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毒食らわば皿まで
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「ん……」
目を覚ますと、私は寝室のベッドの上で寝ていた。 部屋は薄暗く、窓辺からは月明かりが差し込んでいた。
「お目覚めでしたか」
ベッドの傍らには、アドニスが座っていた。
「っ、アド!?」
私は慌てて、ベッドから身体を起こした。拘禁術のことはすっかり忘れていたものの、どうやら術は解けているようだった。
見れば、私はいつものナイトドレスを着ており、アドニスは執事服を着ている。そして、乱暴された形跡もない。
「起き抜けで喉が渇いたでしょう、お水か何かお持ちしましょうか?」
「じ、じゃあ……お水をお願い」
「ふふ、かしこまりました」
何食わぬ顔で、アドニスは水を取りに行った。まるで先程の惨事がなかったかのような振る舞いに、私は逆に困惑していた。
もしかして、さっきのは……夢?
「お待たせいたしました」
「……ありがとう」
氷水を口にしながら、私はぼんやりと考える。革命が起きてから、私は連日多忙を極めていた。私が処刑されるならば、使用人たちは働く場所を失う。そのため、使用人や騎士たちの再就職探しを続けていたのだ。おそらく疲れのせいで、変な夢でも見てしまったのだろう。
私が水を飲み終えたところで、アドニスは口を開いた。
「婚姻届、無事に受理されましたのでご安心下さい」
彼のひと言で、私は再び絶望へと突き落とされた。なぜなら、その言葉は先程の出来事がすべて現実であることの裏返しだったからである。
自分の首に触れると、革紐の感触があった。そしてアドニスの首元にも、赤い石の付いたチョーカーが結ばれていた。察するに、私を入浴させてここへ運んできたのも、彼なのだろう。
「これからは夫婦として、どうぞよろしくお願いいたします」
アドニスは恭しく頭を下げたが、私は応えが返せないでいた。なぜなら、絶望のあまり目の前が真っ暗になっていたからだ。
もういっそ、このまま死んでしまおう。
そう思った瞬間、とある悪い考えが思い浮かんできたのだった。
私はすべてを失った。ならば、長年求めていたものを手に入れてから、死んでも良いのではないか……と。
そして私は、無意識に口を開いていたのだった。
「こちらこそよろしくね、アド。ところで……婚姻届が受理されたということは、私たちは夫婦になったのよね?」
「ええ、もちろんでございます」
「ならば、今宵から妻としての務めを果たしていきたいのだけれど……ダメかしら?」
散々恥を晒して死ぬのも、恥をかいて処女を失ってから死ぬのも、大差ないことだ。ならば、愛する男と一度でいいから結ばれたいと思ったのだ。
アドニスはきっと、私を本当の意味で愛してはいない。しかし、見せかけだけの愛情と身体の繋がりだけでも、私はとにかく欲しかったのだ。
私の言葉に、驚いたように目を丸くするアドニス。だが彼は、すぐさま微笑んだ。
「……喜んで」
そしてアドニスは、ネクタイの蝶々結びを解いたのである。
目を覚ますと、私は寝室のベッドの上で寝ていた。 部屋は薄暗く、窓辺からは月明かりが差し込んでいた。
「お目覚めでしたか」
ベッドの傍らには、アドニスが座っていた。
「っ、アド!?」
私は慌てて、ベッドから身体を起こした。拘禁術のことはすっかり忘れていたものの、どうやら術は解けているようだった。
見れば、私はいつものナイトドレスを着ており、アドニスは執事服を着ている。そして、乱暴された形跡もない。
「起き抜けで喉が渇いたでしょう、お水か何かお持ちしましょうか?」
「じ、じゃあ……お水をお願い」
「ふふ、かしこまりました」
何食わぬ顔で、アドニスは水を取りに行った。まるで先程の惨事がなかったかのような振る舞いに、私は逆に困惑していた。
もしかして、さっきのは……夢?
「お待たせいたしました」
「……ありがとう」
氷水を口にしながら、私はぼんやりと考える。革命が起きてから、私は連日多忙を極めていた。私が処刑されるならば、使用人たちは働く場所を失う。そのため、使用人や騎士たちの再就職探しを続けていたのだ。おそらく疲れのせいで、変な夢でも見てしまったのだろう。
私が水を飲み終えたところで、アドニスは口を開いた。
「婚姻届、無事に受理されましたのでご安心下さい」
彼のひと言で、私は再び絶望へと突き落とされた。なぜなら、その言葉は先程の出来事がすべて現実であることの裏返しだったからである。
自分の首に触れると、革紐の感触があった。そしてアドニスの首元にも、赤い石の付いたチョーカーが結ばれていた。察するに、私を入浴させてここへ運んできたのも、彼なのだろう。
「これからは夫婦として、どうぞよろしくお願いいたします」
アドニスは恭しく頭を下げたが、私は応えが返せないでいた。なぜなら、絶望のあまり目の前が真っ暗になっていたからだ。
もういっそ、このまま死んでしまおう。
そう思った瞬間、とある悪い考えが思い浮かんできたのだった。
私はすべてを失った。ならば、長年求めていたものを手に入れてから、死んでも良いのではないか……と。
そして私は、無意識に口を開いていたのだった。
「こちらこそよろしくね、アド。ところで……婚姻届が受理されたということは、私たちは夫婦になったのよね?」
「ええ、もちろんでございます」
「ならば、今宵から妻としての務めを果たしていきたいのだけれど……ダメかしら?」
散々恥を晒して死ぬのも、恥をかいて処女を失ってから死ぬのも、大差ないことだ。ならば、愛する男と一度でいいから結ばれたいと思ったのだ。
アドニスはきっと、私を本当の意味で愛してはいない。しかし、見せかけだけの愛情と身体の繋がりだけでも、私はとにかく欲しかったのだ。
私の言葉に、驚いたように目を丸くするアドニス。だが彼は、すぐさま微笑んだ。
「……喜んで」
そしてアドニスは、ネクタイの蝶々結びを解いたのである。
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