約束破りの蝶々夫人には甘い罰を~傷クマ大佐は愛しき蝶を離さない~

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蝶の羽ばたき

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「捕まえた」

「……っ」

「取り敢えず、場所を変えよう。話はそれからだ」

 頼もしい腕に抱えられたまま、私は衣装部屋を後にしたのである。

「もう少し、長湯なさってても良かったのに」

「ふ、何故か嫌な予感がしてな。虫の知らせと言ったところか」

 寝室までの道のりで、彼が私を追及することはなかった。コルセットのボタンは外されて紐は彼の片手により緩められてしまったものの、無理矢理取り上げられることはなかった。

 そして寝室に辿り着くと、ドゴールは私をベッドの上に座らせてくれたのである。

 しかし彼が手を離そうとした瞬間、私は厚い胸板に身体ごと倒れ込んだ。腰が抜けて立てないものの座ることはできる。それを理解した上で、わざとそうしたのだ。

「今日はとっても甘えただな」

「……ドゴール様の意地悪」

「お前を守るために意地悪になるぐらい、どうってことないな」

 彼の言葉は嘘偽りの無い優しさの塊だ。思いやりと愛情が滲んだ一言を聞いて、心がほんの少し温かくなるのを感じた。一滴の恵みの雨とでも言おうか。

 しかし。

 私のせいで、彼に迷惑がかかっているんだ。

 その言葉が、私の中から消えることは無かった。

「……ん、ドゴール様」

 唐突に私は、ドゴールと唇を重ねた。口の中で互いの味がじわりと混ざり合い、深い繋がりは私をまた一つ安心させたのだった。

 けれども、まだ足りない。

「……っ、ん」

 唇を離し、私は彼の右口角の横にできた小さな傷跡に吸い付くようなキスをした。それが終わると、左瞼の上の傷へとまた口付ける。

 ドゴールの傷跡一つ一つにキスをしていくのが、いつしかベッドの上での習慣となっていた。

 耳朶の後ろにある目立たない傷から脚の付け根の誰も見ないような場所の傷まで、彼の身体に刻まれた傷を私は全部知っている。それらに口付けるのは、私なりの愛情表現であった。

 時折、吸い付きの加減を間違えて鬱血痕を残してしまうことがある。衣服で隠れる場所なら良いが、それが顔なら大問題だ。絆創膏を貼ってごまかすことも、よくある話であった。

 それでも笑って許してくれる夫なんて、この世界に彼くらいしかいないだろう。

 今日は力加減を間違えていないだろうか。しかし、薄暗いからそれは分からない。彼の顔がどうなっているかは、夜が明けてからのお楽しみだ。

「ドゴール様……好き」

「……ああ、私もだ、エレナ。……愛してる」

 口付けを落としながら、彼への思いを囁く。ドゴールの応えを聞く度に、私の心は落ち着きを取り戻し始めていた。

 私なんて、大嫌い。

 貴方が大好き。

 心の中で呪いのように繰り返される言葉を、正反対の言葉で塗りつぶす。少なくとも、彼に愛を伝えている間は気を紛らわすことができるのだ。

「ん……少しだけ、腰を浮かせてくださいな」

 ドゴールのシャツのボタンを全て外して脱がせ、下穿きまでもを取り払う。彼が一糸まとわぬ姿となったところで、私はまたキスを再開した。

「……っ」

 キスの最中、時折わざと目の瞬きをしてみる。睫毛が肌を摩ると、その度にドゴールはほんの少し身を固くした。

 睫毛が肌に触れると、蝶の羽ばたきに触れたような感触が得られると以前本で読んだのだ。

 愛撫にも満たない些細な刺激ではあるものの、下穿きに隠れていた‘‘熱い尻尾’’は確実に大きくなり始めていた。

 私は蝶みたいに美しくはなくて、蛾のような醜い存在ではあるけれども。悦んでくれて嬉しいわ。

 そんなことを思いながら、私は口付けを続ける。
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