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【最終章③】魔竜討伐編
第235話 魔竜の倒し方
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「ルコード騎士団長!」
「! ソータ殿か!?」
イネス討伐のためオロム城内へ突入していた颯太たちの部隊とルコードの本隊が合流を果たした。
「シャルルペトラは!?」
「あそこだ」
颯太がシャルルペトラの居場所をたずねると、ルコードは上空を指さした。そこにはノエルたちを引き連れたシャルルペトラの姿があった。
「シャルルペトラ……」
颯太は正気に戻ったシャルルペトラから聞き出したいことがあった。
なぜ、シャルルペトラは自分を選んだのか。
その真相を問いたかったが、今彼女は母イネスと最後の決着をつけるため戦場の最前線へと飛び立った。
「歯痒いな……我ら人間には彼女たちに何もしてやれないなんて」
ルコードの悔しさは、颯太もよくわかっていた。
ソラン王国でメアが石像にされた時も。
舞踏会の夜の日にキルカがナインレウスと対峙した時も。
レイノア王国でトリストンが獣人族と戦っていた時も。
メアとエルメルガが激突し、メアが瀕死の重傷を負った時も――近くにいながら颯太はただ戦況を見守ることしかできなかった。
この場面でも同じだった。
「ソータ……」
ブリギッテが颯太の肩に手をかける。
共に竜人族の戦いを間近で見続けてきたブリギッテには、颯太の無念の気持ちが痛いほど理解できていた。
颯太だけではない。
他の騎士たちと通常種ドラゴンたちも気持ちは同じだった。
「俺たちに何かできることはないのか……」
胸にたまっていく苦しみを吐露するように、颯太は俯きながら小声で言う。
その時だった。
「あるかもしれません――私たちにやれること」
初めて耳にする声だった。
その主は、
「き、君は……」
「お会いするのは初めてですね。――私がシャオ・ラフマンです」
魔竜イネスによってさらわれ、つい先ほど保護されたばかりの聖女シャオ・ラフマンであった。彼女は息も荒く、ふらついており、しばらく歩くと倒れそうになったため、ブリギッテが咄嗟に肩を抱いて支えた。
シャオはそれでも必死に体を動かして颯太たちに訴える。
「む、無理をするな、シャオ」
「大丈夫です……」
気丈に振る舞ってはいるが、顔色は悪く、吐息も弱々しくなっている。
「智竜シャルルペトラは魔法が使えます。あのイネスを上回る魔力をぶつけることができればきっと消滅させられるはずです」
「魔竜イネスを越える魔力……」
騎士たちは騒然となった。
今もなお、苦しみながら成長を続けるあの巨体を上回る魔力――それをシャルルペトラがまとえば、より強力な魔法をもってイネスを打ち倒せる。
理屈は呑み込めたが、問題はその魔力をどうやって生み出すかだ。
それに、やはり最終的には竜人族の手を借りることになる。
「シャオ・ラフマン……君の言いたいことはわかるが……やはり我々にはどうすることもできない問題ではないか?」
「そんなことはありませんよ」
ルコードの言葉を、シャオはすぐさま否定した。
「シャルルペトラが必要とする魔力は――私たち人間が用意します」
「何っ!? わ、我々が!?」
騎士たちの間に流れていたざわつきが一層強まった。
「バカな……人間である我らがどうやって魔力を……」
「可能です。――ここはどこだかご存知ですよね?」
「ここ?」
ルコードは大地へ視線を下ろした。
今立っているこの場所に何かヒントがあるというのか。
「ここは廃界オロム――いえ、かつて魔法国家として繁栄を極めたオロムですよ」
「それはわかっているが……」
「オロムに住んでいた人たちは程度に差はあれど魔法が使えた。だけど、住んでいた人たちはけして私たちと違う特別な存在というわけではありません。――至って普通の人間だったのです」
「な、なぜそう言いきれるんだ?」
「イネスが得意げに語っていましたよ」
「じゃあ、俺たちも潜在的に魔力を宿している可能性があると?」
シャオはミラルダからの問いかけに無言で頷いた。
「私は生まれながらに魔力の量が人よりも多かったから聖女と呼ばれた……けど、魔力はどの人間の中にも存在しているはずです。それを、魔法が使えるシャルルペトラに託すことができれば――」
「話は聞いた。あとは任せてもらおうか」
突然、颯太たちの前に舞い降りたのはフェイゼルタットだった。
「魔力をかき集めるというなら時間稼ぎが必要だな」
フェイゼルタットはフンスと鼻を鳴らして胸を叩いた。
「シャルルペトラに戻るよう伝えよう。――そして、魔力を渡し終えるまで、我ら連合竜騎士団の竜人族がその威信にかけて時間を稼ぐ!」
「……それにかけるしかないか」
「そのようだな。よし、同志フェイゼルタットよ。今の話を飛び立ったシャルルたちに伝えてくれ」
「了解した!」
勢いよくシャルルを追いかけて飛んで行くフェイゼルタットを見送ると、颯太たちの視線は再びシャオへと集まる。
「それで、魔力をシャルルに渡す方法は?」
「あっ」
そこで、シャオの言葉が詰まる。
その反応に、騎士たちの間で嫌な空気が広まった。
「まさか……」
「そこまではちょっと……」
やはり、考えは及んでいなかったようだ。
「魔力……」
颯太はそっと胸に手を当てる。
この胸の奥には、レグジートから受け取った竜の言霊が眠っている――シャルルペトラが魔力を込めて生み出した竜の言霊が。
「もしかしたら……」
「うん? どうかしたか、ソータ殿」
「……どうにかなるかもしれません、ルコード騎士団長」
「なんだと?」
颯太は「ふう」と大きく息を吐き、その場にいる騎士たちすべてに伝わるよう声を張り上げた。
「竜の言霊を魔力の受け皿にします」
「りゅ、竜の言霊を!?」
「はい。これは智竜シャルルペトラが魔力を使用して作ったもの――こいつを受け取った時に僕は何か不思議な感覚を味わいました。今にして思えば、あの時に感じたものこそ魔力だったのだと思います」
「ちょ、ちょっと待ってよ、ソータ!」
ブリギッテが慌てて口を挟んだ。
彼女は気づいたようだった――颯太の提案にはあるリスクがあることを。
「もしそれが本当だとしても、竜の言霊にみんなの魔力を集めるって作戦が失敗したら――もう二度とメアちゃんたちと話すことができなくなるかもしれないのよ!?」
ブリギッテの指摘――颯太もまったく同じことを考えていた。
「! ソータ殿か!?」
イネス討伐のためオロム城内へ突入していた颯太たちの部隊とルコードの本隊が合流を果たした。
「シャルルペトラは!?」
「あそこだ」
颯太がシャルルペトラの居場所をたずねると、ルコードは上空を指さした。そこにはノエルたちを引き連れたシャルルペトラの姿があった。
「シャルルペトラ……」
颯太は正気に戻ったシャルルペトラから聞き出したいことがあった。
なぜ、シャルルペトラは自分を選んだのか。
その真相を問いたかったが、今彼女は母イネスと最後の決着をつけるため戦場の最前線へと飛び立った。
「歯痒いな……我ら人間には彼女たちに何もしてやれないなんて」
ルコードの悔しさは、颯太もよくわかっていた。
ソラン王国でメアが石像にされた時も。
舞踏会の夜の日にキルカがナインレウスと対峙した時も。
レイノア王国でトリストンが獣人族と戦っていた時も。
メアとエルメルガが激突し、メアが瀕死の重傷を負った時も――近くにいながら颯太はただ戦況を見守ることしかできなかった。
この場面でも同じだった。
「ソータ……」
ブリギッテが颯太の肩に手をかける。
共に竜人族の戦いを間近で見続けてきたブリギッテには、颯太の無念の気持ちが痛いほど理解できていた。
颯太だけではない。
他の騎士たちと通常種ドラゴンたちも気持ちは同じだった。
「俺たちに何かできることはないのか……」
胸にたまっていく苦しみを吐露するように、颯太は俯きながら小声で言う。
その時だった。
「あるかもしれません――私たちにやれること」
初めて耳にする声だった。
その主は、
「き、君は……」
「お会いするのは初めてですね。――私がシャオ・ラフマンです」
魔竜イネスによってさらわれ、つい先ほど保護されたばかりの聖女シャオ・ラフマンであった。彼女は息も荒く、ふらついており、しばらく歩くと倒れそうになったため、ブリギッテが咄嗟に肩を抱いて支えた。
シャオはそれでも必死に体を動かして颯太たちに訴える。
「む、無理をするな、シャオ」
「大丈夫です……」
気丈に振る舞ってはいるが、顔色は悪く、吐息も弱々しくなっている。
「智竜シャルルペトラは魔法が使えます。あのイネスを上回る魔力をぶつけることができればきっと消滅させられるはずです」
「魔竜イネスを越える魔力……」
騎士たちは騒然となった。
今もなお、苦しみながら成長を続けるあの巨体を上回る魔力――それをシャルルペトラがまとえば、より強力な魔法をもってイネスを打ち倒せる。
理屈は呑み込めたが、問題はその魔力をどうやって生み出すかだ。
それに、やはり最終的には竜人族の手を借りることになる。
「シャオ・ラフマン……君の言いたいことはわかるが……やはり我々にはどうすることもできない問題ではないか?」
「そんなことはありませんよ」
ルコードの言葉を、シャオはすぐさま否定した。
「シャルルペトラが必要とする魔力は――私たち人間が用意します」
「何っ!? わ、我々が!?」
騎士たちの間に流れていたざわつきが一層強まった。
「バカな……人間である我らがどうやって魔力を……」
「可能です。――ここはどこだかご存知ですよね?」
「ここ?」
ルコードは大地へ視線を下ろした。
今立っているこの場所に何かヒントがあるというのか。
「ここは廃界オロム――いえ、かつて魔法国家として繁栄を極めたオロムですよ」
「それはわかっているが……」
「オロムに住んでいた人たちは程度に差はあれど魔法が使えた。だけど、住んでいた人たちはけして私たちと違う特別な存在というわけではありません。――至って普通の人間だったのです」
「な、なぜそう言いきれるんだ?」
「イネスが得意げに語っていましたよ」
「じゃあ、俺たちも潜在的に魔力を宿している可能性があると?」
シャオはミラルダからの問いかけに無言で頷いた。
「私は生まれながらに魔力の量が人よりも多かったから聖女と呼ばれた……けど、魔力はどの人間の中にも存在しているはずです。それを、魔法が使えるシャルルペトラに託すことができれば――」
「話は聞いた。あとは任せてもらおうか」
突然、颯太たちの前に舞い降りたのはフェイゼルタットだった。
「魔力をかき集めるというなら時間稼ぎが必要だな」
フェイゼルタットはフンスと鼻を鳴らして胸を叩いた。
「シャルルペトラに戻るよう伝えよう。――そして、魔力を渡し終えるまで、我ら連合竜騎士団の竜人族がその威信にかけて時間を稼ぐ!」
「……それにかけるしかないか」
「そのようだな。よし、同志フェイゼルタットよ。今の話を飛び立ったシャルルたちに伝えてくれ」
「了解した!」
勢いよくシャルルを追いかけて飛んで行くフェイゼルタットを見送ると、颯太たちの視線は再びシャオへと集まる。
「それで、魔力をシャルルに渡す方法は?」
「あっ」
そこで、シャオの言葉が詰まる。
その反応に、騎士たちの間で嫌な空気が広まった。
「まさか……」
「そこまではちょっと……」
やはり、考えは及んでいなかったようだ。
「魔力……」
颯太はそっと胸に手を当てる。
この胸の奥には、レグジートから受け取った竜の言霊が眠っている――シャルルペトラが魔力を込めて生み出した竜の言霊が。
「もしかしたら……」
「うん? どうかしたか、ソータ殿」
「……どうにかなるかもしれません、ルコード騎士団長」
「なんだと?」
颯太は「ふう」と大きく息を吐き、その場にいる騎士たちすべてに伝わるよう声を張り上げた。
「竜の言霊を魔力の受け皿にします」
「りゅ、竜の言霊を!?」
「はい。これは智竜シャルルペトラが魔力を使用して作ったもの――こいつを受け取った時に僕は何か不思議な感覚を味わいました。今にして思えば、あの時に感じたものこそ魔力だったのだと思います」
「ちょ、ちょっと待ってよ、ソータ!」
ブリギッテが慌てて口を挟んだ。
彼女は気づいたようだった――颯太の提案にはあるリスクがあることを。
「もしそれが本当だとしても、竜の言霊にみんなの魔力を集めるって作戦が失敗したら――もう二度とメアちゃんたちと話すことができなくなるかもしれないのよ!?」
ブリギッテの指摘――颯太もまったく同じことを考えていた。
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