大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる

文字の大きさ
21 / 38
2.バタバタ!入学までにもイベント盛りだくさん!

幕間 ???

しおりを挟む
「それじゃ、行ってくるよ。テディ、母さんをよろしくね」
「うん! 行ってらっしゃいお兄ちゃん!」

 笑顔で見送ってくれる弟に手を振り返し、僕は早足で今日の仕事場へと歩き出した。
 
 僕の家は三人家族。母、弟、そして僕だ。
 父は弟が産まれてすぐに病に倒れ、母も同じ病にかかり数年の間ベッドに横になっている。そんな母が働けるはずはなく10歳の弟にできる仕事も限られているため、僕が仕事を掛け持ちして生活費を稼いでいる。
 
 昔は父が受け継いでいた商会があり、そこから生活費を受け取ることができていた。しかし父が表に出れなくなる少し前から商会はだんだんと町を管理している貴族に口出しをされるようになっていき、いまではすっかり僕たちの手から離れている。
 それ自体は仕方のないことだ。商会は商品があってこそ。一応男爵ではあるが一代限り、つまり僕からは平民になってしまう……いや、父がいなくなりもう既にほとんど平民のようなもので、商会の運営方法など全く分からない僕たちでは、商品の仕入れすらままならないのだから。
 
 商会を立ち上げたのは僕の曽祖父。曽祖父は愛した人と添い遂げたいと家と縁を切って平民になった元貴族なのだが、商売の才能のあった曽祖父は自力で男爵位を勝ち取った。
 それからというもの商会の目覚ましい功績で一代限りの爵位を代々更新していた歴史があるが、それもここでお終いだろう。貴族である名誉より今日の食事の方が僕たちは大切なんだ。

「おいガキッ! こっちに魔法だ!」
「はいっ!」

 村の外れ、少し森に入ったところ。魔物の素材はそれなりに高値で売れるためお金稼ぎに手の空いた傭兵なんかが魔物の討伐をすることがあるのだが、そのメンバーに運よく入れてもらえた僕はかけられた怒号になんとかくらいつき魔法を放っていく。

 王都から離れたこの地には、あまり魔力の判定士がくることはない。しかし3年ほど前、たまたま隣領に用事があったからと判定士が村に足を延ばしてくれたのだ。
 最早貴族とは言えない僕たちはそもそも学園に入るためのお金だってなく、判定も機会があれば、くらいに思っていた。だが魔法が使えるのと使えないのとではできる仕事の数も格段に変わり、そのとき10歳を迎えていた僕はギリギリ判定をしてもらえたってわけだ。
 おかげで、危険だが儲かる仕事もできている。それに風属性が得意な僕は討伐以外にも身体強化をして大人と同じ量の荷運びをしたり、脚力を強化して短い時間で届け物をしたりもしていた。あのとき判定を受けられなければ、こんなに稼げてはいない。

「やあ、精が出るね」
「……どうも」

 森を抜け、手に入れた素材を分けている隣で今日の報酬を受け取る僕。そうしていると背後からかけられた声に、うんざりしながら僕は振り向いた。
 そこにいたのはこの村を取り仕切っている貴族。仕方ない、とは理解しているものの、僕たちが苦しんでいる原因の一つである相手にいい気分になりはしない。

 そんな僕の刺々しい気持ちに気付いてはいるのだろう、男はハッ、と鼻で笑い、取ってつけたような笑顔を僕に向けた。

「相も変わらず可愛げがないな」
「そんなものがあっても腹は膨れないので」
「目上の者に媚を売るのも立派な処世術というものだよ」
「でも、父さんの商会から生活費を出してはくれないんでしょう?」
「もうアレは君たちのものではないよ。前子爵から私が引き継いだものだ」
「……良く言うよ」

 前子爵、という単語に、思わずギリッと歯ぎしりをしてしまう。
 ろくでもない奴だった。この村を含め辺り一帯を管理する役割を持っていたはずのあの男は、まともに仕事をせずただ税を吸い上げていくことしかしていなかった。

 魔物との戦闘もある辺境伯領では、領主様が広い土地全てに目を配るのにも限界がある。他の領でもそうであるが、そういった場合はある程度の広さに分けてその地域を管理する代理人のような貴族を立てることが多い。
 その一つであるこの地は領境ということもあり、領主様の血縁者が管理を命じられていたのだが……子爵という身分が気に喰わなかったのか、あの男はとにかく成り上がることだけを考えていたようだ。

 父の商会に目を付けたのもそんな理由からであり、金を生む存在をどうせ手放すことになるならと父が信頼していた商売仲間ではなく貴族の権威を使って半ば無理矢理奪っていった。
 そこで働く人もいるのだから、商会が潰れるよりはいい。しかし元から自分のものであったかのように、僕たちの知らない内に新しく管理役に就任した貴族に下げ渡すなんて納得できるものでもない。当然、当たり前のように受け取ったこの男の考えにも。

 だが、どれだけ気に喰わなくても相手は男爵よりも高位の貴族。まだ子供の僕が何か盾突いたところで事態が好転するわけでもない。
 ぶん殴ってやりたい気持ちを押さえ、忍耐が切れる前に話を終わらせたい僕。しかし、向こうはそうもいかないようであった。

「前に話したこと、考えてくれたかい?」
「っ、いや……」
「悪い話じゃないと思うんだけどねぇ。こっちの準備はできてるんだ。あとは、君次第だよ」
「……」

 にやにやと笑う男は、最後は僕が頷くと確信しているのだろう。
 
 村でなにか事件があっても見過ごすようなこの男が、僕の前に現れたのはひと月ほど前の事だった。
 その日も請け負った仕事を終え、帰ろうと道を歩いていた時のこと。『ナミュール家の者か?』と聞かれ訝しみながらも返事をした僕に、焦ったような顔つきを一転安堵の表情に変えた男は取引を持ちかけた。

 それは、僕がある貴族の子供に成り代わることだった。どうやら曽祖父が縁を切ったという遠い親戚である貴族の家で、行方不明者が出たらしい。
 その子は僕と同じく13歳。まっとうに貴族であるその子はもちろん学園に入学することになるのだが、その行方不明になった子として振る舞ってほしい、というものであった。

 そんなの上手くいくはずがない、と話を聞いた当初は思ったが、入学前に行われる魔力の登録さえなんとかなれば大丈夫だという。
 魔力の登録とは、いわば学生証の代わりのようなもの。王族も通う場に外部の人間を簡単に入れないため、というのと全くの別人を優秀だからと身代わりに入学させないため、という理由だそうだ。
 だったら僕も駄目そうなものであるが、血縁関係にあるなら3代くらい離れていても辛うじて誤魔化せる範囲なのだという。髪の色も瞳の色もあまり親から受け継がれないが、唯一魔力の型のようなものは血縁関係であればある程度似通うのだ。

 となると、僕とその行方不明の子の魔力も似通っているのだろう。得意属性は違うらしいが、それも後から才能が伸びたとかでなんとか言いくるめられるらしい。

 ……楽観的な予想ばかりで、どう考えてもリスクが高すぎる。いうなれば身分の乗っ取りであり、バレた場合は僕だってただじゃすまない。
 すぐにでも断るべき話、しかし返答に困っているのは、報酬が魅力的だからである。

 僕が代わりになっている間、母と弟の面倒を見てくれるというのだ。しかも屋敷に迎え入れての好待遇。
 まだ保護下にあるはずの子供がいなくなったなど信頼を揺るがす家の一大事であるのは分かるが、ほとんど他人の僕たち家族にそこまでしてくれるつもりであるという。
 今の生活では、母の病気を治すために治療を頼むお金すら貯められない。弟のテディに美味しいものを食べさせるのも、楽しいことをさせてやることだってできない。

 それに、この話を持ち掛けてきたのは向こうなのだ。どんな考えがあるのかは知らないが、バレたくないのは向こうも同じ。僕よりよほど必死に身代わりを隠そうとするだろう。
 
 ぐらぐらと、頭の中で考えが巡る。僕にとってどっちが正しいのか、ずっと迷い続けていた。
 
「……そろそろ、決めてくれよ」

 結局今日も返事ができず、呆れた声を背中に受けて項垂れながら帰路につく。
 
 身代わりになる、ということは、僕は僕でいられなくなる、ということだ。絶望的とはいえ曲がりなりにも貴族である僕にも学園に入る資格はある。だが取引を受けてしまえば、登録された僕の魔力は別の子のものとして扱われてしまう。貴族としての僕は完全にいなくなる。
 それを、きっと母は悲しむだろう。身分にこだわりがなくとも、『僕』がいなくなってしまうのだから。
 そう思うと、躊躇してしまう。

「あ、お兄ちゃん! おかえりなさい!」
「……ただいま、テディ」

 ぼんやりと歩いていても勝手に足は動き、僕の姿を見つけたテディが走り寄ってくる。
 鮮やかな緑の髪。珍しく家族全員同じ髪色で、父も母も僕も風属性なのだ、きっとテディも風属性が得意なのだろう。
 ついこの前にも領地に判定士がやってきたらしいという噂は聞いたが、残念ながら村では見かけていない。いつかテディにも判定を受けさせなければと思うものの、判定士を呼ぶ伝手がないため待つしかない。

 生活を支えている自負はあるが、どうしてもこうしたところで無力であることを突きつけられる。
 僕がもっと大人であれば、もっと力があれば……。

「お兄ちゃん、どうかした?」
「……なんでもないよ」
「ふーん? あ、そうだ! ねぇ聞いて! あのね、お隣の村に、今度魔法で怪我を治してくれる人がくるんだって!」
「へぇ……多分、アルベント侯爵令息様だな。実際にお会いしたことはないが、素晴らしい回復魔法の使い手だって聞いてる」
「そうなの!? やったぁ!」
「? 何をそんなに喜んでるんだ?」
「だって、体を治してくれるんでしょ? お母さんの病気も治してくれるかも」
「それは……」

 嬉しそうに話すテディに、現実を告げるべきか迷う。侯爵令息様が使えるのは水属性の回復魔法。怪我は治せるだろうが、病気は光属性でしか治せない。
 それに、村と村が隣り合っていて距離も近いとはいっても領が違うのだ。きっとこちらに来ることはない。
 守るべきものは侯爵領の領民で、辺境伯領の領民ではないのだから。

「……そうだな。治してくれるかもしれないな」
「うん!」

 だけど、それをテディに伝えることもないだろう。そう簡単に出会うこともないのだから、わざわざ悲しませる必要はない。
 チクリと罪悪感が胸を刺すが、あえて無視して黙って飲み込む。

 何を選んでも間違いなんじゃないかと疑ってしまう。もう、どうすればいいのか分からないんだ。
 母とテディが幸せであってくれればいいだけなのに。
 そのためなら、僕は頑張れるのに……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

処理中です...