186 / 246
【最終章②】竜王選戦編
第206話 ランスローの決断
しおりを挟む
「あの人が竜人族……そんなまさか」
「あくまでも俺の推論だがな。――けど、可能性はかなり高いと見ている」
その言葉を裏付けるかのように、ミラルダの表情は自信にあふれていた。
「あんたに聞きたいのはそれだけじゃない。あんたと一緒にレイノアを出て行ったはずのあの竜人族――シャルルペトラはどこだ?」
実を言うと、ミラルダの真の狙いは智竜シャルルペトラにあった。
レイノアにいると言うシャルルをマーズナー・ファームへ呼び込むためにいろいろと策を練って来たのだが、ランスローと共に姿を消し、レイノアがスウィーニーの不正領土問題のせいで消滅してしまったこともあり、半ばあきらめていた。
だが、エインたち禁竜教の頑張りにより、レイノアが領地を取り戻したと聞いたミラルダは密かにシャルルたちが戻って来るのではと期待していたのだが、実際には未だ消息不明の状態だった。
イネスとシャルル。
魔界討伐の鍵を握る2つ存在――それらと深く関わり合いを持っているのは、他の誰でもない、このランスローだとミラルダは睨んでいた。
「イネスに捕らえられているのか?」
「それは……」
ランスローは言いよどむ。
その心情を読み取ったミラルダはアプローチを変えてみた。
「あんたは……ドラゴンが好きなんだろ?」
「え?」
「勝負をけしかける厳しい言葉をかけてはいたが、あれは本心じゃないんだろう?」
「な、なぜ……」
「なぜか? おいおい、俺が何年ドラゴン絡みの仕事をしていると思っている? あんたも東方領にある国の人間なら、俺の悪名は耳に届いているはずだ」
それはたしかにそうだった。
マーズナー・ファームのミラルダ・マーズナーといえば、天才的な商才の持ち主でありながらもいろいろとスレスレな行為を繰り返していたため、一部の層からは大変評判の悪い人物である。
そんなイメージが先行していたから、どんな大悪党なのかと怪しんでいたが、こうして言葉を交わしていると悪い人間には思えなかった。
「ランスロー王子……今、この場に乗り込んで来ている連合竜騎士団の人間もドラゴンが好きで命知らずな大バカ野郎ばかりだ。真実を語れば、きっと協力をしてくれる」
「…………」
「それに、そちら側に残っている竜人族はもうエルメルガのみ。魔女イネスが本当に竜人族だったとしても、こちらには樹竜と鎧竜の他にも多くの竜人族がいる。もはやそちらに勝ちの見込みはない」
おまけに、奏竜と磁竜はこちら側に抱き込めそうな空気になっている。今もキルカがベイランダムと一緒にローリージンの無事を喜び合っている。
「今の状況を把握して最良の決断をするんだ、ランスロー王子」
諭すように、ミラルダはランスローにそう持ち掛けた。
そこへ、
「ランスロー様……」
ナインレウスを引き連れたメリナがやって来る。
「私たちはあなたの判断に従います」
メリナの言葉にナインレウスは同意の意思を表すように頷いた。
「あなたの決断であれば、今この場でフォレルガを解散しても構いません」
「それは少し困るな」
意外にもミラルダが難色を示した。
「困る? なぜですか?」
「フォレルガの活動に励まされている人間も多いのだよ。魔族によって住む場所をなくした者たちにとって、フォレルガの活動は本当に心身ともに助けとなっている。できることなら、これからも続けて行ってもらいたいのだがね」
「ミラルダさん……」
それはお世辞でもなんでもなく、純然たる事実であった。
メリナからすれば、フォレルガの活動は他国の竜人族の動向をチェックするための隠れ蓑だったのかもしれないが、その活動が魔族によって精神的にも肉体的にも傷つけられてきた人々にとって癒しの存在だったのは間違いない。
「さあ、どうする?」
迫るミラルダに対し、ランスローは決意を固めたのか、「ふぅ」と息を吐いて、
「今すぐ引き返すんだ」
「何?」
「この先に残っている竜人族は雷竜エルメルガのみ。だけど、あの子の実力は樹竜や鎧竜よりも上だ。ハッキリ言ってレベルが違う。それに、魔女イネスも……」
「こちら側が負けると?」
ランスローの言葉に嘘は見られない。
向こう側の残り戦力も、エルメルガとイネスだけで間違いはないようだが――それでも、ランスローは連合竜騎士団が負けると踏んでいるらしい。
「……ランスロー様の言っていることは本当です。いくら連合竜騎士団でも、エルメルガとイネス相手では苦戦の末に敗戦ということも……でも、打開策はあります」
「打開策?」
「綱渡りになりますが……」
「! メリナ! まさか――」
勢いよく顔を上げたランスロー。どうやら心当たりがあるらしい。
「そのまさかです、ランスロー様」
「教えてくれ。その打開策とやらの詳細を」
「方法はただひとつ――イネスによって操られているシャルルペトラを救い出します」
「あくまでも俺の推論だがな。――けど、可能性はかなり高いと見ている」
その言葉を裏付けるかのように、ミラルダの表情は自信にあふれていた。
「あんたに聞きたいのはそれだけじゃない。あんたと一緒にレイノアを出て行ったはずのあの竜人族――シャルルペトラはどこだ?」
実を言うと、ミラルダの真の狙いは智竜シャルルペトラにあった。
レイノアにいると言うシャルルをマーズナー・ファームへ呼び込むためにいろいろと策を練って来たのだが、ランスローと共に姿を消し、レイノアがスウィーニーの不正領土問題のせいで消滅してしまったこともあり、半ばあきらめていた。
だが、エインたち禁竜教の頑張りにより、レイノアが領地を取り戻したと聞いたミラルダは密かにシャルルたちが戻って来るのではと期待していたのだが、実際には未だ消息不明の状態だった。
イネスとシャルル。
魔界討伐の鍵を握る2つ存在――それらと深く関わり合いを持っているのは、他の誰でもない、このランスローだとミラルダは睨んでいた。
「イネスに捕らえられているのか?」
「それは……」
ランスローは言いよどむ。
その心情を読み取ったミラルダはアプローチを変えてみた。
「あんたは……ドラゴンが好きなんだろ?」
「え?」
「勝負をけしかける厳しい言葉をかけてはいたが、あれは本心じゃないんだろう?」
「な、なぜ……」
「なぜか? おいおい、俺が何年ドラゴン絡みの仕事をしていると思っている? あんたも東方領にある国の人間なら、俺の悪名は耳に届いているはずだ」
それはたしかにそうだった。
マーズナー・ファームのミラルダ・マーズナーといえば、天才的な商才の持ち主でありながらもいろいろとスレスレな行為を繰り返していたため、一部の層からは大変評判の悪い人物である。
そんなイメージが先行していたから、どんな大悪党なのかと怪しんでいたが、こうして言葉を交わしていると悪い人間には思えなかった。
「ランスロー王子……今、この場に乗り込んで来ている連合竜騎士団の人間もドラゴンが好きで命知らずな大バカ野郎ばかりだ。真実を語れば、きっと協力をしてくれる」
「…………」
「それに、そちら側に残っている竜人族はもうエルメルガのみ。魔女イネスが本当に竜人族だったとしても、こちらには樹竜と鎧竜の他にも多くの竜人族がいる。もはやそちらに勝ちの見込みはない」
おまけに、奏竜と磁竜はこちら側に抱き込めそうな空気になっている。今もキルカがベイランダムと一緒にローリージンの無事を喜び合っている。
「今の状況を把握して最良の決断をするんだ、ランスロー王子」
諭すように、ミラルダはランスローにそう持ち掛けた。
そこへ、
「ランスロー様……」
ナインレウスを引き連れたメリナがやって来る。
「私たちはあなたの判断に従います」
メリナの言葉にナインレウスは同意の意思を表すように頷いた。
「あなたの決断であれば、今この場でフォレルガを解散しても構いません」
「それは少し困るな」
意外にもミラルダが難色を示した。
「困る? なぜですか?」
「フォレルガの活動に励まされている人間も多いのだよ。魔族によって住む場所をなくした者たちにとって、フォレルガの活動は本当に心身ともに助けとなっている。できることなら、これからも続けて行ってもらいたいのだがね」
「ミラルダさん……」
それはお世辞でもなんでもなく、純然たる事実であった。
メリナからすれば、フォレルガの活動は他国の竜人族の動向をチェックするための隠れ蓑だったのかもしれないが、その活動が魔族によって精神的にも肉体的にも傷つけられてきた人々にとって癒しの存在だったのは間違いない。
「さあ、どうする?」
迫るミラルダに対し、ランスローは決意を固めたのか、「ふぅ」と息を吐いて、
「今すぐ引き返すんだ」
「何?」
「この先に残っている竜人族は雷竜エルメルガのみ。だけど、あの子の実力は樹竜や鎧竜よりも上だ。ハッキリ言ってレベルが違う。それに、魔女イネスも……」
「こちら側が負けると?」
ランスローの言葉に嘘は見られない。
向こう側の残り戦力も、エルメルガとイネスだけで間違いはないようだが――それでも、ランスローは連合竜騎士団が負けると踏んでいるらしい。
「……ランスロー様の言っていることは本当です。いくら連合竜騎士団でも、エルメルガとイネス相手では苦戦の末に敗戦ということも……でも、打開策はあります」
「打開策?」
「綱渡りになりますが……」
「! メリナ! まさか――」
勢いよく顔を上げたランスロー。どうやら心当たりがあるらしい。
「そのまさかです、ランスロー様」
「教えてくれ。その打開策とやらの詳細を」
「方法はただひとつ――イネスによって操られているシャルルペトラを救い出します」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。