おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章①】廃界突入編

第191話  騎士団長会議

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 オロム王都はすっかり夜の闇に包まれていた。

「大丈夫だったか、トリストン」
「うん」

 トリストンと合流した颯太は無事を確認すると脱力したのかその場にへたり込んだ。
 到着する前、周囲に炎が夜風に揺れていたことから、ここでトリストンと焔竜ニクスオードが戦闘をしたと悟った颯太は血の気が引いた。
 脳裏にエルメルガとメアの戦闘がフラッシュバックされ、トリストンも負傷したのではないかと心配したが、ほぼ無傷であったため安堵した結果――足腰から急に力が抜けてしゃがみ込んでしまったのだった。

「本当によかったよ、何もなくて」
「何もないわけじゃないよ」
「え?」
「パパに教えたいことが――」

 そこから、トリストンは乱入してきたエルメルガから聞いた情報を颯太に伝える。

「……ナインレウスが」

 衝撃だったのはやはりナインレウスに関しての情報だった。
 エルメルガはナインレウスがこの場にいる竜人族以外の能力はすべて奪ったと語った――それはつまり、ナインレウスはかなりの数の能力を有していることにつながる。

 颯太は王都内に作られた即席の連合竜騎士団本部テントで次なる作戦を立てているルコードたちのもとを訪れた。見張りの兵士に事情を話して通してもらうと、

「っ!」

 思わず息を呑んだ。
 動物革で作られた防寒性能抜群のペルゼミネ製テント内には、各国の竜騎士団長が円卓を囲んで作戦会議を続けていた。その威圧感というか迫力というか――とにかく、一般人の颯太からするとその場に立っているだけで冷や汗がにじみ出てくるほどであった。

「何かあったのか?」

最高指揮官であるルコードの言葉で我に返った颯太は、トリストンから得た情報を伝えた。

「ふむぅ……すでに竜人族はここにいる者たちのみか」

 髭を撫で回しながら、ハルヴァ竜騎士団長のガブリエルが言う。その横から、

「では、竜王選戦はすでに終盤――敵の竜人族の狙いは絞られてくるな」

 ガドウィン竜騎士団長のサリアス・マクスウェルが続いた。

「確認できている限り、残っている向こうの竜人族は雷竜、焔竜、奪竜の3匹か」

 ダステニア竜騎士団長のヤン・フィッセルがそうまとめると、ルコードが割って入る。

「敵の――竜人族に関しては竜王選戦が狙いだろうから、こちらの竜人族を狙ってくるだろうと推測される。……問題は、我々の最終目標である魔族精製の秘密を握る黒幕が別にいる可能性が高い点だ」
「恐らく、その黒幕が竜人族たちをうまく乗せてこちらと敵対させるよう仕向けているのでしょうな。トリストンがエルメルガから聞いたという話によれば、魔族精製の謎はオロム城にあるようですし、我々連合竜騎士団の最終決戦地はオロム城で決まりですな」

 ガブリエルの言葉に、ルコードは頷くことで肯定の意思を伝えた。
 
「すでに敵の竜人族のうち、奏竜と磁竜の2匹は戦闘不能に追い込んだ。それは間違いないんだな」
「はい。実際に対峙した2匹が生還していることからも、それは間違いないでしょう」

 颯太がトリストンと合流してすぐに、オロム王都へ樹竜キルカジルカと鎧竜フェイゼルタットが到着した。2匹は軽く負傷こそしていたが心身ともに正常で、自分たちの戦果を颯太に報告――それを颯太は一言一句漏らさず、ルコードが合流してすぐに伝えていた。

「ソータくん、トリストンは他に何か言っていなかったか?」
「……これはトリストンの発言から自分が導き出した推測なのですが、雷竜エルメルガに関しては――揺れ動いているように思えます」
「揺れ動いている、とは?」
「エルメルガは古い付き合いのあった銀竜メアンガルドの心境の変化に驚いていて、、僕が洗脳したのではないかと疑うほどでした」

 洗脳という言葉に、周りは一瞬ざわついたが、すぐに颯太がそのようなマネをする人間ではないと思い出して言葉を呑み込んだ。

「それで、揺れ動いているというのは、具体的にどのような変化だと思う?」
「理由はわかりませんが、雷竜エルメルガは人間に対して好意的な感情を抱いていたわけではないようです。かつての銀竜も同じでしたが、今はハルヴァ竜騎士団の一員として今回の討伐作戦にも参加している――それが信じられないようでした。2匹はかつてライバル関係であったそうなので、それも要因になっているのではないか、と」
「そうか……」

 ルコードは腕を組み、何事か熟考。
 他の竜騎士団長も明日の作戦を練るために意見交換を開始した。

「貴重な情報をありがとう、ソータ殿」
「い、いえ、そんな」

 颯太はガブリエルから感謝の言葉を贈られて照れ笑い。
 自分の能力がまた、この世界を平和に一歩近づけることができた――颯太にはそれが嬉しかった。

 騎士団長たちの会議をあとにして外に出ると、湯気の立つコップを持ったブリギッテが待ち構えていた。

「お疲れ様、はいどうぞ」
「おぉ、ありがとう」

 夜風が身に染みる気温――季節でいえばまだ春先といったところなので、まだまだ寒さを感じるため、温かいコルヒーは非常にありがたい。

「いよいよ明日が最後の決戦になりそうね」
「ああ……そうだな」
「何よ、他人事みたいな言い方ね」
「あ、いや、なんていうか、その……こういう大舞台っていうのは経験がなくて」
「ソランの内乱やハルヴァ舞踏会、それにレイノアでの戦いを経験しておいて何を言っているのよ」

 ブリギッテにそう指摘されて、颯太はこれまでの戦いを思い出した。
 いずれも、国家の危機を救う重要な戦い――意識をしていなかったが、竜の言霊を得て以降の颯太はすでにいくつもの大舞台を経験していたのだ。

「ははは……なんていうか、全然実感がなくて」
「本人に自覚がなくても、周りの人間はしっかり評価してくれているわ。現に、今、世界の命運を握る最後の戦いの最前線にいるんだもの」
「評価、か……」

 これまでの人生を振り返って――厳密に言えば、この世界に来る前の人生において、他者からそんなふうに評価されたことはなかった。

「? 何?」
「なんでもない。明日も早いから、これ飲んだらもう休もうか」
「そうしましょう。――ねぇ」
「うん?」
「明日――がんばりましょうね」

 ブリギッテが差し出した手を、颯太は笑顔を浮かべて握る。
 自然とつながった握手。

 最後の戦いを前に、颯太は気を引き締めてコルヒーを飲み干した。
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