腕まくり助産師〜異世界の母子は私が守る!その前に自分の身も守らせて!〜

ミラクリッド零式

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65.春空の下で**

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「このとおりだ! レン、どうか許して欲しい」

 帰城を祝う宴も無事に終え、寝支度した私達はロワさんの綺麗になったベッドの上で向き合って座っていた。ロワさんは両手の拳をつけて低頭したままピクリとも動かない。
 
 野獣化したロワさんが、我を取り戻すのに何度達したか正直わからない。しかし、たった三日でこの有様とは!寝支度時に溜息をついていると、ユズルバさんに「蜜月ですから」と言われた。

 そうなの?

 新婚ほやほやだと皆んなこんな感じになるの?

 ユズルバさんにそう問いただすと、「……旦那様は古の狂戦士マヌートラでいらっしゃいますから」と視線を逸らされた。
 
 そうだよね!?

 こんな旦那様ばかりだったら、世の中立ち行かないよ。

 まぁ、蜜月期が終われば落ち着くと思うし、あまり過剰に反応するのは止めよう。

 落ち着くよね……?

 脳内で、先程のユズルバさんとのやり取りを思い出していると、無言の私が気になったのかロワさんがさらに頭を低くした。

「レン、頼む。お前の許しが無くては、私は生きては行けぬ」

「ロワさん、頭をあげてください。反省していただいたようなので、今回のことは水に流しましょう」

「レン!」

 がばっとあげた顔は、喜びの表情で輝いていた。

「私だって、ロワさんと触れ合いたいと望んでいます。今回も無理矢理ではなかったですしね。しかし、公務に支障が出ない範囲でお願いします。今だってヒリヒリしているのですから」

「どこだ! はぁはぁ、どこがヒリヒリしているのだ」

 鼻が触れ合う距離まで一瞬で距離を詰めたロワさんは、呼吸も荒く私に触れようとした。

「そういうところですよ、ロワさん」

「ぐっ、」

 触れようとする手を上からそっと抑えると、巨躯がびくりと震えた。そっと視線をロワさんの股間に移すと、脚衣が膨らんでいるのが見えた。ロワさんは下帯をかなりきつく巻く習慣があるが、それでも脚衣を押し上げてしまうほどの勃起力だ。私の視線に気がついたのか、耳殻を赤く染めたロワさんは「すまない」と小さく謝った。

「謝らないでください。ロワさんの身体が健やかな証拠です。先程も言いましたように、私は身体が少し辛いので、手でお手伝いしてもいいですか?」

「だっ、駄目だ! 私の可愛い栗鼠ルムティにそのようなことはさせられぬ」

 目の前を大きな手のひらで覆われて、何も見えなくなる。

「そう言われましても、帰城の際にも手で少しお手伝いしましたよ」

「なんてことだ……レンの白魚チピュのような手が……私を……」

 顔を青くしたり赤くしたりと忙しいロワさんに構わず、私は彼の脚衣に手を伸ばす。

「なっ!」

 絶句するロワさんを尻目に、脚衣の中で下帯を緩めようとする。

 うーん、それにしてもどんな力で締めてあるの?固くて解けない。でも解けなくても、こうやって下にずらせば……

 渾身の力で下帯をずらすと、ドゥルンっとロワさんのロワさんが飛び出てきた。

「だめだ……レン……」

 まだ小さな声で抵抗するロワさんに、駄目出しの意味も込めて、お願いする。

「私達夫婦でしょう? だめ?」

「……だめじゃ、な、い」

 観念したロワさんは瞬く間に脚衣と下帯を脱ぎ捨てると、ベッドにどかりと胡座をかく。その脚の間に座った私は、よし!とばかりに剛直を両手で握りしめたのだった。




 夜明けを感じて目を開けると、隣にロワさんの姿は無かった。朝の鍛錬に出かけたのだろうか。昨晩は、そんなこんなで指の挿入もお断りしてしまったので、今夜からまた拡張に励まなくてはならない。

 それにしても、さすがはマヌートラだ。私の拙い手淫でも、すぐに反応して達してくれるが、その回復力たるや目を疑う。いずれ歳を経て、射精までの持続時間が伸びたりしたらどうしよう。

 恐ろしい想像にぶるっと身体を震わせると、朝の身支度を始めた。ロワさんが鍛錬場にいるのならば、帰りに少し話ができるかもしれない。

 ユズルバさんが用意してくれていた本日の着替えは、空色のドレスだ。マンドルガの衣装は、生地がしっかりしていて発色がとても美しい。私は帝都のすべすべしたサテン地よりも、この綿に似た生地の方が好きだ。そして、ドレスの上からクリーム色の飾りエプロンを着ける。エプロンは家事を取り仕切る女主人の象徴だ。ポケットには大切な鍵束が入っている。歩くとジャラジャラなって鬱陶しいのだが、ユズルバさん曰く、使用人はその音を聞いて襟を正すのだとか……

 編み込んだ髪を纏め上げ、外套を羽織り部屋を出ると、ちょうどユズルバさんとミズルバさんに出会った。

「奥様、おはようございます。旦那様から言伝を預かっております」

「おはようございます。ミズルバさん、ユズルバさん。どんな言伝でしょうか」

 そう問うと、二人はニコニコと微笑んだ。

「奥様がお目覚めになって、ご準備が整ったら獣舎に来て欲しいとのことです」

「獣舎?」

 いったい獣舎に何の用だろう。昨日帰城した騎獣に何かあったのだろうか。

「奥様、よろしければこちらをお持ちください」

 ユズルバさんが差し出したのは、ズシリと重たいバスケットだ。中身は食べ物だろう。

 ロワさん、これから遠出するのかな……

 せっかく帰ってきたのに、また離れ離れは嫌だなと思いながらバスケットを預かる。

 くっ、重い!




 朝靄の中、両腕にズシリと重いバスケットを携えて獣舎に到着すると、顔見知りの馬丁さんが獣舎から出てきたところだった。彼は帽子を脱いでぺこりとお辞儀すると、建物の裏を指差す。

 ロワさんはこっちみたいね。

 泥はねに気をつけながら獣舎の裏手に回ると、ロワさんが騎獣に鞍を付けているところだった。ロワさん専用の巨大な騎獣は、偉大なる黒ライオスという名で呼ばれている。ヘラジカに似た大きな角と猛禽類のような瞳を持つ彼は、その恐ろしい出で立ちに反して意外と大人しい。私もいつも乗せてもらっているが、癇癪を起こしたことなど一度もない。たまに顎の下を掻いてあげるとゴルゴルゴルと喉を鳴らして可愛い。

「ロワさん、おはようございます。ライオスもおはよう」

 両手が塞がっているので手は振れないが、にっこり笑顔で挨拶する。ロワさんは鞍のベルトを締めると、大股で近づいて来た。

「おお、霧の中から随分と可愛らしい小さき妖精コモンが現れたな。上手く化けたつもりだろうが、騙されぬぞ。私の可愛い栗鼠ルムティをどこにやった?」

 ロワさんは、笑いながら私からバスケットを取り上げると、反対の腕でひょいと私を抱き上げた。

「あなたのルムティは私が隠しました。どこにお出かけになるのか教えていただければお教えしましょう」

 ロワさんから、このように素敵な戯れを仕掛けられるとは思ってもみなかった。朝靄の中でも煌めくアイスブルーは、彼の機嫌の良さを表している。私もつられて笑顔になり、彼の太い首に腕を回した。

「それは困った、行先は秘密なのでな。仕方がないからお前も連れて行こう」

「えっ!?」

「心配するな、寒くないように包んでいてやる。冬眠中の栗鼠ルムルムのようにな」

 はははと笑うロワさんの横顔は、少年のように快活に輝いていた。




 命が芽吹いた若草色の草原は、未だ露に濡れ、瑞々しい朝を迎えていた。遥か東方には鋭く尖ったナスラ山脈が連なっている。帝国でも一、二位を争う大河であるロンダ川もこのナスラ山脈に端を発しているという。この天に届きそうな山脈の向こう側には、皇帝の話していたバンダル王国がある。そう、今年の冬に開戦するかもしれない相手だ。

 マンドルガはそのバンダル王国とナスラ山脈を隔てているが、お互いが山脈を越えて行き来することはない。ノーグマタの戦士でもナスラ山脈を越えた者はいないほど、険しく呪われた地なのだとか。

 宣言通り温かなマントに包まれた私は、ロワさんの腕の中で、低い声で語られる話を聞いていた。

「戦争は避けられないのですか? 」

 ぽつりともらす私の髪を、ロワさんの大きな手が宥めるように撫でる。

「バンダル王国はテラという神を唯一信仰の対象としている。ムスラーヤ帝国が従属の見返りに宗教の存続を約束しても、あちらは決して首を縦には振ることはない。帝国としても従属を望まないなら捨て置いても良い小国なのだが、好戦的な彼らは冬になると帝国内に侵攻して強制的に改宗させようとするのだ。過去、拒否した街や村はことごとく焼かれた。それならばと大軍を持って征服しようとすると、国民全てが死に絶えるまで戦おうとする厄介な相手だ」

「そうですか……」

「バンダル王国もヌタヌタと同様だ。時期になったらある程度戦力を削って巣穴に帰らせる必要がある」

 宗教が絡むと国と国の争いは複雑さを増す。しかしロワさんにとってはヌタヌタと同じ扱いらしい。

 あまりこの話題を続けたくなさそうな雰囲気を察して、私は話題を変えることにした。

「ロワさん、スワノフさんから聞いていると思いますが、先日妊婦さんを運ぶのに紋章入りの車を使用させていただきました」

「うむ、確かに報告は聞いたが、それがどうしたのだ?」

「浅慮で行動してしまい、悪戯に府民を混乱させてしまいました。それに、救護院の存在すら知らずお恥ずかしい限りです」

「何をおかしなことを。レンは私との約束通り城に残ってくれたのだろう?それに、例え出自の怪き者でも、救いの手を差し伸べられる者はそうはいない。レンの優しさこそ、これからのマンドルガに必要なものだ」

「ロワさん……ありがとうございます。でも、……あなたはとても私に甘い。これから救護院の視察や弱者について学ぶことで、お役に立てるように励みます」

「レンの誠実さは知っている。まだ先は長い、ゆっくりやるといい。ただ――」

「ただ?」

 騎獣は草原を滑るようにかけて、一本の巨木の元に辿り着いた。黒々とした枝を四方に伸ばし、芽吹いたばかりの柔らかな若葉が、美しく春を歌っていた。

「ただ、お前は私の妻でもある。弱き者に向ける愛を、たまには私にも分け与えてくれ。お前に顧みられなくなったら、私は生きたまま死ぬだろう」

 と、哀れな様子で彼は言った。胸を刺されたかのような滑稽な仕草で誤魔化してはいるが、ロワさんの本心が垣間見える。

「もちろんです。私が何のためにこの世界に残ったとお思いですか? ロワさんを幸せにするためですよ」

 見えない血を止めるように、ロワさんの手の上に手を重ねて、彼の意思の強さを感じさせる角ばった顎にキスをした。

「ああ、レン……、お前はなんという……」

 アイスブルーは少し濡れて、彼の感謝の気持ちを表していた。ロワさんは私を抱えて降ろすと、愛おしそうに髪をゆっくり撫でる。

 その時、ざぁっと風が吹いて、翠と光が万華鏡のように混ざり合った。目の眩むような色彩の嵐に、思わず目を閉じてロワさんに掴まる。

「レン、今朝はこれを渡したくてここに連れて来たのだ」

 優しい声に目を開けると、見知ったアイスブルーが大きな手の上で煌めいている。その華奢な形は、紛れもなく指輪だ。

「ロワさん、これ……」

「以前、言っていただろう? レンのいた世界では夫婦は揃いの指輪をするのだと。なかなか条件にあった石が見つからず婚礼には間に合わなかったのだ。それに、ヌタヌタの大繁殖によって商隊の足も止まってしまってな。しかし、ちょうど討伐中にその商隊に出会えたのは幸運だった」

 ロワさんはふと真剣な表情になると、草の上に両膝をついた。

「レン、我が妻、私の唯一の愛、どうか受け取って欲しい」

 頭上の翠色の光が、アイスブルーの瞳の中で混ざり合い、私は一瞬ここが深い海の中のような錯覚に陥った。

「ロワさん、私の愛する旦那様、生涯あなたの側であなたを愛し続けると誓います」

 緑生い繁る大樹の下で私達は触れるようなキスをする。

 後に私は、この大樹がノーグマタの始祖の墓標だと知ることになるのだった。



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