リュドミラの恋占い~身代わりの花嫁は国王陛下の番となる~

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ある第二王妃の独白

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 青白い月明かりに照らされた寝室は、暖かな季節だというのにとても寒く感じられた。

 ベッドの上に目を閉じて横たわっているのは、最愛の夫であるドミトリー。しかし彼が起きることは、おそらくもう二度とない。

 ドミトリーが乗馬中の事故により首の骨を折ってしまったのが、昨日の昼間のこと。それから彼は、ずっと意識を失ったままだ。大国の王が一つの不運に見舞われたことにより死にかけているなど、にわかには信じがたいことである。

 医師も手を尽くしてくれたものの、彼が目を覚ますことはなかった。奇跡的に意識を取り戻したとしても、重い後遺症が残る可能性が高いと、医師は告げたのだった。

 本来は健康的な肌色であるはずの愛しい顔は、酷く青ざめている。そしてその呼吸も、段々と弱くなっている気がした。

 そんな彼の手をしっかり握っているのは、彼の妻であり私の親友のアンジェリカ。ベッドの横に置いたイスに座ったまま、彼女は泣き疲れて眠ってしまっていた。私が肩に毛布を掛けても起きなかったので、よほど疲労が溜まっていたのだろう。親友の泣き腫らした顔を見ると、胸が潰れるような苦しさを感じた。

 国王一人に王妃二人の状況を夫婦と呼んで良いのかは分からないが、私達は仲の良い夫婦だったと思う。

 五年前、アンジェリカと私はこの国に王妃として迎え入れられた。彼女とは衝突することも多々あったが、和解してからは楽しい思い出ばかりである。親友となってからはずっと、私たちは支え合って生きてきたと言っても過言ではない。

 ドミトリーとアンジェリカは二人の子をもうけたものの、子供たちはまだ幼い。王太子のセルゲイですらまだ四歳になったばかりだ。

 もしドミトリーが亡くなった場合、セルゲイが王位を継ぐものの、それを周囲の国々が認めないのは明白だ。理由をかこつけて王位継承権を主張して来るのは、安易に想像ができることだ。

 そう。だからこそ、ドミトリーがここで死ぬ訳にはいかないのだ。

「まだ貴方には、生きてもらわねばならぬのですよ。ドミトリー様。大切な家族と……この国を守るために」

 そんなことを呟きながら、私は膨らんだ自らの腹をさすった。そこは、まだ見ぬわが子が眠っている場所である。

 国を守るために行動できるのは、この場にいる私だけ。しかしそれは、わが子と過ごせる時間の大半を失うことと同義であった。王妃であると言えど、一人の人間としての迷いももちろん存在した。

 ずっと私は、子供を生み育てるのが夢だった。妊娠するまでかなり時間がかかったけれども、妊娠したと分かった時は、飛び上がるほどに嬉しかった。そんな私を、ドミトリーもアンジェリカも心から祝福してくれたのだった。

 反抗期の子とたくさん喧嘩したり、立派に育った子の晴れ姿を見て結婚式で大泣きしたり。これから起こるであろうことを想像しては、心を躍らせていた。……だがそれも、この先きっと叶わないだろう。

 これから生まれるわが子と長く一緒にいたいという感情を、大切な夫と親友、そしてその子供たちを助けたいという気持ちで必死に押しとどめる。できるだけ何も考えないように、私は深く深呼吸した。

 一個人の感情で、判断をねじ曲げてはならない。

 私はこの国の、第二王妃なのだから。

 自分ができることは、ドミトリーを救うこと……そして、限られた時間の中でわが子を立派に育てることだ。しっかりと育てて、夫と親友に託さねばならないのだ。きっと彼らならば、私が居なくなったあとも子の力となってくれるに違いない。

「ドミトリー様、アンジェリカ。……わが子をよろしくお願いします。そして……どうか、私めのわがままをお許しください」

 子を残して先立つなど、親として無責任と言われても仕方のないことだ。今の時点で子を堕ろす選択をするのが、周囲への負担を軽くするという上では最善だろう。

 しかし。残念ながら私は、そこまで賢明な判断ができる女ではなかった。わが子に一目会いたいと、その望みだけは捨てきれなかったのだ。

 不思議と、心は落ち着いていた。それはきっと、私の中で覚悟が決まったからだろう。

「……少し、失礼しますね」

 そう言ってから、私は夫の頬にキスをした。
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