おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章②】竜王選戦編

第193話  突破

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 オロム城の包囲網は着々と敷かれていった。

 四方から連合竜騎士団と竜人族たちが城周辺に群がる魔族たちを蹴散らしていき、目標ラインに到達すると信号弾で本命部隊へ突入の機会を知らせた。

「よし、ここまでは予定通りだな」

 西側から打ち上げられた2つ目の信号弾を確認したルコードは、各国の主力で構成された本命部隊に出撃命令を下した。
 その部隊の中には颯太とブリギッテの姿もあった。

「君たちの働きにも期待しているぞ」
「俺にやれることならなんでもしますよ」
「私も同じ気持ちです」

 非戦闘要員でありながら、竜の言霊を持つ颯太は情報収集役として欠かせない存在。
 ブリギッテも、負傷したドラゴンたちのケアのため、本命部隊に同行する。アムやオーバでなく、ブリギッテが指名された背景には、主力部隊にハルヴァの竜人族が多いというのもあるが、ガブリエルの「タカミネ・ソータとの相性を考慮すると彼女が適任」という一声で決定したのだった。

 そのガブリエルは東側の部隊を率いて魔族と交戦。
 死竜カルムプロスを含む陸戦と空戦型ドラゴンの混成部隊は、人々を恐怖のどん底へ叩き落とした魔族たちを次々と打ち破っていった。

「ここまで調子がいいと爽快だな」

 連合騎士団の快進撃に、本命部隊入りをしているハドリーもニヤリと笑う。
 とはいえ、まだ相手の主力――雷竜、焔竜、奪竜の3匹はまだ姿を現していない。もしかしたら、その3匹以外にも敵側に竜人族が加担している可能性もあるため、まだまだ予断を許さない状況が続いている言って過言ではない。

「あとは北側だが……む?」

 オロム城正門の反対側――自然公園のようになっているそこを攻略しているガドウィンのサリアス騎士団長が指揮を執る部隊からの連絡を待っていると、その北側から白煙が上がってきた。

「! なんだ?」

 白煙に気がついたルコード。
 その珍しく慌てた様子に、颯太とブリギッテも不安になった。
 直後、
 
 ズン! ズン! ズン!

 地鳴りのような音と震動が颯太たちへ近づいてくる。
 まるで、巨大な物体を激しく地面に叩きつけたような感覚だ。
 さらに、バキバキと不快な音を立てて、枯れている木々が薙ぎ倒されていった。

「敵ですか!?」
「そのようだが……あれは」

 ルコードは言葉を失った。
 城の反対側から姿を現したのは――巨大な魔族だった。

「で、デカい!?」

 体長は7、8mくらいだろうか。
 外見はいわゆるオークと呼ばれるタイプの魔族だが、その大きさは規格外で、その足元では北側に展開する騎士たちが必死に応戦しているが、その攻撃はノーダメージ――まったく意味を成していなかった。

「あのような巨大な魔族……これまでに見たことがない」

 ハドリーも呆然とその巨体を眺めていた。
 これまで何度も魔族と戦闘をしているベテランのハドリーでさえ、あれほど巨大な魔族を見るのは初めてだった。

「る、ルコード指揮官! どうしますか!?」

 騎士のひとりが問う。
 ルコードは――苦渋の決断を迫られていた。

 ここでやってはいけないこと――それは「援護に向かう」だ。

 こちらは最終決戦のために編成された中心戦力。
 その部隊なら、あの大型魔族相手でも問題なく倒せるのだろうが、あくまでもこの部隊は決戦用戦力であるため、できることなら敵の主力とぶつかり合うまで消耗を避けておきたいというのが本音だ。

 しかし、あの場では今も多くの騎士が命の危機に晒されている。

 百戦錬磨のルコードとしても、非情の決断を迫られるという事態は十分想定していた。この戦いに赴く前にも、全体の前でそうなる事態も考えられるという話はしている。

 この廃界に乗り込んでくる決意を固めた騎士たちは、命を落とすかもしれないという危険性が伴うと知りながらも参戦している――ここは、その決意を信じ、グッと堪えて敵の本命との戦闘に備えるべきだとルコードは決断した。

「うおぅ!?」
「ぐわぁ!?」

 ――それでも、騎士たちの悲鳴に近い声を耳にすると、決心に鈍りが生まれる。あの悲鳴の中にはペルゼミネの騎士のものもあるだろう。それこそ、ルコードと親しい竜騎士のものかもしれない。

「くっ……」

 だが――ここは覚悟を決める場面だ。
 すでに東西のポイントは連合竜騎士団が占領した。

 あとは一点突破でオロム城を落とせばそれで終わる。
 この難攻不落の要塞を落とせば。


「いくぞ! 全軍オロム城へ向けて出撃!!」


 ルコードはオロム城へ進撃する指示を飛ばす。
 その時、


「~~♪」


 歌だった。

「この声は……ノエルか!」

 颯太の言う通り、歌っているのは歌竜ノエルバッツだった。その歌の効果により、超大型の魔族オークは地面に膝をつく。
 人間やドラゴンにはまったく影響がない。
 ただ、魔族だけに効果を発揮しているようだ。
 これもまた、演習や訓練で能力を鍛え上げた成果だろう。

「いいぞ! 歌竜に続け!」

 心配事が減ったことで、主力部隊の騎士やドラゴンたちも高い士気を維持したままオロム城へと突撃していく。だが、

「ゴアアアッ!」

 主力部隊の背後――王都中心部方面から先ほど暴れていたものと同じ超大型タイプの魔獣が3匹も同時に襲いかかって来た。

「怯むな! 突き進め!」

 振り返って迎え撃っている暇はない。
 ここは突進して城内へと雪崩れ込んで引き離すしかないと判断した。
 しかし、敵はあっという間に主力部隊と距離を詰めて来る。
このままでは衝突は避けられないというところで、「ドン!」という爆発音が周辺に響き渡った。

「! 今度は何があった!」

 先頭を進みながらも背後から聞こえる不穏な音にルコードが振り返る。
 見ると、襲いかかって来た魔獣の足元から爆炎が上がっており、その魔獣が地面へと勢いよく倒れ込んだ。

「一体何が起きたんだ!?」

 馬車の中から見守っていた颯太も、状況を正確に把握しきれていなかった。ともかく、何かが爆発し、魔獣がそれによって負傷――その場に崩れたという格好らしい。
 問題はその爆発を起こした者が何者かであるのだが、

「! あれは!?」

 同じ馬車に乗り、窓から外を見ていたブリギッテが何か気がついて叫んだ。

「ど、どうしたんだ!?」
「今チラッとあの魔獣に向かって走っていく人がいたんだけど……あれは騎士じゃないわ」
「騎士じゃない? じゃあ誰だって言うんだ?」
「…………」

 ブリギッテはしばし沈黙した後、

「あれは恐らく――ミラルダ・マーズナー?!?」

 その名を口にした。
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