レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
1,226 / 1,557
第20章 制圧戦

投下

しおりを挟む
『むー……』 

『どうしたんだ?西園寺。くしゃみでも出るのか?』 

 誠の05式はすでにすべての射出準備を終え、モニターで先発を切るカウラと後詰のかなめの二人の顔がモニターに浮かんでいる状態だった。

『噂話でもしてるのかねえ。ったくどこの馬鹿だ』 

 サイボーグ用の特殊なその特徴的なタレ目を隠しているゴーグルのついたヘルメットの下でかなめは閉じた口と鼻を動かす。

『投下予定ポイントまで一分!』 

 パーラの叫び声と共に輸送機は大きく傾いた。

『このまま対空射撃でどかんは勘弁してくれよ』 

 ようやく落ち着いたかなめの口元にいつも戦線に立つ彼女特有の薄ら笑いが口元に浮かんでいるのが見える。誠は何度も操縦棹を握りなおした。手袋の中は汗で蒸れている。気が変わり右手で腰の拳銃に手をやる。

『落ち着けよ少しは』 

 そう言って笑うかなめに誠もただ苦笑する。

『レーダーに反応!9時の方向より飛行物体2!信号は東和陸軍です!……いいえ!一機増えました!』 

 パーラの鋭い声。誠のモニターに今度はパイロットのヘルメット姿のランが映った。

「跳んだのか……凄い……」

 突然ランの05式がレーダーに現れて89式の背後を進んでくる。

『待たせたな!どこの機体だろうがオメー等は落させねえよ!そのまま予定通り侵攻しろ!』 

 ランの言葉に合わせるようにして輸送機が降下を始める。

「本当に……跳んだんだ……」

 ランの深紅の機体がモニターにアップされるのを見ながら誠はそうつぶやいた。

『法術様々なんだよ……姐御の機体に法術装備を付けた結果だ……なんでも身体強化の延長とかで機体性能も上がるんだそうな……便利なもんだなあ』

 そう言ってくるかなめだが、誠にはまだ理解ができなかった。

『おう、神前……オメーにいつまでも頼ってらんねーかんな……距離の概念のねー遼州人の必殺技だ』

「へ?そんなことができるんですか?」

 誠は狐につままれたような顔でそう答えた。

『テメエの『剣』で戦艦のブリッジ潰しときながらよく言うわ……姐御も色々できるんだわ……でしょ?ランの姐御』

 笑いかけるかなめにランは得意げにうなづく。

『雑談はそれくらいにしてハッチ開きます!』 

 それまで三体のアサルト・モジュールを眺めていた技術部員達が隣の加圧区画に消えていく。

『カウント!テン!ナイン!エイト!……』 

 パーラのカウントが始まるとカウラのヘルメットの中の顔が緊張して引き締まって見える。誠はその姿に目を奪われた。

『射出!』 

『アルファー・ワン!カウラ・ベルガー、出る!』 

 誠の機体がカウラの一号機のロックが外れた反動で大きく揺れる。そして一号機をロックしていた機器が移動して誠の機体が射出ブロックに押し込まれる。誠は自分の05式乙型が装備している長い非破壊広域制圧砲を眺めた。

『大丈夫だって。そいつを入れての飛行制御システムは完璧なんだ。自信を持てよ』 

 そんなかなめの言葉を背に受けた誠は黙って操縦棹を握りなおした。

『カウント!テン!……』 

『私は信じているから』 

 パーラのカウントの声にかぶせるようにアメリアの一言が聞こえた。誠は呼吸が早くなるのを感じる。手のひらだけでなく背中にも汗が染みてきていた。

『ツー!ワン!ゼロ!』 

「神前誠!アルファー・スリー!出ます!」 

 パーラのカウントに合わせて誠が叫ぶ。

 がくんと何かが外れるような音がした後、レールをすべるようにして05式乙型は輸送機から空中へと放り出された。シートに固定されていた体に浮遊感のような感覚が走った後、すぐさま重力がのしかかるがそれも一瞬のことで、すぐに重力制御の利いたいつものコックピットの状態になりゆっくりと全身の血流が日常の値へと戻っていくのが体感できた。誠はそのまま機体の平行を保ちつつ、予定ルートへと反重力エンジンを吹かす。

 かなめの言ったとおり、長くて重い法術兵器を抱えていると言うのに誠の乙式はいつもと同じようなバランスで降下していくカウラ機のルートをなぞって誠の機体は高度を落して行くことができた。

 誠の機体の高度は予定通りの軌道を描いて降下を続けていた。そこに突然未確認の飛行戦車から通信が入る。

『侵攻中の東和陸軍機及び降下中のアサルト・モジュールパイロットに告げる!貴君等の行動は央都条約及び東和航空安全協定に違反した空域を飛行している。速やかに本機の誘導に……何をする!』 

 イントネーションの不自然な日本語での通信が入る。誠は目の前を掠めて飛ぶ機体に驚いて崩したバランスを立て直す。ヨーロッパの輸出用飛行戦車『ジェローニモ』。空戦を得意とする車体である。西モスレムの国籍章を付けた隊長車らしい車体が輸送機に取り付こうとしてランの赤い機体に振り払われた。

『邪魔はさせねーよ!菰田、そのまま作戦継続だ!』 

 ランの叫び声にモニターの中のパーラが指揮を取るアメリアを見上げていた。

『作戦継続!かなめ、アンタのタイミングでロックを外すわよ』 

『任せとけって……3、2、1、行け!』 

 かなめの叫び声が響くが、誠にはそれどころではなかった。一機のジェロニーモが誠の進行方向に立ちはだかっていた。手にした法術兵器が作戦の鍵を握っている以上、誠は反撃ができない。それ以前に相手はバルキスタン紛争に関心と利権を深く持っている同盟加盟国の西モスレム正規軍である。

『空は任せろよ!レッドヘッド・ツー、スリー、各機ははアルファー・スリーの護衛に回れ!あれが墜ちればすべてはおじゃんだ!』 

 誠はひたすらロックオンを狙うジェロニーモから逃げ惑う。手にしている馬鹿長い砲を投げ捨てて格闘戦を挑めば万が一にも負けることの無いほどのパワーの差があるのが分かっているだけに、誠はいらだちながら逃げ回る。

 そこに敵にロックオンされたと言う警告音が響く。誠が目を閉じる。

 ランの部下の機動性が売りのアサルト・モジュール89式が目の前のジェローニモに体当たりをしていた。バランスを崩して落下するジェローニモが誠の目に映った。

「ありがとうございます!」 

『仕事だ、気にするな。アタシのレーダーでは他にあと四機迎撃機があがりやがった。しかも東和陸軍のコードをつかってやがる……東和陸軍はバルキスタンに軍を派遣していないから国籍詐称のテロリスト扱いってことでこっちは落とせるな。これからは輸送機の護衛任務に専念するからあとはカウラ、何とかしろ』 

 その通信が切れると誠の機体のレーダーには取り付いていた三機のジェローニモがランの部隊の威嚇で誠達から距離を置いたと言う映像が浮かんでいた。

『対空砲火、来るぞ』 

 ジェローニモから逃れるために回避行動を取っていた誠の機体に追いついてきていたかなめの2番機が手にしたライフルで地上を狙う。すでに高度は千メートルを切っていた。誠の機体のレーダーには今回の標的である反政府軍の30両を超える飛行車両の存在が写っている。

 誠の機体をすり抜けるようにかなめの230mmロングレンジレールガンが火を噴いた。現在基地のレーダーは使用不能ということもあり機体の光学照準器の扱いに慣れていないのか、まったく無抵抗に敵の飛行戦車は撃破された。

『あまり派手に動くな!あくまで目標地点への到達が主任務なんだからな』 

 カウラはすでに禿山の続くバルキスタン中部にふさわしい渓谷の合間に機体を降下させていた。

『でもまあ駄賃くらいは……』 

 かなめはそう言うとライフルを腕のロックに引っ掛けると残り一両の飛行戦車にサーベルを抜いて突撃する。反政府軍の明らかに錬度の低いパイロットは何もできずに砲身にサーベルが突き立つまでただ浮いていただけだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

処理中です...