心に傷を負った男

中野拳太郎

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五、

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 ―日々、義信は目立つことなく、八時のチャイムと同時に、寡黙に仕事を始め、五時のチャイムと同時に仕事を終える。
 残業はやらなかったが、就業時間内は上から言われたことを守り、きっちりとこなす真面目な従業員、という印象を周りの者に抱かせていた。

 母親を早くに喪ったのもあり、資金不足から中卒と学歴はなかったが、元々彼は頭と感が良く、仕事は出来る。
 少し見ただけで、また少し体験しただけでも、大概のことを把握し、改善してしまうほどの能力の高さを持っていた。

 いつものように八時十分前、会社の入り口にあるタイムカードを通し、工場の中に入り、長く薄暗い通路を通って突き当りまで歩く。
 油が飛散されているので、靴で歩くとネチャ、ネチャと気色の悪い音がする。
 その先に地下へと続く階段があり、降りていくとロッカーがある。
 そこで長袖の作業服に着替える。油の染み付いた作業服に袖を通すと、決まって吐き気を催す。
 何度洗ってもこの汚れが取れることはないし、重くて、何よりも暑い。チャイムと同時に自分の担当する機械、プレスの前にいき、仕事に取り掛かる。

「後藤君」

 背後から声がした。

 義信はその声がした方に視線を向けた。

 背が高く、少し腹の出た三十過ぎの男が視界に入った。
 その男が急ぎ足でやってきた。班長だ。
 だが素知らぬ顔で自分の担当する四百トンプレスを起動させた。
 ガシャーン、ガシャーンと大きく、耳障りな音が反響するが、この音が俺にバリアを張る、と思えば苦にはならない。

「おい、」
 やがてその男が、義信のところにやってきて肩を叩いた。
「後藤君」

「なんっすか?」
 こうなればバリアの意味を成さない。

「今日、西条が休んだんだよ。そこで、急で、悪いんだが・・・・・・」

 歯切れが悪い。男の妙に優しいその言葉、意味あり気な顔つき、それから口から漏れる
 鉄くさい臭い、それだけで嫌気を感じた。
「西条の担当する二百トンプレスを受け持ってくれないか?」

 予感的中だ。

「それでは、今私がやっているプレスはどうするんですか?」

「ああ、それはちょっと停めておいてくれ。生産予定には間に合っているし、二百トンの方が遅れているんだから」

「停める、って今日の分を打たないことには・・・・・・。もしかして残業しろ、ということですか?」

  男は何も言わなかったが、顔がそうだと肯いている。

「今日は済みません。用事があって、残業ができないんですよ」

「そんなこと言われても、こっちだって急な欠席者が出て、ローテーション組むのに困っているんだよ。そこのところは、ちょっとはわかってくれないか」

「よりによって、今日・・・・・・」
 なるべく穏やかに言った。
「今日は大事な用事があるんです。どうしても抜けることの出来ない用事が」

「かといっても、君はいつも残業をしないんだから、たまにはやってもらわないと、こちらとしても困るんだよな」

「明日ならよかったのですが、よりによって、今日・・・・・・。いいでしょう」
 義信は言った。
「今日残業をやる代わりに、明日一日休ませてもらえないでしょうか?」

 しばらくは沈黙が続いた。

 こいつの言いたいことくらいはわかる。だが俺には他にやることがある。相手にとって、もっと不利益な提言を出してやったまでだ。

「それは、困る」
 彼は根負けしたように言った。
「じゃ、仕方ないが、田川にやらせるよ」

 どうやら色々考えを巡らせても、俺を言い包める言葉が見つからなかったようだ。

「彼に任せるのは不安だが・・・・・・」
 男は、義信の顔を覗き込むようにして見た。
「だけど、君はいつも定時で帰って、その後一体何をしているんだ?」

「それは、言わなければならないですか?」

「別にいいが、さては彼女でもできたのかなって」 
 諦めたのか、次に嘲笑う顔を見せた。

「いえ」
 その嘲笑うお前と、喋る時間は、俺にはない。

「じゃ、一体何を?」

「私は中卒です。給料も安いし、普通の人とは違い、苦しい生活を強いられます。
 それはわかりますよね。だから様々な資格を手に入れ、皆に追いつこうと考えているのです。いけませんか」
 義信は、指で眼鏡を上げてみた。
「先ずは興味のある英語。今度トーイックを受けてみようかと、勉強している最中です。
 社会人でも留学する人の平均点は七百点です。それを超えることができたら、次はパソコン。ワードやエクセルなどの基本コンピューター利用設計システム、CADや 出版物のレイアウト、DTPなどのパソコン技術を使いこなすことは勿論―」

「そっか、そっか、ま、」
 彼は踵を返すようにして、
「頑張って。でも会社は辞めないよな、そんな資格を習得したりしてさ」

「ええ」
 相手が興味をもちそうにないことを、延々と語ってやれば、このように離れていくもの。
 ところで、俺はもうすでにその英語も、パソコンも全て習得している。資格を所得する、しないは別として、本を読み漁り、英語はトーイック満点九九〇点中、俺は八百点を超し、パソコンは、今ではネット犯罪を手がけるハッカーとしての知識を独学で学び、裏社会ではそれなりの名を上げる程になっている。

 これから先、いつ何時、そのような知識が必要になってくるかわからない。
 俺には目的がある。そのためにはいかなる場面にも対応できる知識が必要で、体力にしたってそう。だからボクシングをやっている。

 しかし、今はそれを、その鍛錬してきたものを人に知られるのは賢明ではない。だから自分の仕事をもくもくとこなしているに過ぎない。チャンスがあれば、いつでも動く準備は出来ている。義信は、指で眼鏡を上げた。

 義信は急いで名鉄の駅へ向かった。生暖かい秋風を頬に感じ、少し額に汗が滲んできたが走った。

 あれからまだ一ヶ月ほどしか経っていないが、こうなることが意外に早かったように思う。
 あの暑い夏、スタバで出会ってからというもの、週に何回か会うようになり、土、日には何処かに出かけ、映画を見たりと、まるで恋人のような付き合いをしている。   

 名鉄と地下鉄を乗り継ぎ、指定した名古屋市、栄にあるシティーホテルに到着したのが、待ち合わせ時刻の九時を三十分も過ぎていた。

 ホテルの中に慌てて走っていくと、フロントに待ちくたびれた顔をした瑠唯の姿を確認した。
 彼女は、義信に気付くと瞬く間に顔が明るくなったが、それを知られたくないのか慌ててふくれっ面をつくってみせた。

「ごめん、ごめん。こんな時間になっちゃって」

「もう、待ちくたびれたぁ」

「お腹空いただろう? こんなに待たせちゃったから」

「ううん、大丈夫。義信は?」

「俺も大丈夫だけど、何か食べようか」
 瑠唯は可愛らしく肯き、もう甘えていた。

 フロントに何人かの人がおり、外人の姿も見かけた。二人は身を寄せ合うようにレストランに入っていく。客はそれほどいないので、ウエイターも暇そうにしていた。

「今まで、会社の人と会ってたんだよね、誰と会ってたの?」

「上司だよ」
 義信は言った。
「飲みに誘ってくれたんだけどね。で、指定された店に行ってみると、案の定、君は、残業をやらないから、って小言を言われたよ、ネチネチと」

「嫌味な人だね。いるよね、そうゆうネチネチした上司」

「ああ。まったくだ」

「何処で飲んでたの?」

「豊田市の欄っていうスナックだよ。薄汚い店だった」

「拷問だね。根暗な上司と二人で」

「いや、でも、俺の考えていたとおりに、ことが進んだから。それはそれで・・・・・・」

「え、何それ?」

「何でもない」
 そう、予定通りにことが進み、義信はいつにないほど上機嫌だった。

「機嫌がよさそう」
 瑠唯は言った。
「教えてよ」

「サラリーマンにしかわからないことだよ」

 今日は、俺のプランを進めて行く上で、重要な駒を手に入れることができたのだ。

「もう。思わせぶりにして・・・・・・。気になるじゃない」

 二人が窓際の席に落ち着くと、ウエイターがすぐにやってきたので、コース料理を頼んだ。少し奮発したが、これも瑠唯のため。ウエイターが去ってから、彼女は水を口にした。

「今度、私アメリカに行くことにしたの」

 反応を確かめたかったのか、少し悪戯っぽい顔で、見つめてきた。

 このことが言いたかったのだろう。先程のこと、上司と飲みに行ったことを、とやかく訊かれることはなかった。
 本当は、もう少し粘ってくれても良かったのに、とは思ったが、これでいい。余分な話をする必要はない。今は彼女とのことが重要なのだから。

「アメリカ?」

「驚いた?」

「いや、別に」

「友達と二人で行くんだ。前から約束してたからね。でね、丁度その時は、兄貴もロスにいるんだけど、そっちでちょっとの間合流することにしたのよ」

「兄貴?」
 顔を少し強張らせた。
「ああ、今度世界戦が決まったんだよね」

「うん。兄貴は、遊びじゃなくて、キャンプなんだけどね」

 ウエイターが注文の品を運んできたので、一旦話は中断。
 先ずはスープ、それからサラダと続く。しばらく二人は、黙ってそのコース料理を楽しんだ。途中ワインを飲みながら。

 こんな料理、普段は口にしない。サラダが新鮮で、シャキシャキと美味しく、全てが珍しくて、出される料理に興奮を覚え、それを必死で押さえ込むのに一苦労だった。
 前菜とメインの肉料理に差し掛かってくる頃にようやく慣れてはきたが、肉料理の柔らかくて、噛むと肉汁が溢れてくるのには驚いた。

 この女は、いつもこんな料理に舌鼓しているのだろうか。慣れた手つきでシルバーを操り、マナー良くコース料理を楽しむ様子に嫉妬した。どうせお前らは何の苦労もなく、ここまで育てられた口だろ、と。

「私たち海外旅行は初めてじゃないけど、英語がヤバいの。この前、義信言ってたよね、少しは出来る、って。だから・・・・・・」

 言葉が耳の奥に残った。瑠唯がアメリカに行ってしまう―。

 しばらく考えた。やはり今日何とかしなければ・・・・・・あれも、そろそろだ。タイミングを逃せば、来月に持ち越しとなってしまう。

 そう、今から二週間前から始めて五日間。いつも瑠唯と会うようにしていた。
 それは、今生理だと彼女から訊いたからだ。そして、ある目的を達成するために、瑠唯にクロミフェン製剤を飲ませていた。それはホルモンの状態を整える目的を持ち、妊娠のチャンスを高める薬だ。排卵率は七十から八十パーセントに昇るとされる。

 デート前に、その錠剤をハンマーで叩き割り、粉々にして、それをレストランで、飲食物にそっと気づかれないように混ぜて飲ませた。
 なるべく味が濃いものの中に入れたため、少しくらい異物が入っていてもそう気づかれるものではない。案の定瑠唯は何の疑いもなく薬を飲み続け、その五日間は過ぎていった。

「まあ、少しはわからなくもないが」
 義信はそう答えた。

 あと、瑠唯がアメリカに行く前までに何回かヤルだけだ。飲んだらすぐに出来るというわけでもない。ただ確立が高くなるだけの話だ。計画通りにいけば、今日辺りがいい。

「え?」
 瑠唯の顔が薄っすらと赤く染まっていく。

「ん?」
 その顔を見ると、自然に自分の顔も火照ってきた。

「え、あ、今日せっかくだから少し教えてほしいと、思っているんだけど・・・・・・」
 彼女は悪戯っぽく微笑んだ。

「今日って、もう遅くない?」
 心配なのは、俺の理性を抑えられるかだ。

「大丈夫。お母さんには、直美の家に泊まるかもって言ってきたから」

 答えは決まっていたが、少しの間考えるフリをし、ジラしてみた。

「嫌なの? まだ義信の家には一度もいったことがないよ。彼氏なんだから。連れてってくれてもいいのに・・・・・・」

 溜まりに、溜まっていた今までの不満を、彼女は堰が崩れたように吐き出した。

「え、ああ、家はやめておこう。俺の家は豊田市だ。ここからじゃ遠い」

「いいよ、そんなの。私は・・・・・・ただあなたに英語を教わろうかと」
 盛りの付いた猫のように、論理が合わなくなってきている。

「それじゃ、ここは?」
 義信は上を指差した。

 瑠唯は顔を真っ赤にし、
「いいわ」
 と一言、いうと恥かしそうに俯いた。

 男と女というものは、結局のところ好きになった方が負けだ。
 だから大概のことに目を瞑る。若しくは、いや、きっと、自分の言った言葉に確証が持てなくなっているのだろう。

 イチゴのショートケーキにバニラ、そして、フルーツといったデザートを食べ終え、しばらく寛いだ後、伝票を手にし、レジに向かった。

「予約してあったんだ」

 義信は返事をすることもなく、歩いた。

「もし、私が帰ったら、どうするつもりだったの?」

 瑠唯は、義信の腕に抱きついてきた。

「一人で淋しく寝るだけさ」

「一人でね・・・・・・」
 そして、彼女は、頭を義信の肩に寄りかけた。

 清算を済ました後、瑠唯の腰に手を回しながらフロントに行き、部屋のキーを受け取った。
 そして、キーを手にエレベーターに乗り込む。瑠唯は緊張しているようで、何も喋らない。
 エレベーターを降り、廊下を歩き、部屋の前までやってくると、義信も緊張してきた。初めてだった。こんな高価なホテルに女と一緒に来ることが・・・・・・。

 オートロックのドアを開けると、圧倒された。高価なシャンデリアがあり、大きなテレビにふかふかの絨毯。
 そこを歩くと、キングサイズのダブルベッドが目に飛び込んできて、頬というよりも、顔全体が高揚してきた。
 近くには巨大な窓があり、燦々と輝くネオンの街を見渡すことができた。ネオンが優しく波のように漂い、まるで夜の海にいるかのようだった。自然と目が合い、最初に瑠唯の方が照れながら俯いた。

「何か飲もうか?」

「それじゃ、ウーロン茶。ああ、でもいいか、今日は特別だから」

「特別?」

「そうよ。だって初めて、義信とお泊りするんだから。緊張してきちゃったな」

 彼女の顔も高揚していた。

「今日はやっぱ、アルコールでも、もらおうかな。いい?」

「いいよ」

 冷蔵庫を覗き、取り敢えず赤ワインがあったのでそれを手にした。

「これでいい?」

 瑠唯は肯いた。

 義信はワインと二つのグラスを手に、瑠唯が座るベッドに戻り、テレビをつけた。
 ボリュームは少し小さく、何かが耳に入ってくればそれでいい。
 下らないテレビ番組だったが、瑠唯はじっと見ていた。ふと、俺と横顔が似ているかもしれない、そんなふうに思った。

 瑠唯の頬にキスをすると、彼女は驚いた顔を向けた。

「英語はいつ教えてくれるの?」

「後で」
 次は唇に軽くキス。
「シャワーでも浴びてくるよ・・・・・・。少し汗ばんでいるから」

 瑠唯は赤い顔を隠すようにして肯いた。

 シャワーを浴び終えると、瑠唯にも勧め、今は一人でベッドに裸のまま横になっていた。

 目的がある。ただ瑠唯とセックスをすればいい、それだけではない。
 彼女を妊娠させる目的があるのだ。コンドームにも、ちゃんと細工をしてきた。

 でも、本当にいいんだろうか。こんな事をしても―。少し迷いが生じた時に、バスルームからタオルを身に纏っただけの瑠唯が現れた。
 白い艶のある柔らかそうな肌。胸の膨らみに、ウエストの引き締まった、女を感じる曲線が暗闇の中で優雅に戯れていた。

「何を考えていたの?」

「君のことだよ」
 
 これでいい。全てがプラン通りなのだから。

「どんなこと? フッフフ」

 瑠唯がベッドの中に潜り込んできた。

 どうやら彼女は初めてではないらしい。そうであれば救われる、そんな想いとは裏腹に、正直、少し、嫉妬のようなものを感じていた。そして、洗い立てのシャンプーの匂いが我を忘れさす。

 その時―。

 右腕にサワサワという柔らかい手の感触を覚えた。ビクンとした。

「触るな」
 鳥肌が立ち、身体が強張った。

「え?」
 瑠唯は慌てて手を引っ込めた。
「どうして?」

 義信は、瑠唯を睨みつけた。

 しばらくは沈黙が広がった。

「義信って、いつも、長袖着てるじゃない」
 瑠唯がようやく口を開いた。
「だから傷か何かがあって、それを隠すために長袖を着てるのかな、って思ってた。でも違った」

「え?」

「ね、何で長袖をいつも着てるの? 義信って、ただの寒がり?」

「いや、そうでもないが、ただ、夏でも日に当たりたくないから・・・・・・」

「へぇ。何か女の子みたいなこと言ってるね」

 こいつは惚けているのか?

 俺の両腕には、二年前についたミミズ腫れの傷が残っているはずだ。

 なのにー それとも俺に気を遣っているのだろうか・・・・・・。

 多分そうだ。

 義信は、瑠唯の髪の毛を撫でてやった。できるだけ腕に視線を移させないように。
 それがよかったのか、彼女は気分を直し、気持ち良さそうに目を瞑った。そして首筋に唇を這わせ、徐々に上へ昇り詰めていき、舌を絡め合って、口付けを交わした。
 右手で首筋を抱き、左手で胸を揉みしだき、キスをしながら瑠唯をベッドに横にさせた。そして、左手をゆっくりと、曲線を確かめるよう下へ向かわせ、茂みの中に手を這わせた。

「あ・・・・・・ゴム・・・・・・持って、るの?」

 彼女が濡れた声を出してきた。

「ああ、勿論」

 義信は唇を歪ませた。

 様々なことが頭に浮かび、訳のわからない感情が頭の中に広がる。

 遂に義信は、瑠唯の中に入っていく。

 体は熱く、熱っぽく、それでいてとろけるような快感が背中を駆け抜けた。

 揺れている。身体が大きく揺れていた。穏やかな波に身を任せ、揺れるのを感じた。まるで海面に浮かんでいるようなこの感覚。潮の匂いがしたー。

 身体が軽くなったような気がした。 

 ―だが、突然。頭を鈍器で殴られたような感覚に陥った。天国から地獄に突き落とされたように。


 お前も、俺の母親のようになればいい。

 俺の母親は女としての楽しみや喜びといったことを知らず、お洒落だってすることなく、生涯を終えたんだ・・・・・・と、黒くて歪んだ、思い出したくもない感情が甦ってきた。

 やはりそうだ。こうなると自分自身でいられない。 

 気づくと義信は今、目の前にいる女の首を自分の両手で絞めていた。

 知らず知らずのうちに、自分でも抑制が効かず、欲望と理性が頭の中で闘い、力だけがそこから抜け出し、あらぬ所で暴れまわる。お前も苦しめ、お前も苦しむんだー と心の中で唱える。

「く、くるしいよ・・・・・・」

 耳元でか細い声が聞こえてきた。急速に頭の中が冷めていく。

「ご・・・・・・ごめん」

 義信は慌てて、両手を放した。そして、その自分の手を見つめた。

「びっくりした。いきなり、首絞められんだもん。冗談でしょ?」

「ああ・・・・・・。ごめん」

 勝手に動いていた。

 この込み上げる衝動。

 それは怒りからきたものなのか、それとも痺れるような感覚からきたものなのかは、わからなかった。

 義信は、時々自分でも理性をコントロール出来ない時があるのを知っていたはずだ。今回も制する事は出来なかったようだ。

「義信、もしかして、Sっ気があるの?」

 義信は、自分のこの感情に理解できずにいた。風船の空気が萎んでいくように、ただ俯くだけで、瑠唯と目を合わすことさえできなかった。 

「今日のは、我慢するけど、私、その気ないからね。これからは、こういうのやめてよ。ほんと苦しかったんだから」
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