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【最終章②】竜王選戦編
第195話 第1の城門
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オロム城へと続く道は、敵の侵入速度を防ぐ目的からか、複雑に入り組んでおり、まるで迷路のようであった。
その道を進んでいくと、
「あれが第1の門か……資料にあった通りだな」
馬車から先頭へと戻ったルコードの前に現れたのは、かつてこの城の守っていた巨大な門であった。まだオロムという国家がまともに機能していた頃は堅い守りを誇っていたのであろうが、それも今となってはただ大きいばかりでなんの役にも立っていない有様だ。
「閉ざされたままだったら少し厄介だったが……開け放たられていて助かった」
ルコードのすぐ後ろにつけるハドリーが思わず本音を漏らす。
堅い守りの門も、今はむしろ迫り来るものを歓迎せんばかりに大きく口を開いていた。
「よし! 全軍このまま突っ込むぞ!」
連合竜騎士団が勢いのままに第1の門を突破――した直後だった。
その勢いを削ぐように、真っ赤な炎が地面を走っていく。
「待っていたよ」
腕を組み、門の向こうで待っていたのは焔竜ニクスオードだった。
その場所は造りを見るに以前は庭園であったようだが、ニクスオードの放つ炎が花や木を燃やし尽くしてしまったため、今となっては炎と灰が漂う地獄のような光景へと様変わりをしていた。
「僕に傷をつけた罪を償ってもらうよ――そこの君たち。ついでに他の騎士たちにもここで灰になってもらうとしよう」
ニクスオードの全身を包む炎の色が、赤から青に変わった。
向こうは最初から全力で戦うつもりだ。
「どうやら敵さんは俺たちを指名しているようだな。ソータでなくても、あそこまで露骨に敵意を向けられたらいやでもわかる」
傷をつけた張本人であるハドリーは、ニクスオードの言葉を理解できなくても、その矛先が自分たちへ向けられているのは感じ取っていた。
そのおかげで、ルコードたち先頭集団はニクスオードを素通りして第2の門へ向けて進むことができた。颯太の乗る馬車も、城内へ侵入し、魔族精製の秘密を暴くため、ルコードたちについていった。
残ったのはハドリーと少数の騎士及びドラゴンたち。
「売られたケンカは買うしかねぇよな?」
イリウスは、自分の言葉がハドリーに届かないと知っていながら声をかけた。
だが、ハドリーは、
「おまえのことだ。どうせ売られたケンカは買うしかないって思ってんだろ?」
「! ハドリー……」
イリウスの気持ちはハドリーに伝わっていた。
「ハドリーさん!」
馬車の窓から身を乗り出して叫ぶ颯太に、ハドリーはサムズアップをし、
「先に行け! 俺たちは後から追いかける!」
「おまえたちだけでは不安だ。手を貸そう――同志イリウスよ」
そこへ、鎧竜フェイゼルタットも名乗りをあげてイリウスの隣に立つ。
「同志ソータ。必ず魔族精製を食い止めるのだぞ」
「ああ! 任せておけ!」
フェイゼルタットに心配かけまいと、颯太は笑顔で応えた。
今やフェイゼルタットは立派な連合竜騎士団の最重要戦力。こういった大事な場面での出番は自ずと増えてくるだろう――ただ、魔族がいなくなり、竜王選戦もなくなれば、そういった不安もなくなるが。
そのためにも、自分がしっかりしなくてはいけない。
颯太は気を引き締めて前を見た。
「どうやら役者は揃ったようだね。影竜と再戦できないのは残念だけど、奏竜ローリージンを倒した君となら楽しい戦いができそうだ」
焔竜ニクスオードはニタリと口角を上げた。
「随分と期待されているようだな。――いいだろう。その期待に応えてみせる」
「おいおいお嬢ちゃん。俺たちもいるってことを忘れないでくれよ」
「だが、同志イリウス……」
「おまえの足は引っ張らない。俺たちが援護する」
そう言ったのはハドリーだった。
そして、俺たちと言うのは、
「そうだ! 人と竜人族が協力すれば敵なしであると教えてやる!」
「敵もまた竜人族! 我らに味方する竜人族たちと同様、説得をすればきっとわかり合えるはずだ!」
連合竜騎士団はニクスオードを傷つけるというより、説得するつもりのようであった。それはひとえに颯太から伝え聞いたエルメルガの心境の変化が大きく関わっているのだが、
「……協力?」
吐き捨てるように言って、ニクスオードはギリッと噛みしめる。
心が揺らぎ始めているエルメルガと比べると、ニクスオードの人間の怒りのボルテージはまるで収まる気配がない。
「フェイゼルタット、イリウス――君たちは純粋に、心から人間を信頼し、彼らに加担しているというのか?」
立ちはだかっていたイリウスとフェイゼルタットに問う。
「何か弱みを握られているのであれば隠すことなく言ってくれ。この場にタカミネ・ソータはいないから、人間たちに僕らの会話が漏れることはない」
「「…………」」
フェイゼルタットとイリウスは反応を示さない。
即ち、答えは「NO」――2匹は心から人間を信頼し、人間と共に生きていく未来を自らの意思で選び、ニクスオードと戦おうとしていた。
「人とドラゴンの未来のためにも……ここは負けられない一戦だぜ、ペルゼミネのお嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃんはやめてくれ。……それと、言われなくてもわかっている。一緒に戦えばきっと勝てる」
「当然だ!」
イリウスとフェイゼルタットは揃って吠えた。
ビリビリと肌を刺す咆哮に、周りの騎士やドラゴンたちも呼応するように叫ぶ。
「気合は十分というわけか」
ゴオッ!
ニクスオードを取り巻く青い炎は、昂っている感情に比例しているかのごとくその激しさを増した。
「さて……始めるとするか」
その道を進んでいくと、
「あれが第1の門か……資料にあった通りだな」
馬車から先頭へと戻ったルコードの前に現れたのは、かつてこの城の守っていた巨大な門であった。まだオロムという国家がまともに機能していた頃は堅い守りを誇っていたのであろうが、それも今となってはただ大きいばかりでなんの役にも立っていない有様だ。
「閉ざされたままだったら少し厄介だったが……開け放たられていて助かった」
ルコードのすぐ後ろにつけるハドリーが思わず本音を漏らす。
堅い守りの門も、今はむしろ迫り来るものを歓迎せんばかりに大きく口を開いていた。
「よし! 全軍このまま突っ込むぞ!」
連合竜騎士団が勢いのままに第1の門を突破――した直後だった。
その勢いを削ぐように、真っ赤な炎が地面を走っていく。
「待っていたよ」
腕を組み、門の向こうで待っていたのは焔竜ニクスオードだった。
その場所は造りを見るに以前は庭園であったようだが、ニクスオードの放つ炎が花や木を燃やし尽くしてしまったため、今となっては炎と灰が漂う地獄のような光景へと様変わりをしていた。
「僕に傷をつけた罪を償ってもらうよ――そこの君たち。ついでに他の騎士たちにもここで灰になってもらうとしよう」
ニクスオードの全身を包む炎の色が、赤から青に変わった。
向こうは最初から全力で戦うつもりだ。
「どうやら敵さんは俺たちを指名しているようだな。ソータでなくても、あそこまで露骨に敵意を向けられたらいやでもわかる」
傷をつけた張本人であるハドリーは、ニクスオードの言葉を理解できなくても、その矛先が自分たちへ向けられているのは感じ取っていた。
そのおかげで、ルコードたち先頭集団はニクスオードを素通りして第2の門へ向けて進むことができた。颯太の乗る馬車も、城内へ侵入し、魔族精製の秘密を暴くため、ルコードたちについていった。
残ったのはハドリーと少数の騎士及びドラゴンたち。
「売られたケンカは買うしかねぇよな?」
イリウスは、自分の言葉がハドリーに届かないと知っていながら声をかけた。
だが、ハドリーは、
「おまえのことだ。どうせ売られたケンカは買うしかないって思ってんだろ?」
「! ハドリー……」
イリウスの気持ちはハドリーに伝わっていた。
「ハドリーさん!」
馬車の窓から身を乗り出して叫ぶ颯太に、ハドリーはサムズアップをし、
「先に行け! 俺たちは後から追いかける!」
「おまえたちだけでは不安だ。手を貸そう――同志イリウスよ」
そこへ、鎧竜フェイゼルタットも名乗りをあげてイリウスの隣に立つ。
「同志ソータ。必ず魔族精製を食い止めるのだぞ」
「ああ! 任せておけ!」
フェイゼルタットに心配かけまいと、颯太は笑顔で応えた。
今やフェイゼルタットは立派な連合竜騎士団の最重要戦力。こういった大事な場面での出番は自ずと増えてくるだろう――ただ、魔族がいなくなり、竜王選戦もなくなれば、そういった不安もなくなるが。
そのためにも、自分がしっかりしなくてはいけない。
颯太は気を引き締めて前を見た。
「どうやら役者は揃ったようだね。影竜と再戦できないのは残念だけど、奏竜ローリージンを倒した君となら楽しい戦いができそうだ」
焔竜ニクスオードはニタリと口角を上げた。
「随分と期待されているようだな。――いいだろう。その期待に応えてみせる」
「おいおいお嬢ちゃん。俺たちもいるってことを忘れないでくれよ」
「だが、同志イリウス……」
「おまえの足は引っ張らない。俺たちが援護する」
そう言ったのはハドリーだった。
そして、俺たちと言うのは、
「そうだ! 人と竜人族が協力すれば敵なしであると教えてやる!」
「敵もまた竜人族! 我らに味方する竜人族たちと同様、説得をすればきっとわかり合えるはずだ!」
連合竜騎士団はニクスオードを傷つけるというより、説得するつもりのようであった。それはひとえに颯太から伝え聞いたエルメルガの心境の変化が大きく関わっているのだが、
「……協力?」
吐き捨てるように言って、ニクスオードはギリッと噛みしめる。
心が揺らぎ始めているエルメルガと比べると、ニクスオードの人間の怒りのボルテージはまるで収まる気配がない。
「フェイゼルタット、イリウス――君たちは純粋に、心から人間を信頼し、彼らに加担しているというのか?」
立ちはだかっていたイリウスとフェイゼルタットに問う。
「何か弱みを握られているのであれば隠すことなく言ってくれ。この場にタカミネ・ソータはいないから、人間たちに僕らの会話が漏れることはない」
「「…………」」
フェイゼルタットとイリウスは反応を示さない。
即ち、答えは「NO」――2匹は心から人間を信頼し、人間と共に生きていく未来を自らの意思で選び、ニクスオードと戦おうとしていた。
「人とドラゴンの未来のためにも……ここは負けられない一戦だぜ、ペルゼミネのお嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃんはやめてくれ。……それと、言われなくてもわかっている。一緒に戦えばきっと勝てる」
「当然だ!」
イリウスとフェイゼルタットは揃って吠えた。
ビリビリと肌を刺す咆哮に、周りの騎士やドラゴンたちも呼応するように叫ぶ。
「気合は十分というわけか」
ゴオッ!
ニクスオードを取り巻く青い炎は、昂っている感情に比例しているかのごとくその激しさを増した。
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