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ある若者の運命と女と酒となじみの焼き鳥屋

第89話 誠の家族

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「こいつの家族はどれも個性的過ぎて理解不能だ。神前、貴様は家族はどうなんだ?」

 それまで静かに話を聞いてきたカウラがそう話を振ってきた。

「僕の家は……父さんと母さんと僕の三人家族ですよ。普通です……って父さんが全寮制の私立高の体育教師をしているのでほとんどうちにいないことくらいですかね、特徴は」

 誠は珍しくまともは話を振ってきたカウラに笑顔でそう答えた。

「親父が教師で、母ちゃんが主婦か……普通だな」

 かなめがつまらなそうにそう言った。

「主婦っていうか……うちの母は剣道道場をしていまして、そこの師範なんです。『神前一刀流道場』って言うんですけど……まあ町の子供達を集めて剣道を教えているんです」

「あれか?親父の体育も科目は剣道か?」

「そうですけど……なにか問題でも?」

 確かめるように聞いてくるかなめに誠は少し不満そうにそう答えた。

「出会いも剣道。話題も剣道。仕事も剣道……なんだかつまんねえ家だな」

 吐き捨てるようにかなめはそう言った。

「なんですか!テロリストに狙われる家よりよっぽどましじゃないですか!それにうちでは剣道の話題はほとんど出ませんよ!」

 ムキになって誠はそう反論した。

 カウンターには次の焼鳥の盛り合わせが並べられた。誠はまず砂肝を手の取るとビールを飲み干した。

「まあまあ、いろいろあるのよ、かなめちゃんも。それと島田君には家族の話題は降らない方がいいわよ」

 アメリアが誠の空いたグラスにビールを注ぎながらそうささやいた。

「なんでですか?」

 少し妙な言い方をするアメリアに誠はぼんやりと尋ねた。

「まあ、ヤンキーの家庭なんて複雑に決まってんじゃない。アタシが知ってるのは年の離れたお兄さんに育てられたってこと。しかもお嫁さんとはかなり相性が悪くて、大学入学以来一度も実家に帰ってないって話くらいかな」

 アメリアは寂しげにそう言うとサラとパーラを隣に侍らせて大爆笑している島田に目を向けた。
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