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【最終章②】竜王選戦編
第196話 ハドリーの決意、イリウスの覚悟
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ハドリーは剣を構えた。
明確な勝算はない。
あわよくば、東西側の部隊が合流して戦力増強――というのが理想的な展開ではあるが、超巨大魔獣の脅威はまだ消えておらず、城外でも激しい攻防が続いている。
援軍は望めない。
この場にいる面子で、目の前にいる焔竜ニクスオードを倒すしかない。
その勝負の鍵を握るのは間違いなく鎧竜フェイゼルタットだ。
コキコキと首を鳴らして戦闘態勢に入るフェイゼルタット。
周りの騎士たちは気づいていないが、フェイゼルタットは飢えていた。誰にも語っていないが、奏竜ローリージンとの戦いは彼女的に不完全燃焼はもので、メアを倒したという雷竜との戦いを望んでいた。
残念ながらそれは叶わなかったが、目の前に現れた炎を操る焔竜――その実力は雷竜にも匹敵すると感じた。
だが、連合竜騎士団の一員として、人々やドラゴンたちの生活を脅かす魔族の存在を疎ましく思っているのもまた事実だ。
フェイゼルタットは祖国の民を心から愛している。
正直なところ、竜王という座に興味など毛ほどもないが、その座を争っている他の竜人族たちが、祖国の民を危険な目に遭わせる魔族を生み出したものと結託して襲いかかってきているというなら、蹴散らすほかないと腹を括っていた。
初戦の相手である奏竜は問題なく倒せた。
――だが、この焔竜は一筋縄ではいかないだろう。
対峙しただけで、フェイゼルタットはニクスオードの高いポテンシャルを見抜いていた。
「君の能力は知っているよ、鎧竜」
「貴様の能力は随分とわかりやすいな。おかげで対策が練りやすくて助かるよ」
「対策?」
ボォッ!
まるで火山が噴火するように、ニクスオード包む炎が一瞬だけ膨れ上がった。
「防げると思っているのかい? ――この僕の炎を?」
「やって見せるさ」
「そうかい」
短く答えて、ニクスオードは小手調べとばかりにまとう炎をフェイゼルタットへ向かって放った。
対して、フェイゼルタットは腕を組んだまま仁王立ち。
避ける気ゼロの体勢で炎を受け止めると、
「はあっ!」
青白い炎を弾き飛ばした。
「どうやら貴様の炎では私の体を焼き切ることは不可能のようだな」
「……生意気だね、君」
唯一の攻撃手段である炎も、鎧竜フェイゼルタットの能力の前では無意味だったようだ。だが、それにしては、
「これは困ったね……さあ、どうしようか」
口ではそんなことを言っているが、明らかに表情からは余裕が窺えた。
「まだ何か隠し持っているか……」
確認するように、フェイゼルタットは呟く。
一方、その炎に散々苦しめられたイリウスは複雑な気持ちで戦況を見つめていた。
「ったく、やんなっちまうよなぁ……これほどまでに通常種との能力差をまざまざと見せつけられちゃあよぉ」
メア、ノエル、キルカ、トリストン――皆、イリウスよりずっと年下だが、恐らく誰ひとりとしてイリウスは勝てないだろう。戦闘経験だけでは埋められないほど広がった能力差に、乾いた笑いが込み上げてくる。
だが、
「イリウス、いつでも仕掛けられるよう気を張っておけよ」
背に乗ったハドリーにそう声をかけられ、イリウスは目を見開いた。
ハドリーは自分を信じている。
圧倒的な能力差を痛感させられる戦いを目の前で繰り広げられてなお、ハドリーは通常種である自分の力を信じ、フェイゼルタットを助けるため、いつでも戦いに参加できるよう集中していた。
「ハドリー……」
思えば、8年ほど前――初めてタッグを組んだ時もそうだった。
あの頃はまだ髪の毛もあったし、今ほどムキムキじゃなかったが、ドラゴンを信じて共に戦おうという気概は今も変わらない。
そんなハドリーの思いに触発されて、
「俺としたことが……ここへ来て怖気づくとはどうかしていたぜ」
イリウスはいつもの調子を取り戻す。
と、
ズダァン!
強烈な物音に、イリウスとハドリーはびっくりしながら視線を移す。
そこには、城壁に体を叩きつけ、ぐったりとしているフェイゼルタットの姿があった。
「! お、おい! 鎧竜!?」
「ぐぅ……案ずるな。少々油断した。問題はない」
口ぶりとは裏腹に、立ち上がったあともふらふらと足元がおぼつかない。
「あの鎧竜を相手に……マジになった焔竜は相当ヤバそうだな」
相変わらず不敵な笑みを浮かべるニクスオードに、ハドリーとイリウス――そして、この場に残った連合騎士団のメンバーは気を引き締めて構えた。
明確な勝算はない。
あわよくば、東西側の部隊が合流して戦力増強――というのが理想的な展開ではあるが、超巨大魔獣の脅威はまだ消えておらず、城外でも激しい攻防が続いている。
援軍は望めない。
この場にいる面子で、目の前にいる焔竜ニクスオードを倒すしかない。
その勝負の鍵を握るのは間違いなく鎧竜フェイゼルタットだ。
コキコキと首を鳴らして戦闘態勢に入るフェイゼルタット。
周りの騎士たちは気づいていないが、フェイゼルタットは飢えていた。誰にも語っていないが、奏竜ローリージンとの戦いは彼女的に不完全燃焼はもので、メアを倒したという雷竜との戦いを望んでいた。
残念ながらそれは叶わなかったが、目の前に現れた炎を操る焔竜――その実力は雷竜にも匹敵すると感じた。
だが、連合竜騎士団の一員として、人々やドラゴンたちの生活を脅かす魔族の存在を疎ましく思っているのもまた事実だ。
フェイゼルタットは祖国の民を心から愛している。
正直なところ、竜王という座に興味など毛ほどもないが、その座を争っている他の竜人族たちが、祖国の民を危険な目に遭わせる魔族を生み出したものと結託して襲いかかってきているというなら、蹴散らすほかないと腹を括っていた。
初戦の相手である奏竜は問題なく倒せた。
――だが、この焔竜は一筋縄ではいかないだろう。
対峙しただけで、フェイゼルタットはニクスオードの高いポテンシャルを見抜いていた。
「君の能力は知っているよ、鎧竜」
「貴様の能力は随分とわかりやすいな。おかげで対策が練りやすくて助かるよ」
「対策?」
ボォッ!
まるで火山が噴火するように、ニクスオード包む炎が一瞬だけ膨れ上がった。
「防げると思っているのかい? ――この僕の炎を?」
「やって見せるさ」
「そうかい」
短く答えて、ニクスオードは小手調べとばかりにまとう炎をフェイゼルタットへ向かって放った。
対して、フェイゼルタットは腕を組んだまま仁王立ち。
避ける気ゼロの体勢で炎を受け止めると、
「はあっ!」
青白い炎を弾き飛ばした。
「どうやら貴様の炎では私の体を焼き切ることは不可能のようだな」
「……生意気だね、君」
唯一の攻撃手段である炎も、鎧竜フェイゼルタットの能力の前では無意味だったようだ。だが、それにしては、
「これは困ったね……さあ、どうしようか」
口ではそんなことを言っているが、明らかに表情からは余裕が窺えた。
「まだ何か隠し持っているか……」
確認するように、フェイゼルタットは呟く。
一方、その炎に散々苦しめられたイリウスは複雑な気持ちで戦況を見つめていた。
「ったく、やんなっちまうよなぁ……これほどまでに通常種との能力差をまざまざと見せつけられちゃあよぉ」
メア、ノエル、キルカ、トリストン――皆、イリウスよりずっと年下だが、恐らく誰ひとりとしてイリウスは勝てないだろう。戦闘経験だけでは埋められないほど広がった能力差に、乾いた笑いが込み上げてくる。
だが、
「イリウス、いつでも仕掛けられるよう気を張っておけよ」
背に乗ったハドリーにそう声をかけられ、イリウスは目を見開いた。
ハドリーは自分を信じている。
圧倒的な能力差を痛感させられる戦いを目の前で繰り広げられてなお、ハドリーは通常種である自分の力を信じ、フェイゼルタットを助けるため、いつでも戦いに参加できるよう集中していた。
「ハドリー……」
思えば、8年ほど前――初めてタッグを組んだ時もそうだった。
あの頃はまだ髪の毛もあったし、今ほどムキムキじゃなかったが、ドラゴンを信じて共に戦おうという気概は今も変わらない。
そんなハドリーの思いに触発されて、
「俺としたことが……ここへ来て怖気づくとはどうかしていたぜ」
イリウスはいつもの調子を取り戻す。
と、
ズダァン!
強烈な物音に、イリウスとハドリーはびっくりしながら視線を移す。
そこには、城壁に体を叩きつけ、ぐったりとしているフェイゼルタットの姿があった。
「! お、おい! 鎧竜!?」
「ぐぅ……案ずるな。少々油断した。問題はない」
口ぶりとは裏腹に、立ち上がったあともふらふらと足元がおぼつかない。
「あの鎧竜を相手に……マジになった焔竜は相当ヤバそうだな」
相変わらず不敵な笑みを浮かべるニクスオードに、ハドリーとイリウス――そして、この場に残った連合騎士団のメンバーは気を引き締めて構えた。
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