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【最終章②】竜王選戦編
第209話 最後の城門
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魔女イネスの待つ居城へ向かって突き進む連合竜騎士団。
その先頭集団の中に、颯太とブリギッテが乗る馬車もある。
「残る城門はあとひとつね」
「そこを越えたら――今回の黒幕が待つ城があるんだな」
「そのはずよ。……それにしても、本当にここの城は広大ね」
かれこれ10分近く走り続けているが、未だに城は見えてこない。その曲がりくねった道を眺めていると、まるで蛇の背中を走っているような感覚に陥る。
「こうも景色に変化がないと――もしかして、同じところを繰り返し進んでいるとかじゃないだろうな」
「それはなさそうだけど――あっ!」
窓から外を眺めていたブリギッテが短く叫ぶ。
それとほぼ同時に、馬車の速度が緩まった。
何事かと反対側の窓から身を乗り出してみると、
「! あれは……」
目の前に現れた巨大建築物。
それは円形をしていて、例えるならイタリアのコロッセオに酷似している。
「あの建物は?」
「本で読んだことがあるわ。たしか、オロム騎士団が使用していた演習場ね。最後の城門はその先にあるはずよ」
「……まさにコロッセオそのものってわけか」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
自分が異世界からやって来たことを告げるのはこの戦いが終わってからにしようと颯太は心に決めていたので、ここではあえてそのことを伏せておいた。
ともかく、そのコロッセオ周辺を迂回して先に進もうとするが、瓦礫や倒れた樹木が道を塞いでおり、コロッセオの内部を突っ切らないと反対側へは行けないようだ。
それだけならば問題はなかった。
――それだけならば。
「お、おいおい!?」
颯太は眼前の光景に驚愕する。
連合竜騎士団を待ち構えるようにして、数多くの魔族がコロッセオ周辺にたむろしていたのだ。
「なんて数だ……」
その数の多さに、さすがのルコードも怯んだ。
今いる竜人族は影竜トリストンのみ。
だが、そのトリストンの持つ影の能力は、現状のような「1対多数」という不利な状況を一瞬でひっくり返すだけの力があった。
「タカミネ・ソータを呼んで来てくれ」
魔族たちが仕掛けてきそうになかったため、ルコードは颯太を呼び寄せる。トリストンとの通訳を依頼するためだ。
馬車から降りた颯太はルコードのもとへ走る。
「タカミネ・ソータよ、君のところの影竜トリストンにどれだけの数の魔族を影の中へ吸い込めるかたずねてくれないか?」
「わかりました」
颯太はルコードからの指示を受けてトリストンのコンディションを確認する。
「トリストン、あそこにいる魔族だが……どれだけ影の中に沈められる?」
「目に見えている数ならなんとか」
その数はおよそ100体。
今のトリストンでは、ここが限界のようだ。
颯太はすぐさまルコードに結果を報告する。
「そうか。……恐らく、魔族精製の魔法陣はあの中にある」
「だから魔族の数も多いんですね」
「ああ――それと、今あの場にいる連中はほんの一部だ。建物の中には何倍もの数が潜んでいるだろうな」
「なぜそこまでわかるんですか?」
「騎士の勘だ」
なんの根拠もないはずが、妙な説得力に溢れていた。
ルコードの豊富な経験が導き出した予想だからだろう。
「鎧竜と樹竜はすぐに合流できないだろう。そうなるとこの部隊の軸はこの影竜だ」
ルコードの言わんとしていることは大体察することができる。
敵側にはまだ雷竜と智竜がいる。
連合竜騎士団にはキルカジルカとフェイゼルタットという2大エースが健在ではある。さらに、オロム城周辺では交戦中の歌竜ノエルバッツもいる。それに、まだ合流していない他国の竜人族もいる。
ただ、この最奥部に辿り着けるかどうかは不透明な点だ。それに、隙を見せたとはいえ銀竜メアンガルドを破った雷竜エルメルガが相手となれば、それなりの実力を持った竜人族でなくては倒せないだろう。
ルコードは影竜トリストンと雷竜エルメルガを戦わせようとしていた。
颯太としても、この場にトリストンしかいない現状を考えれば、エルメルガと戦うのはトリストンになるということは読めた。
――その読みは的中することとなる。
「! ルコード騎士団長! あそこに!」
騎士のひとりが叫ぶ。
その指が示す先――薄暗さが出てきた空を貫くようにそびえ立つコロッセオの最上部に、小さな人影があるのを颯太とルコードは発見する。
「やはり我らを待ち構えていたか――雷竜!」
連合竜騎士団にとって最後の砦と言っていい相手が、高みの見物を決め込むかのように颯太たちを見下ろしている。
「こちらの消耗を待っているようですね」
「銀竜との一戦に強いこだわりを持っていたということから、武闘派の印象を持っていたのだが、意外と賢しい面もあるようだな」
力でゴリ押ししてくるだけでなく、使える物はなんでも使って戦況を有利に運ぶという器用さも兼ね備えていた。
「まずはヤツをあそこから引きずり下ろすところから始めないとな」
「そうですね」
連合竜騎士団は武器を構えて戦闘態勢を取る。
その様子を見た雷竜エルメルガの目が細くなり、それが合図であったかのようにそれまで大人しかった魔族たちが一斉に襲いかかって来た。
「さあ、ここが正念場だぞ――トリストン」
「うん」
トリストンを送り出そうとした颯太であったが、それを遮るように、
「君たちは控えていろ」
ルコードが前に立った。
「る、ルコード騎士団長?」
「トリストンは体力を温存しておくんだ。ここは我らだけで相手をする」
「し、しかし、それでは!」
「無謀なのはわかっているが――騎士としての意地もある。それに、無駄死にをする気などさらさらない。生きて帰るために、我々はここで戦うのだ」
颯太はそこで気がついた。
周りの騎士とドラゴンたちの表情――漲る闘志に燃えているその姿。
「……わかりました」
ルコードたちの決意を受け止めた颯太はトリストンの肩を抱いて後方へとさがる。
それを見届けたルコードは、
「ゆくぞ! 今こそ新たな時代を紡ぐため、我ら竜騎士団の意地を見せる時だ!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
腹の底から叫び、己を極限まで奮い立たせ、魔族たちに立ち向かうルコードたち。
――その現場に、間もなく復活した1匹の竜人族が到着することを誰も知らない。
その先頭集団の中に、颯太とブリギッテが乗る馬車もある。
「残る城門はあとひとつね」
「そこを越えたら――今回の黒幕が待つ城があるんだな」
「そのはずよ。……それにしても、本当にここの城は広大ね」
かれこれ10分近く走り続けているが、未だに城は見えてこない。その曲がりくねった道を眺めていると、まるで蛇の背中を走っているような感覚に陥る。
「こうも景色に変化がないと――もしかして、同じところを繰り返し進んでいるとかじゃないだろうな」
「それはなさそうだけど――あっ!」
窓から外を眺めていたブリギッテが短く叫ぶ。
それとほぼ同時に、馬車の速度が緩まった。
何事かと反対側の窓から身を乗り出してみると、
「! あれは……」
目の前に現れた巨大建築物。
それは円形をしていて、例えるならイタリアのコロッセオに酷似している。
「あの建物は?」
「本で読んだことがあるわ。たしか、オロム騎士団が使用していた演習場ね。最後の城門はその先にあるはずよ」
「……まさにコロッセオそのものってわけか」
「え?」
「いや、こっちの話だ」
自分が異世界からやって来たことを告げるのはこの戦いが終わってからにしようと颯太は心に決めていたので、ここではあえてそのことを伏せておいた。
ともかく、そのコロッセオ周辺を迂回して先に進もうとするが、瓦礫や倒れた樹木が道を塞いでおり、コロッセオの内部を突っ切らないと反対側へは行けないようだ。
それだけならば問題はなかった。
――それだけならば。
「お、おいおい!?」
颯太は眼前の光景に驚愕する。
連合竜騎士団を待ち構えるようにして、数多くの魔族がコロッセオ周辺にたむろしていたのだ。
「なんて数だ……」
その数の多さに、さすがのルコードも怯んだ。
今いる竜人族は影竜トリストンのみ。
だが、そのトリストンの持つ影の能力は、現状のような「1対多数」という不利な状況を一瞬でひっくり返すだけの力があった。
「タカミネ・ソータを呼んで来てくれ」
魔族たちが仕掛けてきそうになかったため、ルコードは颯太を呼び寄せる。トリストンとの通訳を依頼するためだ。
馬車から降りた颯太はルコードのもとへ走る。
「タカミネ・ソータよ、君のところの影竜トリストンにどれだけの数の魔族を影の中へ吸い込めるかたずねてくれないか?」
「わかりました」
颯太はルコードからの指示を受けてトリストンのコンディションを確認する。
「トリストン、あそこにいる魔族だが……どれだけ影の中に沈められる?」
「目に見えている数ならなんとか」
その数はおよそ100体。
今のトリストンでは、ここが限界のようだ。
颯太はすぐさまルコードに結果を報告する。
「そうか。……恐らく、魔族精製の魔法陣はあの中にある」
「だから魔族の数も多いんですね」
「ああ――それと、今あの場にいる連中はほんの一部だ。建物の中には何倍もの数が潜んでいるだろうな」
「なぜそこまでわかるんですか?」
「騎士の勘だ」
なんの根拠もないはずが、妙な説得力に溢れていた。
ルコードの豊富な経験が導き出した予想だからだろう。
「鎧竜と樹竜はすぐに合流できないだろう。そうなるとこの部隊の軸はこの影竜だ」
ルコードの言わんとしていることは大体察することができる。
敵側にはまだ雷竜と智竜がいる。
連合竜騎士団にはキルカジルカとフェイゼルタットという2大エースが健在ではある。さらに、オロム城周辺では交戦中の歌竜ノエルバッツもいる。それに、まだ合流していない他国の竜人族もいる。
ただ、この最奥部に辿り着けるかどうかは不透明な点だ。それに、隙を見せたとはいえ銀竜メアンガルドを破った雷竜エルメルガが相手となれば、それなりの実力を持った竜人族でなくては倒せないだろう。
ルコードは影竜トリストンと雷竜エルメルガを戦わせようとしていた。
颯太としても、この場にトリストンしかいない現状を考えれば、エルメルガと戦うのはトリストンになるということは読めた。
――その読みは的中することとなる。
「! ルコード騎士団長! あそこに!」
騎士のひとりが叫ぶ。
その指が示す先――薄暗さが出てきた空を貫くようにそびえ立つコロッセオの最上部に、小さな人影があるのを颯太とルコードは発見する。
「やはり我らを待ち構えていたか――雷竜!」
連合竜騎士団にとって最後の砦と言っていい相手が、高みの見物を決め込むかのように颯太たちを見下ろしている。
「こちらの消耗を待っているようですね」
「銀竜との一戦に強いこだわりを持っていたということから、武闘派の印象を持っていたのだが、意外と賢しい面もあるようだな」
力でゴリ押ししてくるだけでなく、使える物はなんでも使って戦況を有利に運ぶという器用さも兼ね備えていた。
「まずはヤツをあそこから引きずり下ろすところから始めないとな」
「そうですね」
連合竜騎士団は武器を構えて戦闘態勢を取る。
その様子を見た雷竜エルメルガの目が細くなり、それが合図であったかのようにそれまで大人しかった魔族たちが一斉に襲いかかって来た。
「さあ、ここが正念場だぞ――トリストン」
「うん」
トリストンを送り出そうとした颯太であったが、それを遮るように、
「君たちは控えていろ」
ルコードが前に立った。
「る、ルコード騎士団長?」
「トリストンは体力を温存しておくんだ。ここは我らだけで相手をする」
「し、しかし、それでは!」
「無謀なのはわかっているが――騎士としての意地もある。それに、無駄死にをする気などさらさらない。生きて帰るために、我々はここで戦うのだ」
颯太はそこで気がついた。
周りの騎士とドラゴンたちの表情――漲る闘志に燃えているその姿。
「……わかりました」
ルコードたちの決意を受け止めた颯太はトリストンの肩を抱いて後方へとさがる。
それを見届けたルコードは、
「ゆくぞ! 今こそ新たな時代を紡ぐため、我ら竜騎士団の意地を見せる時だ!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
腹の底から叫び、己を極限まで奮い立たせ、魔族たちに立ち向かうルコードたち。
――その現場に、間もなく復活した1匹の竜人族が到着することを誰も知らない。
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