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【最終章②】竜王選戦編
第205話 ミラルダの疑問
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「これでよかったのよ……これ以上、ナインが傷つくのを見たくはないわ」
メリナがちょいちょいとナインを手招きする。泣きそうな顔をしているナインがそれに応じて近づくと――メリナはそっと抱きしめた。
「今までごめんなさい。……もう、あなたは戦わなくてもいいのよ」
「う、うあ、あぁ……」
嗚咽がこぼれた。
せき止められていた感情が溢れ出して止まらなくなり、メリナに顔をこすりつけて号泣。そんなナインの頭を優しく撫でるその姿はまるで母親のようだった。
その様子を眺めていたキルカは、ナインの体に表れ始めた変化に気づく。
かつて、シャルルペトラと見間違えたその容姿――そっくりだった髪や肌の色合いは、徐々に変わっていった。
長い橙色の髪に白い肌。
あれが本来のナインレウスの姿であった。
一方、奏竜と磁竜は、
「よかったよぉぉぉぉぉ!」
「あ、あの、苦しいのです」
こっちはこっちで騒がしく泣いていた。
「なんだかんだで仲いいじゃない」
とりあえず、こちら側は円満解決をしたようなのでキルカはホッと息をつく。
――問題は、
「ぐっ……」
崩れ落ちたまま動かぬランスロー。
『もう戦わなくてもいい』
メリナのその言葉が胸に突き刺さる。
ナインレウスの敗北以上に、これまでの自分の言動を振り返り、自己嫌悪に陥っている感じがした。
言葉が通じないため、何もできないキルカであったが、そんなランスローに近づく影がひとつ。
「よお」
ミラルダ・マーズナーだった。
「落ち込んでいるところ悪いがね、少し答えてもらいたいことがあるんだよ」
「…………」
ミラルダの言葉に、ランスローは反応を示さない。
が、ミラルダは意に介さず話を続ける。
「あんたは俺がこの辺を調査していたことを知っているよな? ――俺が何を求めてここへやって来たのか、大体見当はついているんじゃないか?」
「……さあね」
素っ気なく、ランスローは答えた。
「ひとつは新しい竜人族を牧場へ招き入れるためだ。フレディのとこばかりに竜人族が増えるのは面白くないからな。――ただ、それはあくまでもついでだ。本命は別にある」
「本命?」
ランスローが反応を見せたのを好機とばかりに、ミラルダは止まることなく話を続けた。
「竜王選戦――竜人族同士の次期竜王を決める戦い……あんたはあのナインレウスを竜王にさせるつもりだったのだろう?」
「それは……」
「ああ、問題はそこじゃない。俺が気になっているのは死んだ前の竜王だ――会ったことあるだろ? ――レグジートだ」
「!?」
項垂れていたランスローの顔が一変する。
口にこそしていないが、「なぜそれを!?」と目で訴えかけている。
「そんな驚くことか? 俺も前に会ったことがあるんだよ。ついでに、その最後も見届けてきた」
「……たしかに、会ったことはあるし、僕もその最後の姿を見てきた」
ミラルダもランスローも、レグジートが死んだと風の噂で耳にしてから、独自にその足取りを調査して竜王最後の地へと足を運んでいた。
そこは、高峰颯太がこの世界へ転移してきた場所でもあった。
そこで一旦会話が途切れてしまったが、流れ出した重苦しい沈黙を打ち消すように、ミラルダが口を開く。
「疑問に感じなかったか?」
「え?」
ミラルダの質問の意図が読み取れず、ランスローは思わず聞き返してしまった。
「なぜ竜人族ではないレグジートが竜王だったのか。長生きで人と会話ができるドラゴンなんていうのはたしかに珍しい――いや、唯一の存在であるのは認めるが……だったら、前の竜王選戦の覇者は一体どこで何をしているんだ?」
「それは……」
竜人族同士による次期竜王を決める戦い。
智竜と呼ばれ、並外れた知能の高さを誇り、人間の言葉を話すことができたシャルルペトラから聞いた情報はそうだった。
しかし、ミラルダの指摘もわかる。
竜人族と通常種。
レグジートが優れたドラゴンであることは間違いないのだが、それでも、両種族の垣根を越えて竜王になるというのは解せない。
なぜなら、竜王選戦は今回が初めてではないから。
過去に何度も行われたもので、竜人族たちも本能でその存在を刻み込まれている。
だとすれば、竜王レグジートはなぜ竜王になれたのか。
或は、本人が自称していただけではないかと勘繰ることもできるが、その竜王レグジートが死亡した頃から各地の竜人族たちが活発に動き出したことを見ると、やはりレグジートが本物の竜王であった可能性は高い。
「直接聞いたこともあったが、結局あいつは何も答えなかった。ちょうど娘にオーナーの座を譲ったところだったし、時間はあったからいろいろと調査をした。あらゆる遺跡や書庫を徹底的に調べ上げて――俺はここ廃界オロムへとたどり着いた」
「なぜ?」
「魔女イネスだよ」
ランスローやエルメルガを配下に置いた魔女イネス。
伝説上の人物とさえ言われ、魔法を使いこなしていたという。
そんなイネスに対し、
「あんたのバックに――魔族を生み出した原因が本当にイネスにあるのなら、俺の予想はあながち的外れではないのかもしれない」
「予想って……」
「恐らく――魔女イネスは人の言葉が話せる竜人族だ」
「なっ!?」
「それだけじゃない。その魔女イネスこそ、レグジートに代わって本来竜王となるべき存在だった――前回の竜王選戦の覇者だと俺は思っている」
ミラルダはとんでもない仮説を立てていた。
メリナがちょいちょいとナインを手招きする。泣きそうな顔をしているナインがそれに応じて近づくと――メリナはそっと抱きしめた。
「今までごめんなさい。……もう、あなたは戦わなくてもいいのよ」
「う、うあ、あぁ……」
嗚咽がこぼれた。
せき止められていた感情が溢れ出して止まらなくなり、メリナに顔をこすりつけて号泣。そんなナインの頭を優しく撫でるその姿はまるで母親のようだった。
その様子を眺めていたキルカは、ナインの体に表れ始めた変化に気づく。
かつて、シャルルペトラと見間違えたその容姿――そっくりだった髪や肌の色合いは、徐々に変わっていった。
長い橙色の髪に白い肌。
あれが本来のナインレウスの姿であった。
一方、奏竜と磁竜は、
「よかったよぉぉぉぉぉ!」
「あ、あの、苦しいのです」
こっちはこっちで騒がしく泣いていた。
「なんだかんだで仲いいじゃない」
とりあえず、こちら側は円満解決をしたようなのでキルカはホッと息をつく。
――問題は、
「ぐっ……」
崩れ落ちたまま動かぬランスロー。
『もう戦わなくてもいい』
メリナのその言葉が胸に突き刺さる。
ナインレウスの敗北以上に、これまでの自分の言動を振り返り、自己嫌悪に陥っている感じがした。
言葉が通じないため、何もできないキルカであったが、そんなランスローに近づく影がひとつ。
「よお」
ミラルダ・マーズナーだった。
「落ち込んでいるところ悪いがね、少し答えてもらいたいことがあるんだよ」
「…………」
ミラルダの言葉に、ランスローは反応を示さない。
が、ミラルダは意に介さず話を続ける。
「あんたは俺がこの辺を調査していたことを知っているよな? ――俺が何を求めてここへやって来たのか、大体見当はついているんじゃないか?」
「……さあね」
素っ気なく、ランスローは答えた。
「ひとつは新しい竜人族を牧場へ招き入れるためだ。フレディのとこばかりに竜人族が増えるのは面白くないからな。――ただ、それはあくまでもついでだ。本命は別にある」
「本命?」
ランスローが反応を見せたのを好機とばかりに、ミラルダは止まることなく話を続けた。
「竜王選戦――竜人族同士の次期竜王を決める戦い……あんたはあのナインレウスを竜王にさせるつもりだったのだろう?」
「それは……」
「ああ、問題はそこじゃない。俺が気になっているのは死んだ前の竜王だ――会ったことあるだろ? ――レグジートだ」
「!?」
項垂れていたランスローの顔が一変する。
口にこそしていないが、「なぜそれを!?」と目で訴えかけている。
「そんな驚くことか? 俺も前に会ったことがあるんだよ。ついでに、その最後も見届けてきた」
「……たしかに、会ったことはあるし、僕もその最後の姿を見てきた」
ミラルダもランスローも、レグジートが死んだと風の噂で耳にしてから、独自にその足取りを調査して竜王最後の地へと足を運んでいた。
そこは、高峰颯太がこの世界へ転移してきた場所でもあった。
そこで一旦会話が途切れてしまったが、流れ出した重苦しい沈黙を打ち消すように、ミラルダが口を開く。
「疑問に感じなかったか?」
「え?」
ミラルダの質問の意図が読み取れず、ランスローは思わず聞き返してしまった。
「なぜ竜人族ではないレグジートが竜王だったのか。長生きで人と会話ができるドラゴンなんていうのはたしかに珍しい――いや、唯一の存在であるのは認めるが……だったら、前の竜王選戦の覇者は一体どこで何をしているんだ?」
「それは……」
竜人族同士による次期竜王を決める戦い。
智竜と呼ばれ、並外れた知能の高さを誇り、人間の言葉を話すことができたシャルルペトラから聞いた情報はそうだった。
しかし、ミラルダの指摘もわかる。
竜人族と通常種。
レグジートが優れたドラゴンであることは間違いないのだが、それでも、両種族の垣根を越えて竜王になるというのは解せない。
なぜなら、竜王選戦は今回が初めてではないから。
過去に何度も行われたもので、竜人族たちも本能でその存在を刻み込まれている。
だとすれば、竜王レグジートはなぜ竜王になれたのか。
或は、本人が自称していただけではないかと勘繰ることもできるが、その竜王レグジートが死亡した頃から各地の竜人族たちが活発に動き出したことを見ると、やはりレグジートが本物の竜王であった可能性は高い。
「直接聞いたこともあったが、結局あいつは何も答えなかった。ちょうど娘にオーナーの座を譲ったところだったし、時間はあったからいろいろと調査をした。あらゆる遺跡や書庫を徹底的に調べ上げて――俺はここ廃界オロムへとたどり着いた」
「なぜ?」
「魔女イネスだよ」
ランスローやエルメルガを配下に置いた魔女イネス。
伝説上の人物とさえ言われ、魔法を使いこなしていたという。
そんなイネスに対し、
「あんたのバックに――魔族を生み出した原因が本当にイネスにあるのなら、俺の予想はあながち的外れではないのかもしれない」
「予想って……」
「恐らく――魔女イネスは人の言葉が話せる竜人族だ」
「なっ!?」
「それだけじゃない。その魔女イネスこそ、レグジートに代わって本来竜王となるべき存在だった――前回の竜王選戦の覇者だと俺は思っている」
ミラルダはとんでもない仮説を立てていた。
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