉄砲なんか数撃ったって当たるわけないじゃない!」
 カチンときたジオンが怒鳴り返す。
「うっせぇな! てめぇもちったぁ協力しろや!」
「今はシールド張ったって逆に邪魔でしょ!?」
「だったら攻撃に回ればいいだろ!」
「あんたを巻き込んでもいいわけ!?」
「あー、くそ! ああ言えばこう言いやがって!」
 言い合いながらも手は引き金を引き続けている。
 何個目になるか分からない炎の弾を相殺した、その瞬間だった。
「戦闘中に喧嘩ですか?」
 いつの間にか目の前にカルマがいた。
「ずいぶんと余裕ですね!」
 攻撃する隙も、触れる隙も、声をあげる隙も与えず、彼は雷属性の魔法をまとわせた拳をジオンの腹に打ちこんだ。息交じりの悲鳴が漏れる。ひるんでいる間にカルマはまた姿を消した。
 拳は確かにみぞおちに直撃した。
 それなのに気絶することはおろか、そこまでダメージが入った気がしない――おそらく、撃ちこまれたのは威力の弱い初級魔法だ。
 さっきまで上級魔法を放っていた奴が、今さら初級魔法……?
手加減されたと察し、ふつふつと沸きあがる怒りに任せて引き金を引く。それでもやはり弾は当たらない。
「スミリット! お前の個別魔法ならあいつの考えてること、分かるだろ!? それでカルマの居場所を特定できないか!?」
 四方八方に弾を撃ちながら叫ぶ。
 頼みの綱はイリアしかいない。
 どのような形であれ、居場所がわからなければ対処の仕様がない……が。
「それができてたら初めからやってるわよ!」
「あ!?」
 それが単なる口答えでないのは声音で明らかだった。どういうことだ、と訊き返そうとした途端、どこからともなく声が聞こえた。
「炎の力を司りし魔の精よ」
 二人は息を呑む。
「我が魔力を以て 力を分け与え給え」
「これは……最上級魔法!?」
 叫んだイリアの声は震えていた。
 上級までの通常魔法なら呪文の詠唱は必要ない。自分で持っている魔力でこと足りるからだ。しかし最上級魔法は、どれだけ強い魔力を持っている人間でも足りない程に多くの魔力を消費する。
 だから最上級魔法を使うときだけは呪文を通して魔力を司る精霊の力を借りるのだ。精霊も魔物の一部に分類されているが、使い魔にすることができない。人間と精霊を繋ぐためには、呪文を唱えるという方法しかない。
 それでも精霊はあくまで魔力を貸すだけ・・・・・・・だ。
 魔力の大半は自身が消費するのが前提であるため、並みの魔力しか持たない者が使用すれば使い切ってしまう危険性がある。ゆえに、最上級魔法が使える者は限られているのだ。
 さらに。
 最上級魔法は最上級魔法でしか太刀打ちできない。
「私じゃ上級魔法までしか使えない! シールドじゃ防げないわよ!」
 たとえイリアとジオンで無属性の上級魔法である防御魔法シールドを重ねたとしても、最上級魔法には敵わないだろう。肉体強化をしているとはいえ、生身で受けるのはあまりにも無謀すぎる。
「求むは強大なる炎の力
 偉大なる魔の精 ブレイズ・フェアリの名を以て
 そなたと結ぶは仮契約
 いざここに 我の名を捧げよう――」
 カルマは未だ呪文を唱え続けている。幸いにも攻撃は止んでいる。
 対策を考えるなら――詠唱が終わるまでの間しかない。
 ジオンはゆっくりと息を吐き、目を閉じた。
 耳を澄ませる。精神を集中させる。
 魔法が撃たれてこないおかげで聞こえる――微かだが、確かな息遣いと風を切る音。
 少なくともカルマが地上にいることは把握できた。
 しかし、音が移動していて、焦点が定まらない――ならば。
「スミリット。自分にシールド張っとけ」
 ジオンは片膝をつき、銃口を地面に押し当てた。イリアは頭の上に疑問符を浮かべたが、思考を読み取って納得し、静かにシールドを張った。
 呪文の詠唱は、もうすぐ終わりを迎えようとしている。
「流れ弾に当たりたくなければ……な!」
 引き金を引く。瞬間、地中で爆発が起きた。地表が膨れ上がり、砕け散る。爆風に巻き込まれ、地面の破片とともに空中に打ち上げられたカルマが姿を現した。
「そこか」
 カルマを狙い、撃つ。しかし弾は土の欠片を弾くばかりだ。その隙にカルマは翼装置を広げて体勢を整えようとしていた。
「逃がすかよ!」
 銃を手放し、再びハルバードを出現させて握る。翼装置を広げて距離を詰めると、鉤の部分を引っ掛け、そのまま地面めがけて振りかぶった。カルマが落ちていく。ジオンが追いかけて急降下する。地面に叩きつけられたカルマが背中を強打し鈍い悲鳴を上げた。ひるんだ隙に地上に降り立ったジオンが槍の部分をカルマの喉元に突き立てる。
「まだやるか?」
 丸い刃では突き刺すことはできない。しかし、少し押し込めば息の根を止めてしまうことはできる。あるいは、そこに通常魔法を撃ち込めば気絶させることも可能。
 要するに、これは確認ではない。
「……いいえ。参りました」
 カルマは諦めたように微笑んで両手を上げた――降参、降伏だ。
 ジオンはハルバードを引く。槍の部分が天を向いた直後、勢いよく起き上がったカルマは悔しそうに叫んだ。
「あぁー負けたぁ! やっぱり二対一は卑怯ですよぉ!」
「あんだけ苦戦させといてなに言ってやがる」
 途中で喧嘩はしたものの、この結果はイリアの補助がなければ成し得なかった。彼女がシールドを張っていなければ攻撃が直撃していた場面がいくつかある。
 自分で防御魔法を使う余裕さえ与えられなかった。
 主戦をジオンが、補助をイリアが――咄嗟に思いついたタッグだと思っていたが、そうでもしなければ勝てていなかったと素直に思う。
「お前、なかなかやるじゃん」
 個別魔法などなくても、学校に通ったことがなくとも、カルマは強い。
 お世辞や建前を抜きにした、純粋な評価であり、感想だ。
 カルマはきょとんとしたが、やがて照れくさそうに笑った。
「えへへ。ありがとうございます!」
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