おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章②】竜王選戦編

第217話  シャルルペトラの実力

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 オロム城最深部へと進む颯太を指揮官とする新生竜騎士団。
 もちろん、颯太自身は騎士団の指揮など初めてのため、うまくいくかどうか半信半疑なところはあったが、いざオロム城内部へと足を踏み入れるとそんな心配は消え去り、イネスのもとへ目がけて一心不乱に突き進んだ。

「ソータ! この階段を駆け上がるぞ!」
「わかった!」

 イリウスの背に乗る颯太は、先頭を走るエルメルガの誘導で目的地へ順調に近づく。ここまで来ると魔族の姿は見えず、城の中はガランとしていた。

 余計な戦闘を挟む必要がないため、体力の消耗を防げるが、それがかえって不気味さを醸し出していた。まるで、「配置しなくても自分ひとりで十分対処できる」というイネスの自信が透けているとも捉えられる。

「これが最後の戦いなんだ……ここで勝つことができれば……」

 竜王選戦も終盤を迎え、魔女イネスとの決着も近い。
 颯太とメアとエルメルガ――そして多くの竜騎士たちが最終決戦の舞台へ着実に接近していた。


 ◇◇◇


 オロム城前にあるコロッセオ周辺ではシャルルペトラを食い止める激しい戦いが繰り広げられていた。

「いくわよ!」

 磁竜ベイランダムが使い古された盾や剣を集めて鉄塊を生み出し、それを放り投げる。しかし、シャルルペトラは別段驚く様子はなく、まるでキャッチボールでもするかのような気軽さでその撤回を片手で受け止めた。

「隙ありだ!」

 ベイランダムの攻撃へ対処するために生じた隙を逃さず、陸戦型ドラゴンに乗るルコードがシャルルペトラの肌へ剣を突き立てる。

 だが、シャルルペトラは空いているもう片方の手で剣を受け止めると、そのままルコードを放り投げた。

「ぬあっ!?」

 乗っていたドラゴンから空中へ高々と放り出されたルコードは、その勢いのまま地面へと叩きつけられる。

「ぐぅ……智竜シャルルペトラ……これほどとは」
「ルコード騎士団長!?」

 周りの騎士たちが心配して駆け寄るが、

「私のことは後回しでいい! それよりもシャルルペトラを食い止めろ!」
「はっ!」

 智竜シャルルペトラの実力は想像以上だ。しかし、ここを踏ん張れば、間もなくナインレウスたちと戦闘していた騎士たちも合流する。それだけでなく、焔竜ニクスオードと戦っていたハドリーや鎧竜たちも駆けつけるはずだ。

「なんとしてもヤツをここで足止めするんだ!」

 ルコードの気迫に後押しされて、騎士たちは雄叫びをあげながらシャルルペトラへと突撃していく。
 さらに、

「食らえ!」

 最初の一撃で吹き飛ばされていたキルカが戦線へ復帰。
 早々に、自らの能力によって操っている植物たちをシャルルペトラへと放った。いわゆる食虫植物をさらに獰猛化させた、キルカの持つ植物の中でも特に危険度の高い植物だ。

 ――だが、それでもシャルルペトラを止めることはできない。

 あらゆる攻撃を無言のまま、最小限の力で抑えているシャルルペトラ。操られているとはいえ、その戦闘スキルの高さは本能から来るものだろうか。

「直接攻撃がダメなら音なのです!」

 奏竜ローリージンが奏でるメロディ――それにも、シャルルペトラは眉ひとつ動かさず、その俊敏な動きであっという間にローリージンを攻め立てて吹っ飛ばす。

「ロー!?」

 ベイランダムの叫び声が終わる前に、ローリージンはその身を壁に叩きつけ、ぐったりと動かなくなった。死んではいないのだろうが、ダメージは深刻だ。

「やったな!!」

 怒りに火がついたベイランダムが飛びかかる――だが、こちらも軽々とあしらわれ、掌底の一撃によりコロッセオの壁を突き破るほどの衝撃を与えられて膝をつく。

「…………」

 続いて、ナインレウスが攻める。
 奪った能力を返還してしまっているため、今のナインレウスには戦う術はないが、シャルルペトラから能力を奪うため、その牙をいつでも向けられるようにしていた。ベイランダムからも「隙ができたら迷わず食いちぎれ!」と指示を出されているため、ナインレウスに戸惑いはなかった。

 接近戦に持ち込み、能力を奪えれば――勝機はある。

 だが、1匹の竜人族に対し、こちらは複数が協力して立ち向かわなければ歯が立たないとはなんとも歯痒い事態だ。それほどまでにシャルルペトラが強いとも評せるが。

 ルコードがナインレウスの奮闘に期待していると、遠くの方からこちらへ向かって迫って来る声が耳に入った。

「! 来たか!」

 心待ちにしていた援軍だった。
 その先陣を切るのは、


「シャルル!? おまえなのか!?」


 ランスロー王子だった。
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