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ニ、興奮状態の犯人
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「警察だ!」
西嶋と森川が客間に飛び込んでいくと、二人して目を見張ることになった。
藪押が、両目をパンパンに腫らした彩加を右腕で抱え、ナイフを持った左手を向けていた。
彩加の鼻と口から血が流れていた。あんなに綺麗だった彼女の顔が崩れ、今では見ていられないほどになっていた。小さかった顔が二倍にまで膨らんでいた。
後ろには明君もいるが、泣き疲れたのか、ぐったりと、頭を垂れ、座り込んでいた。
「小和田さん」
森川が詰め寄った。
「待て!」
それを西嶋が制した。
「誰だ、お前らは! 来るな、来るんじゃない。来るな、って言ってるだろ! 一歩でも近づいてみろ。俺は、ここにいる彩加を刺す。それでもいいのか」
「お前、自分が何をしているのか分かっているのか?」
「分かっているつもりだ」
「藪押、一体貴様は何がしたいんだ?」
「単純さ」
藪押は言った。
「彩加と寄りを戻し、明と一緒に暮らすことだよ。それを、この男が邪魔をしたんだ」
藪押の視線の先には、窓の近くで、大の字になって倒れている坂戸の姿があった。
坂戸はいまだ眠ったままで、起き上がる気配もない。額がパックリと割られ、そこがどす黒い血で固まっていた。
危険な状態かもしれない。脳震盪でも起こしているようだった。早く助けないと重大なことになりかねない。しかし、藪押がナイフを彩加に向けており、これじゃ動くに動けない。
(どうしますか?)
(様子を窺え。ちょっとでも隙を見せれば、撃ってもいい)
「何を喋っている。俺は、そうやってこそこそと噂話をする奴が嫌いなんだよ。なぜ、はっきりと本人に意見を言わない。
なぜ、そうやって自分の意見と似通った者同士でしか喋ろうとしないんだ。何がコミニュケーションだ。おかしいよな。何が話し合えば、分かり合えるだ。そんなのは空想の産物でしかない。そうだろ? ただ気が合わない奴を無言で排除しようとしているにすぎないのだからな」
藪押は言った。
「拳銃を渡してもらおうか」
藪押は、かなりの興奮状態にあった。呼吸も荒い。常人ではないことがわかる。
アッと、思った時には、いきなりナイフで、彩加の右肩を切りつけていた。
「いやあぁぁぁぁっっっ!」
彩加が叫び声を上げた。
身を切り裂かれるような叫び声だった。彼女の痛みが伝わってくる。
「早くこっちに蹴って渡してもらおうか」
藪押は、ナイフに付いた彩加の血を眺めていた。
彩加の右肩は、血がナイフの軌道の線のように噴き出していた。
「ハァッハァッハァッッッッ」
彩加の呼吸が荒い。
しかし、よく目を凝らし、彼女の右肩の傷を見たところ、それほど深くは刺していないようだ。それでも彩加の呼吸は乱れてた。
そりゃそうだ。肩をナイフで刺されたのだ。ショックが大きいに違いない。未だ彼女は自分のその右肩から目を反らし、その痛みに耐えていた。見るのも怖いのだろう。
西嶋は拳銃を床に落し、藪押に向かって投げた。仕方がなかった。こうするしか・・・・・・。そして、森川に向かって頷いた。
森川はしばらく面白くない顔を向けていたが、西嶋がもう一度頷くと、諦めて、拳銃を床に落し、そして、蹴って藪押に渡した。
「拳銃を渡したから、我々は丸腰だ」
西嶋は感情を出さず、なるべく冷静な口調で言った。
「だから小和田さんを早く解放してくれ。そして、手当をしないと、大変なことになるぞ。お前だって、小和田さんにもしものことがあれば、困るだろ」
すると藪押は、はっとしたような顔を見せ、彩加に視線をやった。
「ど、ど、どうしたんだ。あ、あ、彩加。そ、そ、その右肩、血が出ているじゃないか」
信じられないものを見るような目で、自分がやったにも拘らず、しばらくは呆然自失といった状態だった。ここにいる者、全てが呆けている藪押を見ていた。本気で言っているのか、と。全員が口をあんぐりとしていた。
だが、しばらくしてから藪押は腰を落し、目の前にある二丁の拳銃を拾った。ずしりとしたこの手触りに、感動しているようだった。
この変わりよう。皆が目を疑う。自分が彩加の肩を、ナイフで刺したことなどすっかり忘れ、拳銃のトリガーに手をやると笑みが漏れていたのだから。
緊張が走った。
二人の刑事が生唾を飲み、後悔に耽る。怪物に渡してはならないものを渡してしまったことに、今気づかされた。
藪押は、それを手にし、狂気にも似た顔で、笑いながら、拳銃を眺めていた。奴の口から涎が出ていることに、誰もが気付いていた。
静まり返ったこの空間。全員の視線が薮押に注がれていた.。何が起こるか、予断を赦さない状況がここにはある。
西嶋は薮押を黙って睨み続け、森川は生唾を飲み込み、緊張の色を隠せない。
彩加は、ようやく荒い呼吸も落ち着きを取り戻していたが、体の震えを止められづにいた。
明は、放心状態のまま薮押を眺めているだけで、動けないし、自分の意思を取り戻すこともできないようだった。
まるでこの空間だけが時間が止まっているようで、結局、この場にいる誰もが動けづにいた。一人を除いては。
西嶋と森川が客間に飛び込んでいくと、二人して目を見張ることになった。
藪押が、両目をパンパンに腫らした彩加を右腕で抱え、ナイフを持った左手を向けていた。
彩加の鼻と口から血が流れていた。あんなに綺麗だった彼女の顔が崩れ、今では見ていられないほどになっていた。小さかった顔が二倍にまで膨らんでいた。
後ろには明君もいるが、泣き疲れたのか、ぐったりと、頭を垂れ、座り込んでいた。
「小和田さん」
森川が詰め寄った。
「待て!」
それを西嶋が制した。
「誰だ、お前らは! 来るな、来るんじゃない。来るな、って言ってるだろ! 一歩でも近づいてみろ。俺は、ここにいる彩加を刺す。それでもいいのか」
「お前、自分が何をしているのか分かっているのか?」
「分かっているつもりだ」
「藪押、一体貴様は何がしたいんだ?」
「単純さ」
藪押は言った。
「彩加と寄りを戻し、明と一緒に暮らすことだよ。それを、この男が邪魔をしたんだ」
藪押の視線の先には、窓の近くで、大の字になって倒れている坂戸の姿があった。
坂戸はいまだ眠ったままで、起き上がる気配もない。額がパックリと割られ、そこがどす黒い血で固まっていた。
危険な状態かもしれない。脳震盪でも起こしているようだった。早く助けないと重大なことになりかねない。しかし、藪押がナイフを彩加に向けており、これじゃ動くに動けない。
(どうしますか?)
(様子を窺え。ちょっとでも隙を見せれば、撃ってもいい)
「何を喋っている。俺は、そうやってこそこそと噂話をする奴が嫌いなんだよ。なぜ、はっきりと本人に意見を言わない。
なぜ、そうやって自分の意見と似通った者同士でしか喋ろうとしないんだ。何がコミニュケーションだ。おかしいよな。何が話し合えば、分かり合えるだ。そんなのは空想の産物でしかない。そうだろ? ただ気が合わない奴を無言で排除しようとしているにすぎないのだからな」
藪押は言った。
「拳銃を渡してもらおうか」
藪押は、かなりの興奮状態にあった。呼吸も荒い。常人ではないことがわかる。
アッと、思った時には、いきなりナイフで、彩加の右肩を切りつけていた。
「いやあぁぁぁぁっっっ!」
彩加が叫び声を上げた。
身を切り裂かれるような叫び声だった。彼女の痛みが伝わってくる。
「早くこっちに蹴って渡してもらおうか」
藪押は、ナイフに付いた彩加の血を眺めていた。
彩加の右肩は、血がナイフの軌道の線のように噴き出していた。
「ハァッハァッハァッッッッ」
彩加の呼吸が荒い。
しかし、よく目を凝らし、彼女の右肩の傷を見たところ、それほど深くは刺していないようだ。それでも彩加の呼吸は乱れてた。
そりゃそうだ。肩をナイフで刺されたのだ。ショックが大きいに違いない。未だ彼女は自分のその右肩から目を反らし、その痛みに耐えていた。見るのも怖いのだろう。
西嶋は拳銃を床に落し、藪押に向かって投げた。仕方がなかった。こうするしか・・・・・・。そして、森川に向かって頷いた。
森川はしばらく面白くない顔を向けていたが、西嶋がもう一度頷くと、諦めて、拳銃を床に落し、そして、蹴って藪押に渡した。
「拳銃を渡したから、我々は丸腰だ」
西嶋は感情を出さず、なるべく冷静な口調で言った。
「だから小和田さんを早く解放してくれ。そして、手当をしないと、大変なことになるぞ。お前だって、小和田さんにもしものことがあれば、困るだろ」
すると藪押は、はっとしたような顔を見せ、彩加に視線をやった。
「ど、ど、どうしたんだ。あ、あ、彩加。そ、そ、その右肩、血が出ているじゃないか」
信じられないものを見るような目で、自分がやったにも拘らず、しばらくは呆然自失といった状態だった。ここにいる者、全てが呆けている藪押を見ていた。本気で言っているのか、と。全員が口をあんぐりとしていた。
だが、しばらくしてから藪押は腰を落し、目の前にある二丁の拳銃を拾った。ずしりとしたこの手触りに、感動しているようだった。
この変わりよう。皆が目を疑う。自分が彩加の肩を、ナイフで刺したことなどすっかり忘れ、拳銃のトリガーに手をやると笑みが漏れていたのだから。
緊張が走った。
二人の刑事が生唾を飲み、後悔に耽る。怪物に渡してはならないものを渡してしまったことに、今気づかされた。
藪押は、それを手にし、狂気にも似た顔で、笑いながら、拳銃を眺めていた。奴の口から涎が出ていることに、誰もが気付いていた。
静まり返ったこの空間。全員の視線が薮押に注がれていた.。何が起こるか、予断を赦さない状況がここにはある。
西嶋は薮押を黙って睨み続け、森川は生唾を飲み込み、緊張の色を隠せない。
彩加は、ようやく荒い呼吸も落ち着きを取り戻していたが、体の震えを止められづにいた。
明は、放心状態のまま薮押を眺めているだけで、動けないし、自分の意思を取り戻すこともできないようだった。
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