おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章②】竜王選戦編

第206話  ランスローの決断

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「あの人が竜人族……そんなまさか」
「あくまでも俺の推論だがな。――けど、可能性はかなり高いと見ている」

 その言葉を裏付けるかのように、ミラルダの表情は自信にあふれていた。

「あんたに聞きたいのはそれだけじゃない。あんたと一緒にレイノアを出て行ったはずのあの竜人族――シャルルペトラはどこだ?」

 実を言うと、ミラルダの真の狙いは智竜シャルルペトラにあった。
 レイノアにいると言うシャルルをマーズナー・ファームへ呼び込むためにいろいろと策を練って来たのだが、ランスローと共に姿を消し、レイノアがスウィーニーの不正領土問題のせいで消滅してしまったこともあり、半ばあきらめていた。

 だが、エインたち禁竜教の頑張りにより、レイノアが領地を取り戻したと聞いたミラルダは密かにシャルルたちが戻って来るのではと期待していたのだが、実際には未だ消息不明の状態だった。

 イネスとシャルル。

 魔界討伐の鍵を握る2つ存在――それらと深く関わり合いを持っているのは、他の誰でもない、このランスローだとミラルダは睨んでいた。

「イネスに捕らえられているのか?」
「それは……」

 ランスローは言いよどむ。
 その心情を読み取ったミラルダはアプローチを変えてみた。

「あんたは……ドラゴンが好きなんだろ?」
「え?」
「勝負をけしかける厳しい言葉をかけてはいたが、あれは本心じゃないんだろう?」
「な、なぜ……」
「なぜか? おいおい、俺が何年ドラゴン絡みの仕事をしていると思っている? あんたも東方領にある国の人間なら、俺の悪名は耳に届いているはずだ」

 それはたしかにそうだった。
 マーズナー・ファームのミラルダ・マーズナーといえば、天才的な商才の持ち主でありながらもいろいろとスレスレな行為を繰り返していたため、一部の層からは大変評判の悪い人物である。

 そんなイメージが先行していたから、どんな大悪党なのかと怪しんでいたが、こうして言葉を交わしていると悪い人間には思えなかった。

「ランスロー王子……今、この場に乗り込んで来ている連合竜騎士団の人間もドラゴンが好きで命知らずな大バカ野郎ばかりだ。真実を語れば、きっと協力をしてくれる」
「…………」
「それに、そちら側に残っている竜人族はもうエルメルガのみ。魔女イネスが本当に竜人族だったとしても、こちらには樹竜と鎧竜の他にも多くの竜人族がいる。もはやそちらに勝ちの見込みはない」

 おまけに、奏竜と磁竜はこちら側に抱き込めそうな空気になっている。今もキルカがベイランダムと一緒にローリージンの無事を喜び合っている。

「今の状況を把握して最良の決断をするんだ、ランスロー王子」

 諭すように、ミラルダはランスローにそう持ち掛けた。

 そこへ、


「ランスロー様……」


 ナインレウスを引き連れたメリナがやって来る。

「私たちはあなたの判断に従います」

 メリナの言葉にナインレウスは同意の意思を表すように頷いた。

「あなたの決断であれば、今この場でフォレルガを解散しても構いません」
「それは少し困るな」

 意外にもミラルダが難色を示した。

「困る? なぜですか?」
「フォレルガの活動に励まされている人間も多いのだよ。魔族によって住む場所をなくした者たちにとって、フォレルガの活動は本当に心身ともに助けとなっている。できることなら、これからも続けて行ってもらいたいのだがね」
「ミラルダさん……」

 それはお世辞でもなんでもなく、純然たる事実であった。
 メリナからすれば、フォレルガの活動は他国の竜人族の動向をチェックするための隠れ蓑だったのかもしれないが、その活動が魔族によって精神的にも肉体的にも傷つけられてきた人々にとって癒しの存在だったのは間違いない。

「さあ、どうする?」

 迫るミラルダに対し、ランスローは決意を固めたのか、「ふぅ」と息を吐いて、

「今すぐ引き返すんだ」
「何?」
「この先に残っている竜人族は雷竜エルメルガのみ。だけど、あの子の実力は樹竜や鎧竜よりも上だ。ハッキリ言ってレベルが違う。それに、魔女イネスも……」
「こちら側が負けると?」

 ランスローの言葉に嘘は見られない。
 向こう側の残り戦力も、エルメルガとイネスだけで間違いはないようだが――それでも、ランスローは連合竜騎士団が負けると踏んでいるらしい。

「……ランスロー様の言っていることは本当です。いくら連合竜騎士団でも、エルメルガとイネス相手では苦戦の末に敗戦ということも……でも、打開策はあります」
「打開策?」
「綱渡りになりますが……」
「! メリナ! まさか――」

 勢いよく顔を上げたランスロー。どうやら心当たりがあるらしい。

「そのまさかです、ランスロー様」
「教えてくれ。その打開策とやらの詳細を」
「方法はただひとつ――イネスによって操られているシャルルペトラを救い出します」
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