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【最終章②】竜王選戦編
第201話 変幻自在の能力
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「それで動きを封じたつもりかい? ――ナイン」
ランスローの言葉を受けて、ナインはかろうじて動かせる右腕を振る。
直後、あっという間にロープはズタズタとなって拘束を解いた。
「見えない斬撃……本当に厄介な技ね。でも、これなら!」
キルカジルカが先制攻撃を仕掛ける。
大量の植物が高波のようにナインレウスを襲う――が、ターゲットになっているナインレウスは動じる様子もなく、そっと手を横へ振る。
ズザッ! バスッ!
目に見えない斬撃がキルカジルカの能力によって生まれた植物たちを切り刻んでいく。
だが、それは想定の範囲内。
ナインレウスの能力は舞踏会の夜に把握済み。
ここは遮られるものだろうと予想していたキルカ――先制攻撃は撒き餌。本命は次の攻撃であった。
「そこっ!」
ボコボコッ!
地面から生えた2本の蔦が、ナインレウスの両腕に絡みつく。
「!?」
ナインレウスにとっては想定外の攻撃であったようで、蔦が腕に絡みついた瞬間に大きく目を見開いた。
「その厄介な斬撃は封じさせてもらうわ」
ナインレウスが斬撃を放つタイミングは腕を左右に振った時――言い換えれば、その腕を動けなくしてしまえば攻撃手段がなくなるというわけだ。
キルカの読みは正しかった。
両腕を蔦で封じられているナインレウスは何もできない。先ほどミラルダのロープをそうしたように、斬撃で蔦を切り刻まないところを見ても、それが正しいと証明している。
――しかし、それはあくまでもナインレウスが《斬竜》としての能力を発動している時に限定される。
「…………」
動きが封じられたナインレウスは、その状況から脱却するため新たな能力を発動させる。それは、
「! な、何なの!?」
キルカにとっては初めて目の当たりにする能力。
ドロドロに体を溶かして腕に絡みついていた蔦から脱出したナインレウス――哀れみの森で見せた酸竜としての能力を発動させたのだ。
「そんな能力も持っているのね……」
これがナインレウスの厄介な点。
相手の血肉を食らうことで、その能力を奪う《奪竜》――これにより、1匹で複数の能力を使用できる。
「まだまだ能力を隠し持っているようね」
苦笑いを浮かべるキルカジルカ。
相手が複数の能力持ちということは事前に聞かされていたが、実際に戦ってみるとここまでやりづらい相手とはという意味での笑みだった。
それでも、ここは自分が食い止めなくてはいけない。
ここにナインレウスがいるということは、敵側に残っている竜人族はエルメルガのみ。その相手をするのは、
「あの子がこのまま終わるわけがない……きっと、今頃こちらに向かってきているはず」
その「あの子」というのは――もちろん、銀竜メアンガルドだ。
キルカは知っている。
いつもはクールなメアの内に秘めた闘志。
演習を繰り返していく中で、キルカはそのことに気がついていた。いつもはノエルや最近加わったトリストンの手前、穏やかで落ち着いた雰囲気だが、意外と負けず嫌いなところがあるのだ。
「樹竜キルカジルカか……以前対峙した時よりもずっと強くなっているね」
戦いを見守っていたランスロー王子はキルカジルカの成長に驚きを隠せない様子だった。その横から、
「随分と余裕じゃないか」
ミラルダ・マーズナーが声をかける。
その手には剣が握られていた。
「殺り合うつもりかい?」
「ディームズ王家のランスロー・ディームズ――おまえの噂は至るところで耳にしている。その危険性……ここで始末しておかないと後々厄介なことになりそうだからな」
「物騒だね。さすがは暴君の異名を持つミラルダ・マーズナー……一代であそこまで牧場を大きくするだけのことはあるね」
「うるせぇ。悪行ってことなら俺のやって来たことなんぞおまえのそれと比べたら可愛いもんだろ」
「そう言われてもねぇ……僕だってむやみやたらに戦火を広げているわけじゃないのに」
「だが、ソラン王国のブランドン・ピースレイクやハルヴァのロディル・スウィーニー……彼らをけしかけたのはおまえだろう?」
「ほんのちょっと手伝っただけだよ。それに、その2人に関しては僕よりも僕の雇い主の意向が強くてね」
「雇い主だと? 何者だ、そいつは?」
「奇跡を実現させることができる人さ」
漠然とした表現をするランスロー。
だが、ミラルダにはその態度で黒幕を察することができた。
「魔女イネスか……」
オロムを魔法国家として世界の頂点へ導いた存在――その魔女が現代まで生き、牙をむけている。
「それも噂かい?」
「いや、こいつは俺の勘だ」
「ははは、鋭い勘だね」
煙に巻く態度のランスローに、ミラルダは苛立ちを隠せなくなってきていた。
「これ以上、世界に厄介事をばらまくマネはやめてもらおうか」
「嫌だと言ったら――力づくで止めるつもりかい?」
「奪竜が負けたくらいで引き下がるようなタマじゃないだろ?」
「ナインレウスが負ける? あり得ないね」
「そうかな?」
ミラルダは自信をのぞかせる。
その自信を証明するように、
「でやぁっ!」
キルカの植物を使用した一撃がナインレウスの腹部を捉え、そのまま壁へと叩きつけた。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちる壁。
直撃を受けたナインレウスは意識を飛ばされたのか、動く気配が見えない。
「キルカジルカはマーズナーの誇るエース――そう簡単には打ち破れんぞ」
元オーナーとして、キルカジルカの戦闘を現オーナーであるアンジェリカよりも長く見続けてきたミラルダだからこそ、キルカの勝利を信じて疑わないのだ。
ランスローの言葉を受けて、ナインはかろうじて動かせる右腕を振る。
直後、あっという間にロープはズタズタとなって拘束を解いた。
「見えない斬撃……本当に厄介な技ね。でも、これなら!」
キルカジルカが先制攻撃を仕掛ける。
大量の植物が高波のようにナインレウスを襲う――が、ターゲットになっているナインレウスは動じる様子もなく、そっと手を横へ振る。
ズザッ! バスッ!
目に見えない斬撃がキルカジルカの能力によって生まれた植物たちを切り刻んでいく。
だが、それは想定の範囲内。
ナインレウスの能力は舞踏会の夜に把握済み。
ここは遮られるものだろうと予想していたキルカ――先制攻撃は撒き餌。本命は次の攻撃であった。
「そこっ!」
ボコボコッ!
地面から生えた2本の蔦が、ナインレウスの両腕に絡みつく。
「!?」
ナインレウスにとっては想定外の攻撃であったようで、蔦が腕に絡みついた瞬間に大きく目を見開いた。
「その厄介な斬撃は封じさせてもらうわ」
ナインレウスが斬撃を放つタイミングは腕を左右に振った時――言い換えれば、その腕を動けなくしてしまえば攻撃手段がなくなるというわけだ。
キルカの読みは正しかった。
両腕を蔦で封じられているナインレウスは何もできない。先ほどミラルダのロープをそうしたように、斬撃で蔦を切り刻まないところを見ても、それが正しいと証明している。
――しかし、それはあくまでもナインレウスが《斬竜》としての能力を発動している時に限定される。
「…………」
動きが封じられたナインレウスは、その状況から脱却するため新たな能力を発動させる。それは、
「! な、何なの!?」
キルカにとっては初めて目の当たりにする能力。
ドロドロに体を溶かして腕に絡みついていた蔦から脱出したナインレウス――哀れみの森で見せた酸竜としての能力を発動させたのだ。
「そんな能力も持っているのね……」
これがナインレウスの厄介な点。
相手の血肉を食らうことで、その能力を奪う《奪竜》――これにより、1匹で複数の能力を使用できる。
「まだまだ能力を隠し持っているようね」
苦笑いを浮かべるキルカジルカ。
相手が複数の能力持ちということは事前に聞かされていたが、実際に戦ってみるとここまでやりづらい相手とはという意味での笑みだった。
それでも、ここは自分が食い止めなくてはいけない。
ここにナインレウスがいるということは、敵側に残っている竜人族はエルメルガのみ。その相手をするのは、
「あの子がこのまま終わるわけがない……きっと、今頃こちらに向かってきているはず」
その「あの子」というのは――もちろん、銀竜メアンガルドだ。
キルカは知っている。
いつもはクールなメアの内に秘めた闘志。
演習を繰り返していく中で、キルカはそのことに気がついていた。いつもはノエルや最近加わったトリストンの手前、穏やかで落ち着いた雰囲気だが、意外と負けず嫌いなところがあるのだ。
「樹竜キルカジルカか……以前対峙した時よりもずっと強くなっているね」
戦いを見守っていたランスロー王子はキルカジルカの成長に驚きを隠せない様子だった。その横から、
「随分と余裕じゃないか」
ミラルダ・マーズナーが声をかける。
その手には剣が握られていた。
「殺り合うつもりかい?」
「ディームズ王家のランスロー・ディームズ――おまえの噂は至るところで耳にしている。その危険性……ここで始末しておかないと後々厄介なことになりそうだからな」
「物騒だね。さすがは暴君の異名を持つミラルダ・マーズナー……一代であそこまで牧場を大きくするだけのことはあるね」
「うるせぇ。悪行ってことなら俺のやって来たことなんぞおまえのそれと比べたら可愛いもんだろ」
「そう言われてもねぇ……僕だってむやみやたらに戦火を広げているわけじゃないのに」
「だが、ソラン王国のブランドン・ピースレイクやハルヴァのロディル・スウィーニー……彼らをけしかけたのはおまえだろう?」
「ほんのちょっと手伝っただけだよ。それに、その2人に関しては僕よりも僕の雇い主の意向が強くてね」
「雇い主だと? 何者だ、そいつは?」
「奇跡を実現させることができる人さ」
漠然とした表現をするランスロー。
だが、ミラルダにはその態度で黒幕を察することができた。
「魔女イネスか……」
オロムを魔法国家として世界の頂点へ導いた存在――その魔女が現代まで生き、牙をむけている。
「それも噂かい?」
「いや、こいつは俺の勘だ」
「ははは、鋭い勘だね」
煙に巻く態度のランスローに、ミラルダは苛立ちを隠せなくなってきていた。
「これ以上、世界に厄介事をばらまくマネはやめてもらおうか」
「嫌だと言ったら――力づくで止めるつもりかい?」
「奪竜が負けたくらいで引き下がるようなタマじゃないだろ?」
「ナインレウスが負ける? あり得ないね」
「そうかな?」
ミラルダは自信をのぞかせる。
その自信を証明するように、
「でやぁっ!」
キルカの植物を使用した一撃がナインレウスの腹部を捉え、そのまま壁へと叩きつけた。
ガラガラと音を立てて崩れ落ちる壁。
直撃を受けたナインレウスは意識を飛ばされたのか、動く気配が見えない。
「キルカジルカはマーズナーの誇るエース――そう簡単には打ち破れんぞ」
元オーナーとして、キルカジルカの戦闘を現オーナーであるアンジェリカよりも長く見続けてきたミラルダだからこそ、キルカの勝利を信じて疑わないのだ。
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