おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章③】魔竜討伐編

第221話  異世界転移の謎

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「ここじゃ! この部屋の奥にイネスがおるはずじゃ!」

 颯太たちはとうとうオロム城の最奥部へとたどり着いた。
 目の前に立ちはだかる重厚な扉の先に――魔女イネスが待ち構えている。

「いよいよ最後の敵のお出ましか……」

 気合を入れ直すように、颯太は深呼吸をする。
 他の騎士たちも、いよいよ迎える最後の戦いを前に緊張した面持ちで扉を見つめていた。

「開けるぞ」

 メアが先陣を切って扉を開けようとするが、その足は扉を前にして急に止まった。――その直後、「ギイィ」と音を立てて扉が自動的に開く。まるで、颯太たちの到着を察知したかのように。


「待っていましたよ」


 淡い紫色の光に包まれた室内にたたずむひとりの女性。
 それは紛れもなく、

「イネス!」

 この中で、唯一魔女イネスと直接対面した経験のあるエルメルガがその名を呼んだ。

「あれが……」

 颯太が想像していた魔女イネス像とは似ても似つかなかった。もっとこう、いかにも魔女というビジュアルをしているかと思いきや、想像より遥かに普通の女性であった。
 予想外のイネスの正体に驚きを隠せない颯太たちであったが――全員、ある外見的特徴に目を奪われた。


「角と尻尾が――」


 イネスに見られたのはまさに竜人族そのものであった。

「ま、魔女イネスは竜人族であったか」
「それならば、古来よりの伝説も合点があう」
「だ、だが……」

 騎士たちは違和感を覚えていた。
 相手はメアやトリストンやエルメルガと同じく竜人族――だが、イネスは他の竜人族と決定的な違いがあった。それは、

「魔女イネス――人の言葉が使えるのか」
「ふふっ、驚いたかしら」

 颯太を守るようにメア、トリストン、エルメルガが囲む。
 3匹は人間には感じ取れないほどの些細な「気配」に警戒を強めていた。特に戦闘経験豊富なメアとエルメルガはイネスの底知れぬ力に不安を抱いていた。


 ――勝てるのか。


 そんなシンプルな不安が胸の中に渦巻いている。

「あなたがタカミネ・ソータね」
「あ、ああ、そうだ」
「ちょっと話があるの。――他の人は邪魔ね」
「!?」

 キッと細められた瞳に、颯太は戦慄した。
 殺意を凝縮したような鈍い輝きを放つその双眸――ゾクッと怖気が全身を貫いたかと思ったら、目の前にいたはずの3匹の竜人族が視界から消え去っていた。

「なっ!?」

 事態が把握できない颯太であったが、周りを見渡してみて、ようやく何が起こったのかを理解した。

「メア! トリストン! エルメルガ!」

 3匹は苦しそうに見悶えていた。
 数人の騎士たちも負傷したらしく、苦しそうな呻き語をあげながら地面を転がっている。

「い、一体何が……」
「言ったでしょ? 邪魔だって」
「そんな……」
 
 何をされたのか――それすらわからず、一瞬のうちにメアたち3匹の竜人族をダウンさせて見せた。
 
「お気づきでしょうが、イネス・ハーディガルというのは仮の姿。私の本当の名前は魔竜イネス――本来ならば竜王になるのはレグジートではなくこの私でした」
「竜王……」

 レグジート。
 颯太がこの世界に来て――いや、人生で初めてできた「友だち」の名前。

「彼が邪魔さえしなければ、今頃この世界は私の思うままに回っていたのに」
「レグジートさんが邪魔を?」

 そういえば、と颯太はマーズナー・ファームでアーティーが言っていたことを思い出す。
 颯太に竜の言霊を託した竜王レグジート――しかし、竜王になったのには特別な事情があるらしかった。たしかに、竜王選戦と呼ばれる次期竜王を決める竜人族同士の戦いがあったとするなら、長寿とはいえ通常種であるレグジートが竜王になるのはおかしい。

 その謎を、本来なら竜王になるはずだったというイネス自身が明かした。

「あなたには真実を知る権利があるわね」
「真実、だと……」
「ソータ殿! 下がってください!」

 騎士たちが剣を構えるが、颯太は腕を伸ばして制止する。

「聞かせてくれ、その真実を」
「あら、案外と度胸はあるのね」
「レグジートさんは竜王選戦をなくそうとしていた。それでも、世界中には竜王の子が存在している――俺はすべてを知りたいんだ。竜王の謎のすべてを」
「……いいわ」

 イネスはスッと腕をあげると、右手の人差し指を颯太へと向けた――その指先から、鋭い光が物凄いスピードで近づき、颯太のおでこに直撃。

 瞬間――颯太の目の前は真っ暗になった。

「見せてあげるわ。……この世界の真実を。そして――あなたが呼ばれた理由を」

 底なしの闇へ落ちるような感覚を味わいながら、颯太はイネスの言葉に耳を傾けた。

「俺が――呼ばれた理由」

 颯太が異世界転移した理由を、イネスは知っているようだった。
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