コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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おまけの小話①《白薔薇》の事情

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「こんなの、絶っっ対に変。おかしい。私は認めませんわ!!」

 イリーナとの二回目の顔合わせが終わった後、妹のクレアはそう言って私に詰め寄ってきたのだった。書斎には、彼女のやかましい声だけが響いていた。

「確かにこの縁談は藪から棒なものだが、何でやってきたのかは、私も知らん」

 書類を書いていた手を止め、ペンを置いてから私は言った。インクの入った瓶に蓋をしていると、クレアは立て続けに喚き散らした。

「そういう意味ではありませんわ!! いや、無愛想で圧が強いお兄様が、あんな素敵な方に見初められるのも不思議で不思議で仕方ありませんけれども!!」

 罵詈雑言を聞き流すのは慣れたものだが、クレアは苛苛したように机を叩いた。一度癇癪を起こすと手が付けられないのは分かっていたので、インクの瓶の蓋をしておいて正解だった。

「社交界の《白薔薇》でもあろうお方が、あんな姿だなんて、有り得ないって言ってるんです!!」

「《白薔薇》? 何だそれは」

「お兄様、ご存知でないの?」

 信じられないという面持ちで、クレアは目を見開いた。

「私もお会いしたのは初めてでしたが。彼女……イリーナ様は、今の社交界をときめく存在として、知らぬ人はいない程に有名なお方ですわ。何せ、彼女の服装が次の流行を作っているのですから」

「お前、やけに詳しいな」

「美しいものに憧れ、素敵な装いを愛することに、立場は関係ありませんもの」

「……成程な」

「イリーナ様は《黒薔薇》の令嬢と並んで、《白薔薇》と呼ばれてますの。社交界の娘達は、好みの方の真似をして……あ、ちなみに私は圧倒的に《白薔薇》派ですわ。この髪飾りだって、彼女に憧れて手に入れたくらいですもの」

 そこまで一気にまくし立ててから、クレアは髪に留めた銀色の薔薇の髪飾りを指差した。

 政治家と軍人は現状対立しており、住む世界は全く違う。政治家の夜会に軍人は参加しないし、軍人の食事会に政治家は参加しない。王室の呼びかけが無い限り、二者は決して交わらないものだ。そのため、私はイリーナのことも全く知らなかった。

 まさか妹の方が彼女に詳しいとは、思ってもみなかった。

「それで、お前はこの縁談には反対と言いたいのか?」

「違いますわ!! イリーナ様が義姉上になったら嬉しいですもの。お茶会やパーティーのドレス選びをご一緒できると考えただけで、夜も眠れませんわ!!」

「だったら、何が不満なんだ」

「彼女は、ご自分の良い部分を全部切り捨ててしまっている……それが悲しくて仕方ないのです」

 急に肩を落として、クレアは俯いた。

「軍人の娘と違って、政治家のご令嬢は平素から華やかに着飾るものだと聞きました。今日のイリーナ様のドレスは、そんな風に見えましたか?」

「……ふむ。」

「ちょっと、お兄様。ちゃんと聞いてらっしゃいますか!?」

 確かに、今日のイリーナの服装は、決して華やかではなかった。無地の飾りの少ないドレスに、薄化粧。どちらかと言えば、軍人の令嬢によくいるような格好であった。 

 しかし普段の彼女を知らないため、それが彼女の当たり前なのだと思っていた。

 言われてみれば、思い当たる節はいくつかあった。会話の中で、服や化粧にはあまり興味が無いと言っていたが、男の自分から見ても洗練された装いであるのは明らかだったのだ。

 とはいえ、派手な服装が好きならば、何故それを隠しているのかが分からない。実際自分を含め、我が家の人間は誰も「華美な服装を好まない」とは言っていないのだから。

「……でも。もしかしたら、イリーナ様にも何かご事情があるのかもしれませんわ」

「事情とは?」

「例えば。美しすぎるがあまり周囲から妬み嫉みを受けて心が疲れてしまって、綺麗な格好ができなくなったとか」

「考えすぎだ。彼女が直接そう言った訳ではないだろ」

「兎に角!! お兄様はイリーナ様に失礼なことを絶対になさらないでください!! やった暁には、このクレアが許しませんからね!!」

 勢い良く扉を閉めて、クレアは部屋を出ていったのだった。
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