198 / 246
【最終章②】竜王選戦編
第218話 援軍
しおりを挟む
「シャルル! 僕だ! ランスローだ!」
連合竜騎士団の陸戦型ドラゴンに乗ったランスローが、到着早々にシャルルの名前を大声で叫んだ。
「どうやら本命が到着したようだが……」
シャルルペトラと関係の深いランスローがその名を叫ぶ。当然、シャルルペトラの耳に届いているはずなのだが、その表情にはなんの変化も確認できない。まるで何事も起きていないかのように、磁竜と奏竜を相手に死闘を繰り広げていた。
「声だけではダメか……」
ルコードは剣を構え直す。
――と、シャルルペトラの体に黒いロープ状の物体が一瞬にして巻き、その動きを封じ込めた。
「さすがはアーティーの娘か――シャルルペトラ!」
シャルルペトラの母親であるアーティーのいるマーズナー・ファームの前オーナー――ミラルダ・マーズナーであった。愛用のドラゴン革製の鞭がシャルルに巻きつき、自由を奪い取っている。
「キルカ! 今のうちにヤツを閉じ込めろ!」
ミラルダからの指示を受けたキルカは、すぐにその真意を読み取って、地面に拳を叩きつける。その拳の中にはある植物の種が握られており、それは土の中であっという間に成長してシャルルへと襲いかかる。
シャルルの足元が不自然にボコッと盛り上がると、ミラルダは作戦の成功を確信して鞭を手放し、飛び退いて避難した。
その直後、
バクン!!
地面からせり上がって来た巨大食虫植物が、シャルルを丸呑み。これなら身動きを取れないだろう。
「シャルルペトラ!?」
「安心しろ。あくまでも拘束のためだ。消化液で溶かしたりはしないって」
キルカの放ったあの植物――本来は食虫植物であったが、今ではなんでも食べる雑食系の植物と化していた。ただ、それ以外の違いとして、「食べる」のではなく「捕らえる」行為を前提としているという点も付け加えられる。
「今のシャルルペトラはイネスに操られている。そちらの洗脳が溶けているのにシャルルペトラは未だに襲いかかって来るという現状を見るに、イネスはシャルルペトラを優先して操るようにしているようだ」
竜人族の中でも飛び抜けた力を持つシャルルペトラを従順な駒として残しておく方がいいのは当然の判断だ。
――だが、連合竜騎士団側としてはその現状はなんとか打破したいところ。
「ミラルダオーナーはあの植物でシャルルペトラをどれほど拘束していられると計算されていますか?」
そう質問したのはランスローだった。
「どうだろうな……それでもまあ、10分近くはイケるんじゃないか?」
「なら、そのうちに次の作戦を考えましょう」
「作戦? んなもん必要ないだろ」
そう言って、ミラルダはすぐ横に立つランスローの肩に手を添える。
「ランスロー王子……あんたが鍵だ」
「僕が……」
「シャルルを止められるのは王子だけだ」
力でねじ伏せようというのは恐らく無理だろう。
それはルコードも痛感していた。
現に、キルカの力でシャルルの動きが封じ込まれるや否や、周囲の竜人族たちは極度の疲労とダメージで全員座り込んでいる。もう少しすれば、回復係の癒竜レアフォードや戦力として期待できる歌竜ノエルバッツも合流できそうだが、果たしてそれまで拘束をしている植物がもつかどうか疑問だ。
「このまま総力戦となればこちらが不利になる。……ランスロー王子、この窮地を脱するには王子がシャルルペトラを目覚めさせるしか方法がないんだ」
「…………」
ミラルダの必死の訴えで、ランスローは覚悟を決めた。
「……やりましょう」
「よし! そうなれば段取りを決めよう。まずはシャルルペトラとの距離を詰めるところからだが――」
ミラルダが作戦提案をしようとした、まさにその時だった。
強烈な爆発音がして突風が発生。
いきなりの事態に動揺する連合竜騎士団たち――その原因はすぐに判明しなかったが、誰もが心当たりはあった。
――残念ながら、その心当たりは正解だった。
「あれでもダメか……」
10分くらいは時間稼ぎができるだろうと踏んでいたミラルダであったが、実際はものの1分そこらで植物を破壊。平然とした表情して再び大地にその足をつけた。
「くっ……一体どうすれば……」
キルカとしては、あの植物を打ち破られてしまっては正直お手上げの状態であった。磁竜や奏竜も、できることといえばせいぜい時間稼ぎくらい。なんの時間稼ぎかといえば、それはランスローがこの場に到着するまでの時間を指すので、そのランスローが到着した現状ではもうお役御免であった。
だが、もしランスローの説得がうまくいかなかった時――その際の対処法が問題であった。
「説得がうまくいかず、魔女イネスを倒すために城内へ潜入したソータたちがもし魔女狩りに失敗したら……」
「そん時はこの世の終わりだな」
恐る恐る口にするルコードに対し、ミラルダはなんともあっけらかんとした態度で言い放ってみせた。一見すると無責任な発言に思えるが、それは純然たる事実であるとも言えた。
「そうならないために……僕がシャルルを説得してみせる」
シャルルと対峙するため、一歩前に出たランスロー。
その時――突如上空から大きな羽音が響き渡った。
やがてその羽音は大きくなり、ミラルダたちの周辺を黒い影が覆う。
「!? なんだ!?」
新たな敵か、とミラルダたちがその影の正体を知るため顔を上げると、
「! アーティー?」
ミラルダは驚愕する。
年老いたせいでまともに翼を動かせなかったあのアーティーが、ボロボロの翼を一生懸命に動かし、不格好な飛び方で廃界の空にいた。
「ど、どうしてここに――」
そこまで言って、ミラルダは気づく。
「おまえまさか……娘のシャルルペトラを説得しに!?」
ミラルダの言葉にハッとなったキルカは、通訳代わりにアーティーへとここへやって来たその目的をたずねた。すると、
「母として、決着をつけに来ました」
覚悟のにじむその瞳は、真っ直ぐにシャルルペトラへと向けられていた。
連合竜騎士団の陸戦型ドラゴンに乗ったランスローが、到着早々にシャルルの名前を大声で叫んだ。
「どうやら本命が到着したようだが……」
シャルルペトラと関係の深いランスローがその名を叫ぶ。当然、シャルルペトラの耳に届いているはずなのだが、その表情にはなんの変化も確認できない。まるで何事も起きていないかのように、磁竜と奏竜を相手に死闘を繰り広げていた。
「声だけではダメか……」
ルコードは剣を構え直す。
――と、シャルルペトラの体に黒いロープ状の物体が一瞬にして巻き、その動きを封じ込めた。
「さすがはアーティーの娘か――シャルルペトラ!」
シャルルペトラの母親であるアーティーのいるマーズナー・ファームの前オーナー――ミラルダ・マーズナーであった。愛用のドラゴン革製の鞭がシャルルに巻きつき、自由を奪い取っている。
「キルカ! 今のうちにヤツを閉じ込めろ!」
ミラルダからの指示を受けたキルカは、すぐにその真意を読み取って、地面に拳を叩きつける。その拳の中にはある植物の種が握られており、それは土の中であっという間に成長してシャルルへと襲いかかる。
シャルルの足元が不自然にボコッと盛り上がると、ミラルダは作戦の成功を確信して鞭を手放し、飛び退いて避難した。
その直後、
バクン!!
地面からせり上がって来た巨大食虫植物が、シャルルを丸呑み。これなら身動きを取れないだろう。
「シャルルペトラ!?」
「安心しろ。あくまでも拘束のためだ。消化液で溶かしたりはしないって」
キルカの放ったあの植物――本来は食虫植物であったが、今ではなんでも食べる雑食系の植物と化していた。ただ、それ以外の違いとして、「食べる」のではなく「捕らえる」行為を前提としているという点も付け加えられる。
「今のシャルルペトラはイネスに操られている。そちらの洗脳が溶けているのにシャルルペトラは未だに襲いかかって来るという現状を見るに、イネスはシャルルペトラを優先して操るようにしているようだ」
竜人族の中でも飛び抜けた力を持つシャルルペトラを従順な駒として残しておく方がいいのは当然の判断だ。
――だが、連合竜騎士団側としてはその現状はなんとか打破したいところ。
「ミラルダオーナーはあの植物でシャルルペトラをどれほど拘束していられると計算されていますか?」
そう質問したのはランスローだった。
「どうだろうな……それでもまあ、10分近くはイケるんじゃないか?」
「なら、そのうちに次の作戦を考えましょう」
「作戦? んなもん必要ないだろ」
そう言って、ミラルダはすぐ横に立つランスローの肩に手を添える。
「ランスロー王子……あんたが鍵だ」
「僕が……」
「シャルルを止められるのは王子だけだ」
力でねじ伏せようというのは恐らく無理だろう。
それはルコードも痛感していた。
現に、キルカの力でシャルルの動きが封じ込まれるや否や、周囲の竜人族たちは極度の疲労とダメージで全員座り込んでいる。もう少しすれば、回復係の癒竜レアフォードや戦力として期待できる歌竜ノエルバッツも合流できそうだが、果たしてそれまで拘束をしている植物がもつかどうか疑問だ。
「このまま総力戦となればこちらが不利になる。……ランスロー王子、この窮地を脱するには王子がシャルルペトラを目覚めさせるしか方法がないんだ」
「…………」
ミラルダの必死の訴えで、ランスローは覚悟を決めた。
「……やりましょう」
「よし! そうなれば段取りを決めよう。まずはシャルルペトラとの距離を詰めるところからだが――」
ミラルダが作戦提案をしようとした、まさにその時だった。
強烈な爆発音がして突風が発生。
いきなりの事態に動揺する連合竜騎士団たち――その原因はすぐに判明しなかったが、誰もが心当たりはあった。
――残念ながら、その心当たりは正解だった。
「あれでもダメか……」
10分くらいは時間稼ぎができるだろうと踏んでいたミラルダであったが、実際はものの1分そこらで植物を破壊。平然とした表情して再び大地にその足をつけた。
「くっ……一体どうすれば……」
キルカとしては、あの植物を打ち破られてしまっては正直お手上げの状態であった。磁竜や奏竜も、できることといえばせいぜい時間稼ぎくらい。なんの時間稼ぎかといえば、それはランスローがこの場に到着するまでの時間を指すので、そのランスローが到着した現状ではもうお役御免であった。
だが、もしランスローの説得がうまくいかなかった時――その際の対処法が問題であった。
「説得がうまくいかず、魔女イネスを倒すために城内へ潜入したソータたちがもし魔女狩りに失敗したら……」
「そん時はこの世の終わりだな」
恐る恐る口にするルコードに対し、ミラルダはなんともあっけらかんとした態度で言い放ってみせた。一見すると無責任な発言に思えるが、それは純然たる事実であるとも言えた。
「そうならないために……僕がシャルルを説得してみせる」
シャルルと対峙するため、一歩前に出たランスロー。
その時――突如上空から大きな羽音が響き渡った。
やがてその羽音は大きくなり、ミラルダたちの周辺を黒い影が覆う。
「!? なんだ!?」
新たな敵か、とミラルダたちがその影の正体を知るため顔を上げると、
「! アーティー?」
ミラルダは驚愕する。
年老いたせいでまともに翼を動かせなかったあのアーティーが、ボロボロの翼を一生懸命に動かし、不格好な飛び方で廃界の空にいた。
「ど、どうしてここに――」
そこまで言って、ミラルダは気づく。
「おまえまさか……娘のシャルルペトラを説得しに!?」
ミラルダの言葉にハッとなったキルカは、通訳代わりにアーティーへとここへやって来たその目的をたずねた。すると、
「母として、決着をつけに来ました」
覚悟のにじむその瞳は、真っ直ぐにシャルルペトラへと向けられていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。