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【最終章③】魔竜討伐編
第234話 攻防
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「まだ大きくなるのか……」
オロム城から脱出し、ルコードたち本隊との合流を目指す颯太たちは、城を破壊しながらなおも巨大化するイネスに恐怖感を覚え始めていた。
「あれだけ大きくなってしまっては、メアたちの攻撃が通じないんじゃ……」
今のイネスとメアたちのサイズ差は計り知れないほどある。あれでは人間の少女サイズしかない竜人族の攻撃は効果が薄そうだ。――となれば、
「私たちもドラゴン形態になって対抗するか?」
そう提案したのはフェイゼルタットであった。
たしかに、ドラゴン形態になればサイズ的な差は縮まる。だが、
「サイズの差は補えるかもしれないが、それでは攻撃の手段が限られてくる」
「そうじゃな。技の威力が増すわけでもないし、手数の増える今のサイズの方がかえってやりやすいじゃろう」
「僕もその意見に賛成だ」
そこで会話が途切れた。
どうしたのだろうと颯太が振り返ると――メア、エルメルガ、ニクスオード、フェイゼルタットの4匹は足を止めていた。
「ど、どうした!?」
陸戦型ドラゴンに乗りながら颯太が叫ぶと、
「ソータたちは先に行け! 我らはここで魔竜イネスの足止めをする!」
「妾たちが手を出せば、あのふざけた成長も止まるかもしれぬからのう」
「同志ソータたちは他の同志たちとの合流を最優先としろ!」
「ものは試しってヤツだね」
4匹は戦闘態勢に入っていた。
現状、シャルルペトラを抜かせば最強格である4匹が同時に仕掛ける――暴れ狂い、明らかに正気ではないイネスの状態を考えれば、ここでの総攻撃が有効に働く可能性は極めて高いと言えた。
「わかった! ただ、無茶はするなよ! シャルルたちと合流してからが本当の勝負どころだからな!」
しかし、敵は前竜王選戦の覇者――魔竜イネス。
もしかしたら何か隠し玉を仕込んでいるかのかもしれない。
とりあえず、牽制という意味を込めた攻撃を颯太は許可した。
「がああああああああっ!!!」
だがその直後、イネスに異変が起きた。
両手を大きく広げたため、城壁が左右に大きく飛び――瓦礫の雨となって地上を走る颯太たちへ降り注いだ。
「うわあっ!?」
大きな城壁の塊が颯太たちの頭上に。よけようにもこのタイミングでは――
「ふん!」
死を覚悟した颯太であったが、鎧竜フェイゼルタットが能力を使い、身を挺してこの瓦礫を粉砕してくれた。その破片を、影竜トリストンが影の中に閉じ込めていく。おかげで、なんとかその場をやり過ごすことができた。
「ありがとう、フェイゼルタット!」
「礼はいらんさ」
「パパたちは早く合流を」
フェイゼルタットとトリストンが颯太たちをシャルルと合流させるため、その鎧の体を盾にして防衛の形を取る。
「ぎゃおおおおおおっ!!!」
もはや敵味方関係なく、ただただ暴れ回る魔竜イネス。
「哀れじゃな……己が魔力に溺れてとうとう自我すらなくなったか。じゃが、何も心配する必要はないぞ。今、その苦しみから解放してやるからのう」
エルメルガは強力な雷撃をイネスに浴びせる。
続いて、
「その邪悪な野心はここで断ち切る!」
銀竜メアンガルドが氷で大きな槍を作り出し、それをイネスへ向けて放り投げた。イネスはそれを回避しようと身をよじったが、巨体が仇となって腹部に突き刺さった。
「ぐおおおおおおおおっ!!!」
苦しそうな悲鳴をあげるイネス。
だが、連合竜騎士団の竜人族たちはまだまだ攻撃の手を緩めない。
「銀竜の攻撃で冷えた体を温めてあげるよ」
焔竜ニクスオードが全身を覆う炎をイネスへとぶつけた。
再び雄叫びをあげて苦しむイネス。
「す、凄い……」
颯太は竜人族たちの戦いぶりを見てポツリと呟く。懸念されていた体格差によるダメージの変化はないようだ。
――が、颯太の安堵はあっさりと覆されることとなる。
「ぐあああああああああっ!!!」
苦しみ続けるイネスの背中に大きな黒い羽が生えた。
「! まずい! 飛び立つ気だ!」
魔竜イネスが飛び立ち、ハルヴァやペルゼミネなどの大国に降り立ったら――その被害は想像を絶する。
それは竜人族たちもすぐに理解し、
「みんな! あいつを飛び立たせてはならないぞ!」
「無論だ、メアンガルドよ!」
「僕も行くよ!」
メア、エルメルガ、ニクスオードは飛び立とうとするイネスを食い止めるためさらに追撃をしようと接近――だが、それは迂闊な行動だった。
「ごあああああああっ!」
3匹の接近に気づいたイネスが、その大きな尻尾を振り上げた。
「! しまっ――」
自分たちの行動が軽率であったと理解した時はすでに遅かった。イネスから放たれた強烈な一撃が3匹を捉えて地面に叩きつける。
「みんなぁぁぁ!?」
颯太の悲痛な叫びがこだまする。
尻尾を叩きつけた際に生じた土煙により、メアたちの安否は不明のまま。
「ああぁ……」
「くっ!? なんてことだ!?」
トリストンとフェイゼルタットは顔面蒼白。油断をしていたわけではないが、状況は優勢から一気に不利となった。
――その戦況の変化はルコードたち本隊にも届いていた。
「まずいぞ! イネスを飛ばすわけにはいかない!」
最初に気づいたのはルコードであった。
続いて、竜騎士たちが武器を取るが、すぐに今の自分たちにはどうすることもできない現状であることを察し、振り上げた剣の置き場に困る――そのうち、彼らの視線は自然とシャルルペトラへと向けられるようになった。
「これ以上……あなたの好きにはさせない」
シャルルペトラは意を決したように呟くと、
「あなたたちにも協力をしてもらうわ」
「もちろんなのです!」
「うちらにできることはなんでもするわ」
「この世界を救うために、私も全力で戦います!」
「…………」
奏竜ローリージン。
磁竜ベイランダム。
歌竜ノエルバッツ。
奪竜ナインレウス。
4匹の竜人族が脇を固める。
「さあ、行きましょう」
羽ばたこうとする魔竜イネスを止めるため、シャルルペトラが大きく翼を広げた。
オロム城から脱出し、ルコードたち本隊との合流を目指す颯太たちは、城を破壊しながらなおも巨大化するイネスに恐怖感を覚え始めていた。
「あれだけ大きくなってしまっては、メアたちの攻撃が通じないんじゃ……」
今のイネスとメアたちのサイズ差は計り知れないほどある。あれでは人間の少女サイズしかない竜人族の攻撃は効果が薄そうだ。――となれば、
「私たちもドラゴン形態になって対抗するか?」
そう提案したのはフェイゼルタットであった。
たしかに、ドラゴン形態になればサイズ的な差は縮まる。だが、
「サイズの差は補えるかもしれないが、それでは攻撃の手段が限られてくる」
「そうじゃな。技の威力が増すわけでもないし、手数の増える今のサイズの方がかえってやりやすいじゃろう」
「僕もその意見に賛成だ」
そこで会話が途切れた。
どうしたのだろうと颯太が振り返ると――メア、エルメルガ、ニクスオード、フェイゼルタットの4匹は足を止めていた。
「ど、どうした!?」
陸戦型ドラゴンに乗りながら颯太が叫ぶと、
「ソータたちは先に行け! 我らはここで魔竜イネスの足止めをする!」
「妾たちが手を出せば、あのふざけた成長も止まるかもしれぬからのう」
「同志ソータたちは他の同志たちとの合流を最優先としろ!」
「ものは試しってヤツだね」
4匹は戦闘態勢に入っていた。
現状、シャルルペトラを抜かせば最強格である4匹が同時に仕掛ける――暴れ狂い、明らかに正気ではないイネスの状態を考えれば、ここでの総攻撃が有効に働く可能性は極めて高いと言えた。
「わかった! ただ、無茶はするなよ! シャルルたちと合流してからが本当の勝負どころだからな!」
しかし、敵は前竜王選戦の覇者――魔竜イネス。
もしかしたら何か隠し玉を仕込んでいるかのかもしれない。
とりあえず、牽制という意味を込めた攻撃を颯太は許可した。
「がああああああああっ!!!」
だがその直後、イネスに異変が起きた。
両手を大きく広げたため、城壁が左右に大きく飛び――瓦礫の雨となって地上を走る颯太たちへ降り注いだ。
「うわあっ!?」
大きな城壁の塊が颯太たちの頭上に。よけようにもこのタイミングでは――
「ふん!」
死を覚悟した颯太であったが、鎧竜フェイゼルタットが能力を使い、身を挺してこの瓦礫を粉砕してくれた。その破片を、影竜トリストンが影の中に閉じ込めていく。おかげで、なんとかその場をやり過ごすことができた。
「ありがとう、フェイゼルタット!」
「礼はいらんさ」
「パパたちは早く合流を」
フェイゼルタットとトリストンが颯太たちをシャルルと合流させるため、その鎧の体を盾にして防衛の形を取る。
「ぎゃおおおおおおっ!!!」
もはや敵味方関係なく、ただただ暴れ回る魔竜イネス。
「哀れじゃな……己が魔力に溺れてとうとう自我すらなくなったか。じゃが、何も心配する必要はないぞ。今、その苦しみから解放してやるからのう」
エルメルガは強力な雷撃をイネスに浴びせる。
続いて、
「その邪悪な野心はここで断ち切る!」
銀竜メアンガルドが氷で大きな槍を作り出し、それをイネスへ向けて放り投げた。イネスはそれを回避しようと身をよじったが、巨体が仇となって腹部に突き刺さった。
「ぐおおおおおおおおっ!!!」
苦しそうな悲鳴をあげるイネス。
だが、連合竜騎士団の竜人族たちはまだまだ攻撃の手を緩めない。
「銀竜の攻撃で冷えた体を温めてあげるよ」
焔竜ニクスオードが全身を覆う炎をイネスへとぶつけた。
再び雄叫びをあげて苦しむイネス。
「す、凄い……」
颯太は竜人族たちの戦いぶりを見てポツリと呟く。懸念されていた体格差によるダメージの変化はないようだ。
――が、颯太の安堵はあっさりと覆されることとなる。
「ぐあああああああああっ!!!」
苦しみ続けるイネスの背中に大きな黒い羽が生えた。
「! まずい! 飛び立つ気だ!」
魔竜イネスが飛び立ち、ハルヴァやペルゼミネなどの大国に降り立ったら――その被害は想像を絶する。
それは竜人族たちもすぐに理解し、
「みんな! あいつを飛び立たせてはならないぞ!」
「無論だ、メアンガルドよ!」
「僕も行くよ!」
メア、エルメルガ、ニクスオードは飛び立とうとするイネスを食い止めるためさらに追撃をしようと接近――だが、それは迂闊な行動だった。
「ごあああああああっ!」
3匹の接近に気づいたイネスが、その大きな尻尾を振り上げた。
「! しまっ――」
自分たちの行動が軽率であったと理解した時はすでに遅かった。イネスから放たれた強烈な一撃が3匹を捉えて地面に叩きつける。
「みんなぁぁぁ!?」
颯太の悲痛な叫びがこだまする。
尻尾を叩きつけた際に生じた土煙により、メアたちの安否は不明のまま。
「ああぁ……」
「くっ!? なんてことだ!?」
トリストンとフェイゼルタットは顔面蒼白。油断をしていたわけではないが、状況は優勢から一気に不利となった。
――その戦況の変化はルコードたち本隊にも届いていた。
「まずいぞ! イネスを飛ばすわけにはいかない!」
最初に気づいたのはルコードであった。
続いて、竜騎士たちが武器を取るが、すぐに今の自分たちにはどうすることもできない現状であることを察し、振り上げた剣の置き場に困る――そのうち、彼らの視線は自然とシャルルペトラへと向けられるようになった。
「これ以上……あなたの好きにはさせない」
シャルルペトラは意を決したように呟くと、
「あなたたちにも協力をしてもらうわ」
「もちろんなのです!」
「うちらにできることはなんでもするわ」
「この世界を救うために、私も全力で戦います!」
「…………」
奏竜ローリージン。
磁竜ベイランダム。
歌竜ノエルバッツ。
奪竜ナインレウス。
4匹の竜人族が脇を固める。
「さあ、行きましょう」
羽ばたこうとする魔竜イネスを止めるため、シャルルペトラが大きく翼を広げた。
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