本町さんの読書旅

アイララ

文字の大きさ
3 / 17

第一幕-3

しおりを挟む
代わりに……作る?
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で嫌な予感がする。

「いや、遠慮しとく。弁当だけでいいよ」
「遠慮しないで。料理はレストランの本を読んでハマってるから。台所はこっち?」
「待て、いいから……あぁ……」

制止の声も届かず、奥の部屋へと歩いて行く。
運悪く、台所の部屋を発見され、本町は何の遠慮もなく冷蔵庫を開けた。
……まぁ、知られたからどうという話じゃないけど。

「……無いね、材料。空っぽ。前永君はどうやって、こんな惨状で生活が出来てるのかな」
「食事はあまりしないからな。作っても軽い奴だし、後は外食。悪かったな、こんな家で」
「悪くはないけど意外……でもないか。納得。思春期の男は、こんな暮らしをしてるとラブコメにあったし」
「どんな本だよ……」

無駄に当たってるのが嫌になるが、事実だから仕方ない。
一応、部屋は片付いている事だけが幸いか。
親から部屋の清掃はしっかりする様に言われてたけど……
「家に誰かを連れて来る日が来た時、困るじゃない」っての、本当だったんだな……
結局、本町が買って来た弁当をチンして食べる事にした。
いつもなら一人で寂しく食べていたであろう台所で。

「……不思議。コンビニの弁当、意外と美味しい」
「普段は食べてないのか? ……考えてみれば、親が作ってくれるか」
「そうじゃなくて、こうして二人で食べるのが。いつもより、温かい味がする。それに……こんな食事はよく食べてるし」
「どうして?」
「一人で育ててるから、忙しいみたい。帰るのが遅くなる時も多いから、作り置きか弁当で。でも、誰かと一緒に食べると弁当も美味しいと思う」
「別に変わらないと思うけどな……そういえばさ、本町が読んでたのってコンビニが舞台の小説だろ?」
「そうだけど。よく気づいたね」
「偶々、チラッとタイトルが見えてな。……で、何でタイトルにコンビニなんだ? 変だろ? そんなの」
「変? どうして?」
「コンビニで、温かい物語とか帯にあったけどさ……コンビニだぜ? 温かいとは真反対に思うんだが」

仮に温かい物語で小説を書くにしても、コンビニが舞台は有り得ない。
別にそう決められてる訳じゃないけど、それで本が書けるとは思えずにいて。
どうせなら、どこかの喫茶店の方がいいんじゃないか?
そう疑問を投げ掛けると、彼女は箸を置き顎に手を当てる。

「……コンビニ、だからじゃない? 前永君はコンビニだから有り得ないと思ってるけど、それが狙いなのかも」
「コンビニってさ、どこにでもあるじゃない? 全ての店が同じで、代わり映えのしない場所。普通だったらドラマなんか生まれない筈」
「そんな場所で、もし、人情的な物語が生まれたら? コンビニなのに、人間ドラマが生まれるとしたら? きっと、どんな物語になるか想像したくなるし」
「私が本屋さんで手に取ったのも、それが理由かも。もしかしたら、偶然の出会いとかかもしれないけど」

分かる様な分からない様な、そんな曖昧な話が続いていき。
納得しそうになるけど、完全に呑み込めない自分もいて。
「……どうだろうな」と、食事をするのも忘れる程、考え込んでる自分がいた。

「なら、試しに読んでみたら? 私の方は読み終わったし」
「考えとく」
「それじゃ、これ。読み終わったら感想、聞かせてね。楽しみ」
「気が向いたらな」

そうして弁当を食べ終わり、先に本町が風呂に向かって。
何の遠慮もなく、堂々と入ろうとするのが彼女らしい。
信頼されてるのか、それとも男として見られてないのか。
なんて思いながら、ふと、本をパラパラと捲った。
……読書、か。
彼女にとって、これが母親の代わりなんだと思う。
幸せな家庭とか、家族の絆とか、そういう物を味わえるのだと。
前永は一人でも大丈夫な男だけど、それでも彼女の境遇を思う事は出来て。
普段から寂しい家なのに、これから母親と顔を合わせる日も少なくなるのは……
別に親が悪い訳ではない。
何かしら事情があるのは分かっているけど……何かしら、やり返したくなる気持ちになった。

「お風呂、ありがとうね。でも、リンスなかった。驚き」
「男には必要ないからな。参ったな、言っとけばよかった」
「気にしないで、十分だから」

家から持って来た私服に着替えてる本町は、制服の数倍は可愛く見える。
薄いピンクのシャツに、真っ黒でフワッとした短めのスカート。
いつも地味な印象なのは、普段は制服でしか見ないからなのか。
……まぁ、だから何だって話だけど。
なんて考えてる間に、ふと、チラッと見た小説の一文が頭に浮かぶ。

「なぁ、コーヒー飲まないか?」
「何、いきなり」
「本にあっただろ? コンビニで、コーヒーマシンを新たに導入する話。パラっと捲って見たら、なんか飲みたくなって」
「変なの。残念……夜更かしし過ぎると、母さんに怒られるし」
「今日はここに泊まるから、気にする人はいないし。第一、怒るのはこっちだろ? 急に一人にさせるんだから」
「かもしれないけど……分かんない。待って。考えるから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...