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【最終章②】竜王選戦編

第208話  集う力

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「シャルルペトラが操られているだと?」

 メリナの話はミラルダにとっては初耳だった。
 
「あの子だけでなく、私たちもつい最近までイネスに操られていたのです」
「『私たちも』というからには……ランスロー王子もか?」
「はい。ですが、最近になってイネスの魔力が弱まった影響からか、私たちは正気を取り戻すことができました」
「正気になったにも関わらず、俺たちへ戦いを挑んだのか?」
「……僕の元々の目的はナインレウスを次期竜王にすることだったからね」
「なるほど……イネスに操られたふりをし、竜王になる機会を狙っていたわけか」

 そのナインレウスはキルカの前に敗れ、竜王となる資格を失った――この瞬間に、ランスローたちの目的は潰えた。

「なぜそこまで竜王の座にこだわる?」
「シャルルを救うためさ。ナインが竜王になれば、シャルルは竜王の座を巡って無理矢理戦わされる必要もなくなる。……それに、これ以上の被害者も出ない」
「被害者?」
「ミラルダさんはご存知ありませんでしたか? ――魔族討伐作戦の他にもダステニアのシャオ・ラフマンの救出も含まれている、と」
「そういえばそうだったな」
 
 ダステニアの大富豪リー・ラフマンの娘であり、生まれつき高い魔力を有しているシャオが誘拐された――その実行犯は、何を隠そう、目の前にいるふたりだ。

「あれもイネスに操られてしたことか?」
「いや……あれは作戦なんだ」
「作戦?」
「そうなんです。その効果はもうじき表れるかと」

 どうやら、誘拐の件は何か考えがあってのことだったようだ。

「大体のことは把握した。とにかく、ここから先はあんたらを味方として扱って問題ないんだな?」

 ミラルダの言葉に、周りの騎士たちの顔にも緊張が走る。
 すっかりこの場を仕切っているミラルダだが、誰もそのことについて言及はしない。それほどまでに、ミラルダが仕切っているという現状はしっくりとハマっていた。その空気作りのうまさが、一代にしてマーズナー・ファームを頂点に導いた要因である。

「……ナインが敗れた以上、もう私たちにはシャルルを救う術がありません」
「だからと言って、協力を申し出るなんて虫のいい話は――」

 バギッ!

 ランスローの言葉を遮るように、不穏な音が響き渡る。
 その音がした方向――石造りの壁に大きな亀裂が入っていた。さらにもう一度同じような音がした直後に壁は崩壊。その先からわらわらと魔族たちが侵入してきた。

「! こんなところに!?」

 竜騎士たちは武器を構える。
 キルカも応戦するため気を引き締める――と、その横を挟むようにふたつの影が。

「うちらもあなた側につかせてもらうわ」
「……いいの?」
「竜王選戦から脱落した今……もうその座に拘る必要がなくなったのです。あとは――自分たちの意思で戦うのです」
 
 元々、人間に対してあまりいい感情を抱いていなかった奏竜と磁竜は、キルカと竜騎士団の関係を目の当たりにして考えを改めていた。

 ――その光景に触発されたのは2匹だけではなかった。

「…………」

 3匹の輪の中に無言で加わったのはナインレウスだった。
 他の竜人族から奪った能力は放棄したが、基礎能力自体は非常に高いため、十分戦力として期待できる。

「あなたも一緒に戦ってくれるの?」

 ナインレウスは頷こうとしたが、その前にチラリとランスローの方を向く。
 その意図を、ランスローよりも先にミラルダが読み取った。
 
「四の五の言っている暇はない。前後の動きなどこの際どうでもいい。君たちはここであの魔族たちを援護して俺たちと対峙するか、それとも協力して共に戦うのか選ぶんだ。……もっとも、奪竜や他の竜人族たちはヤル気満々のようだがな」

 返答次第では、キルカとナインは再び戦うことになるだろう。
 だが、それはランスローたちにとって本意ではないし、何より、味方として受け入れてもらえるならば、これ以上の展開はない。

 それでも、操られていた頃にしてきた行いが決断を鈍らせる。
 本音を語れば、ここで協力をしてもらわないと突破できない可能性が高い。
 現状の戦力では、あの数の魔族を相手に勝利を収めるのは難しいだろう。
 
 魔族は待ってくれない――迷っている時間はないのだ。

「ランスロー様!」

 メリナの叫びが轟く――その時だった。


「いけぇぇぇぇぇ!!! 先行部隊を掩護するんだぁぁぁぁ!!!」


 廊下の向こうから怒号のような叫び声が聞こえた。
 直後、竜騎士団の援軍がなだれ込み、魔族たちと交戦する。

「ご無事でしたか、ミラルダ殿!」

 突然の事態に呆然とするミラルダへ声をかけたのは、

「あんたは――ソランのドルー騎士団長か」
「覚えておいででしたか」
「そのいかつい面は忘れにくいからな」

 ソラン王国の騎士団長ドルー・デノーフィアとその部下のパウルだった。

「あんたらがここへ来てくれたということは――城周辺の魔族はあらかた片付いたってことなのか?」
「そういうわけではありません」

 パウルの言葉にミラルダは首を傾げる。

「どういう意味だ?」
「援軍が到着したのです。――世界中から」
「何?」

 パウルの話によると、東西南北にある小国の騎士団が団結してこの廃界へと乗り込んできたのだという。彼らは連合竜騎士団が廃界へ魔族討伐に向かったことを知り、何か手助けができないかと駆けつけたという。
 その小国の騎士団の中にはドラゴンの属さない小規模なものも含まれていた。

「援軍は次から次へとこの廃界へ攻め込んで来ています。おかげで情勢はこちら側が有利に傾きつつあります」
「そうか……」

 これまで、誰もがその存在を避けてきた廃界。
 魔族による被害が各国で問題になる中で、その決定的な解決方法――廃界への侵攻についてはどこも及び腰であった。

 それが、ペルゼミネのシリング王の呼びかけで4大国家の竜騎士団が集結し、今回の討伐作戦が展開されたわけだが、規模の小さな国は静観を決め込んでいた。
 
 しかし、いても立ってもいられなくなったか、ひとつふたつと小国の騎士団たちが立ち上がり、その戦力は徐々に増えていった。

「間もなくさらに援軍がこちらへ到着する予定です」
「なら、その援軍の到着を待ってから一部の騎士たちは先行している部隊と合流するためここを離れるとしよう」
「それがいいですな」
「ランスロー王子、この城のどこかに魔族精製のために作られた魔法陣があると思われるんだが、その場所を知らないか?」
「あいにくとその場所は――ただ、そのような重要なものはイネスの性格からして自分の目に見える位置に置いておくはずだ」
「どのみち前進あるのみというわけか。わかりやすくていいな」 

 情勢が優勢になりつつある現状に、周りの騎士たちの士気は一気に高まった。
 残る竜人族は操られているという智竜シャルルペトラと雷竜エルメルガのみ。
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