大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる

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2.バタバタ!入学までにもイベント盛りだくさん!

カノン は コウリャクタイショウ と そうぐう した

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『やぁそこの君、どうしてこんなところに? 迷い込んでしまったのかな?』

 自由行動パートで校舎内を歩いていると、いきなり出てきた会話ウィンドウ。こんなところというにはここはただの廊下で、迷うというには教室も近く足取りもふらついていなかったはず。
 名前の欄は『???』となっており、こんな口調のキャラに覚えはない。
 一体誰だ? と考えたのは一瞬、画面には一人の青年が表示された。

 黒板のごとく濃い緑の髪を太く緩い三つ編みにして、右肩から前に垂らした男。黒っぽい紫の瞳は少し垂れ気味で、微かに微笑んだ顔の第一印象は「優しそう」である。

『迷っていない? おかしい、君は妖精ではないのかい? ……参ったな、こんなに可愛らしい女性ヒトがいるなんて!』

 しかし続くセリフに、「なるほど遊び人枠か……」と一人納得する。
 歯の浮くような軽薄な言葉の数々がポンポン飛び出し、どの選択肢を選んでも最終的に『君に出逢えた僕は幸せ者だな』というセリフに繋がる。
 一通りの会話を終えたあとの感想は、「今時こんなわかりやすくチャラついたキャラいる?」に変わっていた。

『ああ、自己紹介がまだだったね。僕はエディ。君はーー』

 そんな、嵐のような出会いイベント。
 馴れ馴れしくも爽やかな口ぶりにまたすぐに会うことになるんだろうか、なんて想像をするが、待てど暮せど向こうから話しかけてくるイベントは起こらない。
 あるのは女生徒を口説いている場面をたまたま見てしまうイベントと、会話の出来ない位置に日替わりで違う女生徒を隣に侍らせている様を見かけるくらい。

 やきもきしつつステータスを上げ、シナリオを進めてようやく攻略を開始できる。
 それが加入最難関の攻略対象、エディ・フォーリンという男。

「使用人でも奴隷でも、なんだっていいんです。僕が代金の変わりにならなくても、ご恩返しはさせて頂きたいんです!」

 まかり間違っても手を組んで男の前に跪き、崇めるような目でその身を差し出そうとするキャラではなかったはず。哀願するように悲壮な声音で追いすがるようなキャラではなかったはず……!

「カノン様……」

 どことなくエンディング後のチラ見せ恋人生活で見せた甘え声に似た声で俺を呼ぶエディ。……しっかし顔がいいなちくしょうめ!
 これじゃ無礼だとでも思ったのか、先程までただあるがままにされていた髪が申し訳程度にまとめられている。その為に前髪に隠されていた顔もご開帳となっているのだが、流石攻略対象者、めっちゃ美形。エドワードがイケメン系だとしたら、エディは美人系である。
 カノンの顔も整っているし、この部屋のキラキラ度ハンパないな?

 窶れているため魅力が完全に発揮されているかというと全然なんだろうが、これからの伸びしろがありありと顔つきから分かる。というか幼さの中に将来女をたらしこみまくる色気の片鱗がちらついて、エディ推しだったらもうたまらなかっただろう。

 俺? 俺の最推しはほら、あの人だから。真面目にゲームをやってたから攻略対象はみんな普通に好きだが、狂いそうなほど入れこんでいる訳ではない。
 今だってそう、なめ回すように凝視してるくらいで……うん、やばいな……なんか感動する……。

 しみじみと成長過程に思いを馳せながら推しの幼少期も見たかった……なんて考えていると、なんだか肌がちりちりしてきた。足から力が抜け崩れ落ちそうになった俺を隣にいたエドワードが支えてくれたが、余計に悪くなる俺の体調。
 なんで? と顔を上げたらうっすらと、ほんとうにすぐ消えるくらいであるがうっすらとエドワードの周りが黒く靄ついていた。多分というか十中八九瘴気が出ている。何故? というか不調の原因お前かい!

「え、エド? どうした?」
「……恩返しなんて必要ない」
「! そんな……エド様、どうか」
「いらないものはいらない。さぁカノン、それなりに時間が経ってしまった。目的は達成したのだし、早く戻らないと騎士たちに悪い」
「え? や、まぁそうだけど……」
「それでは、僕は何をお返しすれば……」

 珍しく強引に話を終わらせ、俺の背中をグイグイと押すエドワード。対価を求めていたわけではないしエドワードの言うことにも一理あるためここでさよならとしてもいいのだが、か細い声がどうにも心を掻き乱す。

「エド。少しだけ」
「………………カノンが、望むなら」
「……多分、エドが思ってるのと違うけど……。えっと、エディ、君」
「敬称はいりません。ぜひ、エディ、と」
「あ、はい」

 渋々といった様子で俺を押す力を弱めたエドワードの懐から振り返り、項垂れていたエディに話しかける。するとしょげていたのは嘘だったのかという語気で呼び捨てを求められ、ちょっと圧に引いてしまう俺。いや、今はそういう時じゃない。
 気を取り直して、エディに伝えるべきことを俺は口にした。

「エディ、俺たちは元々テディ君にお母さんの治療を依頼されてここに来たんだから、その時示されたもの以外を受け取る気はない」
「それでは到底して下さったことに……」
「そして! これが重要だけど、俺たちは魔法の訓練をさせてもらった時は対価を貰っていないんだ」
「……というと」
「俺のあの魔法は人に初めて使った。もし失敗していれば、臓器が丸ごと消えていたかもな」
「な……!?」
「エド……ま、まぁとにかく、まだ魔法に慣れてないときはそういう可能性もあるって説明してから魔法を使うようにしていたんだよ。さっきは急だったからしてなかったけど……。そういう俺たち側の落ち度も含め、今回はなにもなし、ってことで、ね?」
「……」

 ……駄目だろうか。してもらったことになにも返せないとかえって苦しくなったりするものだから、そもそもそんな必要はないんだって伝えたかったのだが。微妙に納得しかねる、という雰囲気は未だ残っている気がする。
 ならしょうがない。心配事もあるし、提案をしておこう。

「でも、もしエディが良ければ、だけど。一つ頼みたいことがある」
「! なんなりと!」
「……あのね、いつか俺たちが困っていたとき、味方になってほしいんだ」
「……味方、ですか?」
「うん。ああ、これから悪いことをする、ってわけではないんだけど……俺の身分とかエドの属性とか、そういう諸々を知ってるのって侯爵邸の人間しかいないからさ……」
「カノン、身分に関してはそれなりとしか言ってなかったぞ」
「え? ……あ」
「大丈夫です、噂で存じております。……そう扱われるのは本意ではないのではないかと思いあまり畏まっていませんでしたが、それを鑑みてもカノ……アルベント侯爵令息様に対しまして数々の無礼を……」
「わー! いいから! 膝をつかないで! ……で、その、この先何があるかわからないし、一応保険として、というか。いわゆる出世払い? だから、今じゃなくて将来。立派になったエディに助けてもらいたいなー、ってね」
「カノン様……!」

 下心100%の俺の提案に、何故か瞳を潤ませ感極まったように俺を見上げるエディ。いつの間にか俺の腕を掴んでいたエドワードの手にさらに力が入り、驚いてそちらを向けば呆れたように息を吐いていた。いやなんでそんな反応?
 ともあれようやく身売りを思いとどまってくれたエディと部屋から出てきたテディ少年、それと扉に寄り掛かりながらであるが立ち上がることができたらしい彼らの母親、リディさんの重ね重ねの感謝に見送られて俺たちは小屋を後にした。

「……てっきり、カノンはあいつを引き取るんだと思ってた」

 侯爵邸への帰り道、乗り込んだ馬車の中でぽつりとエドワードが漏らす。なんとなくそう思ってるんだろうなと察してはいたけど、流石の俺もそう簡単に人間を引き受けたりはしない。
 
「エディを屋敷に呼ぶなら雇うってことになるんだろうけど、使用人の選定は父か母がするからね。屋敷で養生しているのが始まりだったエドはともかく、エディは屋敷に引き入れるのも難しかったんじゃないかなぁ……」
「ま、それはそうだろう。だけど、カノンはやりそうだった」
「……ちょっとその道を考えたのは否定しないけど」
「あいつをじっと見つめて、気に入ってたようだし……俺も同じような立場だってのに、少し不満に思ってしまった。それで瘴気が……すまなかったな」
「いや、それは……」

 俯き上目づかいで俺の機嫌を伺うエドワード。なるほど、これは俺が悪い。
 侯爵領でのエドワードの立ち位置は、どこまでいっても俺ありきのようなもの。なのにその要である俺がほいほい他人に手を差し伸べるものだから、エドワードの心の底にはずっと不安が残っていたのだろう。
 だというのに俺の甘さを否定しないと言ってくれたの、考えてみると凄い勇気がいることだったのでは? 察せなかったどころか気まで使わせるとか、なんとも格好がつかない。

「エド……ごめんね。俺、エドに思ってたより甘えてたみたいだ」
「そんなことは」
「いやいいんだ。俺が不甲斐ないばかりに不安にさせた。でも安心してくれ! なんてったって、俺たちは婚約者だぞ! なによりも……って言い切れはしないけど、大切な存在であることに間違いはないからな!」
「大切な……そうだな、一番、大切な、相手だ」
「一番のハードルが低い……や、今はそれでもいいか。とにかく! エドを見捨てたりとかはしないから、そこは信用してくれ!」
「……ああ。カノンを信じる」

 やっとまっすぐ俺を見てくれるようになったエドワードに一安心。ほっと安堵の息を吐いていると、馬車を揺らしてエドワードが俺の隣に移動してきた。

「わ」
「カノンは不甲斐なくなんかない。さっきあいつに言ったのだって、俺を心配してくれたからだろう? いつも俺のことを気にかけてくれるカノンを、信じないはずもない」
「……バレてた?」
「直前に属性の話をしてたから、な」

 俺の手を握りながら口元を緩めるエドワードに、少し恥ずかしくなる。
 もう十分なほどに闇属性が有用だってのは証明できると俺は思っているのだが、それでも地道な草の根運動というのは無駄にならないだろう。幸いエディは魔法に感謝しており、闇属性を使うと知ってもエドワードへ好意的な感情を失くすことはなかった。そういうところから、地道に闇属性……というか俺個人でそこまで手広くは出来ないため、エドワードの力になってくれる人を増やしていければいいと思っている。

 余計なお世話かもという不安もあったが、エドワードの様子ならその心配はなさそうだ。むしろ凄く嬉しそう。
 にぎにぎと俺の手を堪能するように揉むのはやめてほしいが、エドワードがそうしたいのならさせておこう。瘴気を出す程心労をかけちゃったわけだしな。

 そうして屋敷へと到着するまでの数時間、他愛のない話をし続けた俺たち。その間解放されることのなかった俺の手は、しばらくエドワードとおんなじ温度を持っていた。
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