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「太陽のように大地に恵みをもたらすことのできない者が王になるなど、本当に馬鹿げた話だ」

「私は……この模様が好きですけれども」

「ふっ、褒めてくれるのはお前だけだろうな」

 そう言ってギリェルメは軽く笑った。

 全てを取り払い、二人を阻むものは全て消えた。言い換えれば、自分を守るものは何も無い。

「毎夜お前の泣き叫ぶ声を聞くはめになると思っていたが、分からんものだな……レティシア?」

 二人分の夜着をベッドの端に放り投げてから、ギリェルメは私の耳たぶを噛んだ。

 顔を傾けたことにより、彼の耳飾りがしゃらりと音を立てる。長い棒状の飾りが三つ並んで耳たぶに光っており、彼が動く度にそれらはぶつかり合って音を奏でるのだった。

 そしてその音を私が聞くのは、決まって情事の時である。

「耳飾り、痛くないか」

「はい。もう慣れましたわ」

 そして私の片耳にも、同じ耳飾りが付いている。この国では、結婚する際に花婿は花嫁に耳飾りを半分分け与えるという風習がある。私も初夜に、彼から耳飾りを渡されたのである。

 ところが彼は最初、私に耳飾りを付けなくても良いと言った。あくまで風習であり義務では無いからと。自国のしきたりに従って欲しいと言うならまだしも、従わなくて良いと言われるのは意外だった。

「痛かったら、いつでも外せば良い」

「大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」

 たとえ痛かったとしても、外す気は無い。外すくらいなら、まず耳に穴は開けない。……そうとは言わず、私はただ微笑んだ。

「ん……っ、」

 私の両脚を自らの脚で挟み込み、下腹部が密着した状態でギリェルメは愛撫を始めた。日に焼けた手足とそうでない手足が交わる光景は、まるで色の異なる糸が絡まり合っているようにも思える。

 熱を呼び起こすような刺激に身体をびくつかせるものの、当然彼は私を逃がしてはくれない。

「ん……野蛮な獣に抱かれるのにも、もう慣れたか」

「……ぁ、……ん、」

 時折、彼は自らのことを獣だと言う。確かに、琥珀色の瞳は豹を彷彿とさせるけれども、その言葉は不似合いであると毎回私は感じていた。

 獣と呼ぶには、彼はあまりにも美しすぎるのだ。

 一目見た時から、私は彼に心を奪われていた。野蛮などとは微塵も思わず、精悍な顔ばせに強烈に惹き付けられた。自分の手を汚すこと無く、植民地支配により暴利を貪るアルヴィリ国王の方が、余程野蛮で醜いとすら感じていた。

 否定の言葉を口にしようとするが、それより先に彼は言葉を続ける。

「は……、レティシア、この肌も髪も何もかも、本当に美しい。この国に嫁に出した奴の気が知れない位だ」

「ふふっ」

 暗にアルヴィリ国王を貶す彼の一言に、つい笑ってしまった。暴君に傷付けられた者同士、私達は妙に気が合うのだった。

 私が喘ぐ度、ギリェルメはひたすらに愛の言葉を口にする。夫婦となったばかりの頃は淡々と事に及んでいたものの、いつの間にか甘やかな言葉が囁かれるようになっていた。

 私のことを、彼はこれ以上無い程に大切に扱ってくれるのだ。

 恵みの雨のように降り注ぐ甘言を耳にして、秘花にじわりと蜜が滲んでいく。
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