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誠の本当の『仲間達』

第129話 人は尊く生まれるのではない

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「それに、アタシも好きで『貴族』に生まれたんじゃねえんだよ。先祖の『西園寺さん』と仲間達が『甲武国』を建国して『貴族制』を始めたから仕方なく『貴族主義者』の顔を立ててやってんの」

「『甲武国』を建国?」

 さらにかなめの言葉は誠の社会常識の欠如を自覚させるものだった。

 考えてみれば『甲武国』は地球圏からの移民が独立して建てた『貴族制国家』である。

 地球圏からの独立を『誰か』がやったということは当然その時『建国』しているわけである。『貴族制』と言うことはその時の功労者が貴族になっているのは当たり前だということは誠にも理解できる。

「しかし……近藤の旦那も馬鹿だよな、『貴族主義』とか『官派』とか言うけど、どう頑張っても身分が低い旦那は『甲武国』じゃ出世の見込みなんてねえのにな……何が楽しくて『貴族は偉い』とか言ってんのかね?理解できねえな」

 かなめは誠には理解不能な『特殊』な世界観を語った。

 誠はただ絶句してかなめのたれ目を眺めていた。

「親父はアタシに言うんだ。『人はとうとく生まれるんじゃ無い。とうとくなろうと努力するのが人なんだ』ってな」

とうとく生まれるんじゃ無い。とうとくなろうと努力する……」

 誠はかなめの口にした言葉を繰り返した。

 そして、まだ見ぬ『かなめの父』の言葉に心を動かされた。

「親父は無責任な男だが、その言葉は信用してやる。アタシに『太閤』を譲って民の政治をしたいというのも許してやってる……親孝行だからな!アタシは」

 かなめの言葉には『父』への『愛』が感じられた。

 庶民である自分とは違う、かなめの独特の父への尊敬がそこにあると誠はかなめを見ながら感じていた。

「だから、その娘として、『特殊な部隊』の一員として近藤の野望は砕く。『甲武国』一番の貴族として、貴族主義者の連中に『死』を遣わしてやる。結果として連中は『逆臣』として歴史に名を刻めるんだ。本望だろ?」

 残酷な言葉を並べるかなめがおどけたように笑う。

「神前。そのためにおめえはアタシに『補給』をしろ!アタシの銃の弾が尽きたら弾を運べ!アタシに何かあったら『回収』しろ!それが本来の『貴族とうときものの戦いだ!」

 かなめの言葉に迷いは無かった。

 『かわいい正義の味方』であるランが指揮し、『美しいが少し変』なカウラが戦場を用意する。そして、『気高き機械の体』の姫君が裁きを下す。

 誠はこの『特殊な部隊』が実は『正義の味方』なのかもしれないと思っている自分を発見した。
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