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【最終章③】魔竜討伐編
第222話 知らない世界
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「――はっ!?」
気がつくと、颯太は見知らぬ草原の真ん中に突っ立っていた。
「ここは……」
恐らく、かつて住んでいた世界の光景ではない。――転移してきた世界のどこかであるのは間違いなさそうだ。
「俺は一体……何があったんだ?」
混乱する頭をなんとか落ち着けようと胸に手を当てて記憶の糸を手繰る。
廃界オロムの最深部――オロム城で待つ魔女イネスの待つ部屋まで行ったところまでは覚えている。それから、メアたちが攻撃を受け、何がなんだかわからないうちにイネスの手から放たれた光に射抜かれて――
『見せてあげるわ。……この世界の真実を。そして――あなたが呼ばれた理由を』
イネスが口走ったその言葉。
呼ばれた理由というのが、颯太の心に引っかかっていた。
「イネスは……俺が異世界から転移してきたことを知っているのか……」
発言内容から、そうとしか思えない。
颯太としては、次元転移魔法を使えるという智竜シャルルペトラが絡んでいると踏んでいたのだが、あの口ぶりではイネスもなんらかの形で関わっているようにも聞こえる。
ただ、この世界において次元転移魔法とは禁忌とされているいわば禁じ手――本当にシャルルが使ったのなら、果たしてどのような意図があったのだろうか。
「……俺が考えても答えは出ないよな」
思考の沼にはまりかけたところで冷静に振り返る。
とりあえず、現在地を確認したいのだが、
「? あれはなんだ?」
変化のない緑の景色が広がる草原――と思いきや、その先に一筋の白煙が空に向かって伸びているのを発見する。
「人がいるのか?」
ともかく情報を――と、颯太が駆け出した時だった。
「きゃあああああ!!」
反対方向から女性の悲鳴が聞こえた。
驚いて振り向くと、女性だけでなく大勢の人たちがこちらへと走って来る。その表情は恐怖と焦りに支配され、冷静さを著しく欠いているように映った。
「え? ちょ、ちょっと!?」
無我夢中で走って来る人々――あまりにも焦っているせいか、颯太のことが見えていないようで、このままの勢いだとぶつかってしまう。颯太も慌ててその場から離れようとしたが、間に合わず、大柄の男と正面衝突を――
「……ん?」
――したはずだが、颯太は無傷。
それどころか、次から次へと押し寄せる人々と体が重なり合っているはずなのに、ぶつかることなく人々は走り抜けていく。
「すり抜けているのか……?」
そう解釈するしかなかった。
今の自分は存在しているけどしていない。周りの人々の視線が誰ひとりとして自分とぶつからないことも、その推測が事実であるという裏付けになった。
「一体何があって――」
現状は分析できても、経緯はサッパリわからない。
もっとじっくり腰を据えて考えたいところであったが、津波のように押し寄せる人々が何から逃げているのか、それに気づいた時――颯太の思考は途端に停止した。
「グゴアァァァァァッ!!!」
「ギャガァァァァァッ!!!」
ぶつかり合う2匹のドラゴン。
巨体が触れ合うたびに、大地が泣くように震える。
足元にある家屋はまるでミニチュアで、大迫力の怪獣映画を特等席で見ている気分になってくる。――などと、余裕をかましている暇はない。あの2匹がどうして戦っているのか、その理由については見当もつかないが、このままでは被害は拡大する一方。なんとか説得をしようと話しかけるが、2匹はまったく気づかない。というより、
「あ、そうか……俺の存在を認識できないのか……」
今の颯太は幽霊も同然の状態であった。
そうこうしているうちに、騒動を聞きつけた竜騎士団が駆けつけた。規模からして分団だろうか。先頭に立つ分団長と思われる人物が乗る陸戦型ドラゴンに括りつけられている国旗からやって来たのはハルヴァの竜騎士団と断定できる。しかし、
「? 見たことのない人たちだ……」
仕事柄、ハルヴァ竜騎士団の面々とは何度も顔を合わせている颯太だが、総勢で20名はいるだろうその騎士たちの顔はどれも見たことがなかった。
彼らもまた目の前にいる颯太を認識できていないようだ。
「忌々しいドラゴンどもめ……ところかまわず暴れおって」
「どうしましょうか、分団長」
「しばらく静観だ。あの様子では、勝ったところで満身創痍――弱っているところを一気に叩いてすぐ殺す。戦闘準備だけは整えておけ」
「はっ!」
竜騎士団へ近づいた颯太が耳にしたのは信じがたい言葉だった。ハルヴァ竜騎士団に属する者から、ドラゴンに対してそのような言葉が発せられるなんて――いや、そもそも、
「……竜騎士団は廃界へ出撃していて不在のはずだ。じゃあ、あそこにいるのは……」
偽物か?
しかし、4大国家であるハルヴァの竜騎士団に化けるのは無理がある気がする。
颯太が疑惑の竜騎士団について考察している間に、ドラゴン同士の戦いは決着がついた。赤い鱗のドラゴンが、黒い鱗のドラゴンの首元に噛みついてそのまま肉を食いちぎった。
勝負がついた瞬間、2匹のドラゴンの全身は光に包まれて――少女の姿へと変貌する。
「! 竜人族だったのか」
だが、先ほどの竜騎士団と同じく、2匹とも見たことがない竜人族であった。
戦闘が終わったのを見届けると、これを好機と見た疑惑の竜騎士団分団長はニタリと笑い、
「さあ、今が狩り時だ。――やれ!」
部下である騎士たちへ、弱っている竜人族に総攻撃を仕掛けるよう指示を飛ばす。
「!? やめろぉ!」
怒涛の勢いで竜人族へ迫る竜騎士団を食い止めるため颯太は飛び出すが、今の颯太を誰も認識することができず、まるでそこにいないかのようにすり抜けていく。
颯太の叫びは届かぬまま、竜人族へと危機が迫る――だが、目の前が暗転したと同時に戦局は一気に覆る。
「グオォォォォォッ!」
上空から、別のドラゴンが舞い降りた。
これにより、竜騎士団たちの勢いは完全にへし折れた。――というのも、乱入してきたドラゴンは戦っていた竜人族たちよりもさらに一回り大きく、騎士団のドラゴンたちはまるで子ども扱いだった。
「強い……」
さっきまで心配していた颯太だが、突如現れたドラゴンの圧倒的な強さに見入っていた。
正体不明の騎士団に竜人族。
颯太が迷い込んだこの世界は――果たして一体どこなのだろうか。
気がつくと、颯太は見知らぬ草原の真ん中に突っ立っていた。
「ここは……」
恐らく、かつて住んでいた世界の光景ではない。――転移してきた世界のどこかであるのは間違いなさそうだ。
「俺は一体……何があったんだ?」
混乱する頭をなんとか落ち着けようと胸に手を当てて記憶の糸を手繰る。
廃界オロムの最深部――オロム城で待つ魔女イネスの待つ部屋まで行ったところまでは覚えている。それから、メアたちが攻撃を受け、何がなんだかわからないうちにイネスの手から放たれた光に射抜かれて――
『見せてあげるわ。……この世界の真実を。そして――あなたが呼ばれた理由を』
イネスが口走ったその言葉。
呼ばれた理由というのが、颯太の心に引っかかっていた。
「イネスは……俺が異世界から転移してきたことを知っているのか……」
発言内容から、そうとしか思えない。
颯太としては、次元転移魔法を使えるという智竜シャルルペトラが絡んでいると踏んでいたのだが、あの口ぶりではイネスもなんらかの形で関わっているようにも聞こえる。
ただ、この世界において次元転移魔法とは禁忌とされているいわば禁じ手――本当にシャルルが使ったのなら、果たしてどのような意図があったのだろうか。
「……俺が考えても答えは出ないよな」
思考の沼にはまりかけたところで冷静に振り返る。
とりあえず、現在地を確認したいのだが、
「? あれはなんだ?」
変化のない緑の景色が広がる草原――と思いきや、その先に一筋の白煙が空に向かって伸びているのを発見する。
「人がいるのか?」
ともかく情報を――と、颯太が駆け出した時だった。
「きゃあああああ!!」
反対方向から女性の悲鳴が聞こえた。
驚いて振り向くと、女性だけでなく大勢の人たちがこちらへと走って来る。その表情は恐怖と焦りに支配され、冷静さを著しく欠いているように映った。
「え? ちょ、ちょっと!?」
無我夢中で走って来る人々――あまりにも焦っているせいか、颯太のことが見えていないようで、このままの勢いだとぶつかってしまう。颯太も慌ててその場から離れようとしたが、間に合わず、大柄の男と正面衝突を――
「……ん?」
――したはずだが、颯太は無傷。
それどころか、次から次へと押し寄せる人々と体が重なり合っているはずなのに、ぶつかることなく人々は走り抜けていく。
「すり抜けているのか……?」
そう解釈するしかなかった。
今の自分は存在しているけどしていない。周りの人々の視線が誰ひとりとして自分とぶつからないことも、その推測が事実であるという裏付けになった。
「一体何があって――」
現状は分析できても、経緯はサッパリわからない。
もっとじっくり腰を据えて考えたいところであったが、津波のように押し寄せる人々が何から逃げているのか、それに気づいた時――颯太の思考は途端に停止した。
「グゴアァァァァァッ!!!」
「ギャガァァァァァッ!!!」
ぶつかり合う2匹のドラゴン。
巨体が触れ合うたびに、大地が泣くように震える。
足元にある家屋はまるでミニチュアで、大迫力の怪獣映画を特等席で見ている気分になってくる。――などと、余裕をかましている暇はない。あの2匹がどうして戦っているのか、その理由については見当もつかないが、このままでは被害は拡大する一方。なんとか説得をしようと話しかけるが、2匹はまったく気づかない。というより、
「あ、そうか……俺の存在を認識できないのか……」
今の颯太は幽霊も同然の状態であった。
そうこうしているうちに、騒動を聞きつけた竜騎士団が駆けつけた。規模からして分団だろうか。先頭に立つ分団長と思われる人物が乗る陸戦型ドラゴンに括りつけられている国旗からやって来たのはハルヴァの竜騎士団と断定できる。しかし、
「? 見たことのない人たちだ……」
仕事柄、ハルヴァ竜騎士団の面々とは何度も顔を合わせている颯太だが、総勢で20名はいるだろうその騎士たちの顔はどれも見たことがなかった。
彼らもまた目の前にいる颯太を認識できていないようだ。
「忌々しいドラゴンどもめ……ところかまわず暴れおって」
「どうしましょうか、分団長」
「しばらく静観だ。あの様子では、勝ったところで満身創痍――弱っているところを一気に叩いてすぐ殺す。戦闘準備だけは整えておけ」
「はっ!」
竜騎士団へ近づいた颯太が耳にしたのは信じがたい言葉だった。ハルヴァ竜騎士団に属する者から、ドラゴンに対してそのような言葉が発せられるなんて――いや、そもそも、
「……竜騎士団は廃界へ出撃していて不在のはずだ。じゃあ、あそこにいるのは……」
偽物か?
しかし、4大国家であるハルヴァの竜騎士団に化けるのは無理がある気がする。
颯太が疑惑の竜騎士団について考察している間に、ドラゴン同士の戦いは決着がついた。赤い鱗のドラゴンが、黒い鱗のドラゴンの首元に噛みついてそのまま肉を食いちぎった。
勝負がついた瞬間、2匹のドラゴンの全身は光に包まれて――少女の姿へと変貌する。
「! 竜人族だったのか」
だが、先ほどの竜騎士団と同じく、2匹とも見たことがない竜人族であった。
戦闘が終わったのを見届けると、これを好機と見た疑惑の竜騎士団分団長はニタリと笑い、
「さあ、今が狩り時だ。――やれ!」
部下である騎士たちへ、弱っている竜人族に総攻撃を仕掛けるよう指示を飛ばす。
「!? やめろぉ!」
怒涛の勢いで竜人族へ迫る竜騎士団を食い止めるため颯太は飛び出すが、今の颯太を誰も認識することができず、まるでそこにいないかのようにすり抜けていく。
颯太の叫びは届かぬまま、竜人族へと危機が迫る――だが、目の前が暗転したと同時に戦局は一気に覆る。
「グオォォォォォッ!」
上空から、別のドラゴンが舞い降りた。
これにより、竜騎士団たちの勢いは完全にへし折れた。――というのも、乱入してきたドラゴンは戦っていた竜人族たちよりもさらに一回り大きく、騎士団のドラゴンたちはまるで子ども扱いだった。
「強い……」
さっきまで心配していた颯太だが、突如現れたドラゴンの圧倒的な強さに見入っていた。
正体不明の騎士団に竜人族。
颯太が迷い込んだこの世界は――果たして一体どこなのだろうか。
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