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第四章 決戦 一、
しおりを挟む―十二月二十四日 日曜日。
豊田署 共同捜査本部
朝日は昇った。朝方まで降り続いていた雪がようやく止んだ。
街は北国のような雪景色が広がり、冬の独特な分厚い雲が空一面を支配していたが、それでも雲の隙間から日差しが顔を出すようになった。
「十一月二十日。遺体となった佐竹宣夫さんが発見されるが、それと同じくしてその息子の小学六年生である浩太君も行方不明。
通学している矢作小学校の担任、クラスメートの証言からも、普段何処かに寄り道をするような男の子ではなく、状況からみて、連れ去られたとの見方が強いということで、捜査は開始されました」
「勿論、身代金の要求などはない。父親が亡くなっているのだから、当たり前だ。
捜査本部は、可能性として、佐竹を殺した犯人が拉致監禁をしたと考え、情報収取、写真の配布をしていく中でも、目撃情報は皆無といってもよかった」
「そこで、我々の見解は、二年前の中西守変死事件に関連した人物で、容疑者として豊田市在住の後藤義信が浮上。
だが、後藤は逃亡し、行方不明となった。そこで我々は、浩太君を人質として連れ廻すために、拉致監禁したのではないか、という推測を持った」
「確かに。浩太君がまだ生きているという希望的推測は高いのだが、後藤の本質的な目的は、異母兄弟である中西英二の命を狙うことであり、その着眼点から、後藤がいる場に、人質として浩太君もいるのではないか、と憶測を立てている者もいる」
捜査本部が敷かれた講堂の中で、捜査員たちが順序立てて事件の概要を話していた。
「人質ね、まさに人間の盾だな。浩太君はその役目を担っているということか」
「あり得ますね」
「とにかく、十二月二十四日の現在も、その後藤容疑者の足取りは掴めないが、後藤は今日、この場に必ず現れる」
「ええ。それが奴の本質だから、ですよね」
この講堂の人の出入りは激しく、騒々しい。それでいてピーンと張り詰めた緊張感が漂っている。
「だから、情報収集、写真の配布の捜査に廻している捜査員を、一旦停止させ、レインボーホールに廻すんだ。後藤は必ずここに来る。応援が必要だ」
「それでは被疑者、被害者宅の視察などに向かわせている何人かの捜査員も、レインボーホールに向かわせましょう」
「ああ。そうしてくれ。そして、中西選手の護衛を、もっと手厚いものにするんだ」
「はい」
集まった捜査員たちが落ち着いたのを見計らったように、一人の男が講堂に入ってきた。
「皆、聞いてくれ。現在、後藤容疑者の足取りは掴めていないが、奴は必ずレインボーホールに姿を現す。
予定通り、本日十二時には現場に警戒態勢に入る。それから、SATが配備されたという報告を受けた。情報が入り次第、随時報告していくので、その都度、敏速に行動してくれ」
SATとは、特殊急襲部隊のことで、主に四つの班で構成されている。部隊全体を統括する指揮班、偵察研究を行う技術支援班、狙撃支援するスナイパー班に、接近突入担当の制圧班がある。
「現在、どのような状況なんですか?」
近くにいた若い丸顔の男が訊いた。
「詳しい情報はまだ入っていないが、SATがMP5を携帯し、この会場の外から遠巻きに警戒しているとのことだ」
MP5とはサブマシンガンのことだ。
インカム(内線通話機)同一敷地内で使用する通話システムをつけた、小柄で眼鏡をかけた神経質そうな男、カマキリ顔の現場の指揮官刑事部長佐々木が前へ歩きながら答えた。
その先にはホワイトボードがあり、レインボーホールの見取り図が描かれている。
「中西選手には護衛を付けているので、相手は単独で行動することが難しい。もしかしたら後藤容疑者は何者かと接触し、複数犯により、犯行を企てる可能性がある」
佐々木は唾を飛ばしながら、大声で説明をした。
「いいか。アリーナの警官の配置、それからビデオカメラの設置場所の把握も大事だが、犯人との接点が重要だ。
それは捜査的に最も効率の良い逮捕の現場となる。だから周辺に配置される捜査員の技量、センスが試されるのだ。
着衣、動作、無線機の使用方法、それから会話等万遍なく気配りをしてくれ。
その中、容疑者を目撃したら、必ず単独で動くな。応援が揃った時点で確保に全力を挙げる。わかったな」
捜査体制は着々と、しかも迅速に整えられつつあった。それから佐々木は、前に座っていた男らに言った。
「君ら五人は最初からアリーナに行ってもらう。とにかく皆、私が指示するとおりに目標を追うんだ。
尚、無線機等携帯品の点検も抜かりはないように。それから犯人との接触に備えて、捜査員間の連絡方法も密にとってくれ。
いいか、くれぐれも一般市民だけは、絶対に巻き込むな。わかったな。以上だ。質問はー」
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